22話:三人の覚悟
どうも、眠れぬ森です。
遅くなり申し訳ございません。
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
「ふっ!!」
「やっ…!!」
「いいね二人とも、よくなってきたね。」
ジェームスとリーネの訓練を受けて一ヶ月が経った。俺とアイリスは魔法士相手の戦いに慣れてきていた。俺は知覚限界突破と視線によるフェイントを組み合わせた戦い方を学び、アイリスはその機動力の高さから一撃離脱戦法からフェイントを織り交ぜた連続攻撃を学んでいた。
「いい感じじゃないか。じゃあこれはどうだい?」
嬉しそうな顔をしながらジェームスが雷球放ってくる。しかしそれはフェイントだ。俺は雷球を知覚限界突破で躱すと、その後ろから炎を刀身に宿したジェームスのソードに向かってブラックホークを撃ち込む。
「今のがフェイントって分かったのは流石だね。でもそれだけじゃ…!?!?」
「アイリスも、います。」
俺の銃弾をソードで弾いたジェームスの後ろから今度はアイリスが切り裂きの双剣で切りかかる。彼はその攻撃を半身を捻り躱す。しかし、アイリスは空振りした右手を軸に回転し、さらに左手で切りかかると、連続攻撃に入った。
「やるねアイリスちゃん。でもちょっと脇が甘いかな。」
そう言うと、ジェームスはソードを振り下ろすと同時に、アイリスが避けた先に電撃魔法を放った。
「まだ、です!」
しかし、彼女はその攻撃を切り裂きの双剣で逸らすと一度距離を取り、俺に目で合図を送った。それに反応して、今度はブラックホークからガーディアンに持ち変えるとそれを連射しながら霧雨でジェームスに向かって走り出した。それと同時にアイリスも体制を立て直すと俺の反対側に回り込み、はさみ打ちする形で走り出す。
「なるほど、そういう事か。でもまだ甘いね、雷の槍!」
ジェームスは俺の銃弾を捌きながらそう言うと、今まで飛ばすのみで使用していた雷球を槍状に変化させ、ソードと共に俺の霧雨とアイリスの切り裂きの双剣を受け止めた。
「っ…!?」
「何!?」
「魔法は使い方によってこういうことも出来るんだよ。さて、もうひと段階上の攻撃をするから耐えてみてよ。一撃でも入れることが出来たら次の訓練に移ろう。」
そう言うと、ジェームスは受け止めた俺たちを弾き返した。そして姿勢を乱した俺たちに雷撃魔法を放ちつつ切り込んできた。
「ちっ!!」
「まだ、です!!」
今までとは手数もフェイントの数も違う攻撃に俺は回避するのに精一杯、アイリスも回避をしているが確実に押されている。このままでは埒が明かない。
「く…っ!!」
挟み込みながら戦っていた俺たちだったが、いつの間にかアイリスが俺の横に移動しており、対面を向く形に追い込まれていた。
「ライアー、どうする。」
アイリスが俺に問いかけてくる。その問いに俺は考えを張り巡らせる。
俺は攻撃誘い避け、相手に隙を作ることは出来るが、決定力にかけている。それに対してアイリスは接近戦での決定力は持ち合わせているが、相手にフェイントをかけることについてはまだまだ甘い部分がある。
そんな俺たちを見て、ジェームスが声をかけてきた。
「考えているようだね、そんなキミたちに一つ助言しよう。ライアー君の異能者としての力は確かに誰も出来ない。でも、動きをだけならスピードがあれば再現出来ると思わないかい?」
その言葉に、俺は一つの考えが浮かんだ。ある意味危険な賭けになるが、成功すればジェームスに一撃を食らわせることが出来るかもしれない。
「アイリス、今から俺の言うことを聞いてくれ。」
「分かった、なに、すればいい?」
俺は彼女に考えを話すと、ジェームスに向かって言った。
「今からお前に俺たちの一撃を食らわせる、覚悟しておけ。」
「それは楽しみだ、かかっておいで!!」
その言葉に、俺たちは駆け出した。アイリスは俺の後ろをピッタリと追走する形で着いてくる。
「なるほど、そういう事か!!」
ジェームスはそう言うと、俺たち向かって雷撃魔法で牽制してくる。その瞬間、俺は呟いた。
「知覚限界突破。」
世界がスローになり色を失う。飛んでくる魔法からは光の線が延び、俺へと向かってくるのが分かる。俺はそれを交わすように体を光の線の射線上から逸らす。刹那、世界が元に戻ると同時に後ろに居たアイリスも同じタイミングで俺と同じ動きをして魔法を避けた。
「…へぇ。」
その光景にジェームスは一瞬動きを止めるが、直ぐに魔法を放ち俺たちの接近を阻もうとする。しかし、それを俺は知覚限界突破を使いながら、アイリスは俺の動きに合わせながら避けていく。
「くっ…」
後ろからアイリスのうめき声が聞こえる。流石に俺の動きを見てからの行動なので、完全に回避することが出来ず、魔法が掠ることがある。しかし止まる訳には行かない。俺はガーディアン避けながらガーディアンをジェームスに向かって連射した。
「その小細工はもう見切ってるよ。」
SMG特有の軽い発砲音と共にばら撒かれた銃弾をジェームスはソードで弾く。それを見て俺は霧雨を振りかざして攻撃を仕掛ける。
「またそれかい、正直見飽きたよ。」
ジェームスはそう言うと、ソードの刀身に炎を宿らせて攻撃を受けようとする。しかし、そこで彼は動きを止めた。そう、ライアーの後ろに居たはずのアイリスの姿が消えていた。
(アイリスちゃんはどこにいった?)
そう思った時、ジェームスは足元から殺気を感じて本能的にソードを引き上体を後ろに逸らした。その瞬間、アイリスの斬撃が鼻先を掠める。瞬間、俺はジェームスの顔面に向かって霧雨を突き出した。その切先を見て彼は咄嗟に顔を横にズラして回避しようとする。しかし、霧雨は彼の頬を薄く切り裂いた。
「一撃入れたぞ。」
俺はニヤリと笑いながらジェームスに言った。彼は驚いた顔をしたが、ソードを収めると手を挙げて言った。
「参った。」
「ん、やった…!!」
ジェームスの言葉にアイリスは声を上げた。
俺は武器を収めるとジェームスは手を下ろしながら話しかけてきた。
「いや〜してやられたよ。まさかあそこでアイリスちゃんが下から切り込んでくるとは思わなかったよ。」
「ああ、俺もだ。まさかアイリスがあそこで下に回るとは考えなかった。」
「え?じゃああれはライアー君の作戦じゃなかったのかい?」
俺の答えにジェームスは驚愕の表情でアイリスを見た。そんなアイリスは得意気な顔をして答えた。
「アイリスの、自分で考えた、動きです。相手の隙を、誘ってみたです。」
その言葉に、ジェームスは笑いながら答えた。
「なるほどね、そうだったんだ。うん、キミたちは僕に一撃を入れた。明日から次の訓練に移ろうか。四人共ね。」
「四人?俺とアイリスだけじゃないのか?」
俺が問うと、ジェームスは視線を動かして答えた。
「ちょうど彼女らも終える頃だと思うよ。」
その言葉に俺たちもそちらを向く。
ズドォォォォン!!!!
すると突然、地面を揺らすほどの衝撃が襲った。その方向にはリーネと訓練を行うサリアとサーシャの姿があった。
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「くっ!?」
「サリア大丈夫!?」
「大丈夫、心配いらないよ!!」
「随分持ちこたえられるようになりましたね〜。」
私たちはセシエルト先輩との魔法を使わない戦闘訓練を行って一ヶ月が経っていた。最初こそセシエルト先輩にすぐ倒されてしまっていたのだが、今では何とか攻撃を避けられるようになってきていた。しかし、避けられるようになった所で攻撃が出来るようになった訳では無かった。
私とサーシャは迫り来るリーネの戦鎚をギリギリのところで避けながら何とか反撃しようと試みていた。
「サーシャ!!何とかしないと!!」
「何とかって言ってもどうするのよ!!」
決定的な手段を見つけられないままセシエルト先輩の攻撃を避け続けながら叫びあった。そんな私たちを見ながら、セシエルト先輩は微笑みながら言った。
「どうしましたかぁ?まだまだこれからですよ〜?」
「このままじゃ持たないよ!!」
「分かってるわよ!!でも!!」
その時、急にセシエルト先輩がの攻撃の手が止んだ。突然のことに驚き様子を伺うと、先輩はハルトマン先輩と訓練をしているライアーくんとアイリスのほうを見ていた。私たちもそちらを見ると、あのハルトマン先輩相手に互角とも言える戦いをしている二人の姿が目に映った。
「凄い…」
「なんて攻防なの…」
その戦闘の様子に私とサーシャは思わず呟いた。この一ヶ月で二人は確実に成長しているのが分かった。
「ライアー様もアイリスちゃんも確実に成長しておりますわね〜。」
セシエルト先輩はそう言うと、私たちの方を向き続けた。
「お二人にお伝え致しますわぁ。私との訓練は今日でおしまいです〜。」
「え?」
「どういう事ですか!?」
突然の言葉に私たちは驚きの声をあげる。しかし、それに構わずセシエルト先輩は言った。
「明日からはライアー様とアイリスちゃんと合流しての訓練といたします〜。」
「「本当ですか!!」」
「ただし、私に一撃でも入れることが出来たらですわぁ。」
「「え…」」
その言葉に私たちは絶句した。避けるだけでも精一杯のセシエルト先輩に対して一撃を入れるなんて無茶だ。どう考えてもそんな光景が想像出来ない。
「もしかして、無理だと思っておりますか?」
私たちの様子を見てセシエルト先輩は問いかけてきた。
「はい…」
「そうです…」
「その程度でしたか。」
私たちの答えに、いつも笑みを浮かべているセシエルト先輩が真面目な顔で言った。その様子に、私たちは呆気に取られた。しかし、そんな私たちを無視しながら先輩は続けた。
「貴女方の覚悟はその程度でしたか。ライアー様の力になりたい、ライアー様を守りたい、その覚悟があるとおっしゃいましたが、貴女方はその可能性を自ら潰しました。そのような方に人を守れるのでしょうか?」
その言葉に私たちは反論出来なかった。それと同時に情けなくなった。強くなるためにこの訓練をして貰っているのにその意味を忘れていた。そして思い出した、私たちが強くなる意味を。
「どうしますか?やめにいたしますか?」
セシエルト先輩の問いに私たちは答えた。
「すみませんでした、私は私の強くなる意味を忘れていました。だから…もう一度チャンスをください!!次は本気で倒します。」
「あたしもこの訓練の意味を忘れていました。なのでお願いします、絶対に先輩に一撃を入れます。」
私たちの言葉にセシエルト先輩は真剣な眼差しで見つめてきた。それは数秒のはずだったが、何時間にも思えた。そして、先輩は元の微笑みに戻り言った。
「よく出来ましたわぁ!では、私も少し本気を出しますわ!!」
そう叫ぶと、セシエルト先輩は戦鎚を振りかざしてこちらへ向かってきた。私はサーシャと目で合図をすると左右に別れた。
「その程度はそう手済みですわ!!」
私たちが左右に別れると、先輩は戦鎚を振り回して攻撃してきた。
(先輩の戦鎚の攻撃は風圧が凄い…)
(あたしたちが避けても吹き飛ばされるだけ…)
((なら!!!))
私たちはしゃがみこむように上体を低くして戦鎚の攻撃範囲の内側へ飛び込んだ。
「!?」
私たちの行動にセシエルト先輩の表情が驚愕に変わる。急いで攻撃を止めようとするが、遠心力のかかった戦鎚は急には止まらない。
(私の短剣じゃセシエルト先輩の攻撃は受けられない…でも!!!)
私はサーシャと目を合わせると頷居た。
「はあぁぁぁぁぁ!!!!!」
戦鎚が頭上を通り過ぎた瞬間を狙い、サーシャが勢いよく自分のサーベルをセシエルト先輩の戦鎚の柄に叩きつけた。
ズドォォォォン!!!!!
その瞬間、セシエルト先輩の戦鎚は遠心力を保ったまま地面へと叩きつけられ一瞬動きが止まる。それを私は見逃さなかった。
「やあぁぁぁぁぁ!!」
私はそれを見逃さずセシエルト先輩に向かって走り出した。先輩はそれに反応し、すぐさま戦鎚を抜くが私の方が早かった。
「あら?」
「私たちの勝ちです。」
私は戦鎚を抜いた直後のセシエルト先輩の首筋に短剣を当てていた。それを見た先輩は一瞬動きを止めたあと戦鎚から手を離して両手を上に上げて言った。
「参りましたわぁ〜。」
「や、やったよサーシャ!!」
「やったわサリア!!」
セシエルト先輩の降参の言葉に、私たちは抱き合い喜んだ。
「あちゃー、リーネも負けちゃったか。」
「よくやったな。サリア、サーシャ。」
「ん、二人とも、お疲れ。」
「ハルトマン先輩!それにライアー君とアイリス!!」
「二人とも無事だったのね!!」
先に戦闘を終えたのであろうハルトマン先輩とライアー君とアイリスが声をかけてきた。私たちは二人を見て駆け寄った。すると、そんな私たちたちを見ながらハルトマン先輩とセシエルト先輩が話しかけてきた。
「四人共よくやったね、これで次の訓練へと移れるよ。」
「ですわね!よく頑張りました〜。」
二人の先輩に褒められ、私たちは少し恥ずかしくなったのだった。
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「じゃあ、次の訓練について話したいんだけど…」
「その前に一ついいか。」
俺はジェームスの話を遮り、話し出した。
「今の俺について、アイリスに話しておきたい。」
「ん…?」
俺の言葉にアイリスは首を傾げる。だが、俺はそれを見ながら全てを話した。学園に入る前の事、はぐれ魔法士との戦いの事、そして俺が異能者という事を。アイリスは黙って俺の話を聞いてくれた。それに対して、俺は問いかけた。
「今の話を聞いて、アイリスはどうする?」
その問いにアイリスはしばらく黙った。しかし、俺の方を見て笑いながら答えた。
「ライアーのこと、よくわかった。でも、アイリスは、ライアーに着いてく。だって、ライアーの事、好きだから。」
「私もライアー君に着いてくよ。ライアー君の事好きだから。」
「あ、あたしもどこまでもライアーに着いてく!あ、あ、あたしもライアーが好きだから!!」
アイリスに当てられてか、サリアとサーシャも答えた。俺は三人の答えに驚いた。しかし、その言葉には強い気持ちが篭っていた。
「ありがとう、しっかりと三人の覚悟を受け取ったよ。」
「あらあら、青春ですわぁ〜♪」
「お熱いところ悪いんだけど、話を進めてもいいかな?」
ジェームスとリーネの言葉に、三人は顔を赤くして俯いてしまった。
「すまない、続けてくれ。」
俺は三人の代わりに告げた。すると、ジェームスが話を続けた。
「言った通り、キミたちはオレたちの訓練をクリアした。だから次の訓練に移ろうと思う。」
「分かった。それで、次は何をするんだ?」
俺の言葉に、ジェームスは糸目を少し開けて言ってきた。
「実践訓練さ。」
ありがとうございました。
次回は更なる訓練の様子をお届け致します。
明日は用事で投稿できません。
よろしくお願いいたします。