21話:戦闘訓練
どうも、眠れぬ森です。
最年少Cランクのジェームスとリーネとの訓練開始です。
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
翌日、俺たちはジェームスとリーネの戦闘訓練を受けるために、授業が終わった後の自主訓練時間に訓練場を訪れていた。
「じゃあ今日から訓練を始めるけど、まずは二チームに別れてもらうよ。」
ジェームスはそう言うと、初めに俺たちを見て言った。
「ライアー君とアイリスちゃんは対人戦はそこそこ出来るようだから、オレと一緒にやる。サリアちゃんとサーシャちゃんは初めの戦い方から学ばなきゃならないから、リーネとやってもらうよ。」
「あの、どうして別れるんですか?」
「あたしたちはパーティーなので一緒にやったほうがいいと思うのですが…」
ジェームスの言葉にサリアとアイリスが問いかける。それを聞いて、ジェームスは笑いながら答えた。
「キミたちはそれぞれ得意な戦い方が違うの。例えばサリアちゃんとサーシャちゃんは魔法が得意な分、対人戦闘がライアー君とアイリスちゃんに劣っている。逆にライアー君とアイリスちゃんは対人戦闘はそこそこできるけど、魔物や魔法士相手の戦い方で圧倒的に経験が足りない。だからまずは短所を出来るだけ無くすための訓練さ。」
「なるほど…」
その言葉に、サリアとサーシャは顔を見合わせて頷いた。
「じゃあ今日の訓練内容だけど、サリアちゃんとサーシャちゃんはリーネと魔法無しで対人戦闘、ライアー君とアイリスちゃんはオレと魔法ありでの訓練だ。もちろん、相手を殺すような攻撃は禁止だ。」
「では〜、サリア様とサーシャ様はあちらで訓練を行いましょ〜。」
ジェームスの言葉に続き、リーネが二人を連れて俺たちから離れた場所に移った。それを確認したジェームスは、腰に下げたソードを抜きながら言ってきた。
「じゃあ始めようか。」
「魔法は使わないのか?」
「これから魔法を使いますなんて言う魔法士がいるのかい?」
俺はジェームスにそう問いかけた。しかし、彼は表情を崩さないままソードを振りかぶりこちらに切り込んできた。
「くっ!!アイリス、後ろに回れ!!」
「分かった…!!」
ジェームスのソードを霧雨で受けながら、俺はアイリスに叫んだ。その言葉通り、アイリスは後ろに回り込み攻撃の体制に移る。
「やぁ…!!!」
アイリスが切り裂きの双剣に魔力を込めながら振りかぶる。
「まだまだだね。」
バチッッッ!!!
「うぁっ!?」
しかし、ジェームスは俺と剣を交えながら後ろから来たアイリスに向かって電撃の魔法を放った。それを食らったアイリスは体が痺れたようで、ひざをついてしまった。
「魔法士相手に真っ直ぐ切り込んで来るのは狙ってくださいと言っているようなものだよ。」
そう言いながら、ジェームスは俺に向かって先程と同じ電撃魔法を放つ。俺に向かって電撃が飛んでくるのを見た瞬間、呟いた。
「知覚限界突破」
世界が色を無くしスローに変わる。俺はジェームスの電撃から伸びる光の線を見て、その軌道から体を逸らす。その瞬間、元の世界に戻り俺の横を電撃の魔法が通り過ぎる。その様子を見たジェームスが、驚いたように俺に話しかけてきた。
「凄いね、魔法を見てから避けるなんて。やっぱりキミは異能者の力を持っているんだね。」
「御託はいい、今度はこっちから行くぞ。」
ジェームスの言葉にそう返した俺は、ブラックホークで牽制しつつ彼に向かって走り出した。彼はやはり俺の銃弾をソードで切り弾くが、そのおかげで攻撃に移れない。
「なら、これならどうだい?」
そう言いながらジェームスは電撃魔法を俺に向かって撃ち込んでくる。しかし、その攻撃を知覚限界突破を使い避ける。そしてジェームスに肉薄した。この距離なら魔法も使えないはずだ。
(いける!!)
そう思い霧雨でジェームスに攻撃をしようとした瞬間、背中に悪寒を感じ反射的に後ろに体を反らせる。刹那、俺の首があった所を刀身が炎に包まれたジェームスのソードが通り過ぎた。俺はそのままバク転で距離を取り、彼を見つめた。
「凄い反応だね、キミはやっぱり強いよ。」
「俺が強いのなら、アンタは化け物だな。」
俺は冷や汗をかきながはジェームスに言った。そう、目の前には左手に雷球を作りながら右手のソードに炎を纏わせた状態のジェームスが立っていた。
「うそ、魔法は、一度に一つの属性しか、使えないはず…!?」
ようやく体の痺れが取れたアイリスが立ち上がりながら呟いた。そう、魔法の常識では一度に二つ以上の属性で魔法は使えない。しかし、どう見てもジェームスは雷と炎の両方を操っている。
「まさか、お前も異能者なのか?」
俺のその問いにジェームスは笑いながら答えた。
「違うよ、僕は普通の魔法士さ。ただし、魔法兵器も同時に使ってるだけさ。」
「どういうこと…?」
ジェームスの答えにアイリスは首を傾げながら言った。それに対し、ジェームスは一度魔法を消して答えた。
「普通なら、異なる属性の魔法を同時に発動する事は出来ない。でも、魔法と一緒に魔力そのものは同時に出せる。それを上手く使うと、こうなる訳さ。」
そう言って彼は再び左手に魔法で雷球を出した後、右手に持ったソードに魔力を込めた。するとソードに刻まれた魔法術式が起動して刀身が焔に包まれた。
「なるほどな、かなり高度だが理にかなっている。」
「魔法士は魔術士を嫌う輩が多いが、双方の良い所を組み合わせると戦闘の自由度は格段に上がるんだよ。」
そう言うと、ジェームスは糸目を少し開いて続けた。
「いいかい、魔法士との戦闘においては情報が命なんだ。相手がどんな魔法の使い手で、どんな戦い方をするか、それを戦いながら情報を引き出させる。情報の有無で戦況がひっくり返ることも有り得るからね。」
「それはお前を見て今気がついた。」
「アイリスも、頭使って、戦います。」
俺たちの言葉にジェームスは再び糸目に戻ると、言ってきた。
「じゃあ、それを今からの戦いで自分のものにするんだ。二人まとめてかかって来ていいよ。」
「上等だ。」
「アイリスを、舐めるな、です!!」
そう言いながら俺とアイリスはジェームスへ向かっていった。
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ハルトマン先輩に言われた通り、私とサーシャはセシエルト先輩に連れられて訓練場の端のほうへと移動してきた。
「あの、セシエルト先輩。私たちはどんな訓練をするのですか?」
「そうですわね〜、まずは一番簡単な訓練から行いましょうか〜。」
そう言うと、セシエルト先輩は私たちから少し離れると、収納袋から戦鎚を取り出しながら問いかけてきた。
「まず初めに、サリア様とサーシャ様は戦闘で死にかけた事はありますかぁ?比喩ではなく、本当に命の危機が迫ったことです〜。」
「いえ、ありません。」
「あたしも無いです。」
私たちの答えに、セシエルト先輩は微笑みながらとんでもない事を言ってきた。
「では〜、今から私はサリア様とサーシャ様を本気で殺しに行きますわ〜。なのでそれに耐えながら、お二人も私を殺す気で攻撃してきてください〜。」
その言葉に、私たちは呆気に取られる。殺す気で行くから殺す気で来いと、彼女はそう言った。私は訳がを聞こうと思ったが、それよりも先にサーシャが叫ぶように問いかけた。
「どういう事ですか!?これは訓練であって実践じゃないんで―――――」
「黙って下さいませ。」
しかし、サーシャの言葉はそれ以上続かなかった。サーシャの言葉を遮るように、セシエルト先輩は鋭い目をしながら戦鎚を振り下ろすと、サーシャの目前数センチの所で止めた。
「な……あ……」
それを見て、サーシャはペタリと尻もちをつき、私も言葉を失った。そんな様子を見ながら、セシエルト先輩は問いかけるように言った。
「申し訳ござませんが、お二人には戦う覚悟が少々足りないかと。実践であれば、今の一撃でサーシャ様は死亡致しました。実践では訓練のように物事は進みません、ならば訓練から実践のように行うのが一番です。」
セシエルト先輩の言葉に、私はハッとした。今まで戦闘科の授業でも戦い方は教わったし、魔法科の授業でも魔法の使い方なども教わった。しかし、これまでの実践を振り返ると教わった事全てが生かされるとは限られない場面ばかりであった。そして、そのせいで危ない事もあったし、ライアー君を傷つけてしまう場面もあった。
「確かに、あたしはライアーやサリアに甘えていた部分があったと思います…」
俯きながらポツリと呟いたサーシャの言葉に、自分も過去に魔法で人を傷つけて以来、戦闘では後方支援と名を打ってサーシャたちに甘えていたかもしれない。サーシャだけでは無い、ライアー君もアイリスも危険を承知で前に出ているのだ。
それに気が付き、私は悔しくて情けなくて涙が出てきた。そんな私たちを見て、セシエルト先輩が言葉をかけてくれた。
「お二人は確かに才はありますが、それに伴う覚悟と経験が絶対的に足りませんわ。なので、今日からの訓練ではそれを重点的に養い、強制的にでも上げさせて頂きます。」
その言葉に、私はサーシャのほうを見た。するとサーシャも私のほうを見ており、その目は先程とは違う意志を宿したものとなっていた。
私たちは頷き逢うと、セシエルト先輩に声をかけた。
「セシエルト先輩、すみませんでした。お陰で何かに気がついたかもしれません。なので、私は今から先輩を倒す気で行きます」
「さっきは一本取られました。いえ、実践なら死んでいました。けど次はそうは行きません、あたしは強くなります!!」
「あらあら、やっとやる気になってくれたわぁ。なら、私も手を抜かずに行きますわよ〜。」
そう言うと、セシエルト先輩は戦鎚を振りかざして私たち突っ込んでくる。
(私はもう振り向かない。過去なんて忘れて強くなる!!)
(ライアーの隣に立つため、背中を任せられるようになるため、あたしは強くなる!!)
私とサーシャはお互いに強い意志を感じながら、セシエルト先輩に挑んで行った。
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「それじゃあ、今日の訓練はここまでにしようか。」
「お疲れ様ですわぁ。」
ジェームスとリーネの言葉に、俺たちは返事をする事すら出来ないほど疲弊していた。
俺とアイリスは魔法が飛んでくる中、ジェームスにこちらの動きを悟られないようにしながら相手の動きを誘うという、普段やり慣れていない戦い方を行い。心身ともに疲れ果てていた。片や、サリアとサーシャはこちらも普段慣れない魔法無しでの戦闘で、リーネ相手に何度も吹き飛ばされており身体中傷だらけだった。
「あら、今日の訓練は終わりかしら?」
そんな中、俺たちに声をかけてきたのは学園長のリアスだった。彼女は俺たちを見るとやれやれと言う顔をして範囲治癒をかけてくれた。
「あ、ありがとうございます。」
「助かりました。」
サリアとサーシャの言葉に手で返事すると、リアスは話し始めた。
「ジェームスとリーネの訓練はどうかしら?他の生徒から結構派手にやられているって報告を受けて身に来たんだけど。」
「それは見てわかる通りだ。」
「ジェームス先輩、強い。魔法、厄介。」
「初めて魔法無しで戦ったけど、全然ダメでした。」
「普段どれだけあたしたちが魔法に頼っていたかがよく身に染みました。」
「そうだったのね、充実してるようで何よりだわ。」
その言葉を聞き満足気に頷いたリアスだったが、ハッ思い出したかのように言葉を続けた。
「そうだったわ、今日はライアーくんたちに知らせたいことがあったのよ。」
「一体なんだ?」
俺が聞き返すと、リアスが少し真剣な顔で言ってきだ。
「実は、二ヶ月後にライアー君たち四人と模擬戦をしたいとの申し入れがあったのよ。」
「俺たちとか?一体誰だ。」
俺の言葉に、リアスは顔を一呼吸置き答えた。
「魔法士育成団体ラティス、スティルブ領を拠点に活動する魔法士組織よ。」
「スティルブ領だと!?」
リアスの言葉に、俺は思わず叫んでしまった。そして俺は静かにリアスに問いただした。
「まさか、マルコ・スティルブか?」
しかし、俺の問いにリアスは首を横に振り答えた。
「その線も考えたけど、魔法学園に通えなかった子供の育成という名目で正規の手順を踏んできているわ。それに、マルコ・スティルブ伯爵には何の動きもないわ。」
リアスはそう言うが、俺は何か引っ掛かりを覚えた。そもそもマルコの息の掛かっている組織が俺を名指しで指名してくること自体に怪しさがある。
「断ることは出来ないのか?」
リアスに問いかけると、彼女は難しい顔をして答えた。
「断ることは出来るけど、魔法学園全体の事を考えるとあまりいい顔はされないわね。」
その言葉に、俺は考える。断るのも難しい状況にある上に相手はマルコが関わっている可能性が高い。そうなると、出来ることは一つだった。俺はジェームスに問いかけた。
「ジェームス、二ヶ月後で俺たちはどこまで強くなれる?」
「そうだね、順当に行けばライアー君以外はDランクに届くかもしれないね。あとはキミたちの頑張り次第かな。」
ジェームスの答えを聞くと、俺はサリアたちのほうを見た。すると、彼女たちもうなずきながら言った。
「ライアー君が決めていいよ。私はそれに答えられるように強くなるから。」
「あたしもライアーに任せるわ。次は守られるだけじゃなくて、守ってあげられるように頑張る。」
「アイリスも、強く、なる。特に、サーシャには、負けない。」
その言葉に俺はリアスに振り返りながら言った。
「いいだろうその模擬戦とやら、受けよう。」
「…分かった、受理しておくわ。だけど、無理だけはしないでね。」
「心配するな、俺たちは強くなるさ。」
リアスの心配する言葉に、俺は力強く答えた。
ありがとうございました。
何やらきな臭い匂いが漂うラスト、そしてライアー達は強くなれるのか。
明日は所用により投稿できません。
次回もよろしくお願いいたします。