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20話:足りないもの

どうも、眠れぬ森です。

引き続き、ジェームスとリーネとの物語です。

拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。

 ジェームスとリーネとの模擬戦の翌日、俺たちは二人に呼び出されギルドへと足を運んだ。

 ギルドの入口の扉を開けると、既に二人は来ており、こちらを見るなり手を振りながら声をかけてきた。


「おーい、こっちだよ!!」


「お待ちしておりましたわぁ〜。」


「すまない、待たせたな。」


 俺を筆頭に挨拶を済ませると、ジェームスが話し出した。


「さて、今日から戦闘訓練に入るんだけど、その前に君たちの戦い方を見てみたいんだ。」


「それは昨日のような模擬戦か?」


「いいや、パーティーとしての戦い方だよ。個人の力はそこで見させてもらう。」


 俺の問いに答えると、ジェームスは一枚の依頼書を見せてきた。それは南のから草原へと溢れたコボルト十体の群れを討伐する、Eランククエストだった。


「ハルトマン先輩、このクエストをクリアすればいいのですか?」


 サリアの問いにジェームスは頷く。そして俺たち全員を見て言った。


「もちろんクエストクリアは大事だが、俺たちはキミたちパーティーの動き全体を見る。だから、クリアする事よりも立ち回りをしっかりと見せて欲しい。」


「分かりました、あたしたちの実力をしっかりと見てください!!」


「昨日は、遅れを取った。今日は、やってやります。」


 サーシャが高らかに言うと、アイリスも気合いを入れてそれに答えた。そんな俺たちを見ながら、リーネは微笑みながら言った。


「では、早速参りましょ〜。」


 その声とともに、俺たちはクエストへと出発した。




 南門から出て、コボルトの目撃情報があった南の草原へ向けて歩いている途中、ジェームスが俺に話しかけてきた。


「そういえば、ライアー君たちのパーティーはどんな編成なんだい?」


「サーシャとアイリスが前衛でサリアが中衛、俺は一応後衛だ。」


 その言葉に、ジェームスは少し驚いた表情で聞き返してきた。


「サリアちゃんが中衛なの?昨日の動きを見ていた限り、僕はてっきりライアー君とサリアちゃんが逆だと思っていたけど。」


 その言葉に、俺は担いだガンケースを見せて言った。


「見ての通り、俺の役割は索敵と狙撃だ。それに、俺は後衛と言っても他の役割もする。」


「それはどういう事だい?」


 俺の言葉にジェームスが首を傾げて聞いてくる。それを見ながら俺は言った。


「見てれば分かるさ。」


 そう言うと、俺は立ち止まり前を行くサリア、サーシャ、アイリスに声をかけた。


「前方四百の位置に目標だ。サリア、索敵(サーチ)の魔法を頼む。」


「え?あ、分かったよ!」


 俺の言葉にサリアは慌てて索敵(サーチ)の魔法を使う。そして俺に報告してきた。


「ライアー君の言う通り、約四百メートル前に魔物の魔力反応あるよ。数は……七?報告より少ないかも。」


「よし、警戒態勢に入れ。残り二百を切ったら俺が狙撃で奇襲する。そこから戦闘開始だ。」


「ん!」


「分かったわ!」


「了解だよ。」


 俺の言葉に三人は返事を返す。その様子を見て、ジェームスはリーネに声をかけた。


「どうだい?このパーティーは。」


「そうですわね〜。今のところライアー様が指揮を執って動けていると思いますわぁ。でも、実際に戦闘になったらどうでしょうか。」


 俺は二人の会話を聞き流しつつ、距離を詰める。そして目標まで残り二百メートルを切ると、俺は近くの倒木にバイポッドを立てシムエスMk.IIで狙撃体制を取る。そして、七匹のうち距離が近い二匹に狙いを定める。二匹の頭が斜線上に重なったのを見計らい、俺は魔力を込めて引き金を引いた。


ダダァン!!


 加速の魔法術式により亜音速で発射された銃弾はコボルト二匹の頭を正確に撃ち抜いて絶命させた。その瞬間、俺は目でサーシャとアイリスに合図を送ると二人は同時に武器をかまえ飛び出して行った。


水の弾丸(ウォーターバレット)!!」


「グギャ!?!?」


「んっ!!」


「ギャイン!?!?」


 突然仲間がやられて混乱しているコボルトに二人は攻撃を繰り出す。しかしダメージは浅いようで、五匹のコボルトはそれぞれサーシャとアイリスに襲いかかる。


火の弾丸は(ファイアバレット)!!」


 しかし、コボルトたちはサリアの魔法により距離を取らざるを得なくなった。


「いく、よ!!」


「これで決めるわ!! 風の刃(ウインドカッター)!!」


 体制を崩されたコボルトのうち二匹がサーシャとアイリスによって倒された。その時、数的に不利になったからか、残りのコボルト三匹が逃げ出した。


「逃がすか。」


 俺はそのうちの一匹に狙いを定め、頭を撃ち抜く。その時だった。


「あ、こら待ちなさい!!」


「あ!!サーシャ!!」


 サーシャがコボルトを追いかけて駆け出した。アイリスもその後に続く。そして俺とサリア、サーシャとアイリスの間に隙間が出来る。その瞬間、草の間に隠れていたのか、三匹のコボルトが姿を表した。


「な!?しまった!!」


「サーシャ、やらかした…っ!!」


 サーシャが気づいた時には既に遅く、アイリスとともにコボルト四匹に挟まれてしまっていた。そして、残りの一匹はサリアに向かって牙を剥いた。


「っ!?火の壁(ファイアウォール)!!」


 攻撃が当たる寸前、サリアは防御魔法を展開した。しかし近接戦闘に慣れていないサリアは防戦一方だった。


「ちっ!!仕方ないか!!」


 俺はバイポッドをたたみシムエスMk.IIを担ぐと、サリアの元へ走っていった。そして、ブラックホークを抜くとサリアを襲っていたコボルトに肉薄した。


「遅いぞ。」


 サリアに気を取られていたコボルトは俺の接近に気が付き振り返る。しかし、その目の前には向けられた俺の銃口がある。


ダン!!


 ブラックホークの引き金を引き、俺はコボルトの頭を撃ち抜きながらサリアに問いかける。


「大丈夫か?」


「あ、うん、ありがとう!」


 サリアの無事を確認すると、俺はサーシャとアイリスのほうに目を向ける。すると、彼女たちは四匹のコボルト相手に、防戦一方の様子だった。しかも、サーシャが魔法を放つため、アイリスが攻撃に移れない状況であった。それを見た俺は、そちらへ駆け出した。

 走りながら俺はサーシャとアイリスの位置関係から、彼女らの影に隠れていない一匹のコボルトに狙いを定める。


「こっちだ!!」


 俺の声にそのコボルトが振り向く。その瞬間、俺は魔力を込めながらブラックホークの引き金を引いた。


ダダダン!!!


「ギャウン!?!?」


 加速の魔法式を介して三発の銃弾がコボルトの足を撃ち抜き、悲鳴を上げて倒れる。その瞬間、サーシャとアイリスを攻撃していた残り三匹のうちの一匹が、俺に向かってくるのが見えた。


「俺は二匹を相手にするから、一匹ずつ狩れ!!」


「ライアー!!ありがとう!!」


「ん、分かった。」


 俺はサーシャとアイリスに声をかけると、倒れていたコボルトの頭を撃ち抜きながら、向かってくるもう一匹に向かってガーディアンを抜き魔力を込めながら引き金を引いた。


パパパパパパン!!


「ギャッ!?!?」


 SMG(サブマシンガン)特有の軽く連続した発砲音と共に銃弾がコボルトの体に当たる。アイリスが刻んだ斬撃の魔法術式の効果で被弾箇所にナイフで切ったような切り傷が入る。魔物の皮膚を完全に貫くまでには至らなかったようだが、コボルトはバランスを崩して倒れ込みながら俺の足元まで転がってくる。俺は起き上がろうとしているコボルトの頭を撃ち抜き絶命させると、サーシャとアイリスのほうを見た。


風の刃(ウインドカッター)!!」


「んっ!!!」


 どうやらあちらも残りのコボルトを倒したらしい。それを確認した俺は辺りを警戒しながらサリアに叫んだ。


「サリア!!索敵(サーチ)だ!!」


「分かったよ!!」


 俺の言葉にサリアは魔法を使い、サーシャとアイリスも目視で索敵を行う。そして他に敵が居ないことを確認すると、目を合わせ頷いた。それを見て、俺は全員に声をかけた。


「目標達成だ。」


 その言葉に、サリアとサーシャとアイリスは息をついた。すると、俺たちの後ろから拍手をしながらジェームスとリーネが歩み寄ってきた。


「見せてもらったよ、君たちの戦い方を。とりあえず目標達成おめでとう。」


「倍以上の数相手にとても頑張りましたわね〜。」


 二人の言葉に、三人は安堵の表情を見せる。しかし俺はジェームスに問いかけた。


「そんな胡散臭い演技をしないで、本当の事を言ったらどうだ?」


「ちょ、ライアー!?」


「どうしたの、ライアー君!?」


 俺の言葉にサーシャとサリアが驚きの声をあげる。しかし、ジェームスはニヤリと笑うと、俺たちに話しかけてきた。


「そうだね、ここはあえて本音で話すとしようか。キミたちのパーティーの戦い方はまるで話にならない。」


「そうですわね〜。あえて点数を付けるとしたら二十点と言った所でしょうか〜?」


 その言葉にサリアとサーシャは驚きの表情を見せ、アイリスは黙って俯く。


「何がいけなかったんですか!?あたしたちは依頼を達成しました!!」


「そうです!!ちゃんと全員生き残りましたよ!!」


 二人の言葉が不服だったのか、サーシャとサリアが声を上げる。その言葉に、ジェームスは続ける。


「確かに依頼は達成したし誰も死ななかった、それは認めよう。だが今は戦闘の内容について話をしているんだよ。」


「戦闘の内容…?」


 ジェームスの言葉にサーシャが眉をしかめて問いかける。それに対し、ジェームスは頷きながらサーシャに聞き返した。


「今日の戦闘で、サーシャちゃんは何をしたか覚えているかい?」


「え…と、いつものように前衛としてコボルトと戦いました…」


 その答えにジェームスは少し考えた後、今度はアイリスに問いかけた。


「アイリスちゃんは今日の戦闘で何をしたかな?」


「…アイリスは、サーシャと一緒に、前に出すぎました。そして、ピンチになりました。ライアーがいなかったら、死んでたかもです…」


 その答えにハッとした様な表情になるサーシャ。先程の不満げな顔をどんどんと曇らせて俯いてしまった。すると次に、リーネがサリアに問いかけた。


「リーネ様は今回の戦いについてどう思われましたか?」


「私は、コボルトに襲われた時にハンゲキ出来なくて、ライアー君に助けられました…」


 サリアも先程の表情から一変して暗いかおで俯く。それを見ながら、ジェームスは話し始めた。


「このパーティーはライアー君がずば抜けて戦闘能力が高い。だから、結局はライアー君頼りになってしまっている。もしライアー君が先に倒れたら君たちは生き残る事が出来るかい?」


 その問いに、三人は答えられない。すると、今度はリーネが話し始めた。


「まだ入学から半年足らずギルドのランクもEランクですわ。分からないことだらけでも仕方ないとは思いますが、それでもあえてお聞き致します。パーティーにとって一番大切な事を知っておりますか?」


 リーネの言葉に何かを言おうとする三人だったが、答えが出てこないようでなかなか言葉にならない。そんな様子を見て、俺は答えた。


「仲間を信じて、背中を預けることが出来るかだ。」


 俺の言葉に、リーネは頷きながら答えた。


「そうですわ。パーティーに一番大切な事は、お互いを信じ、背中を、命を預けられるかですわ。それが出来なければ、名ばかりのパーティーと言えますわね。サリア様、サーシャ様、アイリスちゃん。貴女方はライアー様の背中を、命を預けられるに値しますか?」


 リーネのその言葉に三人は泪を浮かべながら答えた。


「私の力では、ライアー君の命は背負えません…」


「あたしもです。ライアーを守る力なんて無いです…」


「アイリスも、ライアーより、弱い…」


「弱いなら強くなればいいだろう。」


 俺の言葉に、三人はハッとした表情で顔をあげた。


「俺だって最初から戦えた訳じゃない。訓練と実戦を積んでここまで来れた。だったら、お前たちも強くなればいい、俺と一緒にな。」


 その言葉に、先程まで涙を浮かべていた彼女たちは真剣な眼差しで頷くと、ジェームスとリーネに言った。


「ハルトマン先輩にセシエルト先輩、私に戦い方を教えてください。ライアー君に守られるだけじゃ嫌です!!」


「あたしもお願いします!ライアーの背中を守れるようになりたいです!!」


「アイリスも、二人に、負けてられない。何より、ライアーと、戦いたい!お願いします!!」


「俺も改めて頼む。まだまだ戦いにおいて足りない部分が多い。」


 俺たちの言葉を聞いたジェームスとリーネは、少し驚きつつも笑顔で言った。


「オレたちの訓練は厳しいぞ、特にリーネは本当にスパルタだからな。」


「あらあら、ジェームスも大概なのではないかしら〜?でも、やる気は本当のようですわね〜。」


 二人の言葉に俺たちの本格的な戦闘訓練が始まるのだった。






ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー






「おのれ!?あのクソガキが、魔術士の分際でこのワシに歯向かいおって!!!!!」


 そう言いながらグラスの酒を煽るのはマルコ・スティルブだった。彼は息子クレイの一件の処罰として、多額の罰金と領地の一部の没収に加え、自領地での謹慎を国王から言い渡されていた。伯爵の地位は剥奪されることは無かったが、他の貴族や領地民からは軽蔑の視線と侮蔑の言葉を投げかけられ、外を出歩く事も出来なくなってしまっていた。


「これも全てあのガキのせいだ!!クソ、今に見ておれよ!!」


「なんや、随分荒れとるやんか。」


「!?誰だ!?」


 そう言いながら再度酒を煽ろうとした瞬間、自分以外誰も居ないはずの部屋の中から突然声がした。部屋を見渡すと、窓際に仮面を付けた男が立っていた。


「誰だ貴様!?」


「ワイはお困り魔法士お助けマンや。」


「巫山戯るな!!」


 マルコはそう叫ぶと、男に向かってカミナリ魔法を放った。それを見て、仮面の男はつまらなさそうに呟いた。


「なんや、父親のほうが利口かと思っとったのに、バカ息子と同じやんか。」


 そう言うと、男はマルコの魔法を握りつぶした。


「なんだと!?」


「ほれ、お返しや。」


 驚くマルコに向かって、男は先程マルコが放った魔法を打ち返した。しかし、マルコはそれを魔力壁で防いだ。


「ぬぅ!?」


「お、バカ息子と違ってやっぱり経験値はあるやんか。」


「貴様、何が目的だ!?」


 叫ぶマルコを他所に、男は笑いながら言った。


「あんさんの悩み当ててやろか?ライアー・ヴェルデグランやろ?」


「何故それを知っている…」


 男の予想外の言葉にマルコは冷静になる。その様子に気がついたのか、男はマルコに諭した。


「あんさんにとってライアーヴェルデグランは憎たらしい相手やろ?ワイにとっても奴は邪魔な存在や。利害は一致しとる、どうせなら手ェ組まんか?」


「ほぉ、このワシと手を組むとな?どうするのだ?」


 その言葉にマルコは問いかける。その言葉を待っていたと言わんばかりに、男は笑いながら言った。


「ワイは力を持っとるが人が足りない。やけどあんさんには人が沢山居る。あとは分かるやろ?」


「人だと?」


「そや、あんさんには魔法士至上主義信者がおるやろ?その一部を貸してくれたら、ライアー・ヴェルデグランを倒す手助けをしたるわ。」


 その言葉に、マルコはニヤリと笑うと答えた。


「良かろう、その提案に乗ってやる。」


「流石や、あんさんは利口やな。」


 その言葉に男は仮面の下で口を歪めて笑うのであった。


ありがとうございました。

マルコ伯爵と謎の仮面の男が再登場。

次回もよろしくお願いいたします。

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