19話:力の差
どうも、眠れぬ森です。
<炎雷>と<暴風の乙女>との模擬戦開始です。
拙い文章ですがよろしくお願いいたします。
「それじゃあ、模擬戦スタート!!!」
リアスの声と共に、俺とアイリスはリーネに向かって駆け出した。
ガンガンガン!!!!
「あら〜?」
俺は牽制の為に撃ち込むとブラックホークをリーネは戦鎚を身体の前に置き防御姿勢を取った。これで直ぐに攻撃には移れないだろう。
「アイリス!!」
「ん!!」
それを見て俺はアイリスに合図を出すと、リーネの後ろに回り込んで切り裂きの双剣を振りかぶった。もう防御は間に合わないだろう。そう思った時だった。
ガイィィィィン!!!
「な…!?」
「嘘だろ…」
アイリスの攻撃が当たると思った矢先、リーネはその戦鎚を片手で振り上げ攻撃を弾いた。咄嗟の出来事に俺とアイリスはバックステップで距離を取った。
「リーネ、この試合は魔法禁止だ。なのに身体強化魔法でも使ったのか?」
俺はリーネを睨みながら問いかけた。しかし、リーネは微笑みながら答えた。
「いいえ、これは私の純粋な筋力ですわぁ〜。」
その言葉に、俺とアイリスは言葉を失った。たかだか百五十センチ半ばの彼女が二メートル程の鋼鉄製の戦鎚を、しかも片手で振り回したのだ。
「次はこちらから行きますわぁ〜」
驚いている俺たちを見ながら今度はリーネがアイリスへと切り込んで行った。それに合わせ、アイリスも切り裂きの双剣で応戦する。
「くっ…!?」
しかしリーネの攻撃の速さは手数で勝るアイリスと互角、いやそれ以上の速さだ。徐々にリーネの攻撃を捌くアイリスが押され始めた。
「行きますわよ〜。」
「一旦、離脱…!!」
攻撃を捌ききれずにアイリス体制が崩れた瞬間、勝負を決めに行くのか、リーネが戦鎚を大きく振りかぶった。それを見て受けるのは危険と判断したアイリスはバックステップで距離を取ろうとする。しかし、それは無駄な抵抗だった。
ドガァァァァン!!!!!
「かはっ……」
「なんだと…」
アイリスは確かにバックステップで攻撃を交わした。しかし飛んだ瞬間、目の前を掠めた戦鎚の風圧によってアイリスは戦の檻の端まで吹き飛ばされ、結界に叩きつけられた。そして力なく倒れるとそのまま気絶した。そのあまりの光景に俺目を疑ってしまった。
「あぁ!?やりすぎてしまいましたわぁ〜!?!?」
飛んで行ったアイリスのそばに駆け寄るリーネを見ている俺に、ジェームスは問いかけてきた。
「あっちは決着が着いたみたいだね。どうする?降参するかい?」
確かに、リーネの実力は本物だ。しかし、ジェームスはまだ攻撃はおろか動いてすらいない。だったら、答えは一つだ。
「最後まで足掻くさ。」
「いいね、その心意気。気に入ったよ。」
俺は答えると、ジェームスに向かって駆け出した。そして、牽制の為にブラックホークの銃口を向ける。ジェームスの武器はソードであり、リーネのように防御力は無いだろうと判断した。
ガンガンガンガン!!!!
様子見でジェームスに向かって俺は弾丸を撃ち込んだ。急所は狙っていないが、全て彼に向かって飛んでいく。しかし、彼は避けるどころか俺の想像の遥か上を行く行動を取った。
ギンギンギンギィィン!!!!
「なに!?」
ジェームスは俺の銃弾を全て切ったのだ。
「次はこっちから行くよ!」
驚きもつかの間、今度はジェームスが切り込んできた。
「くっ!?」
俺は攻撃を霧雨で凌ぎつつ対抗策を考える。ジェームスの力はリーネ程強くは無いので受けるのは容易である。更に、彼の攻撃にはある特徴があった。
(奴の攻撃は必ず袈裟斬りから入り横薙ぎで終わる。なら攻撃を読んで隙を見て反撃に入る!!)
そう思いながら攻撃を受けていると、ジェームスが横薙ぎの構えを取った。
(今だ!!)
俺はそう思い、霧雨で今まで受けていた攻撃に対して姿勢を低くする事で避けた。頭の上をジェームスのソードが通り過ぎ、反撃に転じようとした時だった。
「がっ!?!?」
俺の側頭部を襲う衝撃と共に俺は吹き飛ばされた。揺れる視界の中、何とか立ち上がりブラックホークを構える。すると、ジェームスが手を叩きながら言ってきた。
「凄いねキミ、頭を蹴られて直ぐに起き上がれるなんてね。感心したよ。」
俺はジェームスの言葉を無視して弾丸を数発撃ち込む。しかし、弾丸は全てジェームスによって切られてしまうがそれは想定済みだ。俺は一気に距離を詰めると、霧雨で斬りかかった。それに対しジェームスもソードで防いでくる。お互いまるで剣舞のように斬り合いをしている中、突然ジェームスが話し出してきた。
「人にはそれぞれ癖があるんだよ。例えばキミは俺の攻撃をある程度受けて、その癖を読んだ上で反撃をしようとした。違うかい?」
「……」
俺の考えを見透かしたかのような言葉に無言をつらぬく。しかし、それも分かりきっていたようにジェームスは続けた。
「この斬り合いの中にもキミはオレの癖や隙を探している。だが、これが全てオレが誘導しているとしたら?」
その言葉と共に、ジェームスが横薙ぎの構えを取る。俺は先程のように攻撃を受けないために今度は霧雨で受ける体制を取る。
「確かにキミは対人戦には強い。だけど、それはキミ本来の戦い方じゃないよね。」
「なに…ぐはっ!?!?」
ジェームスの言葉に反応する前に、霧雨を構えた左手に衝撃が走る。彼は横薙ぎで切りかかると見せかけ、今度はソードの柄で俺の手を殴ってきた。あまりの痛みに霧雨を落としそうになるが、何とか耐えて彼から距離を取る。
「これも耐えるのか!本当にキミには驚かされるよ!」
「さっきの言葉、どういう意味だ。」
俺を見ながら笑うジェームスに俺は左手の痛みを堪えながら問いかけた。すると、ジェームスは顎に手を添えながら答えた。
「キミは銃を使う時もナイフで攻撃する時も、視線があからさまに攻撃する箇所を注目していてフェイントが無いんだよ。もしかして、キミは後方支援のスナイパーとかかい?」
その言葉に俺は驚愕の表情を浮かべると、ジェームスはニヤリと笑いながら言った。
「キミは戦う事に置いて大事な事は分かるかい?」
「死なないことだ。」
「確かにそれは一番大事な事だね。でも、それに至るまでの過程を聞いているんだよ。」
そう言うと、ジェームスは再びソードを振りかぶりながら詰め寄ってきた。俺はブラックホークを構えたが先程の彼の言葉を思い出した、一瞬反応が遅れる。ジェームスはそれを見逃さず、ソードを振るう。それを見て反射的に霧雨で防ごうとするが、飛んできたのは斬撃ではなく俺の腹部への蹴りだった。
「かはっ……」
俺はアイリス同様結界に叩きつけられた。その衝撃でブラックホークを霧雨を手から落としてしまう。
「そこまで!!」
その瞬間、リアスの声が響いた。それと共に戦の檻の結界が解かれた。すると、俺の元へサリアとサーシャが駆け寄ってきた。
「ライアー君大丈夫!?」
「ライアー!!」
二人が駆け寄ってくると同時に、リーネがアイリスを抱えてやってきた。
「申し訳ございませんわぁ、少しやりすぎてしまいました〜。」
「ちょっとアイリス大丈夫なの!?」
「治癒かけるよ!!」
ぐったりとしたアイリスを見てサリアが治癒をかける。そんな様子を見ていると、リアスが近づいてきて、俺に治癒をかけながら問いかけてきた。
「二人はどうだったかしら、ライアーくん?」
「かなり強かった、それに俺に無いものを持っていそうだった。」
俺の答えにリアスは満足そうに頷くと、リーネとジェームスを呼んだ。そして、俺の傍に来るとジェームスが声をかけてきた。
「悪かったね。ちょっと大人気なかったかな?」
「私も申し訳ございませんでした〜。」
「いや、俺たちの力が足りなかっただけだ。」
その言葉に二人は笑顔を見せると、俺はジェームスに問いかけた。
「そういえば、あの言葉の続きを聞いてもいいか?」
「あの言葉?」
「死なない為に至る過程の続きだ。」
俺の言葉に、ジェームスはあぁと言うと笑いながら話してきた。
「あれには特に意味は無いよ。」
「は?」
その言葉に俺は呆気に取られる。そんな様子を見ながら続けた。
「強いて言うなら、キミは正直過ぎると思うんだよね。もう少しせこく戦ってもいいと思うよ。」
「リアス、本当に大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫よ。胡散臭いのは何時もの事だわ。」
そんな彼の言葉に俺はリアスに問いかける。リアスはそんな俺に苦笑いを浮かべながら答えた。
「ん…??」
「あ、アイリス!!大丈夫だった!?」
「大丈夫。サーシャに、心配されるの、不覚。」
「サーシャにそれだけ言えるなら大丈夫そうだね。」
そうこうしているうちに、アイリスが目を覚ましたようだ。俺はアイリスに近づくと声をかけた。
「大丈夫か?」
「ん、不甲斐なかった。」
「気にするな、相手の方が何枚も上手だったようだからな。」
しかし、俺の言葉にしゅんとした顔をするアイリス。その時、俺の後ろからリーネがアイリスに声をかけた。
「申し訳ございませんでしたわぁ……悪気は無いのですが、いつも手加減というものを覚えられずに……」
「ん、大丈夫、アイリスが、弱かっただけ。戦い方、アイリスにも、教えて欲しい。」
「まぁ、まぁまぁまぁ!!!」
アイリスの返事にリーネは何故か歓喜の声を漏らしたと思うと、突然アイリスに抱きついた。
「とっても可愛らしいですわぁ!!私の力になれることはなんでも致しますわぁ!!」
「ちょ…ぐ、ぐるじい゛…!!」
「リーネ、少し落ち着いて。そんなんだとあまりオレの事を悪く言えないよ。」
「は!?も、申し訳ございません!!」
「ハァ…ハァ…」
ジェームスの一言でリーネはアイリスを離した。そんなアイリスはリーネの豊満な胸と怪力で息も絶え絶えになっていた。
俺はもう一度リアスに訝しげな視線を向けると、彼女は目を逸らしながら言った。
「じ、実力はあるから大丈夫よ!!ちょっと変わっているけど…」
「おい。」
「と、とにかく!!これで二人の力は分かったんだし、二人に自己紹介をお願いね!!」
慌てるリアスを横目に、俺たちは二人に挨拶をした。
「サリア・テオ・セリエスです。火の魔法と光魔法が使えます。対人戦は…あまり出来ません…」
「サーシャ・クレンツェルです!風魔法と水魔法が使えます!あと、剣も得意です!」
「アイリス・クラントン、です。魔術士です。」
「ライアー・ヴェルデグランだ。」
俺たちの自己紹介が終わると、ジェームスとリーネも改めて名乗ってきた。
「ジェームス・ハルトマンだ。火と雷の魔法が使えたりする。」
「リーネ・セシエルトですわぁ。一応風魔法が使えますが、メインは戦鎚ですのでよろしくお願い致します〜。特にアイリスちゃんはとは仲良くしたいですわぁ〜!!!」
「う、嫌、です…!!」
アイリスが若干嫌な顔をしたが、無事に挨拶を終えるとリアスが纏めるように話してきた。
「それじゃあ、明日から先輩方にしっかり指導してもらって強くなるのよ!!」
その言葉にサリアとサーシャは大きな返事をし、俺とアイリスは頷き、明日から指導を受けることとなったのだった。
ーーーーーー
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「それで、どうだったかしら?」
ライアーくんたちが帰った後の訓練場で、私はジェームスとリーネに問いかけた。
「流石は王族と貴族のサリアちゃんとサーシャちゃんだったよ。」
「アイリスちゃんも小動物みたいで可愛らしかったですわぁ〜♪」
二人の答えに、私は頭を抱えながら言った。
「そうじゃないわ、ライアーくんについてよ。」
その言葉に、ジェームスとリーネの雰囲気が変わった。そして静かに話し始めた。
「そうだね、彼は凄いよ。自惚れじゃないけど、魔法無しとはいえオレと渡り合えたんだ。対人戦じゃあ並の冒険者じゃ勝てないだろうね。彼のそれは本格的に訓練を受けた動きだったよ。けど…」
「そうですわね。ライアー様の動きは一般人とは全く異なりますわ。遅かったとはいえ、気配を消していたジェームスに反応したのですから。でも…」
二人はそこまで言うと、一旦言葉を止めてから続けた。
「彼は対人戦に慣れすぎていて、魔法士との戦闘に関しては危ない気がするよ。」
「そうですわね。ライアー様は魔法が来ないこと前提の動きが多いですわ。」
二人の言葉にリアスは考える。そして二人に告げた。
「ちょっとキナ臭い事がありそうな気がするわ。だがら、出来るだけ彼らを強くしてあげて。お願い出来るかしら?」
「可愛い後輩のためだ、できる限りの事はするつもりだよ。」
「分かりましたわぁ〜!!」
「ありがとうね。今日はもう遅いから帰っていいわよ。」
返事をする二人にリアスはそう言った。そして、二人が帰り一人になった訓練場で呟いた。
「スティルブ伯爵…」
その独り言は、誰もいない訓練場に吸い込まれていくのだった。
ありがとうございました。
処罰を受けたスティルブ伯爵が気がかりなリアスだが一体…
次回もよろしくお願いいたします。