17話:異能者
どうも、眠れぬ森です。
国王に呼ばれたライアーの運命やいかに!?
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
俺たちは王城に連れて来られた後、応接間へと通された。先の査問で国王陛下自ら無罪とされたのだが、直接呼ばれるとは思ってもいなかった俺は無意識に警戒してしまう。すると、扉が開きアーサーともう一人、茶髪の男性を引き連れて入ってきた。
俺たちは直ぐに席を立つと、跪き左胸に手を当てた。その様子を見て、アーサーは言った。
「顔を上げよ。それに、ここは我のプライベート空間だ。そう緊張せんでも良い。」
「アーサー様、貴方はこの国の王であらせられます。それは些か無理な要望かと。」
「貴様もかエドガー、我はもう少しフランクに接して貰うほうが気が楽なのだが…」
隣の男性の言葉にアーサーは口を尖らせて文句を言う。その姿にサリアとサーシャ以外の人物は呆気に取られる。すると、アーサーはサリアに視線を向けると声をかけた。
「サリアよ、息災か?と言っても、あのような事があった後に聞くことでもないか。」
「いいえ、私は元気です。父様もお変わりないようで。」
アーサーの言葉にサリアは笑顔で返す。すると次に、アーサーと共に入ってきた男性が笑いながらサーシャに声をかけた。
「サーシャも元気そうで何よりだ。ま、元気だけがお前の取り柄みたいなところもあるがな。」
「ちょ、父さん!!恥ずかしいこと言わないで!!」
そのやり取りに、俺は驚愕の表情を浮かべた。それを見た茶髪の男性は、俺に視線を向けて話しかけてきた。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私はエドガー・クレンツェル、国王補佐大臣にしてサーシャの父親だよ。よろしくね。」
「お初にお目にかかります、ライアー・ヴェルデグランです。」
挨拶をしてきたエドガーに対し、俺も自己紹介をした。エドガーはその様子を見て驚き、アーサーに話しかけた。
「報告との印象がだいぶ違いますね。」
「大方猫を被っているのだろう。」
そう言うと、アーサーは再び全員に言った。
「先も言った通り、ここはプライベート空間だ。ここでは我もただのセリエス国民、礼儀も無用だ、楽にしてくれ。」
その言葉と同時に、俺たちはアーサーに促され席に着いた。
全員が席に着いたのを確認すると、アーサーは俺を見て話しかけてきた。
「ふむ、貴様がライアー・ヴェルデグランか。」
「ご挨拶が遅れ大変申し訳ありません。ライアー・ヴェルデグランです。本日は助力頂きありがとうございました。」
そう言うと、アーサーはあからさまに不満げな表情を見せ言った。
「何度も言わすな、ここでは楽にしてくれ。」
その言葉に、俺はチラリとサリアのほうを見た。彼女は笑いながら頷いた。それを見た俺は、アーサーへ言葉を返した。
「そういうことなら、ありがたくそうさせてもらう。」
俺の返答にアーサーは満足気に頷いた。そして話し始めた。
「お主らを呼んだ理由は二つある。まずは、クレイ・スティルブが起こした事件についてだ。だがそれについて話す前にライアー、お前に言っておきたいことがある。」
「なんだ?」
アーサーの言葉に一瞬警戒する俺だった。しかし、アーサーは立ち上がると、エドガーと共に頭を下げてきた。
「どういうつもりだ?」
突然の事に驚きながら問いかける。俺だけでなく、リアスやカイン、サリアとサーシャまで驚きに目を丸くしている。
そんな中、アーサーとエドガーは口を開いた。
「まずは、娘の命を助けてくれた事に父親として感謝する。我は国王という座にいながら何も出来なかった。ありがとう、ライアー・ヴェルデグラン。」
「私もその件について感謝するよ。娘に傷を付けずに助けてくれたようだね。本当にありがとう、ライアー君。」
「感謝されるような事は何もしていない。友達を助けるのは当然だ。」
俺の返答に、アーサーとエドガーは顔を上げ笑みを浮かべる。
「……なによ、友達って……」
「……ライアー君のばか……」
俺の両隣で何故かサーシャとサリアが不機嫌になってしまったが、それを知ってか知らずかアーサーとエドガーは話を進めた。
「では話に戻る。クレイ・スティルブの件についてだが、今回はクレイ本人の暴走という形で処理する。もちろん、マルコには監督不行届で処罰を設ける予定だ。エドガー、説明を頼む。」
「今回の件でマルコ伯爵は罰金と領地の一部没収、それに一定期間の自領地での謹慎処分となったんだ。それなりに重い処分だけど、ライアー君は他にもなにか所望するかい?」
「いや、特にない。俺に干渉が無ければそれでいい。」
「じゃあ、ライアー君たちへの接近禁止命令も追加しておくよ。」
そう言うと、書類に追加で記入するエドガー。それを見て、アーサーも声を上げる。
「そのくらいで良かろう。後の手続きはお前に任せる。」
「かしこまりました。」
そう言うと、エドガーは書類をしまい別の書類を出してアーサーに渡した。それを受け取ると、アーサーはこちらを一瞥し言った。
「クレイの件はこれで終わりだ。次なんだが、ライアー・ヴェルデグラン、お前自身の件についてだ。」
「俺自身の件……」
そう言うと、アーサーはサリアとサーシャに向かって問いかけた。
「お前たちはライアーについて何を知っている?」
その問いに、彼女たちは首を傾げながら答えた。
「えと…私たちより一つ歳下で、魔法兵器を使った戦いが上手い男の子です。」
「あたしも同じです。あ、あと指示は的確に出せて凄く戦い慣れていると思います。」
二人の答えにアーサーは眉間に皺を寄せて俺を睨み言った。
「ライアーよ、お前は自分の事を何も話していないのか?」
「話す必要が無いからな。」
そう言うと、アーサーは頭を抱えながら二人に問いかけた。
「サリアにサーシャよ、これからライアーについて大事な話をする。これを聞いたらお前たちと言えど箝口令を敷かねばなるまい。それでも聞く覚悟はあるか?」
アーサーの言葉に一瞬躊躇いを見せるサリアとサーシャだったが、直ぐに俺のほうを向き頷いた。
「ライアー君の事、もっと知りたい。だから話して貰えるかな。」
「あたしもライアーの事何も知らないから、お願い出来る?」
二人の言葉にアーサーは俺のほうを向き言った。
「では、話してもらえるか。」
俺は全てを話した。産まれてからのこと、傭兵団に居た時のこと、そこで培った戦闘技術、そしてはぐれ魔法士のアルベルトとの戦闘。二人は黙ったまま話を聞いていた。話している途中、二人の目には涙が溜まっていた。アーサーとエドガーも俺の話を神妙な顔で聞いていた。そして話し終えると、しばらくの沈黙があった後、アーサーが口を開いた。
「ここからが重要な話になる。ライアーも心の準備はいいか?」
「大丈夫だ。」
「ではカインとリアス、説明を頼む。」
その言葉に頷くと、カインとリアスが話し始めた。
「まず初めに、ライアーくんに謝らないといけないことがあるわ。」
「こちらを見て貰えますか?」
二人がそう言いながら見せてきたのは、俺の魔力測定の結果だった。その内容は俺に渡されたものとは違う数値が記載されていた。サリアとサーシャにも見せると、二人とも驚きの超えを上げる。
「うそ、私たちより魔力が多いの!?」
「なんで!?魔法が使えないのにどうして!?」
「どういう事だ?俺の魔力は常人より少し多い程度の筈だぞ。」
「それはこちらを見ながら説明させてください。」
俺の問いにカインがもう一枚の紙を見せてきた。それは測定時に行った身体検査の結果だった。そこには見慣れない言葉が書かれていた。
「先天性魔力制御疾患だと?」
「はい、ライアー君は先天的に体内で魔力制御する事が出来ない病気を持っています。貴方の魔力がこれ程まで多いのはそのせいです。」
「その病気はどのような病気ですか?」
カインの言葉に、サリアが問いかける。それに対しカインはリアスと共に説明を続けた。
「魔力とは体内で生成される者で、人それぞれ性質や量に違いがあります。例えば、リアス様の魔力は氷を生成するのに適した魔力です。」
その説明に、リアスが掌に氷の塊を作りながら続けた。
「魔力は必ず作られるわ。でも、その人の持っている魔力量を超えて作られることは無いの。でも、ライアーくんの場合は違う。」
「そうです。ライアー君の場合は生まれつき魔力の制御が効かずに体の許容量を超えても魔力が作られてしまう。それが先天性魔力制御疾患なのです。」
「…その病気は治るんですか?」
二人の説明にサーシャが不安げな表情で問いかける。しかし、カインは横に首を振って言った。
「残念ながら、この病気の治療法は確立して居ないどころか、原因すら不明なのです。現時点で治療法はゼロです。」
「そんな…」
その言葉にショックを受けるサーシャだった。しかし、カインの続く言葉に耳を疑った。
「実はこの病気は母親の体内、若しくは生後一ヶ月の死亡率が九十九パーセントなのです。それなのに、ライアー君は今まで生きてこれました。その理由は分かりますか?」
「ヒントはライアーくんの魔力量よ。」
「ライアー君、魔力は多いのに魔法が使えない!?」
リアスの言葉に、サリアがハッとしたように言った。それにサーシャも続いた。
「確かに、あれだけ魔力がありながら魔法もラクに使えるはずなのにどうして…」
「これはまだ仮説なのですが、恐らくライアー君は生きるために体内で溢れ出る魔力を制御する為の魔法を発動しているのでしょう。」
「俺が魔法をだと?」
カインの言葉に俺は訝しげな表情を向ける。産まれてから何度か魔法を使おうと思ったが、発動した事は無い。そんな俺を見ながら、カインとリアスは話を続けた。
「ライアー君自身も無意識で使っているのだと思われます。」
「魔法というのは一つ発動すると別の属性の魔法は使えないのよ。それは知っているわよね?」
「ああ。」
二人の言葉に俺は首を傾げながら答える。言っていることがまるで分からない。そんな様子を見たのか、カインはさらに詳しく説明した。
「恐らくですが、ライアー君は生存する為の魔法により、魔力のほとんどのリソースを割かれていると思われます。その為、出力出来る魔力が少ないのでしょう。クリスタルでの簡易測定結果で実測値よりも少なく表示されるのはその為でしょう。さらに、常に魔法が発動されているので他の魔法も使用できないと考えられます。」
「つまりどういうことだ。」
「ライアーくんは魔法を使えるだけの魔力があるのに、生きるためにしか魔法を使えないのよ。」
「仮説の域を出ませんがね。」
リアスの言葉に、俺は絶句する。魔法を使えるだけの素質を持ちながら生きるためにしか使えない。戦いに身を置く上で幾度も魔法が使えればと思った。だが、こんな形でしか使えないとは思ってもいなかった。そんな俺を見ながら、アーサーが声をかけた。
「ここから本題なのだが、我らはお前にある一つの疑いを掛けている。」
「疑いだと?」
「そう、お前が<異能者>であるという疑いをな。」
「異能者…」
アーサーの言葉に、俺は仮面の男の言葉を思い出す。
(あんさんと同じ、異能者と言えばピンと来るやろ?)
確かにあの時奴の口から同じ言葉が出た。
「異能者とは一体なんだ?」
俺はアーサーに問いかけた。すると、アーサーは険しい顔をしながら話し始めた。
「異能者とは、この世界の理を超えた力を持つ者だ。その者には総じて二つの特徴がある。一つは魔力に対して魔法が全く使えないこと、もう一つは言葉や魔法では到底説明のつかない力を持つことだ。ライアー、お前に心当たりはあるか?」
そう問いかけられ、俺の中に一つは浮かぶものがあった。
(知覚限界突破…)
以前から突然発動するようになり、クレイとの模擬戦の時に真価を発揮したこの力。確かに使用時に魔力を使う感覚が無い不思議な力。
俺はアーサーとエドガー、そしてリアスとカインを見たあと、サリアとサーシャを見る。二人とも不安げな表情でこちらを見ていた。それを見て、俺は答えた。
「実は以前から不思議な力が使える。」
そして俺は話した。初めて力を知った時のこと、そしてその力を自由に使えるようになった事を。包み隠さずに全てを話した。俺の言葉に、この場にいる全員が驚愕の表情を浮かべる。そして、アーサーが口を開いた。
「お前はその力を何に使う。」
「死なない為、生きる為につかう。」
その問いに俺は間髪を入れず答えた。その答えにしばらく目を瞑り考えていたアーサーだったが、目を開くと言った。
「ライアー・ヴェルデグラン、お前を異能者と決定する。ただし、この決定はこの場にいる者のみ知る機密だ。決して口にしてはならない。」
そして、俺見て付け加えた。
「その力で道を踏み外すことをしない限り、どうこうするつもりは無い。決して油断するな。」
「分かった、必ず守る。」
俺の答えにアーサーは頷いた。そしてエドガーに書類を持ってこさせると、署名した後、俺に渡してきた。
「その書類に署名せい。そうすれば、お前の存在は国家機密で守られる。」
その言葉に、俺は頷き署名をした。それを確認すると、エドガーは書類に魔法で結界を貼り、しまいながらアーサーに話しかけた。
「これでまた悩みの種が一つ増えましたね。」
「エドガーよ、お前も他人事では無いのだぞ。では、最後に最も重要な話をする。」
そのやり取りに苦笑を浮かべる俺たちだったが、アーサーの言葉に緊張が走る。そしてアーサーはエドガーを一度見た後、俺に問いかけてきた。
「ライアーよ、話は戻るが今回のクレイの件ではお前に娘を助けられた。しかし、見方を変えればお前の傍に居たから巻き込まれたと捉えることも出来る。エドガーの娘をも同じだ。お前としては、どう責任を取るつもりだ?」
その言葉にエドガーが頷き空気が静まり返る。確かに二人を助けたのは事実だが、元を正すと俺が居たから事件に巻き込まれたとも言える。しかも、この国の第三皇女と国王補佐大臣の娘だ。逆に罪に問われないほうが不思議である。そう考えた俺は立ち上がると、アーサーとエドガーの前に跪き言った。
「今回の件は、俺にも責任があります。お二人のご息女を危険な目に合わせた罪はこの命を持ってしても償います。」
そう言い頭を下げたその時だった。サリアとサーシャが俺の前に飛び出して叫んだ。
「違います父様!!この件はライアー君に責任は全くありません!!私たちが好きでライアー君の隣に居ただけなのです!!」
「そうだわ!!あたしたちが勝手にライアーについて行ってただけよ!!ライアーが罪に問われるならあたしたちにも責任はあります!!」
二人の必死な言葉に、アーサーとエドガーは険しい顔を向ける。そして数秒の沈黙の後、アーサーとエドガーは大きな笑い声を上げ話し始めた。
「はっはっはっ!!やはりエドガーの言う通りだったな!!いやはや、貴様に一杯食わされたわい!!」
「あはははは!!だから言ったでしょう、アーサー。親が心配するだけ無駄だって!!」
その様子をポカンと見つめる俺たちに、アーサーは笑いが止まらぬ中話しかけてきた。
「すまんな、ライアー。勝手な事だがお前を試させて貰った。それにしても、サリアの言う通り優しい良い男の子じゃないか。」
「ごめんねライアー君。サーシャが見合いの話を蹴ってまで会いに行った君がどういう人物が見極めたかったのさ。その心配は無かったがね。」
アーサーとエドガーの言葉にサリアとサーシャは顔を真っ赤にして叫んだ。
「「もう父様(父さん)なんて知りません(らない)!!」」
そして部屋から出ていってしまった。未だ状況をつかめぬ俺だったが、リアスに肩を叩かれて言われた。
「ま、がんばりなよライアーくん。」
「どういうことだ?」
「子を気にかける親心よ。後は二人に聞きなさい。」
それだけ言うと、カインを連れてリアスも出ていってしまった。呆気に取られていると、アーサーとエドガーが俺に言ってきた。
「サリアは側室の子とはいえ第三皇女だ。それなりに覚悟は持てよ。」
「サーシャも一応上級貴族だからね、ライアー君も頑張りたまえ。」
「え、あ、分かった?」
「「うむ!!!!!」」
俺はイマイチ事態を把握出来ないままだったが、何か大きな物事が進んでいる気がしてならなかった。
ありがとうございました。
異能者認定されたのライアーと、何か大きな話が進んでいるよ感がする話でした。
明日は用事の為投稿出来ないかも知れません。
次回もよろしくお願いいたします。