16話:着せられた罪
どうも、眠れぬ森です。
体調が優れないので今回ばかりは本当に拙い文章になったと思います。
それでも良ければ、よろしくお願いいたします。
クレイとの戦闘から数日が経った。俺はあの後気絶してしまい、病院へ運ばれた。傷自体大きいものは少なく二日程度の入院で済んだのだったが、現場に居たサーシャとサリアがそれを知って号泣しながら病室に飛び込んでくるというハプニングがあった。そして今は退院し、学園に復帰している。
普段通り授業を終え、自主訓練時間になりどうしようかと悩んでいたところ、座学科のティナが俺に声をかけてきた。
「ライアー君、今時間いいかな〜?」
「どうした?」
「学園長がお呼びなので、至急学園長室に言って貰えますか〜?」
「リアスが?分かった、今行く。」
そう言われた俺は、学園長室に足を運んだ。
扉を開けると、リアスの他にサリアとサーシャ、そして見知らぬ男性が中に居た。
「あれ?ライアー?」
「ライアー君も呼ばれたの?」
「ごめんねライアーくん。自主訓練時間に呼び出してしまって。」
「大丈夫だ、それより要件はなんだ?」
サーシャとサリアの言葉に返事をしながら俺が問いかけると、リアスは男性と対面に座っているサリア達の横へ腰掛けるように促した。言われた通り座ると、男性が口を開いた。
「初めまして、俺は国家魔法士団団長のエルハルト・ジェスターだ。まずは貴重な時間を取らせたことについて謝罪する。」
そう言い頭を下げるエルハルトだったが、頭をあげると同時に俺を見て話し始めた。
「単刀直入に言う。我々魔法士団は、ライアー・ヴェルデグランにクレイ・スティルブ殺人の容疑をかけている。」
「どういうことですか!?」
「ライアー君は私たちを守ってくれたんですよ!!」
エルハルトの言葉にサーシャとサリアが声をあげる。その様子を見て、エルハルトはため息を吐きながら続けた。
「それは分かっている。魔法研の現場検証でもそれは証明されている。」
「だったらどうしてですか!?」
サーシャは更に問いただす。すると、エルハルトは一枚の書類を見せてきた。そこには俺の殺人容疑を示す訴訟状だった。そしてそこに書かれている申請人を見て、納得した。
「なるほど、マルコ・スティルブか。」
「そうだ。我々も何度も説明はしたのだが、魔法士団も一枚岩では無い。魔法士至上主義派の奴が受理してしまったのだ。なので、こうして俺が直接出向いて話を聞きに来たということだ。」
「…お前は信用してもいいのか。」
俺はエルハルトを軽く睨みつけながら問いかけた。
今まで魔法士には嫌な思い出しかない。だからこそ、エルハルトが信用に足る人物なのかをハッキリさせたかった。
そんな俺を見てか、リアスが肩に手を置きながら言ってきた。
「彼は魔法士団の中でも、いいえこの国の中でも信用に足る人物だと言えるわ。私が命を持って保証するわ。」
「俺が信用ならんのなら殺しても構わん。」
「…分かった、お前を信用しよう。」
リアスの言葉とエルハルトの覚悟に俺は頷いた。
「では、今回の件について知っていることを全て話してくれ。」
俺達はエルハルトに事の顛末を全て伝えた。仮面の男、サリアとサーシャの拉致、そして倉庫でのクレイとの戦い。そして最後に俺はとあることを話した。
「クレイは、呪いの魔道具を使っていた。」
「なんだと、詳しく話せ。」
俺の一言にエルハルトの雰囲気が変わった。そこで、俺は呪いの魔道具について詳細に話した。
「クレイが使っていたのは指輪だった。奴は使うと魔力がとんでもなく増えると言っていた。事実、奴の魔法は以前戦った時よりも激しかった。」
「どのくらいか覚えているか?」
「たしか、数十の同属性魔法と異なる属性魔法の並列起動を行っていたな。」
「なに!?」
「なんですって!?」
俺の言葉にエルハルトとリアスが驚愕の表情を浮かべる。二人の反応に俺が驚いているとサリアが横から説明をしてくれた。
「魔法士の常識で同属性の魔法は多くても五つが並列起動の限界。まして異なる属性の魔法なんて絶対に発動出来ないんだよ。」
「その通りだ、しかしそれを可能にするとはな…」
エルハルトも冷や汗を流しながら語る。その時、ふと思いついたようにリアスが俺に尋ねてきた。
「そういえば、ライアーくんたちはそんなクレイくんをどうやって倒したのかしら?」
「それは…」
俺が答えようとした時、学園長室の扉が突然開き五人の男性が入ってきた。そして、その中の一人が前に歩み寄ると、一礼して言った。
「突然の無礼をお許しください。私たちは査問委員会の者です。至急、ライアー・ヴェルデグランを法廷へ連行せよとのご命令があり参上いたしました。」
「なんですって!?」
「誰の命令だ!!」
突然の事に声を荒らげるリアスとエルハルトを見ながら、査問委員会の男は言った。
「マルコ・スティルブ伯爵様のご命令です。」
「クソ、遅かったか…」
その言葉にエルハルトは苦虫を噛み潰したよう顔をする。イマイチ状況が掴めない俺に、リアスが耳打ちをしてきた。
「マルコ・スティルブ伯爵は恐らく上級貴族に与えられる実行権を行使したのよ。そうなると、一部の人を覗いて絶対的な命令を出せるわ。」
「なるほど、それで俺はどうすればいいんだ。」
「今はどうすることも出来ないわ。一旦彼らの指示に従ってちょうだい。こっちも準備出来次第向かうから。」
リアスとの会話を終えると、俺は手を拘束され法廷へと連行されたのであった。
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俺が法廷に着くと、遅れてサリアとサーシャもやって来た。事件の当事者として発言を行いたいという申し出が通ったのだ。
「悪いな二人とも、俺のせいで巻き込んでしまった。」
俺の言葉に、二人は首を横に振り答えた。
「そんな事ないよ!!ライアー君は私達を助けてくれたんだもの!!」
「サリアの言う通りだわ。今回はあたしたちがライアーを助ける番よ。」
その時、法廷の扉が開きマルコ・スティルブが入ってきた。彼はこちらを見ると、憎悪のこもった視線を送ってきた。続いて査問委員会の五人が入ってくると、その中の一人が言った。
「それでは、これよりライアー・ヴェルデグランの殺人容疑についての査問を始める。では初めに、マルコ・スティルブ伯爵の言い分を聞きましょう。」
その言葉と共に話し始めたマルコ・スティルブだったが、彼の言い分は魔術士を貶めるような事や魔法士が如何に偉大かといったものばかりで、俺を訴えるに足りる証拠は一切無かった。
「で、では次にライアー・ヴェルデグランの言い分を聞きましょう。」
査問委員会の人も動揺を隠せないまま俺に問いかけてきた。
「まず初めに言うが、確かに俺はクレイを殺した。だが正当防衛に過ぎん。」
「どういうことですか?」
「戯言を抜かすな!!」
俺の返答に査問委員会とマルコが問いただす。
「まず俺は、いや俺達はクラントン商会で用事を済ませた後に帰路に着いていた。しかしそこで何者かの襲撃に会い、サリアとサーシャは攫われた。俺は二人を助けに指定された倉庫に行くと、中でクレイに襲われて戦闘になり、殺した。」
「サリア様とサーシャ様、ライアー・ヴェルデグランの言っていること本当ですか?」
査問委員会が二人に問いかける。それに対し、二人は首を縦に振りながら肯定した。
「その通りです。私たちはクラントン商会の帰り道で何者かに攫われました。」
「そして気がついたら、あたしたちは倉庫の中にいて、スティルブ先輩が居ました。その後、彼に助けられました。」
「なるほど、ありがとうございます。」
査問委員会は二人の発言と調書に書かれた結果と照らし合わせながら話し合っている。しかし、マルコは二人の発言を聞き、叫び声を上げた。
「ふざけるな!!小僧一人とサリア様とサーシャ嬢のの言葉に惑わされるのか!!第一、小僧が脅して口裏を合わせるように仕向けている可能性があるだろ!!」
「しかしですね、三人の供述と調書の内容は一致しております。」
「そんなもの証拠にもならないだろ!!小僧、違うと言うならちゃんとした証拠を見せてみろ!!」
その言葉に、俺は唇を噛む。証拠と言われても、仮面の男の正体は分からないし、クレイが襲ってきたという証拠もない。
俺が黙っていると、してやったりという顔でマルコが言ってきた。
「ふん、平民で下賎なひよっこ魔術士ごときが魔法士の歴史に名を連ねるこのスティルブ伯爵家に盾突いたのは間違いだっ……」
「証拠ならあるわよ!!」
マルコの言葉を遮り、法廷の扉を開く音と共に大声が響いた。そちらを見ると、リアスと魔法研のカイン、そして見知らぬ男女の四人が居た。
「リアス・エルドラドとカイン・ノイマン、それに<炎雷>と<暴風の乙女>だと!?貴様ら何しに来たのだ!!」
突如現れた四人にマルコが驚愕の声を上げる。しかし、リアスたちはマルコを無視して俺たちの所へやってきて言った。
「リアス…」
「ごめんなさいね、準備に時間がかかってしまって。」
「リアス様、幾ら貴女のほうが立場が上とはいえここは法廷です。関係の無い方々を招くのは如何なものかと。」
査問委員会の言葉に、リアスはニヤリとわらいいった。
「あら、彼らは証拠をライアーくんが無罪の持ってきてくれた人たちよ?」
「ふ、ふざけるな!!この者共の話など聞くな!!」
突然やってきたリアスたちにマルコがたじろぐ。しかし、査問委員会は一考した後答えた。
「落ち着いてください、スティルブ伯爵様。それは話を聞いてから決めます。それに、証拠を出せと言ったのは貴方ですよ。」
「ぐっっっっ!!」
その言葉に声を詰まらせるマルコ。そして査問委員会に促され、まずは見知らぬ<暴風の乙女>と呼ばれた女性が話し始めた。
「それでは発言させて頂きますわぁ。私はその日、夕方に中央広場当たりをお散歩しておりましたの。そうしましたら、ピカっという光とともに大きな音がしまして、驚いてそちらの様子を伺いましたら、このような現場に遭遇いたしましたわぁ。」
そう言い、一枚の写真を取り出す。そこには後ろから何者かにナイフを当てられている俺と、何者かに気絶したまま担がれているサリアとサーシャが写っていた。
「これはライアー・ヴェルデグラン、サリア様とサーシャ様の意見の証拠になりますね。」
「ぐっ…だが、クレイがやったという証拠にはなるまい!!」
「じゃあ次はオレが話すよ。」
査問委員会の言葉に尚食い下がるマルコだ。しかし、次は<炎雷>と呼ばれていた男が話し始めた。
「オレは何となく倉庫街をぶらついていたんだ。ま、理由は彼女に振られて一人になりたかったから…ってそんなのはどうでもいいか。そしたらこんな場面に出くわしたのさ。」
「な、なっ!!!!」
男が見せた写真にマルコが酷く動揺する。そこには、倉庫の中でサリアとサーシャに枷を付けるクレイの姿が写っていた。これには流石のマルコも声を詰まらせる。
「マルコ伯爵様、弁明はございますか?」
査問委員会の言葉に拳を握りしめ、唇を噛むマルコだったが、ハッとしたように言った。
「そうだ…確かにこれはクレイだ!!だが、小僧に殺される様な事はしていない!!この隙に後ろから攻撃したに違いない!!」
「では失礼して、次は僕が発言させていただきます。」
そう叫ぶマルコだったが、カインが重ねるように話し始めた。
「事件現場の倉庫ですが、攻撃の跡からクレイ様の魔力残滓が多量に検出されております。そして、ライアー君の傷からも同じように検出されました。」
「そんなもの、あの小僧の攻撃に抵抗したのではないのか!!」
マルコが焦ったように叫ぶ。しかし、カインは冷静に続けた。
「確かに、そのように考えられなくもないです。しかし、それを僕は否定します。なぜなら、自己防衛をするにしても使用した魔法の形跡から明らかに殺傷レベルの高い魔法です。また、現場に残った魔力残滓がクレイ様の持つ魔力を遥かに凌駕するレベルです。その量は推定四倍、一級魔法士レベルです。」
「なんだと!?」
カインの説明に査問委員会の面々がオドロキ声を上げる。その様子を見ながらカインは懐から試験管に入った砂塵を取り出した。
「これはクレイ様の遺体の指に付着していたものです。鑑定に手間取りましたが、これは魔道具の成れ果てです。しかも、何者かの血液の魔石を組み込んだ呪いの魔道具です。内容は使用者の体内魔法制御系統を破壊して魔力を生み出すもの。僕はこんなものまで使って攻撃にしたクレイ様の方に明確な殺意があったと感じられます。」
「な、なに…を…」
その言葉に、マルコは明確な動揺を見せる。その時だった。
「これだけの証拠が揃って居て、なお罪を認めぬのか?マルコ・スティルブよ。」
査問委員会の後ろのテンマクが開き、一人の人物が現れた。その瞬間、マルコ以外の全員が膝をつき左胸に手を当てて頭を垂れた。現れたのは、国王アーサー・テオ・セリエスだった。
「アーサー国王陛下…」
「マルコよ、周りを見渡してみよ。」
アーサーの言葉に周囲を見渡し、慌てて膝をつき頭を垂れるマルコ。それを見たアーサーは話し始めた。
「一から全て聞いておったぞ。マルコよ、そなたは自分の言い分を正当化せずに相手を攻めておった、それに対しライアー・ヴェルデグラン側は物的証拠も揃え無実を主張した。これはもう、決着が付いておる。」
「し、しかし国王陛下…」
「くどいぞマルコ、何度も言わせる気か。」
食い下がるマルコであったが、アーサーの一言で悔しそうに口を紡ぐ。そして、静まり返った法廷にアーサーの声が響く。
「アーサー・テオ・セリエスの名のもとに、被疑者ライアー・ヴェルデグランの罪を問わないこととする。なお、マルコ・スティルブについては処分を下す。内容は追って伝える、以上だ。」
アーサーの言葉に、俺はさらに深く頭を下げ言った。
「温情感謝いたします、国王陛下。」
「未来ある若者よ、これからも勉学と訓練に励むが良い。」
そう言うと、アーサーは席を外し法廷を出ていった。
それを見届けると、サリアとサーシャが俺に飛びついてきた。
「やったねライアー君!!」
「良かったわ、本当に無事で。」
「ありがとう、二人の発言が無かったら厳しかった。」
そんな二人を受け止めながら、俺は礼を言う。そんな俺たちを見ながら、今度はリアスが話しかけてきた。
「あら、私たちにはお礼は無いわけ?」
「いや、本当に助かった。リアスがカインと、後ろの二人を連れてきたおかげで助かった。全員に感謝する。」
「僕は被検体…じゃない、ライアー君が生きていないと悲しいからですよ。」
「オレはオレのやりたいようにやっただけさ。」
「あらぁ!とってもいい子ですわね〜」
カインと、後ろの二人も俺の言葉にそれぞれ返す。
「本当にありがとう。」
もう一度お礼を言うと、俺たちは項垂れたまま微動だにしないマルコを置いて法廷を出たのだった。
無事に法廷から解放され、帰ろうと思い全員でそとに出ると、一人の衛兵に声をかけられた。
「失礼ですが、ライアー・ヴェルデグランはどなたですか?」
「俺だが、誰だ?」
突然の問いかけに首を傾げながらも前に出ると、衛兵は姿勢を正して答えた。
「私は国王陛下の近衛兵です。急ではありますが、国王陛下がライアー・ヴェルデグランを及びです。至急王城へご同行願います。また、サリア皇女、サーシャ嬢、カイン様とリアス様も一緒にとのことです。」
その言葉に、俺は嫌な予感がして呟いた。
「一難去ってまた一難とはこの事か。」
そして俺たちは近衛兵に連れられて、アーサー国王陛下の待つ王城へと連れていかれたのだった。
ありがとうございました。
マルコとの戦いが無事終わり、日常に戻ると思いきや、今度は国王陛下からの呼び出しが。
<炎雷>と<暴風の乙女>の正体とは?
次回もよろしくお願いいたします。