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15話:愚者

どうも、眠れぬ森です。

今回は戦闘シーンありです。

拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。

「ん……」


 気が付くと知らない場所にいた。先程までライアー君とサーシャと帰路についていたはずだ。


「ここ何処…」


 周りには木箱や紙くずが散乱している以外何も無い。体を動かそうとした瞬間、手足に違和感を感じた。


「嘘…縛られてる…!?」


 手足が金属のようなもので拘束されている。頭がパニックになる。その時、私の隣で何かが動いた。


「ひっ…!!」


 驚いて隣を見ると、誰かが倒れていた。目を凝らして見ると、それら見知った栗色の髪をした少女だった。


「サーシャ!!」


「ん…ここどこ…」


 声をかけると、彼女は目を覚ました。そして、周りの状況を確認すると、青ざめた顔で問いかけてきた。


「ね、ねえサリア。ここどこなの!?なんであたし達縛られてるの!?」


「ごめん、私も今目が覚めたばかりで分からなくて…」


 取り乱していく彼女を見ながら慣れてきた目で周りを見ると、どうやらどこかの倉庫の中らしい。出入口はシャッターで閉じられており、窓は高い位置にある。そこから見えるのは、日が沈みかけ闇が侵食し始めてきた夕空だ。


「サリア、どうしよう…」


「とりあえず、手足の枷を外す方法を考えようよ。」


 サーシャの問いに答えながら私は足を見る。そこには何かの魔法術式が刻まれた金属製の枷が付いている。


「とりあえず、魔法で壊せないかやってみよう。」


「だ、大丈夫なの?」


「私が先にやってみるから、サーシャは少し離れてて。」


 そう言うと、サーシャはお尻をずらしながら少し距離を取った。それを確認した私は魔法を放つ為に魔力を集めた。


「……え?」


 しかし、魔法は発動しない。それどころか、魔力を集めようとするとすぐさま霧散してしまう。


「どうだった?」


「魔法が…使えない…」


 サーシャが近づき聞いてくるが、私の言葉を聞き魔力を集め始めた。しかし、サーシャの魔法も発動する事はなかった。


「嘘…どうして…」


 サーシャの呟きに、私は考える。反魔法(アンチマジック)の何かが使われているのか、それとも同様で魔力操作が上手くいかないのか。様々な可能性を考えていた時、男の声が響いた。


「お目覚めかい、お嬢さんたち。」


 聞き覚えのある声と共に、こちらへ近づいてくる足音。私とサーシャはその方向を見る。コツコツと足音を響かせながら窓から差し込む一筋の光が男の顔を照らした。


「ひっ…」


「クレイ・スティルブ…」


「こんばんは、サリア皇女にサーシャ様。もう先輩とは呼んでいただけないのですね。」


 男の正体は一昨日にライアー君との模擬戦で敗れたクレイ・スティルブだった。彼はいつもの笑みを浮かべながらサリアに話しかけた。


「手荒な真似をして申し訳ありません。ですが全てはアイツをここに呼ぶためですので、少々お付き合い願います。」


「アイツってまさか!!」


 サーシャの言葉に、クレイは顔を憎悪にゆがめながら言った。


「そうだよ、僕の顔に泥を塗りたくったあのライアー・ヴェルデグランだ!!!!!」


 あまりの迫力に言葉を失う私とサーシャ。しかし、クレイはそんな二人を気にすることなく叫び続けた。


「アイツのせいで、僕は全てを失った!!!名誉も!信頼も!!魔法士としての道も!!!そして、お前らもだサリアとサーシャァァァァァァァ!!!!!」


 そう言いながら狂気じみた笑い声をあげるクレイに言いようのない危機感を感じ、何とか魔法を発動させようと試みる。しかし、やはり魔力は霧散するばかりで魔法まで至らない。そんな様子を見たクレイは、顔を歪めて笑いながら言った。


「無駄だぞ、その枷には反魔法(アンチマジック)の術式が刻んである。魔力を使えば使うだけ消費するだけだ。」


「うそ…」


「そんな…」


「お前らは所詮、アイツを釣るための餌でしか無いんだよ!!」


 彼の言葉に絶望感を覚えたその時だった。


ドガァァァァァァァン!!!!


 倉庫のシャッターが激しい爆発と共に吹き飛んだ。


「「きゃぁぁぁ!!」」


 私とサーシャその爆音に驚き身を固くした。しかし、もうもうと立ち込める煙の中から人物が姿を表し声をあげた。


「サリア、サーシャ、無事か。」


「ライアー…!!」


「ライアー君!!」


 その人物はライアー・ヴェルデグランだった。その姿を見たクレイは、ライアーに向かって話しかけた。


「待っていたぞ、ライアー・ヴェルデグラン!!」


「クレイ・スティルブ…」


 狂気の笑みを浮かべるクレイに対して、ライアーは明確な敵対心がこもった目で睨みつける。私もサーシャも見た事の無いライアーの表情に、内心驚きながらも二人同時に叫んだ。


「「助けて!!」」


 それを合図に、ライアーはシムエスMk.IIを構えると同時にクレイに向かって発砲した。そして、二人の戦いが幕を開けた。






ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー






 俺は倉庫街の中を走っていた。奴が落としていった紙切れに記された番号の倉庫を見つけるためだ。


「ここか。」

 

 紙切れの番号と倉庫のシャッター上に印字された番号を照らし合わせる。そして索敵し終えた後にシャッターを開けようと手をかけた瞬間、中から声が聞こえてきた。


『お前らは所詮、アイツを釣るための餌でしか無いんだよ!!』


 その声を聞いた瞬間に自分の中で何かがプツンと切れる音が聞こえた。それと同時に、自分の感情を理解した。


(これが殺意というやつか。)


 俺はこれまで、たくさんの人間を殺してきた。しかし、それは生きる為であり自ら殺そうと思ったことは無かった。だが今は違う、明確にクレイへの殺意が湧き上がってきた。

 俺はシャッターにかけていた手を戻すと、代わりに懐から手榴弾(グレネード)を取り出した。そして、そのピンを抜きシャッターへ放った。刹那、激しい爆音と共にシャッターが吹き飛んだ。


「サリア、サーシャ、無事か。」


「ライアー…!!」


「ライアー君!!」


 中に入ると、俺は二人に声を掛けた。すると、二人は枷で身動きが取れないだけで無事なようで、俺の声に反応を返してきた。しかし、俺の意識は直ぐに別のほうへと向かった。


「待っていたぞ、ライアー・ヴェルデグラン!!」


「クレイ・スティルブ…」


 奴の笑みを前に、俺の中にふつふつと殺意が湧き上がる。これ以上の会話は不要だ、すぐに殺す。


「「助けて!!」」


 サリアとサーシャの言葉を皮切りに、俺はシムエスMk.IIのクイックショットでクレイに発砲した。しかし、その銃弾は魔力壁によって阻まれてしまう。その直後、クレイの手から電撃魔法が放たれる。


知覚限界突破(ブーストアップ)!!」


 俺はそれを知覚限界突破(ブーストアップ)で避けると距離を詰める。距離が縮まるとシムエスMk.IIでは真価を発揮出来ない。なので、シムエスMk.IIを背負い直し、今度はブラックホークとガーディアンを両手に肉薄する。


「お前さえ居なければァァァァァ!!!」


「っ!!!」


 しかし、クレイの連続魔法により再び距離を取らざるを得なくなり、ブラックホークとガーディアンを撃ちつつ後退した。しかし、それもクレイの魔力壁に弾かれてダメージを与えることは出来なかった。次々と放たれる電撃魔法を、知覚限界突破(ブーストアップ)を駆使しながら避ける。

 すると突然攻撃が止み、クレイが笑いながら話しかけてきた。


「ライアー・ヴェルデグラン、お前は先日の模擬戦の際に戦う理由を聞いてきたな。」


「だからなんだ。」


「僕は魔術士排除と魔法士至上主義を広めるためだと言ったが、それは違ったようだ。」


「これ以上お前と話すことは無い。」


 俺は好機と思い、クレイに再び肉薄する為に走り出した。しかし、彼はニヤリと笑いながら言った。


「魔術士排除も魔法士至上主義も全てどうでもいい!!お前をブッ殺すために俺は戦ってんだよ!!!!」


 その瞬間、俺の体がまるで上から押さえつけられたかのように重くなった。俺は堪らずに足を止め、膝をつかないように耐える。しかしそれだけではなく、クレイの後ろに数十の魔法陣が展開された。


「なっ!!」


「死ね、ライアー・ヴェルデグラン。」


 その瞬間、魔法陣全てから電撃魔法が放たれ、俺に向かって飛んでくる。


知覚限界突破(ブーストアップ)!!)


 俺は瞬時にその力を使った。世界がスローになり色を失う。そして魔法から光の線が伸びる。

 俺は回避の為、光の線の隙間を探す。しかし、数十もの魔法全てから逃れる隙間はどこにも無い。


(やるしか無い!!)


 そう思い、俺は真正面へと手榴弾(グレネード)を投げ、腕をクロスして防御姿勢を取った。その瞬間、世界が元に戻り間法の一つが手榴弾(グレネード)に当たり爆発とした。


ドガァァァァァン!!


「ぐっ!!!」


 俺はその爆風を利用し、後ろへ飛んだ。間一髪、俺の居た場所に魔法が突き刺さり地面が爆ぜる。


「ハァ…ハァ…」


「これを自傷覚悟で避けるとは、魔術士ごときに相応しい悪あがきだな。」


 俺はクレイを睨みつけながら考える。奴は一昨日戦った時とはまるで別人のような魔法と魔力制御を見せる。感じる魔力も桁違いだ。普通なら短期間でそこまでの戦闘力をあげるのは不可能だ。

 その時、ふとクレイの右手の指に嵌められた指輪が目に入った。それは紅く禍々しい光を放っていた。そして俺は気がついた。


「お前、呪いの魔道具(カース・アイテム)を使ったな。」


 その問いかけに、クレイは指輪を見せながらニヤリと笑い答えた。


「そうだとも、この指輪は呪いの魔道具(カース・アイテム)さ。付けるだけで魔力が爆発的に増える、魔術士ごときのお前には届かないほどの魔力がな。」


「落ちるところまで落ちたな。」


「黙れ!!お前さえ、お前さえ殺せれば全て解決するんだ!!」


 クレイが叫ぶと、再び数十の魔法陣が彼の後ろに現れ、魔法が放たれる。


知覚限界突破(ブーストアップ)!!」


 俺はそれらを白黒でスローになった世界で避けていく。しかし、身体能力の限界を超えるのも、物量にも勝てない。


「がはっ!!!!!」


 遂に俺はクレイの魔法の一つが足に当たり、吹き飛ばされ転がった。

 体が痺れ、喉の奥から血が上がり、吐血する。それに耐えながら再び立ち上がろうとすると、俺の背中に触れる感触がした。


「ライアー…」


「ライアー君…」


 振り向くと、サーシャとサリアが居た。二人とも目に涙を溜めながらこちらを見ている。その瞬間、俺は霧雨を抜くと二人の枷を壊して言った。


「お前らだけでも逃げろ…」


「バカなこと言わないで!!」


「ライアー君も一緒だよ!!」


 二人の言葉に、俺は首を振りながら答えた。


「奴の狙いは俺だ…だから二人は逃げ……!?!?」


 その瞬間、俺の両頬に柔らかな感触が伝わった。驚いて横を向くと、サーシャとサリアが俺の頬にキスをしていた。


「ライアーを残して逃げるなんて出来ないわ。あたしはライアーの事好きだから。」


「私も、ライアー君の事好きだから絶対に見捨てないよ。」


 二人がそう言うと、その様子を見ていたクレイが絶叫をあげた。


「あぁ…サリア…サーシャ…おのれ…おのれおのれおのれぇぇぇ!!!ライアー・ヴェルデグラァァァァン!!!!!」


 そう叫ぶと、クレイの後ろに先程までとは比べ物にならない量の魔法陣が出現した。流石にこの量は捌くことは難しい。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 クレイが叫び、魔法が発動しかけた時だった。


「ぐ、グボァァァァァァ!?!?!?!?」


 突然クレイが血を吐き苦しみ出したと思うと、魔法陣が消えた。突然の事に驚いていると、横にいたサリアが呟いた。


呪いの魔道具(カース・アイテム)の代償……」


「なんだそれは。」


 俺はサリアに問いかけた。するとサリアはもがき苦しむクレイを見ながら答えた。


呪いの魔道具(カース・アイテム)には、その名の通り呪いがかかっているの。使った場合、使用者は代償として何かを支払わなければならない。それはその魔道具によって違う…」


 その言葉に、俺は驚きながらクレイを見る。すると、彼も苦しみながらこちらを見てきた。その顔は醜く爛れ、体も腫瘍のようなもので覆われ始めていた。


「こんな…所で、こンなとコロでェェェェ!!」


 そう叫び、再び魔法を使おうとするクレイであったが、魔力が身体中から溢れ出し、まるで制御が効いていない様子だった。

 俺はその様子を見ながら、シムエスMk.IIを構ええ、照準を額に合わせる。そんな俺を見て、クレイは言った。


「マダダ、マダマケテイナイ…コノユビワサエアレバ…マケルハズガ…ボクハ…テンサイ…デ…コウキ…ナ……」


 最早生きているのが不思議なほどに体の原型を留めていないクレイを見ながら俺は言った。


「クレイ、お前は天才でも高貴でも何でもない。」


 俺の言葉になおも足掻くクレイを見ながら続けた。


「お前はただの愚者だ。」


 その言葉と同時に俺は魔力を込めて引き金を引いた。加速の魔法術式で加速された亜音速の銃弾がクレイの額を貫く。そして、彼は倒れ二度三度痙攣した後動かなくなった。そして、彼の指に嵌められていた指輪が塵となって崩れた。


「終わった…のよね?」


「あぁ…」


 俺はサーシャの言葉に答えると、後ろに倒れた。


「ちょっと、ライアー君!?」


「しっかりしなさいよ!!」


 受け止めてくれたサリアとサーシャは俺の顔を覗き込みながら取り乱していた。俺はそんな二人の頬に手を添えると、呟いた。


「二人とも、無事で良かった…」


 その言葉に顔を真っ赤にする二人を最後に、俺の意識は闇へと落ちていった。






ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー






「やっぱ実験は失敗やったな。流石に量産は出来へんか。」


 ライアーとクレイが戦っていた倉庫を見下ろすように、別の倉庫の屋根から呟く仮面の男がいた。彼は覗いていた双眼鏡を懐にしまうと、誰もいないはずの後ろの倉庫の屋根に向かって話しかけた。


「さて、戦いも終わりや。そろそろあんさんの姿を見せてもろてもええか?」


「よくオレがいることが分かったな。」


 別の男の声に、彼は振り向く。そこには糸目の男性が立っていた。彼にはその男性に見覚えがあった。


「スティルブ伯爵家からよう付き纏われとったんやからな。撒くのにえらく苦労したで〜」


 仮面の男あっけらかんとした様子で話す。しかし、別の男はそうでもなかった。殺気を滲ませながら問いかけた。


「僕らの可愛い後輩にちょっかいをかける輩を放っておく気はさらさら無くてね。手を出すなら相手をするよ。」


「ほぉ、わざわざ<炎雷>自らワイの相手をしてくれるんか。これは腕が鳴るで〜。」


 二人から殺気が迸り緊張が走る。その時、仮面の男に向かって武器を振りかざして向かってくる女が見えた。


「ちょっ!?!?」


 仮面の男はそれを紙一重で交わす。攻撃した女は、<炎雷>と呼ばれた男の横に立ち言った。


「あらぁ〜?避けられてしまいましたわ〜?」


 その姿を見た仮面の男の頬に一筋の汗が流れる。


「<炎雷>だけやなく<暴風の乙女>まで来よったんかい…これはワイの手には終えんで…。」


 <炎雷>だけなら仮面の男でもギリギリ相手になるが、<暴風の乙女>まで相手だと流石に手が回らない。というよりも、仮面の男に取って<暴風乙女>は相性が最悪の相手と言ってもいい。そんな状況に、仮面の男はすぐに動いた。


「勝てん!!撤退や!!」


「逃がすか!!」


 男が叫ぶと同時に、仮面の男は煙幕を張った。そして、煙が晴れる頃には仮面の男は居なくなっていた。


「逃がしてしまいましたわ。」


 女性が残念そうに呟く。だが、糸目の男はそう思っていなかった。


「確かに逃がしはしたけど、ある程度情報は得られたと思うよ。」


「では〜、学園長様に報告へ行きましょ〜」


 男性の言葉に女性は同意すると、彼女は屋根伝いに駆けていった。男性もそれを追いかけようとするが振り返り、ライアー達のいる倉庫に向かって呟いた。


「何はともあれ、無事で良かった。」


 それだけ言うと男性は女性の後を追いかけていった。

ありがとうございました。

ライアーの装備がだいぶ強化されましたね。

そして謎の仮面男と<炎雷>、<暴風の乙女>の正体とは?

次回もよろしくお願いいたします。

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