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13話:新たなる力

どうも、眠れぬ森です。

遅くなり申し訳ございません。

拙い文章ではありますが、よろしくお願いいたします。

「ライアー!!ライアー・ヴェルデグランは居るか!!」


 クレイとの騒動の翌日、午後の魔術科の授業を受けていると、魔法科長のエドガルドが怒鳴り込んできた。


「うるさいねぇ、そんなに騒いでどうしたんだい?」


「お前に用はない!!ライアー・ヴェルデグランを出せ!!」


 魔術科長のターニャがエドガルドに話しかける。しかし、エドガルドは俺を出せと出入口で叫び続ける。他生徒の視線が俺に集まるのを感じ、仕方がないと思いながら俺を探すエドガルドに声をかけた。


「何の用だ?」


 すると一瞬嫌そうな顔をしたかと思うと、突然俺の腕を掴み言った。


「お前に話す必要など無い!!大人しく着いてこい!!」


 そう言うとエドガルドは腕を引っ張ろうとする。しかし、俺はその手をするりと外すし言った。


「今は授業中だ、用が無いなら帰れ。」


「くっ…!!」


 怒りで顔を真っ赤にするエドガルドだったが、こんなのでも教師だ。フンと鼻を鳴らし、嫌そうに答えた。


「お前に客だ、伯爵様がわざわざ下賎なお前如きに時間を割いて来てくださったのだ。」


 伯爵様、その言葉を聞きいた俺の頭に一人の人物の名前が頭に浮かんだ。


マルコ・スティルブ


 昨日絡まれたクレイ・スティルブの家の者だろう。それが俺に何の用だろうか。真意は分からないが、十中八九昨日の件だろう。

 だが好都合かもしれない。俺を狙った魔法士に関する手掛かりが掴める可能性がある。


「分かった。」


「フン、初めからそうしていれば良いものを」


 エドガルドは悪態をつきながらそう言った。


 俺はエドガルドに連れられて学園長室へと連れてこられた。中に入ると、学園長の他椅子に座ったクレイとその隣に豪華な貴族服を着た男性がリアスと話をしながら座っていた。クレイは一度こちらを見るとニヤリと笑った。


「来たわねライアーくん、こっちに座ってもらえるかしら?」


 俺に気がつくと、リアスは俺を席へと促した。

 席に座ると、貴族服を着た男性が俺を見て言ってきた。


「お前がライアー・ヴェルデグランか。タダの子供ではないか。」


 その言葉にリアスは苦笑いを浮かべながら俺に話してきた。


「ライアーくん、この方はスティルブ家当主のマルコ・スティルブ様よ。自己紹介をお願い出来るかしら?」


「ライアー・ヴェルデグランだ。」


 すると、マルコは俺を睨みつけながら問いかけてきた。


「お前がクレイの婚約者でもあるサリア皇女に色目を使い仲を深めようとしているというのは本当なのか?」


 その言葉に、俺は空いた口が塞がらなかった。と言うのも、サリアとは同じパーティーに入っているだけでそれ以上でもそれ以下でもないからだ。


「いや、俺は…」


「そうだよ父さん!!コイツはサリア皇女に汚い手を使って僕から引き離そうとしているんだ!!それだけじゃない、サーシャ様にも同じことをしている!!」


 俺の言葉を遮りクレイは叫ぶ。出鱈目もいい所だ。

クレイの言葉に頭が痛くなり、額を抑える。しかし、クレイの言葉にマルコは怒りに染った顔で俺に問いかけてきた。


「サリア皇女だけでなくサーシャ嬢にまで手を出していたのか!!」


 マルコの言葉に、慌ててリアスが答える。


「落ち着いて下さいマルコ伯爵様、サリア皇女とサーシャ様に直接確認を取りましたが、その様な事実は無いとのことでした。」


「ふざけるな!!どうせ下賎な魔術士のやることだ、魔法道具(マジックアイテム)か何かを使っているんだろ!!」


 リアスの言葉にクレイは重ねるように叫ぶ。本当にめちゃくちゃだ。リアスもそれを見て唖然としている。しかし、マルコはそれを聞いて憤怒と軽蔑の視線を向け、俺に言ってきた。


「そうか、お前は魔術士か。これだから紛い者は行かんのだ!!」


 マルコの言葉に気を良くしたのか、クレイは更に続けてきた。


「そうだよ父さん、こんな屑は魔法士の品位を下げる!!」


 そう言うと、俺を指さして叫んだ。


「クレイ・スティルブの名誉をかけ、お前に勝負を挑む!!」


「……」


「なっ!?」


 クレイの言葉に俺は黙り、リアスは驚きの声を上げた。

 名誉をかけた勝負。それは貴族同士で行われる互いの領地や資産を賭けて行われる決闘だ。


「クレイ、正気か!!」


「そうよクレイくん、落ち着いて!!」


 マルコとリアスはクレイに問いただす。それもそのはずだ、名誉をかけた勝負は基本的に貴族同士で行われるものだ。しかし、クレイはそれを俺に挑んできた。


「俺に挑むメリットはないと思うが?」


「黙れ!!これは僕の名誉とサリア皇女とサーシャ様の自由を賭けた戦いなのだ!!それに、この僕が紛い物に負けるわけないだろう!!」


 クレイがそう言うと、マルコは少し考えて笑いながら頷いた。


「確かに、我がスティルブ家が下賎な魔術士などに負ける訳が無いな。」


「マルコ伯爵様、冷静になってください!!」


 リアスがマルコに再考を促す。しかし、クレイは俺を見ながら高らかに笑い言った。


「お前の毒牙から二人を取り戻す!!覚悟しろよ!!」


「…分かった、その前に一ついいか。」


 その言葉に、言いようのない苛立ちを覚えた俺はクレイに問いただした。


「これは名誉を賭けた勝負で、お前は俺から二人を取り戻したいということだろ?じゃあ、俺が勝ったらお前はどうするんだ?」


 俺の言葉に、クレイは笑いながら答えた。


「この僕がお前に負ける訳ないだろう?それでもそうだな、仮にお前が勝ったらお前の願いを一つ聞いてやろう。」


「ならその勝負受けてやろう。」


「ライアーくん!?!?」


 そう言うと、リアスは驚愕の表情を浮かべた。そんな彼女を横目に、俺は立ち上がりクレイに向かって言った。


「覚悟しろ。」


「煩わしい魔術師ごときが…!!」


 その言葉にクレイも立ち上がり俺を睨みつけてきた。


「はぁ、仕方ないわね…」


 俺たちを見ながらリアスは呟き席を立つと、一枚の書類に記入をして俺たちに渡してきた。


「分かってると思うけど、学生での戦闘は基本的に禁止よ。だから、これは模擬戦の申請用紙。やると言うなら模擬戦という形にして頂戴。わたしのサインはしたから、あとはあなた達の名前を書くだけよ。」


 その言葉に、俺とクレイは迷わず名前を記入した。



 午後の授業終了後、多くの生徒は自主訓練時間となるのだが、今日に限っては実技訓練場に集まっていた。そして、その誰もが異様な雰囲気を纏う二人に注目をしていた。その視線の先に居るのはクレイ・スティルブとライアー・ヴェルデグランの二人だ。二人の放つ凄まじい殺気にもだが、その二人を見る観覧席に居るリアス学園長とマルコ・スティルブ伯爵の迫力にも気圧されている。


「ライアー…」


「ライアー君…」


 そんな二人をサリアとサーシャの二人も見ていた。普段感じることの無いライアーの殺気に言葉を失う。

 そこに、レニアスと複数の教師達が現れ、周りの生徒たちに声をかけた。


「お前ら離れろ、戦の檻(ウォー・ゲージ)を展開するぞ。」


 そう言うと、教師たちがクレイとライアーの周りに魔法結界を貼った。それを見て、サリアとサーシャが驚きの声をあげる。


「うそ…」


「どういう事よ!!」


 その声にクレイが気づき、こちらを振り返ると笑顔で声をかけてきた。


「サリア皇女にサーシャ様、僕の応援に来て頂きありがとうございます。今からこちらの紛い者を排除して貴女方をお助け致します。」


 クレイの言葉に絶句する二人に追い討ちをかけるように、彼は周りの生徒に向かって叫んだ。


「魔法士を目指す高貴なる魔法学園の生徒諸君!!今から僕はこの下賎で薄汚い紛い者の魔術士を駆除して見せよう!!クレイ・スティルブの名に賭けて!!」

 

「いいぞ!!クレイ・スティルブ!!」


「魔術士なんかやってしまえ!!」


 クレイの言葉に、数名の生徒が声をあげる。その様子に、サリアとサーシャは不安を覚える。ライアーに声をかけようとするが、レニアス一言でそれはかき消された。


「それでは、模擬戦初め!!」






ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーー






 レニアスの掛け声と共に、俺は構えを取る。シムエスMk.IIが修理中の今、俺の手にはブラックホークと霧雨の二つだ。

 相手が間法を使う前に決める。そう考えて動き出そうとした瞬間だった。クレイが指を鳴らす。その時、俺の足元に魔法陣が現れる。攻撃かと思い、動きを止めた瞬間に俺の手足が急に重くなった。その異変を感じた刹那、電撃の槍が飛んでくるのが見えた。


「くっ!!」


 それを転がりながらギリギリで避ける。直ぐに立ち上がり、手足を振る。しかし、重さは無くならない。その様子を見たクレイが不敵に笑う。


「何がおかしい。」


 その様子に俺が問いただすと、笑いながらクレイは答えた。


「手足が重いだろ?お前が動き出す前に魔法を発動させていたんだよ!!どうだ、重力の枷(グラビティシャックル)の味は!!」


 そう叫ぶと、クレイは次々と魔法を放って来る。それを俺はギリギリで交わしながら考える。


(始めに魔法を使われたのは厳しいな)


 反撃をしようにも手足が魔法のせいで重く感じ、攻撃に転じることが出来ない。


「どうした紛い者、手も足も出ないじゃないか。」


 クレイがそう言うと、魔法攻撃を辞めた。すると、とんでもない事を言い始めた。


「僕は弱者をいたぶる趣味は無いんでね。打ち込んで来なよ。」


 そう言いながら、クレイは手を広げて無防備な姿勢を取った。


(何かの作戦か?)


 しばらく様子を見るが、姿勢を崩すことなくクレイは無防備な姿を晒している。作戦だろうがなんだろうが、攻勢に出なければ意味は無い。


ガガガガガン!!!


 重い腕を懸命に振るい、ブラックホークの加速の魔法術式を起動させながら数発撃ち込み牽制する。クレイは魔力壁で銃弾を防ぐ。その隙を見て、霧雨を握りしめて走り出す。

 それをみたクレイはニヤリと笑いながら叫んだ。


「バカ正直に突っ込んでくるとは、やはり屑だな!!」


 瞬間、走る俺の正面に魔法陣が展開された。マズいと思い、止まろうとするが慣性の働いた体はすぐには止まらない。攻撃に備え、腕をクロスさせて体を守る。しかし、何事も無く魔法陣を通過する。


(なんだ一体!?)


 嫌な予感がし、一度クレイから距離を取る。その瞬間、身体に強烈な脱力感を感じ膝の力が抜ける。何とか膝をつくのを耐えるが、体の言うことが効かなくなった。それを見て、クレイがこちらを軽蔑の視線を送りながら言った。


「どうだ、俺の闇魔法体力捕縛(ストレンジダウン)の味は。」


「デバフか…」


 俺の答えにクレイは驚いたような表情を見せ答えた。


「ほう、あまり見ることの無い闇魔法の効果を知っているのか。紛い者の割に博識だな。だが!!!」


 クレイが叫ぶと、再び魔法を放ってきた。様々な形をした電撃が俺を襲う。それを俺はギリギリで交わしていく。しかしデバフの効果からか、徐々にクレイの攻撃が俺に掠めるようになってきた。


「ぐっ!!」


「魔術士風情の力はこんなものか!!やはり高貴なる魔法士に紛い者は勝てないのだ。」


 掠める度に走る気絶しそうな電撃の衝撃に耐えながら考える。

 現状ではクレイの魔法により体が思うように動かず、避けるだけで精一杯だ。打開策は今のところ見つかっていない。


(せめてこの体さえ上手く動かせれば…)


 そう思った瞬間にクレイの魔法電撃の矢(ライトニングアロー)が、俺の右腕を貫いた。


「ぐっ…ああぁぁ!!」


 走る痛みと電撃の衝撃で思わず持っていたブラックホークを落として叫び声をあげる。その様子を見たクレイは笑いながら両手に魔法を発動させながら叫んだ。


「やはりこの世で一番強いのは魔法士だ!!!」


 クレイは両手で発動した電撃の槍(ライトアスピア)をこちらに放つ。どう考えても避けられない。しかしその瞬間、声が聞こえた。


「ライアー君!!」


「ライアー!!」


 サリアとサーシャの声、そして初めて聞いたが聞いたことのあるような声を。


《ライアー、今よ!!》


 その声を聞いた瞬間、俺は叫んだ。


知覚限界突破(ブーストアップ)!!」


 刹那、視界が白黒に変わり世界の全てががスローになる。そして、放たれた魔法から光の線が出る。


「これは…」


知覚限界突破(ブーストアップ)の発動を確認しました。仕様マニュアルを送信します。》


 頭の中に誰かの声が響いた瞬間、大量の情報が頭の中に流れ込んでくる。


「ぐっ!!」


 その圧倒的な物量に、鼻と目から血が流れる。だが、これがどういうものか、どうすればいいのかを全て理解した。そして、俺は体を動かす。その瞬間に世界が色と時間を取り戻した。




ドオォォォォォォン!!!!


 クレイの魔法がライアーのいる所に突き刺さり、土煙が上がる。それを見てクレイは勝利を確信した。そして、サリアとサーシャに話しかけた。


「見てくれたかな、僕の圧倒的な力を。これがスティルブ家の魔力だよ。」


 そう言うと彼女らは驚いたような顔をしてこちらを見てきた。僕の力に惚れたのかなと思ったのだが、彼女らの視線が僕の後ろに注がれているのに気がついた。そして、声が聞こえた。


「もう勝った気でいるのか、三下。」


 慌てて振り向くと、そこには倒したはずのライアーが立っていた。


「っ!!電撃の槍(ライトニングスピア)!!」


 慌てて魔法を放つ。しかし、ライアーは驚異的な反射神経でそれを避ける。それを見て、僕は言葉を失う。


電撃の槍(ライトニングランス)電撃の槍(ライトニングランス)!!電撃の槍(ライトニングランス)!!!」


 僕は出鱈目に魔法をライアーに向かって放つが、全て避けられる。


「なんで…なんでなんでだよ!!」


 その姿を見て僕は驚きで後ずさる。それを見たライアーは、こちらに走って来たので、慌てて魔法壁を発動する。


パキャァァァン!!


「なっ!!」


 しかし、魔力壁はライアーの左手ナイフにより切り裂かれる。慌てて魔力壁を張り直そうとする。


「ぐぼぁぁぁぁぁぁ!!」


 それよりも早く、彼の振りかぶった右の拳が左頬に刺さり、僕は吹き飛んだ。




 土煙が晴れるのと同時に、俺はサリアとサーシャの二人と視線が合った。その瞬間、流れ出る血で真っ赤に視界にクレイが振り返ったのが見えた。驚いた顔をしたクレイは、魔法をこちらに放ってくる。


知覚限界突破(ブーストアップ)


 その瞬間、再び世界がスローになり色を失う。俺はゆっくりと迫る魔法から伸びる光の線の斜線上から逃れると、世界が再び色と速度を取り戻した。そして俺の横を魔法が通り過ぎる。

 クレイは再び魔法を乱射してくるが、同じように知覚限界突破(ブーストアップ)で全てを避ける。そしてクレイが恐怖で後ずさったのを見ると、俺は駆け出し距離を詰めた。瞬間、魔法壁を張ってクレイだが俺は霧雨に魔力を込め魔法術式の魔力拡散を発動させる。そして、クレイの魔力壁を破ると同時に、彼を思い切りぶん殴った。


「何故…何故だぁぁぁぁぁぁ!!!」


 吹っ飛ばされたクレイは俺に向かって叫ぶ。俺はそんなクレイに問いかけた。


「お前が戦う理由はなんだ。」


「そんな事決まっている!!全ての魔術士排除と、魔法士至上主義を広めるためだ!!」


 その答えに、俺はブラックホークを拾いながら言った。


「そうか、分かった。」


「お前のような屑にこの考えが分かるものか!!」


 クレイはそう叫ぶと、再び魔法を放とうとする。しかし、この距離では俺の方が速い。


「お前、対人戦は弱いな。」


 一瞬でクレイに近づきその背後に周り霧雨を首に、ブラックホークを頭に突きつけいった。


「魔法士至上主義を唱えるのを否定するつもりは無い。だが、俺に害があるようなら殺す。」


「ヒィッ!!殺さないでくれ!!」


「そこまでだ。」


 クレイがそう言うとレニアスが勝負終了の合図をした。

 戦の檻(ウォー・ゲージ)が解かれ、俺がクレイから離れるとサリアとサーシャが俺の方に駆け寄ってきた。その瞬間、俺は尻もちをついた。


「ライアー!!大丈夫!?」


「いま治癒(ヒール)掛けるから!!」


「流石にちょっと疲れた。」


 そう言うと、サーシャはハンカチでオレの血を拭い、サリアは治癒(ヒール)の魔法をかけてきた。その時、実技訓練場の入口が騒がしくなる。そこにあらわれたのは、マルコ・スティルブだった。彼は俺を一瞥した後、クレイに向かって言葉をかけた。


「スティルブ家に泥を塗りおって、お前には失望したぞ。」


「と、父さん!!これは何かの間違いなんだよ。本来の僕なら負けるはずないよ。そう、そうだよ!!あいつが、ライアー・ヴェルデグランが不正をしたに違いな……」


「これ以上泥を塗るな、この大馬鹿者が!!!」


「っ!!!!」


 マルコがそう言うと、クレイは絶望した表情を見せて項垂れた。次に、俺たちの方へ向かってくる。そしてサリアを見ると、彼女に話しかけた。


「申し訳ございません、サリア皇女。婚約の件、少々考えなければ行けなくなりました。」


 それだけ言うと、マルコは踵を返して実技訓練場を出ていった。

 俺は立ち上がろうとしたが、クレイのデバフの効果を引きずっており、上手く立ち上がれない。両脇からサリアとサーシャに支えられながら立ち上がると、クレイの元へ向かった。


「父さん…僕は…僕は…天才なんだ…」


「おい。」


「っ!!」


 うわ言のように何かを呟くクレイに声をかけると、ビクッと肩を震わせてこちらを向いた。そして、俺の表情を見ると、震え出した。


「勝負の約束覚えてるな。」


「な、何が望みだ。」


 俺の問いかけに震える声で答えるクレイに、俺は出来るだけ殺気を放ちながら言った。


「二度と俺たちに近づくな。」


「は、はひぃぃぃぃ!!!!」


 俺がそう言うと、クレイは泣きながら実技訓練場を飛び出して行った。すると、突然サリアが小さく笑いだした。


「どうした、サリア?」


 俺が問いかけると、サーシャーには聞こえない声でサリアは言った。


「ありがとう、カッコ良かったよ。」


 その言葉に、俺は少しだけ報われた気がした。

 ふと視線を感じ見渡すと、そこにはリアスが親指を立てて満面の笑みを浮かべていたのだった。






ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー






「ライアー…ヴェルデグラン…」


 紛い者(ライアー)との勝負に負けた僕は、父さんの命令で自宅謹慎を言い渡された。ベッドで毛布にくるまりながら今日の事を思い出す。

 序盤は完全に僕のペースだった。少しいたぶり過ぎたかもしれないが、魔術士(紛い者)相手にはちょうど良かった。現に、攻撃は当たり始めていた。しかし、途中から全ての魔法が避けられ、更には魔力壁まで破壊された。魔法士として高みを目指していた僕には信じられない事だった。

 そこで、僕はふとライアーの言葉を思い出した。


(お前が戦う理由はなんだ。)


「僕の戦う理由それは…」


「なんや、えらく落ち込んどるやないか。」


「誰だ!!」


 突然、一人だったはずの部屋に何者かの声が聞こえた。僕は慌てて当たりを見渡すと、窓際に仮面を被った男性が立っていた。それを見た瞬間、僕は魔法を飛ばした。


電撃の衝撃(ボルトインパクト)!」


 流石に部屋で攻撃魔法はマズいと思い、相手を痺れさせる魔法を放つ。これで相手を痺れさ…


「なんやぁ?このショボイ魔法は。スティルブ家の名前が聞いて呆れるで。」


「なっ!?」


 僕の放った魔法は男によって握りつぶされた。低級だったとはいえ触れたら最後、身動きが取れなくなる魔法だ。それを素手で握りつぶしたのだ。

 僕はマズいと思い、更に強いの魔法士を放とうと魔力を集めた時だった。


「ほれ、お返しや。」


「がぁっ!?」


 男の手から、先程僕が放ったものと同じ魔法が発射された。それを食らった僕は、体が痺れて床に倒れてしまった。

 もがきながら首を動かし、男を睨みつける。


「おうおう、そんな怖い顔しなさんなや。一応ワイはアンタの味方なんやから。」


「味…方だと……」


「そや、自己紹介忘れとったな。ワイは…お困り魔法士お助けマンとでも読んでもらおか。」


 そう言うと男は動けない僕に近づいてきて、一つの指輪を顔の位置に落としてきた。


「なん…だこれ…は……」


 僕の問いかけに、男はしゃがみ込みながら答える。


「今日、格下に負けたんやろ?」


「なぜ…それを……」


「そらワイがお助けマンやからや。」


 男の言葉に俺は唖然とする。しかし、そんなことはどうでもいいという感じではなしを進めた。


「この指輪はやな、ものすごーく簡単に言うと付けるだけで魔力が二倍にも三倍にも膨れ上がる指輪や。これさえ使えば、誰にも負けへんで〜。」


 その言葉に、心臓が跳ねるのが分かった。この僕が、誰にも負けない力を持てる。段々と痺れが取れてきた身体を動かしつつ、男に訊ねた。


「どのくらい魔力が上がるんだ。」


「ん〜、あんさんの魔力やと…すぐに一級魔法士クラスには上がると思うで。」


 僕はそれを聞き、迷った。こんなものに頼ってもいいのだろうかと。しかし、男の言葉にそれも崩れた。


「未来の嫁はん、とりもどしたいんやろ?」


「どうすればいい。」


 僕は男に問いかけた。すると、男は地図を取り出し言った。


「明日の夕刻、街の外れにある倉庫街に来ればええ。お膳立てはワイがやっといてやるわ。」


「分かった。」


 俺が返事をすると、男は焦ったように慌てだした。


「ヤバい!!効果切れそうや!!アイツにバレてまう!!ほな、明日待ってるで〜。」


 そう言うと、男は音もなく消えた。

 一人なった部屋で身体の痺れが取れた俺は、男が落として行った指輪を拾う。そこには見たこともない魔法術式が刻まれていた。しかし、なりふり構っていられない。


「これで勝てる…ヒヒっ…待ってろよ、ライアー・ヴェルデグラン。」

ありがとうございました。

ライアーの特殊能力発動回でした。そして、最後の謎のお助けマンとは?

次回もお時間があればよろしくお願いします。

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