11話:未知の素質
どうも、眠れぬ森です。
設定の矛盾を考えながら続きを書くのは大変ですね。
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
翌日、俺は精密検査を受けるためにリアスと共に、その場所へと向かっていた。
「国王の命令とはいえ、後日でも良かったのでは?」
「こういうのは早いほうが良いのよ。それに、一週間以上寝たきりだったんだから、少しは歩いたほうがいいでしょ?」
隣を歩くリアスに俺は言う。そんな俺を見ながら彼女は答えた。確かに動けるには動けるが、未だ関節等に違和感が残っている。本来ならば少しずつリハビリをするのだろうが、リアスには関係無さそうだ。
「鬼だな。」
そう呟くと、リアスは意地悪そうな笑顔で言った。
「あら、そんな事私に言ってもいいのかしら?」
「どういう意味だ。」
「誰が危篤のライアーくんに上級治癒をかけたと思ってるの?」
リアスの答えに言葉を詰まらせる。サリア達に聞いたのだが、王国の病院に運び込まれた時の俺はかなり危ない状況だったという。大量の出血によりショック状態を引き起こしてらしい。医者も病院の魔法士も諦めかけた時に、報告を聞いたリアスが訪れ俺に上級治癒をかけたのだという。あと数十分遅ければ俺の命は危なかったらしい。
「その件については助かった。」
「私が聞きたいのはそんな言葉じゃないわよ?」
俺の言葉にリアスは少し拗ねたような口調で返す。二度も助けて貰ったのだ、流石に感謝だけでは物足りないかなと思いつつ、言った。
「リアス、本当にありがとう。」
「…ええ、ライアーくんが無事で良かったわ。」
その後他愛もない会話をしながら歩き、俺達は目的の場所に到着した。
国立国家魔法研究機関、通称魔法研。魔法の更なる発展や魔法の起源等について総合的に研究する機関だ。
俺とリアスは入口まで行くと、一人の灰色の髪をした男性が立っていた。その男性は俺たちに気がつくと、腰を折って挨拶をしてきた。
「ようこそおいで下さいましたリアス様。そして…ライアー・ヴェルデグラン君!!」
男性は丁寧に挨拶をすると思いきや、いきなり俺の手を取りながら顔を近づけて話してきた。
「リアス様から聞いています!!なんでも異能者の可能性があるらしいですね!?いや〜そんな人の検査をこの僕が出来るなんて今日は素晴らしい日に違いない!!あ、そうだ検査の他にちょっとした実験とかもふべしっっっっ!!!!」
ドン引きしている俺を見てか、リアスが男性に向かって綺麗な右ストレートを放った。男性はもんどりうって倒れ、白目を剥き痙攣しだした。
「リアス、大丈夫なのか?」
流石に心配になった俺はリアスに尋ねると、ため息を吐きながら答えた。
「彼なら大丈夫よ、これくらいでやられる様な体をしてないわ。まったく、魔力が絡むとろくでもないんだから。ほら、早く自己紹介しなさい。」
すると男性は先程までの様子を感じさせない素早さで立ち上がると、再びこちらに腰を折り自己紹介をしてきた。
「先程は申し訳ございませんでした。僕はカイン・ノイマンと申します。ここ、魔法研究機関で魔力調査部門の統括責任者をしております、以後お見知り置きを。」
「あ、ああ。俺はライアー・ヴェルデグランだ。」
お互いに自己紹介をすると、リアスが付け加えるように言う。
「ちなみに、カインは国家一級魔法士でもあるから、実力もあるわよ。」
「そんな、リアス様には到底及びませんよ。」
「魔法学園の同期なのだから、様付けは辞めてちょうだいと言ってるでしょ?」
「特級魔法士のリアス様はより上の立場なのですから、敬意は払わないといけません。」
リアスの言葉に答えていると、カインはハッとした表情をして俺に話しかけてきた。
「っとすみません、無駄な時間を取らせてしまいました。では早速中へ参りましょう。」
そう言うと、カインは俺たちを連れて中へ入っていった。
中に入ると俺は検査用の服に着替えさせられ、他の研究員と思われる人たちに採血やら問診やらをされた。そして最後にカインに連れられ、リアスと共に別の検査室へと足を運んだ。そこは、よく分からない機械が並べられた部屋と、ガラスと扉で仕切られた壁一面に多数の魔法術式が刻まれた部屋だった。すると、カインが俺に問いかけてきた。
「ライアー君は学園の試験で魔力測定をしたのですよね?」
「ああ、そうだ。」
俺は編入試験の際にクリスタルを使った魔力測定を行っている。その時は通常の人よりも少し多いくらいの魔力量しか出なかった。それを伝えると、リアスも頷いた。
「私もこの目で確認したわ。ライアーくんには悪いけど魔力量は中の下、合格ラインギリギリだったわ。」
「なるほど…」
リアスの言葉にカインはメモを取りながら何かを考える。そして、俺とリアスに幾つか質問をしてきた。
「リアス様、ライアー君が試験で使ったクリスタルはどのくらいの大きさでしたか?」
「確か、掌くらいだったと記憶してるわ。」
「それじゃあ、クリスタルが割れたタイミングはいつです?」
「魔力を込めて、数分してからだな。」
俺達の答えにカインは頷きながらとある資料を持ってきた。それは、魔力測定における魔力量の基準だった。そして、それを見せながら彼は説明を始めた。
「これはこの研究機関が出来てから今までの資料で、どういう人がどのくらいの魔力を持っているかの大まかな平均が数値で書いてあります。」
そしてページを捲り話を続けた。
「例えば、魔法学園の入学基準はおよそ300。そして普通の人間だと150から250の間くらいですね。」
さらにページを捲ると、魔法士の魔力量についての記録だ。
「これはあまり参考にはならないかもしれないが、魔法士として活躍出来る魔力量の平均が1000くらい。ちなみに一級の僕は2700、特級のリアス様だと3500もの魔力量があります。」
そして彼は資料を閉じ、俺を見ながら言った。
「これはあくまでクリスタルの光量を数値として見た場合の結果です。しかし君の場合は少し違う。」
「どういうことだ?」
俺が問いかけると、カインはニヤリと笑って答えた。
「君は破壊したのでしょう?リアス様の魔力にも耐えるクリスタルを。」
その言葉に、俺は考える。確かに俺の記録した魔力量は平均よりも少し上、合格ラインはギリギリだった。しかし、リアスの魔力にも耐えうるクリスタルを破壊した。
黙って考え込む俺を見ながらカインはさらに言葉を続けた。
「最近の研究でクリスタルは単純な魔力量だけで反応しているのでは無いと分かったんだ。リアス様、これを見てださい。」
そう言って彼はリアスに一枚の資料を手渡した。
「これは、私の魔力測定に結果?」
「そう、それは過去三年分の、リアス様がここで行った魔力測定の詳しい結果です。その数値を見てください。」
そう言われ結果を見るリアス。すると、段々とその表情が驚愕のものに変わっていく。
「魔力量は増えているのに、クリスタルの光度の数値があまり変わってない…!?」
「その通りです。リアス様は年々魔力が増え続けています。しかしクリスタルの光度の数値は6000付近で安定しています。」
「どういうことかしら?」
その言葉に、カインは一呼吸置き話し出した。
「これは仮定の話ではありますが、クリスタルで測定出来る魔力量は現段階で扱える常用魔力の量ではなく、その人が潜在している潜在魔力量を測っているものだと思われます。まあ、僕達はいつも扱える魔力量を報告していますけど。」
「…なるほどね。」
その言葉に、リアスは一筋の汗を流しながら答えた。そんな彼女を見ながら、カインは嬉しそうに言った。
「とりあえずライアー君の魔力を測定してみましょう。」
すると俺の返事も聞かずに準備を始めた。よく分からない機械のスイッチ類を入れ、取り付けられたゲージの値を確認すると、こちらを振り返り言った。
「それでは今から検査を始めます。中に入るとこちらの声は届かなくなりますので、ガラスの向こうから合図を送ります。一度目の合図で手に魔力を込め、二度目の合図でやめてください。質問がなければ検査に移りますが、どうですか?」
「問題ない。」
カインの言葉に俺は頷いた。彼はそれを確認すると部屋の扉を開け、俺を中に促した。
部屋の中は五メートル四方ほどの部屋で、壁には見たことも無い魔法術式が所狭しと刻まれていた。
「まるで実験動物にでもなったようだな。」
そう呟き、ガラスの方を見る。すると、機械を触っていたカインからの合図が出た。それを確認すると、俺は右手に魔力を込め始めた。
壁に刻まれた魔法術式が徐々に輝きだし、空気が震える。すると突然、出入口の扉に付けられたランプが赤く灯り、けたたましいブザー音が鳴り響いた。
「ん?」
異変を感じガラスのほうを見ると、カインが首を振りながら両手でバツと合図を送ってきた。まだ魔力を込めてから数十秒しか経っていない。だが、彼の余りにも必死な顔に何かを感じ、魔力を停止させた。すると、魔法術式の輝きも収まりランプとブザーも停止した。カインはそれを確認すると、扉を開けて入ってきた。
「ありがとうライアー君。これでデータはバッチリ取れました、お疲れ様です。」
やけに焦った表情を浮かべるカイン。それを見ながら彼に問いかけた。
「もう終わりか?数十秒しか魔力を込めてないぞ。」
「いやいや、それだけで本当に十分ですよ!!」
「そうか…それで、結果はどうだった?」
カインの行動を怪しみつつ、俺は部屋を出た。機械のある部屋に戻ると、様々な機械からデータを記録したと思われる長い紙が吐き出されていた。それを見ながら結果を聞こうと思ったが、それよりも早くカインが話しかけてきた。
「お疲れ様です。今日は慣れない検査で疲れたでしょうから、お休みになってください。帰りは僕の部下が送りますのでご安心ください。」
「…結果はまだか?」
やけに捲し立てるように言うカインを睨みつつ聞く。しかし彼は汗を拭いながら答えた。
「これからデータのまとめを行わなければなりませんので、結果が出るのは明日以降です。分かりましたらすぐにお知らせしますので。」
「そうよ、動けるようになったとはいえ、ライアーくんはまだ入院中でしょ?あまり無理させられないから、今日は病院に戻りなさいね。」
さらにカインを問い詰めようとしたが、リアスにもっともなことを言われてしまいそんな気も失せた。そこにカインの部下と思われる女性が書類を手に持ってきた。それを受け取ると、彼は女性に言った。
「ありがとう。それと追加で仕事だけど、ライアー君を病院まで送って行って貰えませんか?」
その言葉に了承した女性は、俺を促すようにして部屋を出た。仕方が無いので、それについて行く。
「結果が分かったらすぐにお知らせに行きますから!!」
閉まる扉の向こうで、カインの声が響いていた。
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「それで、ライアーくんの結果はどうだったの?すぐに結果が出ないなんて嘘までついて。」
ライアー君が帰ったあとの検査室で、コーヒーを飲みながら検査結果を見る僕にリアス様は問いかけてきた。その問いに、僕は記録用紙の一枚を差し出して答えた。
「っ!?なによこれ!?」
「ハッキリと言いますが、彼は異常です。」
用紙を驚愕の表情で見つめるリアス様を横目に、別の書類に目を通しながら答えた。
リアス様が見ているのはライアー君が先程行った魔力測定の結果だ。正直に言うと、僕の想像を遥かに超えた結果がそこには記されていた。
「常用魔力量が1700、クリスタル光度数値換算の潜在魔力量が15000なんて、どういうことよ!!」
珍しく取り乱すリアス様を見て、逆に僕は少し冷静になった。それもそのはず、常用魔力量はそこまで高くないとはいえ、潜在魔力量がリアス様の倍以上の結果を示していた。さらに、常用魔力量も魔法士として認められるレベルの数値だった。。僕は食い入るように何度も用紙を見るリアス様に話しかけた。
「リアス様、確かにこの結果は驚愕の一言でしかありません。しかし、これをご覧下さい。」
僕は先程部下から貰った書類を手渡した。それはライアー君の血液検査の結果だった。リアス様はそれを食い入るようにみると、ある一つの項目です目を止め、険しい顔をして呟いた。
「先天性魔力制御疾患…」
「そうです。血中魔力濃度が常人の五倍、これで生きているのが不思議なくらいですよ。」
リアス様の呟きに答えるように、僕は言った。
通常、この疾患を患っている人は体内の魔力制御が効かずに絶えず魔力が作られる。しかし、その魔力はいつか行き場を無くし血液中に溶けて飽和状態となり、結果的に体の崩壊を招く。しかしライアー君の場合、そんな状態でも生きている所か、身体に異常が見られない。
「そんな事って有り得るのかしら?」
「通常ならば有り得ませんよ、こんな状態は。ハッキリ言って生きてるのが不思議なくらいてますからね。」
リアス様の言葉に、僕は額に手を当てて答えた。そう、通常ならばだ。僕は険しい顔をしているリアス様に一つの問いかけをした。
「リアス様、ライアー君は。魔法を使えますか?」
「いえ、使えないけれど…って!!」
リアス様は途中まで答え、何かに気がついたようだった。
「これだけの魔力を持ちながら、何故彼は魔法を使えないのかですよね。」
僕の言葉にリアス様は頷いた。その様子を見ながら、僕は話を続けた。
「ライアー君が異能者である事はほぼ間違いありません。それを踏まえて、異能者の特徴をおぼえていますか?」
「膨大な魔力量に反して直接魔法を使えない、それと説明の出来ない特殊な力を持っている。この、二つよね?」
「その通りです。異能者に関しての研究は対象が少ないので、最新の研究結果でも五十年前のものです。それを踏まえて、僕が立てた仮説をお話ししたいのですが、よろしいでしょうか?」
そう言うとリアス様は少し考えた後、ゆっくりと頷きながら答えた。
「良いわ、聞かせてちょうだい。」
「分かりました。わたしの立てた仮説ですが、ライアー君は魔法が使えないのではなく、常に魔法を発動している状態にあるのではないかと思っています。」
「どういうことかしら?」
リアス様は首を傾げながら問いかけてくる。僕自身もとんでもない事を言っている事は承知のうえで続けた。
「魔法とは様々な属性があり、相性が合えばどんな魔法でも使えます。しかし、魔法において絶対に不可能な事はご存知ですよね?」
「異なる属性魔法の多重発動よね。」
「そうです。例えば、同じ人物が同時にに火属性と水属性の魔法を使おうとすると不発に終わります。それは互いの魔法が干渉しあい、魔法を壊してしまうからです。しかし、同じ状況で水魔法ではなく単なる魔力を放出した場合どうなるでしょうか。」
「それってもしかして!!」
リアス様は気がついたように椅子から立ち上がりる。それを見ながら、僕は答えた。
「二つが干渉することなく、火属性魔法と魔力波の両方が出ます。それを踏まえて仮説に戻りますが、ライアー君は常に魔法を発動している状態にあると言いましたよね。」
「ええ、そうね。」
「そうなると、理論的には彼が魔法を発動出来ない説明がつきます。しかしここで、もうひとつ疑問が出てきます。彼が何の魔法を使用しているかです。」
「確かに、彼が魔法を使用していなら学園に張られた反魔法障壁に跳ね返されるわ。」
「ここでも同じです。検査室には反魔法空間の述式が刻まれています。魔法を発動した途端に電撃が彼を襲うはずです。」
僕の答えにリアス様は再び考え込む。それを見ながらすっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干し、問いかけた。
「ここからは仮説の仮説になりますが、お聞きしますか?」
「なんでもいいわ、話してちょうだい。」
僕の問いかけに答えると、リアス様の分のコーヒーを入れながら話し出した。
「恐らくライアー君の魔法は、外部ではなく彼内部で発動している可能性です。」
「どういう事?」
「彼は先天性魔力制御疾患を患っています。普通であれば、直ぐに死亡してもおかしくない状態です。しかし、彼はそれ以外何の問題もありません。だとすれば、体内で魔法的に魔力を制御している可能性があります。」
「じゃあ反魔法が効かないのは…」
「反魔法は外部に放たれた攻撃に反応する仕組みです。体内の魔法には反応しません。」
そう言うと、リアス様は大きく目を見開いた。それもそうだ、仮説とはいえ僕の話している事は魔法の常識を覆しかねないのだから。すると、リアス様は顔を伏せて聞いてきた。
「ライアー君の使っている魔法に心当たりはあるかしら?」
「いえ、僕もそうですが恐らくライアー君自身も分からない、無意識に使っている魔法だと思います。生きるために使わなければいけない魔法なのですから。」
「そんな…」
「運命とは残酷ですね。魔力のリソースのほとんどを生きるための魔法に使用しなければならない可能性が、彼にはあるのですから。ま、仮説なので間違えている可能性のほうが高いです。」
「ライアーくん…」
悲しそうなリアス様の表情を見て、僕は一度話を止める。今まで自分の魔力の無さに涙を飲んだ人を多く見てきたが、魔力が合っても使えない人は初めてだった。才能があるのに使えない、それなどれほど辛いことか僕には分からない。
しばらくすると、リアス様はコーヒーを飲み干し椅子から立ち上がり言った。
「とりあえず、王には私から報告しておくわ。恐らく、貴方と私には緘口令が出されるとおもうけど。」
「問題ありません、僕もあえて死ぬようなことはしませんから。」
「一応、ライアーくんの検査結果もそれらしく隠蔽しておいてちょうだい。今のライアーくんにはまだ話すのは早いと思うから。」
「分かりました、では後で彼の編入試験の成績や戦闘データ等をこちらに回しておいてください。」
「分かったわ、今日はありがとうね。」
そう言うと、リアス様は急ぐように部屋から出ていった。僕以外居なくなった部屋で、ライアー君の検査結果を見ながら残りのコーヒーを飲む。
「膨大な魔力量に未知の魔法の可能性か。いやはや、頭の痛くなる問題だね。」
そう呟き、再びコーヒーを口に含む。先程入れたと思っていたコーヒーは、既に冷め切っていたのだった。
ありがとうございました。
ライアーの異能者の可能性について考察するノイマンとリアス。果たして仮説は合っているのか。
明日は用事があるため、投稿出来ません。
恐らく月曜日になると思いますが、またよろしくお願いいたします。