10話:黒幕の影
どうも、眠れぬ森です。
短いですが、投稿致します。
拙い文章ではございますが、よろしくお願いいたします。
気がつくと、知らない場所にいた。全てが白く、見たことの無い魔法術式が渦巻く世界。
どうやって来たのか、来る前に何をしていたのかの記憶も無い。初めて来たような、しかし知っているようなそんな場所だ。何かを考えようにも、頭に霧がかかったような感覚があり、上手く頭が回らない。
《初めまして、ライアーさん》
突然頭の中に声が響いてきた。聞気覚えのあるような気がする声に、辺りを見回す。すると、目の前に先程までは居なかった黒いドレスを着た黒髪の女性が立っていた。ここはどこなのか聞こうと思ったが、声が出ない。
《ここは私と貴方の精神の狭間です。》
まるで心の声が聞こえたかのように彼女は答える。その様子を感じ取ったのか、彼女は笑うように言った。
《私は貴方であり、貴方は私です。なので貴方のことは全ての知っています。もちろん、優先権は貴方にありますがね。》
彼女の言うことはまるで理解ができない。何故こんな所にいるんだ、お前は誰だ、何が起きている。混乱した頭で問いかけようとするが、やはり声には出ない。すると、彼女はゆっくりと話し始めた。
《貴方は戦闘で瀕死の重症を負いました。普段ならば、その前に自己防衛機能として私が起動するのですが、今回は知覚外からの攻撃によりそれが遅れました。》
そして彼女はこちらに近づき、頬を撫でながら続けた。
《貴方が本格的な死に近づいたが故に私と貴方との精神距離が縮まり、精神がここに飛ばされれ、私と出会った。理解は出来ないと思いますが、そういう事と思ってください。》
どうにも内容が理解できないので再び問いかけようとすると、体が白く光だした。突然のことに混乱していると、彼女は頬を撫でていた手を離して離れていった。そして寂しそうに言った。
《そろそろ時間ですね。最後にひとつ、貴方は多くの経験を積みました。なので私の力の一部を本格的に与えました。ここでの会話は忘れてしまうでしょうが、それだけは忘れないはずです。》
体の光が強くなり、宙に浮く。そして天に登るようにどんどんと高さを増していく。それと同時に意識も薄くなっていく。そんな中、再び彼女の声が頭に響いた。
《またいずれ会いましょう、ライアーさん。》
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「ん……?」
瞼をくすぐる日差しを感じ、目を開けた。見た事のある天井。これはリアスが俺を助けてくれた時に入院した病院の天井だ。俺は体が軋む感覚を覚えながら、上半身を起こした。
「なんで俺はこんな所に、確かクエスト中だった外れるだが…」
ボンヤリする頭で状況を思い出そうとするが、エレファントブルを倒してからの記憶が無い。すると、病室の扉が開き、パサっと何かを落とす音が聞こえた。
扉のほうを向くと、そこには驚いた顔で花束を落としたサリアと、同じく驚いた顔をしたサーシャとアイリスが立っていた。
「サリアとサーシャ、それにアイリス?」
「ライアー君!!」
「ライアー!!」
「ライアー…!」
俺が声をかけると、三人が泣きながら俺の元へ駆け寄ってきた。突然のことに今度はオレが驚いたが、三人の泣きっぷりにどうしていいか分からなくなってしまった。すると、再び病室のドアが開いた。
「あら、やっと起きたのねライアーくん。」
「リアスか。」
そこに立っていたのは、魔法学園学園長のリアスが・エルドラドだった。リアスの力を借りて三人を宥めると、事の経緯を聞いた。どうやら俺たちは、エレファントブルを倒した後、四人の魔法士に攻撃を受けたらしい。そこからは三人もあまり覚えて居ないそうだが、気がつくと魔法士は全滅しており、アルザスへと瀕死の俺を守りながら向かったという。そこで緊急治療を行ってからセリエス王国の病院へと運び込まれたとの事。そして俺は、一週間以上目を覚ますことが無く、医者からも覚悟しておいてくれと言われていたそうだ。
「そうか…三人ともありがとう、助かった。」
「ライアー、血が止まらなくて、サリアの治療も効かなくて、こっちに来てからも、一週間以上、目を覚まさなくて、魔力反応も薄いって…グスッ……」
俺の言葉に、再びアイリスが泣き出す。それにつられてサリアとサーシャまで泣き出し、俺はまた宥めに入るのだった。
しばらくして三人を帰した後、俺はリアスと今回の件について話をしていた。
「それで、ライアーくんは誰かに命を狙われるような事をした覚えはあるかしら?」
リアスの言葉に、俺は少しばかり考えた後答えた。
「学園に入ってからは覚えがない、ベクターは俺が倒したしな。傭兵団にいた頃の相手は分からんが、大体殲滅したから居ないはずだ。」
その言葉にリアスはメモを取りながら次の質問をしてきた。
「じゃあ次だけど、この男に見覚えはあるかしら?」
そう言ってリアスは一枚の写真を見せてきた。そこには、下半身が吹き飛ばされた男の写真が写っていた。
「いや、初めて見る顔だな。」
俺が応えると、リアスは難しそうな顔をしながらメモを取り始めた。聞くと、俺が対物ライフルで銃撃して倒した魔法士の男らしい。
さらにリアスは三人の魔法士の写真を見せてきたが、俺の答えは同じだった。そして最後、リアスは神妙な面持ちで問いかけてきた。
「ライアーくんはスティルブ伯爵家と面識はあるかしら?」
「いや、無いな。むしろ初めて名前を聞いた。」
即答すると、リアスはため息を吐いてメモ帳に大きなバツ印を付けた。それを見て、俺はリアスに問いかけた。
「そのスティルブ伯爵家とは一体なんだ?」
「魔法士至上主義を唱えた、マルコ・スティルブ伯爵が当主の魔法士一家よ。」
そしてリアスは嫌そうな顔をして説明を続けた。
魔法士至上主義とは魔法士を優れた人物とし、魔法を模倣する魔術士を悪とする考えであるらしい。ここ数年で一気に広まりを見せたらしく、その中心人物がマルコ・スティルブ伯爵なのだという。表では魔術士の弾劾を進める一方、裏では殺し屋を用いて魔術士を殺害しているらしいとの噂もある人物だ。
「それが俺と何の関係がある?」
そう言うと、リアスは頭を抱えながら答えた。
「実は、今回の件でライアーくんを殺そうとした魔法士だけど、見せた写真の人物全員が魔法士至上主義の活動団体組織メンバーなのよ。」
「なら、今回の件もその活動の一環だと?」
その言葉に、リアスは一層顔を険しくして続けた。
「それなら、アイリスちゃんも狙われてもおかしくないでしょう?でも、今回はライアーくん一人が目標だったの。」
それを聞き、俺も首を傾げる。確かに、魔術士の排除が目的ならばアイリスも狙われるはずだ。しかし、今回狙われたのは俺だけだ。どこかに矛盾を感じる行動に、俺は言いようのないざわめきを感じた。
「一応スティルブ伯爵家にも確認を取ったんだけど、やっぱりというか、関係無いと突っぱねられたわ。」
「そうなのか?至上主義提唱者だろ?」
「そうなのだけど、活動団体も一枚岩じゃ無さそうなのよね。」
肩を竦めながらリアスは言う。しかし、一枚岩では無いにしても、目的が分からない。一体どういうことなのだろうか。
そう考えていると、リアスが手を叩きながら言った。
「考えてても仕方ないし、次に移りましょう。」
「次だと?」
「そうよ。次はライアーくんについての話しよ。」
俺が首を傾げると、リアスはローブの内側から分厚い資料を取り出して俺に渡してきた。
「これはなんだ?」
「ライアーくん達が行った戦闘に関する記録と調査結果よ。」
リアスの言葉に、俺は資料を捲っていく。そこには確かにエレファントブルとの戦闘に関する記録等が書き記されていた。
「これを俺に見せてどうしろと?」
素直な疑問をリアスにぶつけた。するとリアスは俺の手から資料を取り、とあるページを開いて問いかけてきた。
「単刀直入に聞くけど、ライアーくんは誰と一緒に戦った?」
「サリア、サーシャ、アイリスとだ。」
「それはホント?」
「嘘をつく必要が無い。」
俺の答えにリアスは眉をひそめた。そしてページの一部を指差した。
「特定不可能な魔力残滓を確認。どの生物の照合パターンとも一致せずだと?どういうことだ?」
俺が問いかけると、リアスは真剣な顔で答えた。
「戦闘の行われた場所を国家魔法研究機関の人達と調査をしたのよ。そこでライアーくん達以外の四つの魔力を残滓が確認されたわ。」
そう言いながらページを捲ると、そこには先程見せられた写真の男の内、三人の顔写真と名前が載っていた。
「四つのうち三つは照合パターンで彼らと藩命したわ。でも、一つだけどれにも当てはまらない魔力が検出されたわ。それもライアーくんの体と、倒れていた場所を起点にね。」
「それは、あの場にいた者以外の魔力ということか?」
リアスに問いかけると、彼女は首を横に振り答えた。
「書いてあるでしょ?どの生物にも当てはまらない魔力よ。」
「どういうことだ?」
魔力とは、この世界に存在する生物全てに決まった規則性が出る。個人だけでなく、人や魔物、動物にも決まった魔力の規則性があるのだ。それが世界の常識である。しかし、それのどれにも当てはまらないとなると話は違ってくる。
「研究機関のデータに乗っていない新種の魔物か何かか?」
「それだとしても、ある程度規則性は似てくるものだわ。でも今回検出されたものはそうね、言うならば生物としての魔力とは思えない規則性と言ったところかしらね。」
リアスの言葉を聞き、俺は息を飲む。その様子を見ながら彼女は続けた。
「実は、最初にライアーくんを助けた時にも同じ魔力が検出されていたの。」
「なんだと!?」
彼女の言葉に俺は驚きを隠せなかった。言っている意味が分からない。しかしリアスは、話し続けた。
「初めに検出されたものは本当に微量だったから、魔力衝突で起きた変化だと思われたわ。でも今回はそんなレベルを遥かに超えていたわ。」
「一体どのくらい検出されたんだ?」
俺の問いかけにリアスは額を両手で覆いながら答えた。
「私が全力で魔法を放った時と同レベルよ。」
その答えに、俺は絶句した。もしも、それが俺に向かって放たれていたら。そう考えるとゾッとする。そんな俺を見ながら、リアスは一枚の封筒を取り出してオレに渡した。そこにはセリエスの封蝋がされていた。そして、いつもの口調から打って変わり、真剣な表情で伝えてきた。
「セリエス王より、ライアー・ヴェルデグランに国家魔法研究機関にて精密検査を行うことを命ずる。なお、この手紙を持ってリアス・エルドラドの言葉は、セリエス王国国王のアーサー・テオ・セリエスのものとする!」
一瞬の静寂が訪れる。そしてその言葉の意味を理解し、俺はベッドの上で左胸に手を当て腰を折り言った。
「…畏まりました。王の命のままに。」
そう言うと、リアスは申し訳なさそうな顔をしてこちらを見たのだった。
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「入るぞ。」
「父さん、こんな夜遅くにどうしたんだい。」
その日の夜、僕は部屋でライアー・ヴェルデグランの殺害計画を立てていると部屋に父さんが入ってきた。
「どういうことだ、儂の所にあの銀氷の魔女が来おったぞ。魔術士殺害未遂の件だとか抜かしおって、何か知ってるか?」
その言葉に、僕は一瞬憎悪の感情が芽生える。しかし、平然を装って答えた。
「僕は何も聞いていないよ。大方、下部組織の何処かがヘマをやらかしたんじゃない?」
「やはりそうか。全く、魔術士も厄介だが言うことを聞かん低脳共の扱いにも骨が折れるわい。」
そう答えると、父さんはやれやれと言った様子で部屋を出ていった。それを見届けると、僕は再び計画を練りに戻った。そして引き出しに入っているライアーの写真を取り出し、ナイフで切りつけた。もうすぐ、僕の計画が完成する。
「待ってろよ、ライアー・ヴェルデグラァァン!!」
ありがとうございました、如何だったでしょうか?
補足ですが、魔力の規則性とは現実世界におけるDNAの様なものと考えて頂ければと思います。
語弊力が無くて申し訳ありません…
次回、ライアーの魔力の秘密がちょっとだけ明かされるかもしれません。
またよろしくお願いいたします。