9話:仕組まれ罠(後編)
どうも、眠れぬ森です。
長くなりそうだったので前回を前編、今回を後編に致しました。
読みにくいと思いますが、よろしくお願い致します。
俺とアイリスは走り出すと同時にエレファントブルの左右へ回り込んだ。まだ完全に視界が回復して居ないうちに動きを止める為だ。
「足を狙え!」
俺の言葉にアイリスは頷くと、右前脚に向かって双剣を塗り抜いた。だが、その攻撃は少し肉を切り裂いたのみで大きなダメージとはならなかった。それに続いて俺も、対物ライフルを構える。エレファントブルの厄介なところは頭に生えた角とそれを武器にした突進攻撃だ。喰らえばひとたまりもない。ならば先にと、俺は残っている左角へと照準を合わせる。
ズドォォン!!
「ブルァァァァァァ!!!!」
対物ライフルが火を吹き、左角を砕く。その瞬間、エレファントブルは前脚を上げて立ち上がった。
「アイリス、離脱だ!!」
それを見た俺は後脚に攻撃をしようとしていたアイリスに叫びながら離脱する。彼女もそれを聞き、距離を取る。
ドォォォォォォォォン!!
俺とアイリスが離れた瞬間、エレファントブルは前脚を思い切り振り下ろして踏みつけて来た。俺たちが先程まで居た場所はひび割れ、凹んでいる。それを見て冷や汗を流しているアイリスに対して、俺は問いかけた。
「攻撃は通るか?」
「ん、深い傷は、無理だけど、通る。魔法術式は、やっぱり、消された。」
それを聞き、俺は考える。魔法術式が効かないとなると、ブラックホークの魔法術式で加速させた弾丸もほとんど意味は無い。魔物相手に九ミリ弾など豆鉄砲でしかないのだ。霧雨も既に相手に魔法がかかっている状態なので、術式の魔力拡散も効かない。唯一攻撃が通るのは、アイリスから借りた対物ライフルのみだ。それも残り弾数は七発だ。
「アイリス、作戦変更だ。」
「ん…?」
相手の動きを止めてから倒すといった作戦は、今の俺たちでは時間が掛かりすぎる。ならば、一撃で仕留める方法で倒す。
「俺がヤツの注意を引く。そのうちに出来るだけヤツの胸の辺りに多く攻撃を入れてくれ。」
「でも、アイリスの攻撃、あまり効かない…」
アイリスは俺の言葉に自信なさげに返事をする。しかし、今の状況で頼れるのはアイリスしか居ない。だから彼女に視線を送り言った
「俺は、お前なら出来ると信じてる。」
その言葉を聞いて、アイリスは目を大きく見開く。そして真剣な顔つきになり言った。
「アイリス、やる!」
「上出来だ!!」
それと同時に俺はブラックホークを抜き、エレファントブルの顔に向かって弾を撃ち込んだ。
ガンガンガンガン!!!
銃弾はやはり弾かれたが、エレファントブルはこちらに視線を向けた。その瞬間、アイリスが死角から懐に飛び込み、斬撃を放った。今までの一撃離脱の攻撃とは違い、双剣の手数の多さを活かした連続攻撃だ。堪らずにエレファントブルはアイリスへ視線を移し、攻撃に入ろうとするが、すかさず俺は銃撃で注意を逸らす。
「アイリス、一旦下がれ!!」
彼女に向かって叫ぶと、アイリスはバックステップで飛び退いた。俺は対物ライフルを構えると、アイリスが傷を付けた胸部へ狙いを定め、引き金を引いた。
ズドォォン!!
地響きのような炸裂音と、エレファントブルの鳴き声が響きわたる。
「やった…?」
「いいや、まだだ。」
アイリスの呟きに俺は答える。多少のダメージは与えられたが、倒し切るに至ってはいない。だが、胸部の傷口は着実に広がり流れる血液の量は増えており、エレファントブルもこちらを警戒して動こうとしない。もう少しだ。
「もう一度、やれるか?」
俺はアイリスに問う。しかし、アイリスは悔しそうな顔をして答えた。
「アイリスの、武器じゃ、無理かも…リーチ、足りたい。」
俺が決定打を放てるまであと一歩なのだ。しかし、その一歩が難しい状況。どうする、考えろ、傷口さえ広がれば。
「あたしがやるわ。」
突然、俺たちの後ろから声が聞こえた。声の主はサーシャだった。彼女は剣を抜きながら俺の横に立った。
「大丈夫なのか。」
「体は痛いし怖いわ。でも、やれるわ。」
そう言い、剣を握る手に力を込める。それと同時にエレファントブルが前脚で地面を欠く仕草をした。突進攻撃の前触れだ。それを合図に、俺たちは走り出した。同じタイミングでエレファントブルも攻撃の為に踏み込もうとする。
「炎の槍!!」
踏み込もうとした左前脚の地面が魔法により爆ぜた。魔法を放ったのはサリアだった。魔物自体に魔法は効かなくても、それ以外は関係ない。それに脚をとられ、姿勢を崩すエレファントブル。それに合わせるように、再び右脚に斬撃を入れるアイリス。戦闘で蓄積されたダメージのおかげか、エレファントブルは右脚を折り、横倒しになる。そこにサーシャが剣で胸部を切り裂いた。そして見えた、俺が求めていたものが。
「二人とも離脱しろ!!」
サーシャとアイリスがエレファントブルから離れると俺は素早く懐に飛び込んだ。そして対物ライフルの銃口を裂かれた肉の隙間にねじ込んだ。痛みからか、エレファントブルは悲鳴にも似た鳴き声を発する。それを聞きながら、俺は引き金を引いた。
ズグン!!
鈍い発砲音と共に断末魔のような鳴き声が響く。銃口を差し入れた傷口から血が飛び散り、俺を濡らす。一呼吸遅れててエレファントブルの口からも血が溢れ、しばらくもがいた後動きを止めた。
辺りが静まりかえる。エレファントブルが動き出す様子は無い。それを確認して俺は銃口を引き抜いた。
「倒したの?」
サーシャが問いかけてくる。俺は振り返りながら口元を上げて答えた。
「ああ、倒したぞ。」
その言葉に三人は安堵の表情を浮かべた。それを見て、言葉をかけた。
「三人とも良くやっ―――――」
アイリス達に労いの言葉をかけようとした時、背中に軽い衝撃と、背中と左胸に熱さと何かが流れる感覚を感じた。
「ライアー…!?」
「ライアー!!」
「ライアー君!?」
三人の叫び声をよそに視線を下に向けると、左胸から流れ出る血液、そして地面に突き刺さった黒い槍のようなものが霧散しているところ目に映った。
それは云わば反射だったのだろう。考えるよりも早く俺は振り返り、槍の斜線上にある岩の斜面に向かって対物ライフルの引き金を引いた。
ズドォォン!!
「がっ―――」
発砲音の後に知らない男の短い叫び声。目を向けると、先程誰も居なかった場所に下半身を吹き飛ばされて絶命した男の姿があった。それを確認したと同時に、俺血を吐いて倒れた。
「ライアー君!!」
サリアが真っ先に俺の元へ来て、治療の魔法をかけた。その後ろからアイリスとサーシャがやってきた。
「サリア!!ライアーは!?!?」
「治療をかけてるけど、傷が深い…」
「ライアー」
サーシャの問いに、サリアが涙を浮かべながら答える。アイリスもカバンから布を取り出して傷口に当ててくる。しかし出血は止まっていないようだ。
「ったく、魔物まで使ったのに仕留め損なったうえに死ぬとか有り得ねぇよ。」
「そう言うなよ、彼も彼なりに頑張ったのだろう。」
「そうだ。それに一人死んだから報酬の分け前も増えたと考えるべきだろう。」
突然、目の前に濃紫色のローブを来た男たちが現れた。俺は荒い呼吸と喉の奥から溢れる血を堪えながら、ブラックホークを抜き銃口を向けた。
「なんだよ、まだ死んでないのか。しぶといガキだな。」
「誰よあんたたち!!ライアーに何をしたの!!一体どこから現れたの!!」
男の一人の言葉に、サーシャが叫びながら問いかける。しかし、男は笑いながら答えた。
「どこからって、ずっと居たぜ?魔力遮断と迷彩魔法を使いながらな。あと、俺たちは依頼主の命令でそのガキを殺しに来た、しがない雇われ魔法士さ。」
「殺しにって…誰に言われたのよ!!」
「殺し屋が依頼主の事を話す訳無いだろ?」
その言葉に真っ先に動いたのはアイリスだった。俺の横を飛び出すと、手に持った双剣魔力を込めながらに向かって行った。
「少し落ち着いてよ、岩の牢獄。」
しかし二人目の男の魔法により、手足を岩の枷で捕縛され、地面に倒れてしまう。その様子を見て、サーシャも魔法を放つ。
「風の刃!!」
「風の砲撃」
しかし、三人目の男の魔法によりそれも相殺されてしまった。
「うそ…」
「ぎゃはは!!俺たちが魔術士や魔法士のひよっこ共に叶うわけねぇだろ。」
そう言いながら一人目の男がアイリスの元へ歩いていき、倒れているアイリスの頭を踏みつけ言った。
「んっ…!?」
「魔術士のクソどもが、魔法士に楯突こうだなんてお門違いも良いところだぜぇ?」
「そうだけど、それは僕の獲物だよ。可愛がってから殺そうと思ってるから、あまり傷を付けないでよ。」
「では俺はこの剣を持った小娘を貰う。」
ズガン!!!
突然の発砲音に話している男たちの会話が止まる。一人目の男が右頬に熱さを感じ、手で触れる。鋭い痛みと共にその手が血に染まり、顔が憤怒の表情に変わる。それを見ながら俺は血を吐きながら言った。
「ガハッ…パーティーの仲間に……手を出すな……」
「ライアー君!!」
そこで俺はブラックホークを手から落とし、意識が遠のいていくのを感じた。
《生命の危機を確認しました。これより、防衛行動に入ります。》
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「ライアー君!!」
サリアの悲鳴に振り返る。そこには力無く横たわるライアーの姿があった。まるで死んだように青白い顔をしている。荒い呼吸をしていることで辛うじて生きているのが分かるが、それもサリアがずっと治療を掛け続けているおかげだ。どうにかしなければ間に合わなくなる。
「このクソガキがぁぁぁぁ!!」
ライアーの銃撃で頬に傷を付けられた男が憤怒の表情で彼に近づいていく。あたしはその男に向かって生き、魔法を放った。
「させないわ!!水の弾丸!!」
「ウゼェって言ってんだろ!!ひよっこがァ!!超雷撃!!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!かはっ!!」
魔法は呆気なく相殺されてしまい、さらに衝撃であたしは吹き飛ばされ、近くの岩に叩きつけられた。視界が回り、意識が飛びそうになる。それを尻目に男はライアーとそれを治療しているサリアの所まで行く。
「ぐ…サリア、アイリス…」
あたしは立ち上がろうとするが、先程の衝撃から未だ立ち直れていない。すると、男がサリアに声をかけた。
「アンタが第三皇女サマだろ?今ソイツを渡せば殺しはしない。」
その言葉にサリアは肩をビクッと震わせた。その反応に男はニヤリと怪しい笑みを浮かべて続けた。
「今ならアンタだけじゃなく、他の二人も見逃してやってもいいぜぇ。な、悪くない話だろ?」
「………せん。」
「アァ?聞こえねーよ?」
男の言葉に、俯きながら小さくつぶやくサリア。しかし男聞き返すと同時に顔を上げ、目に涙を貯めて大きな声で言った。
「嫌です!!ライアー君は渡しません!!」
「そうか、じゃあ死ね。」
そう言いながら右腕をサリアに近づけ、魔力を貯めた。その様子を見ながら彼女はギュッとライアーの頭を抱きしめて攻撃に備えた。
ザンッ!!
「……あ?」
しかし魔法は飛んでこなかった。その代わりに、男の不思議そうな声。何事かと思い顔をあげると、ライアーが霧雨を抜き、男の手首から先を切り飛ばしていた。
「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
男は絶叫しながら下がり、切り飛ばされた右手首を必死に抑えていた。
サリアはハッとして、腕の中のライアーを見た。そこには、目を開けたライアーがいた。しかし、その目は生気が無く、どこか虚ろだった。すると、いきなりライアーは声を発した。
「《すみません、少しの間寝ていて貰います。》」
「ライアー君!?」
そう言って立ち上がるライアーに声をかけるサリアだったが、彼が指を鳴らした瞬間に猛烈な眠気に襲われた。なんとか耐えようとして周りを見ると、サーシャとアイリスは既に眠っているようだった。私は必死に眠気に逆らい、彼に声をかけた。
「ライ…アー…君……」
「《彼は大丈夫ですので、しばらく寝ていてください。》」
彼の言葉を聞くと、私の意識は深海に沈むように落ちていった。
「テメェ!!何しやがった!!」
切られた手首を抑えながら男が叫ぶ。しかし、ライアーは気にした様子もなく、独り言を呟く。
「《フェーズIの常時起動を確認、フェーズIIに移行します。……失敗、フェーズII仕様に対応する武装の確認が取れませんでした。》」
「無視しやがって…テメェら、やっちまえ!!」
「仕方ないね、岩石の砲弾」
「風の砲撃」
二人の男から魔法が飛んでくるが、ライアーは迫り来る魔法を気にせずに独り言を呟いている。そして魔法が辺り、土煙が上がる。
「ど、どうだ?やったか?」
男が土煙が晴れるのを待ちながら言う。しかし、直ぐにその表情は焦りに染まる。土煙の中にライアーが立っていたのだった。
「クソ!!どうなってやがる!!」
「対魔法アイテムか!?」
男たちは必死に対策を考える。しかしライアーはそんな事を聞いても居なかった。
「《フェーズI使用により回避完了。引き続き防衛行動を検索中……クリアしました。魔法術式構成、これより迎撃に入ります。》」
そう言うと、ライアーは真っ直ぐに男たちへ突っ込んで行く。
「クソ!!取り敢えず魔法を撃て!!魔術士に魔法は使えない!!」
そう叫ぶと、男たちは次々と魔法を放ってきた。しかし、ライアーに当たらない。その様子を見て、焦りり出した男たちは、懐から短剣を抜くとそれで襲いかかってきた。
「死んでいただきます。」
「悪いな、これも仕事だ。」
そう言いながら、左右から切りかかってくる。この距離であれば、魔法術式を発動させる時間は無い。男の顔に笑みが零れる。
パキィィィン!!!
しかし、その表情は驚愕に染まった。ライアーの展開した魔力防壁によって。
「嘘だろ!?」
「なに!?」
「なんでだよ…なんでクソ魔術士なんかが魔法を使えるんだよ!!」
男たちが距離を取る。それと同時にライアーの身体がふらつき、膝を付く。
「《肉体の活動限界に到達しました。》」
その言葉を聞き、男たちはニヤリと笑う。そして三人同時に攻撃を仕掛けてきた。
「死んでもらうぜ!!ライアー・ヴェルデグラン。」
「《申し訳ありません。》」
ライアーの言葉に、男たちは勝ちを確信した。そして渾身の魔法を放とうとした。しかし、それは失敗に終わった。放った魔法が途中で霧散したのだ。
「魔法が霧散した!?」
「一体どうなってやがる!!」
「むぅ……」
男たちはパニックになりながら、もう一度ライアーに向かって魔法を放つ。しかし先程と同じく、当たる前に霧散してしまった。
「《申し訳ありませんライアーさん。》」
ライアーから発せられた言葉に、男たちは息を飲む。しかし、気にせずライアーは続けた。
「《フェーズIIIの解除を確認しました。これより魔法を使用します。》」
その瞬間、ライアーの周りを膨大な量の魔力が渦巻いた。それは段々と形を変え赤黒い熱を持った何かへと変化していった。
男たちは呆気に取られた。魔術士聞かされていた子供が、自分たちよりも強大な魔法を使おうとしているのだ。もう恐怖は感じられない、感じるのは死に近づいて行くために降りる階段の音だけだった。そして、ライアーが魔法を放った。
「《消えなさい、漆黒の爆炎》。」
ライアーの放った魔法は男たちに襲いかかり、声を上げる間もなく、骨すら残さずに焼き尽くした。
それを見届けたライアーは自分の身体についてチェックをした。
「《損傷箇所多数、出血多量を確認しました。これより応急処置に入ります。》」
そう言うと、傷口に魔力を集めて出血部分を塞いだ。しかし、完全に治ったわけでは無い。これ以上は外科的な処置か、上級治療の必要がある。
「ん…」
声が聞こえた。そちらを見るとサリアが起きようとしていた。
「《私が出来ることはここまでです。サーシャ、サリア、アイリス、後のことは頼みました。》」
ライアーはそう言うと、意識を手放し倒れたのであった。
《自己防衛行動終了。フェーズIを除き全てのフェーズを終了します。また、フェーズIの完全習得を確認、知覚限界突破を習得しました。それでは、お疲れ様でした。》
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「くそ、どうなってるんだ!!」
僕は屋敷の自室で魔法士達の帰りを待っていた。しかし、夕刻になっても夜になっても僕の元へ現れる気配は無い。僕は机にあったベルを鳴らし、執事を呼んだ。
「お呼びでしょうか、坊っちゃま。」
すぐに執事は部屋へやってきた。そして雇った魔法士に着いて問いただした。
「ライアーを殺すために雇った魔法士の件だ。あれはどうなってる?」
すると、執事は暗い顔をして答えた。
「報告によりますと、全員魔力反応の消失が確認されました。恐らく死亡したのかと……」
「なっ!?!?」
それを聞き、酷く動揺した。三級とはいえ雇ったのは本物の魔法士だ。間違えても魔術士程度に劣るわけが無い。一人になりたいと執事に言い退室させる。そして俺はクローゼットに仕舞われた剣を取り出した。禍々しいオーラを放つ剣を見ながら呟いた。
「やっぱり三流の魔法士なんかより、天才のこの僕が直接手にかけないとだな。」
そう言い、一人暗い部屋で笑ったのだった。
ありがとうございました。
書くの楽しいですが、凄く難しいですね。
日々精進せねばと思います。
また、週末にかけて用事がありますので投稿遅れるかもしれませんが、ご了承ください。
ではまた、よろしくお願いいたします。