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ラムネの味~story of soda pop~

作者: 天城なぎさ
掲載日:2022/04/12

 空には大きな入道雲がそびえ、セミたちの鳴き声が響く夏。病室の窓の外は、青く広い海。


「うぃーす。海未(うみ)、今日は元気そうだな」

「そうでもないよ。空楽(そら)に比べたら、全然」

「学校の近くにさ、駄菓子屋があるんだけど、海未は、まだ行ったことなかったよな?」

「駄菓子屋? あるの? この町に」


 空楽はいつも、私が知らない世界を教えてくれる。

 入院ばかりを繰り返している私には、この世界のあらゆる事が、未知の世界。


「あのね。明日、退院出来るって。また遊べるね」

「そうだな。あ、でも。夏休みの宿題が……」

「私、終わってるから、写す?」

「マジで! やった!」


 空楽は家が近所の子。少し日本人離れした顔立ち。お父さんが、日本とギリシャのハーフなんだとか。


「そうだ、駄菓子屋行って、ラムネ飲もう!」

「ラムネ?」

「あのな。ビー玉で蓋されててな、それを上から押して外すんだよ。で、シュワシュワッて、溢れるから、それを一気に飲む!」

「凄い飲み物なんだね」

「おう! あと、夜は花火やろう! お母さんが買ってきてくれたんだ!」

「花火、やったことない。初めて!」


 空楽は、たくさんの事を知っている。それがなんだか羨ましい。私は、この病室でテレビを見て、外の世界に憧れを持つだけ。


「小学生最後の夏休みだからな! 思う存分楽しまなきゃな!」

「うん!」


 点滴の交換の時間になったらしく、看護師さんが、病室に入ってきた。


「空楽君、来てたんだね。ちょっとごめんね。点滴交換するから」

「じゃあ、廊下で待ってます」

「終わったら呼ぶね」


 空楽が廊下に出ていってしまい、私はちょっと寂しい。


「空楽君は、近所の子なんだっけ?」

「はい。この町に引っ越してきた時から、仲良くしてもらってます」

「そっか。明日退院だもんね。いっぱい遊んでね」

「そうします」


 点滴の交換を終え、空楽が再び病室に入ってきた。

 カードを何枚か持っているけど、それが何かは、分からない。


「空楽。それは何? カード?」

「これか? これな、バトルライジングって言う、カードゲーム。ここにモンスターの絵が描かれてて、これがBPな。これが大きい方が勝ち」

「そのカード、可愛い」

「キャッツリリー。コイツ、BPが高くて、可愛いくせに、結構強いんだ。欲しいなら、やるよ」

「いいの?! ありがとう!」


 明日になれば、空楽といっぱい遊べる。楽しみで、楽しみで、早く明日にならないかな。



 翌日。お昼前に、私は退院した。お母さんが運転する車に乗り、家に帰るのは、一ヶ月ぶり。


「空楽君に挨拶しに行く?」

「うん。駄菓子屋に行くの」

「じゃあ、帽子被って行ってね。あと、具合悪くなったら、すぐに電話すること」

「分かってるよ。大丈夫。空楽が一緒だから」


 家に一度帰って、お昼を食べてから、空楽の家へ。


「う~み~! 退院したんだな。無理するなよ。少し歩くからな」

「大丈夫。行こ、駄菓子屋!」

「おう!」


 学校はすぐそこ。道路が濡れていて、少し涼しく感じる。道路から水が出てるのが、不思議で面白い。


「暑すぎるからな。消雪パイプから水を出してるんだ」

「へぇ。道路から水が出てるの、面白い」

「そうだろ。ラムネは、もっと面白いからな! 楽しみにしとけよ!」


 空楽は私より、たくさんの事を経験している。自転車にだって乗れるらしいし、水族館やプラネタリウムにも、行ったらしい。


「着いた! ここが駄菓子屋な。おじちゃん、ラムネ二本ちょうだい!」

「あいよ。お、見ない子だ。空楽の彼女か?」

「ち、ちげーよ。友達!」

「そうかそうか。ほれ、二百十六円な」

「ん。丁度あるよな?」

「ん~? 一円足りないぞ?」

「そんなわけねえーよ!」

「冗談だ。ここで飲んでいくだろ?」


 親しげに話す空楽には、知り合いも友達も、たくさんいる。私には、空楽しかいなくて、友達は空楽がいてくれれば、それで。


「この変な形のヤツで、ビー玉を押すんだ」


 空楽から受け取った、ラムネは、不思議なかたちをしたビン。ピンク色の、蓋? で、ビー玉を押すらしい。


「ちゃんと掴んでないと、倒れるんだ。しっかりおさえて、押す!」


 ビー玉が外れると、シュワシュワと溢れてきて、空楽は急いで口をつける。


「こうやって飲むんだ。やってみ」

「こう?」


 しっかりビンをおさえて、上からピンク色の蓋で押す。

 カラン。って音がして、シュワシュワと溢れてきた。


「急いで、口つけろ!」


 見よう見まねで、ラムネを口にする。甘酸っぱくて、シュワシュワしてて。初めての感覚。


「美味しい!」

「そうだろ! 他にもここには、お菓子があるんだ。えっと、あのガムは十円で、この駄菓子は酸っぱいんだ」


 何のドラマだったかな。恋愛ドラマでヒロインが言っていた言葉。『ラムネの味って、甘酸っぱくて、初恋の味なんだよね』。


 これが、初恋の味なんだ。私にはまだ、恋なんて知らないけれど、ラムネが初恋の味。


「海未。体調は大丈夫そうか?」

「うん。平気だよ」

「よし! それじゃあ、海に行こう! 海風気持ちいいぞ!」

「うん!」


 空楽は、私にたくさんの事を教えてくれる、唯一の友達。ずっとずっと、このままでいられるのかな。

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