サナギから蝶へ。騎士から……
ドアから入って来たのは騎士服を着た蒼大。
見事にサナギから蝶へ。表情もキツネから凛々しい騎士へと成長した。
サラサラ金茶ヘアを後ろに流し、意識しているのかキリッとした眉が騎士らしい緊張感を出していてたまらない。
詰襟の銀の刺繍がこんなに似合うのは蒼大しかいない!そう思わせるほど騎士服が似合っている。
キラキラ、眩しい、カッコ良すぎて倒れそう!
蒼大は肩マントをなびかせ、スタスタと私に向かって一直線に歩いて来た。
「ど?」
「似合ってる!カッコ良すぎてヤバい!」
「写真」
写真?撮れって事?確かに、こんなにカッコいいんだから撮るしかない!
私はスマホを取り出し人差し指の限界が来るまで連写した。
そんな私を見た蒼大は嬉しそうに笑う。
「一緒に撮ろうぜ」
「うん」
インカメラにして2人でポーズ。当たり前だけど初めてのツーショット。充電器使えたら良いのに。それかプリント出来たら最強。そしたら一生残るのに。
「俺のでも撮りてぇ」
蒼大は自分のスマホを出し、2人で記念撮影。
同じポーズをして自然と笑みが溢れる。
写真を撮るだけなのに楽しくて。
しかし、私と蒼大が写真撮影に夢中になっている間にヤンキー騎士様が増殖していた。
気付くと全員がヤンキー座りをして、お互いを男らしいと褒め合っていた。
本気?
ヤンキー座りでお上品なカップで紅茶飲むのやめてもらっていいですか!
「団長その服良いですね!カッコいい!」
1人の団員が特攻服に手を触れ褒めるとデニスは得意気な顔をした。
「この服の背中にある刺繍は異世界語で俺が世界で1番強いって書いてあるんだ。そうだろう?ソウタ!」
グッと親指を立てて蒼大に向かいウインクをしたデニス。
蒼大は朝の虚無顔が嘘みたいに機嫌が良さそうで爽やかな笑顔をみせた。
「そう言う事だ!」
天上天下唯我独尊の事ね。本当は違うけどヤンキーの世界ではそう言う意味……
過保護だし、優しくてヤンキーぽくないから忘れていたけど、蒼大はヤンキーだった。毎週土曜の夜はコンビニにいるほどの。
でもこの世界に来てから、最初はぶっきらぼうだったけどじわじわ普通の話し方になってきている気がする。
普通は最初丁寧に接して、仲良くなってから素がでて雑になりそうなのに。
ぶっきらぼうが作ってて素が普通に話す方でしたとか……?まさかね。
「僕達もこの刺繍の入った服着てみたいです!」
羨望の眼差しで見つめられるデニス。
デニスは答えを求めるようにソウタを見た。
「ズボンは履き替えるの面倒だけど、上着なら皆羽織ってみたらいんじゃないっすか?」
「ありがとうソウタくん!」
「鏡のある更衣室に行こう!」
「ソウタ、背中だけじゃなくて胸とか足にある刺繍の意味も教えてよ!」
「いいっすよ!」
にこやかに答えた蒼大は騎士様達に腕を掴まれて更衣室へと消えていった。
さすが蒼大、異世界でも早速人気者!……騎士様が男子で良かった。
更衣室で特攻服を試着した一同が帰って来たんだけど、今は私がチベットスナギツネ顔になっていると思う。
「ナナミ〜どうですか?男らしいデスカー?!」
可愛く首を傾げて聞いてくるピンクマン。
いや、似合ってるよ、似合ってるんだけど全員リーゼントってどう言う事?団員の中に髪型を瞬時にセットできる魔法使いでもいるわけ?
満足気な蒼大に問いかける。
「騎士団にリーゼント教えたんだ?」
「ああ、皆似合ってるよな」
「……はぁ」
爽やかカッコいい騎士様のスマートなキラキラが、削ぎ落とされていっているような感覚って言えば良いのかな?
騎士服でリーゼント、そしてヤンキー座り。もし全員特攻服まで着だしたらもう……
ヤンキー座りをしたばかりのピンクマンが慌てて立ち上がる。
「あ!ソウタ!そういえば牙ブタを倒した方法を伝授してくれる約束してました!」
「あー、そうだったな!手頃な木の棒ある?」
「警棒ならありますー」
蒼大は警棒を受け取ると構えて素振りをしてみせた。
「だめだ。小さくてやりにくい!この世界にバットはねーのか?」
「バット?」
レノックスに聞き返されて蒼大がバットの説明をすると全員が首を傾げた。どうやらバットはないらしい。
騎士服を着たリーゼント集団がヤンキー座りで首を傾げる。ちょっと可愛いけどシュールすぎ。
立ち上がっているピンクマンとレノックスは興味深そうに前のめり。
「そのバットは害獣退治用に作られたのかい?」
「いや、野球って言うスポーツで使う道具」
「野球?!どんなスポーツ?」
答えに質問が返ってくる。お互い未知の世界だもんね。野球なら高校野球ファンであり監督希望だった私がお答えしましょう。
「野球は投手と呼ばれる人が投げたボールを、打者と呼ばれる人がバットで——」
簡潔に説明するつもりだったのに。
皆瞳を輝かせ真剣に聞いてくれるから、全国の高校球児達が青春をかけて優勝を目指す甲子園まで熱く語ってしまったのだった。
語りながら、泣きそうになった。
叶わないと思っていた夢の話を、こんなに真剣に聞いてもらえるなんて思ってもみなかったから。




