素でいられる相手
夜も更けて、少しひんやりしてきた洞窟の中。
泣き疲れうとうとしていると、右肩にズシっと感じた重みと暖かさ。
驚いて横を向くと、蒼大が完全に眠りに落ち、私の方へ寄りかかっていた。
すぐ側にある蒼大の顔にドキドキするけど、昨日も寝ていないし歩き回ったし。相当疲れてると思うからこのままにしてあげよう。
と思ったけど……
肩って固いから寝心地良くないよね?
コクリと唾を飲み、起こしてしまわないようにと、息を詰める。急に倒れ込まないよう、ゆっくり、そっと身体を蒼大から離れるようにずらしていく。
私の動きに合わせて、蒼大の頭が肩から二の腕へと滑り落ちた。想定していた位置まで来たけれど、逆に首が不自然に曲がって余計寝苦しそう。
そっと頭を支え、思い切って自分の膝へと誘導する。
膝枕の体勢になった瞬間。太もも越しに伝わってくる蒼大の頭の重みと温かさに、ボッと顔が熱くなった。
思わずしちゃったけど良いのかな?よく考えたら寝てる間に勝手に膝枕する女とか怖くない?!なんか、代わりになる物!カーディガン!
特攻服の上に丸めて置いてあるカーディガンを取ろうと身体を曲げ手を伸ばすと蒼大が動いた。
心臓が跳ね、ビクッと動きを止める。蒼大は薄っすらと目を開け私を見上げた。
ヤバイ!
「こ、これは、このまま地面に寝かせたら頭が痛いと思って、とりあえず膝に乗せただけで!」
「……膝枕?夢みてぇ……」
私の必死な言い訳なんて聞こえていないみたい。普段の蒼大からは想像もつかない程幸せそうな顔でふにゃりと笑い、再び目を閉じた。
もしかしたら、蒼大は好きな子に膝枕してもらうのが夢だったのかも。
今の笑顔は私に向けられたものじゃないと思うと、胸がギュッと軋むけど。
——もう少し、このままで。
焚き火の光に照らされた、無防備で綺麗な寝顔。
頭の重みと温かさを膝に感じながら、パチパチと弾ける音を聞いていると、私も少しずつ眠くなってきて。
そっと目を閉じた。
朝。まぶたの裏に差し込む明るさで目を覚ますと、丸めたカーディガンを枕に、大きな特攻服にすっぽりと包まれていた。
「暑い……」
特攻服を剥いで寝ぼけ眼で身体を起こすと、ひんやりとした朝の空気が頬を撫でた。
あ、優しい朝——
少し脳が覚醒して視線を上げる。
洞窟の入り口付近で、朝日を浴びながら外を見張るように座っている蒼大の背中が見えた。
「おはよう」
「ん、はよ」
蒼大の背中に向かって声を掛けるとすぐに振り向いてくれたんだけど、逆光越しに見えたその顔に、私は思わず息を呑んだ。
明らかに寝不足顔。いつもの涼しげな目元は何処へ?人々を惹きつける美しい目の下にくっきりとクマが出来ている。
「何時に起きたの?またずっと見張ってたんでしょ?」
「ん?あー、わかんねーけど、夜だしどんな生き物が来るかわかんねーじゃん?」
悪びれもなく頭を掻く蒼大に、胸の奥がチクリと痛んだ。
「それはそうだけど……だったら私の事も起こして交代しようよ!」
怒ってる訳じゃないけど声が自然と強くなる。蒼大にばかり負担をかけて、寝ていた自分が情けなくて、悔しくて。
「怒ってんの?」
「ううん!何も役に立ってない自分が悔しいだけ。なにより蒼大に寝て欲しい」
ギュッと拳を握りしめて訴えると、蒼大は少し驚いたように瞬きをして、柔らかく目を細めた。
「大丈夫、七海はいるだけで役に立ってる」
洞窟に響いた蒼大の言葉に、心臓が跳ねた。
サラッとなんて事言うの?けど気付かれたくないっ!
「な、慰めなどいらぬ!」
照れ隠しでわざとらしい声を張り上げると、蒼大は目を丸くした。
「武士か。ほんとなのに」
「とっ、とにかく!今日は私が起きて見張るからね!絶対に!」
「わかった、わかった。今日は小屋と水見つかるといいな〜」
ふぁあ、と大きな欠伸をして伸びをした蒼大。完全に子供をあやすようなその態度に、むすっと口をへの字にしてみると、フッと悪戯っぽい微笑みを返された。
ひどいクマがあっても衰えない破壊力。朝からこの顔は心臓にわる……
「子供か」
「違います。立派な18歳の成人女性です」
「中身は8歳」
「違うわ!」
ツッコミを入れるとアハハと声を上げて笑われ、自分のキャラが蒼大の中でどうなっているのか少し心配になったけど……
この笑顔が見られるならいっか!




