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コメディーシリーズ

魔王様は幻想世界のお約束が許せない 〜人間の国から戻って来いと言われてももう遅い! 幻の英雄像に縛られた不遇な勇者は魔族で保護して幸せにする!〜

作者: 衣谷強
掲載日:2021/01/17

家紋 武範様主催『夢幻企画』投稿作品です。

ちょっとキーワード設定無理矢理かな?と思いましたが、懐の広い企画なので多分大丈夫、のはず。


いわゆる魔王勇者ものです。ちょっと長め。

でも派手なバトルとかはありません。

タイトル通り、ざまぁ要素あります。未熟な付け焼き刃ですが、笑って流していただければ幸いです。

 魔王の城。玉座の間。

 長く辛い旅の果てに、勇者はたどり着いた。


「魔王! 覚悟しろ!」


 扉を開いた勇者の目に飛び込んで来たのは、


「ゆうじゃあああぁぁぁ!」


 顔を涙でぐしゃぐしゃにした、おっさんの姿であった。


「良くぞここまで来たなあああぁぁぁ! 辛かったよなぁ! 大変だったよなぁ! うえええぇぇぇん!」

「!?」


 三つ目、角、牙、青黒い肌。

 明らかに敵である魔族と認識したが、あまりの泣きっぷりに勇者は攻撃を忘れた。


「な、何だお前! 急に抱きついてきたりして! うわ、顔びしょびしょじゃないか!」

「ゆうじゃあああぁぁぁ!」

「落ち着け! 一旦離れろ!」


挿絵(By みてみん)


「うぐ、ひっく……」


 しばらくして多少落ち着いたのを確認して、勇者は肩を押して引き剥がした。


「何なんだお前は。何故魔王の部屋にいる」

「魔王、です……」


 その名乗りに、勇者は不審の目を向ける。


「確かにその見た目は魔族だし、王と言うだけの力も感じる」

「はい……」

「だとしたら何ださっきの醜態は」

「だって勇者、今までの旅辛すぎたから……」

「見ていたのか」


 魔王が俯いていた顔を上げる。


「見てたよ! 最初は倒されないよう戦い方を研究したり弱点を探すつもりで見てたけど、見るたび見るたび勇者が酷い目に遭い過ぎで!」

「見なければいいだろう」

「目が離せないんだよ! ここまで酷いとどっかで救われると信じてたのに! やっぱり人間って滅びるべきだと確信したね!」


 その言葉に剣を握る勇者。


「ならばやはり戦うしか」

「断る! 勇者は滅ぼさない! 手厚く保護したい!」

「……は?」


 予想もしない言葉に、剣を握る力が緩む。


「何を言っている? お前は俺の旅で何を見た?」

「何をって言うか、最初から最後まで全部だよ! 例えばこれ!」 


 魔王が手を空中にかざし、魔力を込める。勇者は一瞬警戒するが、すぐにその効果は分かった。


「これは……、過去を映す魔法か? 旅立ちの時の俺のようだが」




 人間の城の謁見の間。

 国王が跪く勇者に鷹揚に声をかける。


『勇者よ。魔王を倒しに旅立つが良い』

『わかりました』

『国からの支度金と武器だ。これで支度を整えると良い』

『ありがとうございます』




「はいここぉ!」

「何がだ」


 映像を止めてビシッと指を指す魔王。勇者は意味が分からない。


「仮にも一国の王が命がけの任務に赴く者に、子どもの小遣い程度の支度金ってどういう事だよ!」

「ふむ」


 魔王の怒りに満ちた指摘を、何とも思っていない様子で軽く流す勇者。


「まぁ言われてみればそうだが、国の財政も厳しいと聞いていたからな」

「他にもこれ!」




 とある村。

 近くの洞窟に巣食う魔物を退治した勇者一行の、傷ついた姿が映し出された。

 退治を依頼した宿屋の主人が、一行を迎える。


『魔物を退治し、この村を救っていただき、ありがとうございました』

『力になれたなら良かった』

『一泊60ゴールドだが泊まるかい?』

『あぁ、頼む』




「タダで泊めろや!」


 床を叩く魔王。あまりの激情に、勇者は軽く引く。


「宿屋にも生活があるからな」

「だとしても! せめていくらか値引けや! 命がけで魔物退治したのに定価て!」


 何度も怒りを床に叩きつける魔王に、首を傾げる勇者。


「魔物の討伐をした際にいくらかゴールドは手に入ったから、特に何とも思わなかったが」

「それは純然たる勇者の収入でしょ!? 依頼したのに報酬を出さないどころか、宿代きっちり取るってこいつの方がよっぽど魔物だよ!」

「いや魔物は言い過ぎだろう」

「それにこれ!」




 とある城下町。

 王に化けた魔物に支配されていた城を解放した翌日。

 宿に泊まっていた勇者は、貴族の詰問を受けていた。


『何で王を殺した!』

『王は魔物だった。人々は苦しんでいた。だからだ』

『王が人間か魔物かなど関係ない! あの王の元で我々は上手くやっていたのに! 王を失った今、民衆は怒りの矛先を我々貴族に向ける! もうお終いだ!』

『そんなことはない。今から心を入れ替えれば』

『間に合うわけないだろう! あぁ、せめて王を殺さずに盾に出来れば助かったかも知れないのに! 全部貴様のせいだ!』




「じゃあ○ねやあああぁぁぁ! 民衆も勇者を待たずに革命して吊るせやあああぁぁぁ!」

「後ろ盾を失って、混乱していたんだろう。その後はちゃんと立ち直ったしな」


 魔王の絶叫に、貴族を弁護する勇者。しかし魔王の勢いは止まらない。


「その後もクソでしょコイツ! 自分の悪事も全部魔物だった王のせいにして責任逃れぶっこいて! 挙げ句『勇者は本当に王を魔物と見抜いていたのか? 結果論ではないのか?』とか言って勇者一行を町に居づらくして追い出して!」

「あれは俺も説明と配慮が足りなかったからな」


 魔王は激しく首を振る。


「王が魔物だと言う証拠を集めて糾弾しようとしたら、いきなり投獄して処刑までしようとしてたんだから、説明や配慮のしようある!?」

「俺に勇者としての信頼が足りなかったんだろう」

「極め付けはこれ!」




 強力な魔物との戦闘。

 前衛を固める勇者と戦士の間を縫った魔物の攻撃が、僧侶を庇った魔法使いを貫いた。


『ウティーナ!』

『ブ、レイ、ごめん、ね……』


 血を吐き、倒れる魔法使い。駆け寄る戦士と僧侶。


『ウティーナ! 死ぬな!』

『いやあああぁぁぁ!』


 一人魔物の前に立つ勇者。その肩が怒りに震える。


『……許さん……!』

『何だ、ブレイの身体が光って……?』

『勇者、様……?』


 金色に輝く勇者が剣を振りかざす。


『くらえ……! 雷撃!』

『ぎえええぇぇぇ!』


 天から降り注いだ雷に、魔物はチリとなって消滅した。


『ウソ、だろ……?』

『あの魔物が、一撃で……?』

『ウティーナ!』


 言葉を失う戦士と僧侶を押しのけ、魔法使いに手をかざす勇者。


『死ぬな! 死なないでくれ! ウティーナ!』

『ブレイの魔法、か……? 傷が、塞がって……!』

『そんな、あんな重傷が……?』

『……う、うぅん……』


 程なくして魔法使いは目を開けた。




「あぁ、勇者の力に目覚めた時か」

「そこは良い! 問題はその後!」




 翌日。

 町に戻り、取った宿屋の部屋に勇者一行は集まった。

 重い沈黙を、魔法使いが破る。


『……ブレイ、昨日のあれ、何なの……?』


 その問いに答える術を、勇者は持たない。


『分からない。お前が殺されたと思った瞬間、頭が真っ白になって、気が付けば魔法を放っていた』


 再び落ちる沈黙。今度は戦士が口を開いた。


『ブレイ、俺はここで降りさせてもらうぜ』

『何故だ? 魔物は倒して、ウティーナも無事だった。まだ旅を続けられるはずだ』


 仲間を説得しようとする勇者に向ける戦士の目は、まるで魔物に向けるそれだった。


『……得体の知れない奴と旅なんて出来るかよ』

『!』


 言葉を失う勇者に、僧侶も続ける。


『……私も、無理です。……怖いです。どんどん強くなる魔物も、……勇者様も……』

『そんな! あんた達……!』


 気色ばむ魔法使いに向ける戦士の言葉は冷たい。


『幼馴染のお前なら説明できるのかよ。ブレイ自身が分からないって言ってるあの化け物みたいな力をよ』

『それは……』


 反論出来ない魔法使いに、溜息をついて立ち上がる戦士。続いて僧侶も席を立つ。


『悪いなブレイ。あばよ』

『……ごめんなさい……』

『待っ……!』


 勇者は手を伸ばし、力なく下ろした。


『……今まで、ありがとう……』


 その言葉は、無言で閉じられた扉に遮られた。


『ブレイ、あたしは……』


 二人きりになった部屋で、魔法使いは項垂うなだれる勇者におずおずと声をかける。


『……縛る気はない。魔王退治は勇者である俺の宿命であって、お前は幼馴染として付き合ってくれただけだ』

『……』

『だが俺自身のわがままとして、お前には側にいてほしい』

『……ん……』


 疲れた笑みを浮かべる勇者の願いに、魔法使いは小さくこくんと頷いた。




「ってこの翌日に置き手紙残して故郷に帰るか普通!? 今のこくんは何だったんだよ!」


 とうとう玉座の床にヒビが入り始めたが、魔王は構わず怒りをぶつける。


「怖がるのも無理はない。ウティーナは一度死にかけてるしな」

「それを救った命の恩人をあっさり切るかあああぁぁぁ!? しかも対面で詫びもせず置き手紙で逃げるって、面と向かって別れを告げただけ戦士と僧侶の方がまだマシだよ! 嫌いだけれども!」

「ここまで付き合ってくれたんだ。それ以上は贅沢だ」


 魔王は頭を振って、映像魔法を解除する。


「とにかく! 今は代表的かつぎりぎり泣かないで見れるエピソードから選りすぐりでお届けしたわけですが! こんな人間の元に勇者を返すわけにはいきません!」

「……生かして返さないと言うわけか。やってみるがいい」


 剣を握り直す勇者に、魔王は慌てて手を振る。


「違うよ! さっきも言ったけど戦う気は全くありません! 勇者を魔族に迎え入れます!」

「何?」

「とりあえず養子縁組して、魔族に慣れたら良い娘見繕って結婚して、幸せになってもらいます!」


 その言葉に、勇者の目は緩むどころかより鋭くなる。


「俺を懐柔してその隙に国を攻め落とすつもりか。そうはさせん」

「人間への侵攻は取り止めました!」

「嘘をつくな!」


 怒る勇者に、魔王も必死の表情で言葉を続ける。


「もう実際人間界からの撤退はほぼ完了してるの! 三人と別れた後は魔物と遭遇してないでしょ!?」

「……確かにそれは事実だ。だがそれが今だけではないという保証もあるまい」

「勇者が人間を滅ぼすなと言う限りは絶対やりません! 誓いの制約をかけても良いよ!」

「約束を違えるとチリになって滅びるというあの魔法か」

「ただし勇者が自分のされてきた事を自覚して、許せないってなったら三日で滅ぼします!」

「俺を洗脳する気か」


 魔王の言葉に悲痛さが混じる。


「洗脳してんのは人間の方でしょ!? 勇者は人間の奉仕者だとか全てを救う者だとか言い続けられたせいで、こんな酷い目に遭わされても分からなくなってるじゃん!」

「そんなに酷いか」

「奴隷の方がまだ人権が仕事してる気がするよ!? これが戯曲だったら作者張り倒して書き直させるレベルで酷いよ!」


 首を傾げた勇者に言い募る魔王。勇者から殺気が消えている事に気付く余裕もない。


「……そうか。だが俺は人間だ。洗脳されているのかも知れないが、滅ぼさせるわけにはいかない」

「やめてよ! 百歩譲って討たれるのは我慢できても、その後の勇者が人間に何されるかは考えたくもないんだよ!」

「だからお前の提案を飲む」

「へ?」


 魔王は目をまん丸にして固まる。


「俺がお前の元にいれば人間は無事なのだろう? ならば従うさ」

「……」

「だが約束を違えたなら命に代えてもお前を斬る。忘れるなよ」


 にやりと笑う勇者に、感極まった魔王の目から涙が溢れる。


「……ぞゔいゔどごだぞゆうじゃあああぁぁぁ!」

「泣くな! 引っ付くな!」




 ……こうして勇者は我が養子となり、魔族の中でも美しく気立ての良い娘を妻に迎え、子にも恵まれた。


 人間達は我々の脅威が去った後、暇なのか国同士でいさかいを始めた。

 何度か我が城に、


『ブレイ! 国の危機だ! 戻ってきてくれ! 俺が悪かった!』


『勇者様! 何でもしますから、どうか国を救ってください!』


『あたし、ブレイの事好き! 大好き! あの時ブレイから離れたのは気の迷いだったの! お願い許して!』


 などと勝手な事を言いに来る輩が居たが、今更知ったこっちゃない。

 戦争の戦力の一つとしてしか考えていない人間に、ようやく幸せを掴んだ勇者を引き渡せるものか。


「魔王、遊びに来たぞ」

「おぉ勇者!」


 声に振り返ると、子どもを抱きかかえた勇者が笑っていた。

 勇者の腕から下ろされた子どもは、覚束ない足取りで、しかし一直線に我が元に向かって来る。


「じーじ! じーじ!」

「じーじのところに行くと言ったら、はしゃいで大変だった。丸一日、たっぷり遊んでもらうぞ」

「ゆう、しゃ……!」


 我が目からまたも涙が溢れる。かつてのような同情や悲しみではなく、歓喜の涙が。

 

「魔王! 覚悟しろ!」

「ゆうじゃあああぁぁぁ!」




 めでたしめでたし。

読了ありがとうございました。


ロールプレイングゲームのテンプレにツッコミを入れていたら出来たような物語です。考えてみると勇者ってその家系に生まれただけでえらい目に遭わされてるなぁ、と。


魔王を女にして最後にくっつける流れも考えたのですが、最初と最後に持ってきたかった「魔王! 覚悟しろ!」の台詞をいかがわしい使い方にしか出来なかったので……(笑)。

ほのぼのエンド的には没にして良かったと思ってます。


ではまた次回作をよろしくお願いいたします!


2021/2/21追記

みこと。様から素晴らしいファンアートを頂きましたので、作品に加えさせて頂きました!

号泣魔王様と戸惑う勇者が可愛い!

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― 新着の感想 ―
[一言] 同じ作者さんW おもろいと思ったw
[一言] 魔王様好きW
[良い点] 企画より拝読いたしました。 クソビッチが!!!! と言いたくなりました^^ いや~、今さらもう遅いなんですけど、いくらなんでもクズ過ぎますよこの女。 戦士とかは、まあ別にいいんですが、…
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