依頼用ボイスドラマ 幼馴染
私には、好きな人がいる。
名前は○○
幼稚園からの付き合いの、いわゆる幼なじみだ。
中学までは何事にも熱心で無我夢中に取り込むところがかっこよかったが、高校に入ってからはそれを辞め、何事も程々程度で楽しむようにしているらしい。
そしてもうひとつ。女たらしだ。
全力で頑張らなくなった頃から、○○は女の子と仲良くなって軽口を叩いてはデートに行き、彼女を取っかえ引っ変えし、次の日にはまたヘラヘラと他の女の子と喋っている最低野郎だ。
私からしたら女の敵。だけど○○は不思議とモテるのだ。
確かに顔はまぁいいほうだし身長も高い、常に余裕な姿がかっこいいと思うが、私はそうは思わない。
なのに、気づいたらそんな○○のことを好きになってしまっていた。
本当、なんでこんなやつを好きになってしまっていたのだろう。
けれど○○がそうやって女の子と関わり出してから、○○と積極的に関わるのはやめた。
きっとあれだけ他の子と仲良くしてるなら私はいらないだろうし、何より、そんな○○を見る度に胸の心が傷んで、いつしか○○と目を合わせることをやめていた。
けれど神様のいたずらか縁は続くもので、クラスも部活も違うのに度々下校時間が重なったりしてしまうので、そんな時は仕方なく同じ帰り道を歩いていた。
そんな時折訪れる、ある日の帰り道。
○○から声をかけられ、仕方なく一緒に帰ることに。
正直、あまり嬉しくない。
○○のことが好きと自覚しているにもかかわらず○○と一緒に帰ることに気が進まないのには、理由があった。
こんな時、○○は決まってほかの女の子の話をするのだ。
その度にチクチクと痛む私の胸の気も知らずに。
それも人の気も知らないばかりか楽しそうに笑いながら話すから、なおタチが悪いのだ。
その日も私はあまり考えすぎないようにしながら、うんうんと聞き流していた。
耳に入れないようにし、話を逸らしてみたり、私から沢山話すようにしてみたり…………
「そうやって色んな女の子と軽率に付き合うの、私はよくないと思うな」
普段はそうやって何とかやり過ごすのだけれど、その時は○○がいつもより長く話すのでつい口から言葉が溢れてしまった。
にもかかわらず○○は変わらない口調で
「でも向こうから来てくれるし、俺も楽しくて周りも傷つかない、それがベストでしょ」
というのだ。
本当にムカつくやつだ。
昔の○○はこんな風じゃなかったのに、どうしてこんなふうになってしまったのだろう。
そんな○○を見て余計に苛立ち、感情の歯止めが聞かなくなってしまう。
「そんなの傷つけたくない人の言い訳でしょ!じゃあ告白されたら誰とでも付き合うの?!」
「かもね」と軽く返す○○。
いつの間にか涙がこぼれて、溢れ出る雫と同じくらい、私の心も止まらなかった。
「じゃあもし、私が付き合ってって言ったら付き合ってくれるの!?好きって言ったら、好きになってくれるの?!」
そんな私を見て驚いた○○は一瞬表情を固め、、それでも2秒後には笑みを浮かべて
「はは、△△は俺の事なんて好きにならないでしょ。冗談?」
と返してくる。
本当に、頭にくる。
「……なによそれ!だいっきらい!しんじゃえばか!そうやって人の気持ちにも向き合わず余裕ぶって、すっごくかっこ悪い!」
もう、○○のことなんて見たくなかった。私はそれだけ言い放ち、○○の元から走り去ってしまった。
その日の夜は、最悪の夜だった。眠ろうと目を瞑っても○○の変わり果てた言動と自分の行動への後悔がぐるぐると頭の中を周って出ていってくれない。
結局、その日は深夜まで寝付けなかった。○○のせいだ。
次の日の朝、心無しかいつもより喧しいような気がする母の声で目を覚まし、時計を見る。
アナログ時計の長針と短針が指し示す時刻は8時10分。
やばい、遅刻だ。
寝不足でだるい体を強引に起こす、最低限の用意をして走って家を出る。
朝ごはんも食べ損なったし、最悪の朝だ。
ほんとうに、昨日の出来事からろくなことがない。これも全部○○のせいだ。
憂鬱な気分を抱えながらも何とか午前中の授業を乗りきった私はいつもより急ぎ足でお昼ご飯の準備をする。
朝ごはんを食べ損ねて、お腹がすいていたからだ。
と、その時、だった。
話したこともないクラスの男子に呼ばれた。
なにやら、中庭まで一緒に来て欲しいそうだ
いじめだったらどうしようとか、早くご飯食べたいなとか思考を巡らせつつも、仕方がないのでついて行くことにする。
初めてのことで落ち着かなかったが、色々考えてみたら、あっという間に着いてしまったみたいだ。
「え、ええと。なにかご用ですか?」
初対面の男子。緊張しながらも要件を聞く。
と、男子がなにか意を決した様子でこちらをじっと見つめ、
「好きです、付き合ってください」
と。
思考が止まる。
えーと、えーと、こういう時はどうしたらいいんだっけ。
人と付き合ったことなんてないし……ドキドキもしてるような気はするけどこれはきっと緊張とかできっと好きな人に対してのやつとは違くて……そもそも私は○○が好きで……でも昨日のこともあるしあんなやつ……てかそもそもあんなやつもう関係ないし……えーと……
「あの、とりあえず、ごめんなさい!」
ごちゃごちゃになった思考の中ででてきた言葉はそれだった。
なぜだかは分からないけど、私が付き合いたいのは彼じゃない、と思ってしまったのだ。
なら誰ならいいのか、頭の中にふと出てきてしまうのは、ムカつくあいつのやつで……
「私、好きな人がいて、だから付き合いません!」
と、咄嗟に相手に告げていた。
背を向けて去っていく相手。傷つけてしまっただろうか。
でも、恋は残酷なのだ。と、そう自分に言い聞かせ教室に戻ろうとした時だった。
教室へ続く道の曲がり角から、誰かが飛び出してきたのだ。
驚いた。○○だった。
「な、なに?どうしたの?」
昨日ぶりに見た○○は昨日とは打って変わっていた。
汗をかいて息を切らし、制服も髪も乱れていて、まさに余裕のない状態。
なんだか、こんな○○を久しぶりに見た気がする。
高校のどんな行事だって適当にこなしていた○○なのだから、当然といえば当然。
けれどその姿はまるで昔の必死な○○を見ているようで、懐かしかった。
そんな○○が、息を切らしながらも告白について慌てて尋ねる。
どうして知っているのだろうと思ったがとりあえず、
「振ったよ」と答える。
それを聞くなり○○は、小さな声で「よかった」と呟き、私を抱きしめた。
あまりに唐突のことすぎて、訳が分からなかった。
なぜ○○がよかったなのか、そもそも何をしにここにいるのか、そして○○は今なぜ私を抱きしめているのか……。
不思議なことがいっぱいだ。それに、昨日のことだってある。
けれど、そんなことはどうでもよかった。
すごく久しぶりに感じる○○の体温が暖かくて、でも背も伸びて体つきも変わって全部が全部昔とは違う○○に自然と鼓動が早まってしまう。
そんな中、私を腕の中に収めたままの○○がぽつりぽつりと呟くように言葉をこぼした。
本当に驚いた。昨日までヘラヘラと笑っていた彼が今日はその片鱗も見せず、まるで私のことが好きなような態度をとるのだ。
もう、訳が分からない。
けれど○○が飾らない言葉で必死にに語るその言葉は数年ぶりに聞く、正直で真っ直ぐな言葉だった。
それを私は○○を抱き返したまま「うん、うん」と言葉を返しながら、ゆっくりと聞いた。
短いようで長く、長いようで短い、まるで夢でも見ているかのようなだった。
曰く、「私のことが本当に好きで、その気持ちに気づいてしまった時からそれを伝えて嫌われてしまうことが怖かった」のだと。
「本気になってしまったら深く傷ついてしまうから、本気でぶつかって、失敗することが怖かった」のだと。
「だからいつの間にか自分の本心を隠して、余裕な自分を演じてしまっていた」のだと。
その言葉を聞いて、思い出した。
たしかに昔の○○はひたむきで一生懸命だったけれど、なんにでも強く向き合って行けてたわけじゃない。
悩んで、迷って、だけど決めたら一直線で、それが○○だった。
きっと今回も沢山悩んで不安になって、その結果間違った方向に迷ってしまっていたのだろう。
いつもよりただ、沢山寄り道をしてしまっただけ。
そう思ったら今までの○○も、今ありのまま私にぶつかって抱きしめてくれている○○も、すごくすごく愛おしく感じた。
そう思ったら自然に
今度は私がずっとずっと言えなかった気持ちを○○に伝えたいと思った。
「ねえ○○。私もね、ずっと○○のこと大好きだったんだよ。いつの間にか、いつも一生懸命でひたむきな○○に恋してた。
だから、変に余裕ぶったり、カッコつけたりしなくていいんだよ。私はありのままの○○を好きになったんだから。だから今みたいに真っ直ぐな○○とこれからも一緒にいたい。昔みたいに。
でも今度は昔と同じじゃなく、恋人としてあなたの隣にいたいです。だから、私と付き合ってください」
そうして私と○○は付き合い、○○は色々なことに手を抜くことをやめた。
そうしたらなんと、必死な○○のかっこよさに気づいた子が増え、余計に○○はモテてしまった。
でもいいのだ。○○はもう私以外にむやみに優しくすることも無くなったし、なによりこれからは私だけの彼氏なのだから。