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献花  作者: 刻野 海
10/11

10、【最後の言葉】

目を開けると激痛が霧島を襲った。

傷口は深くないはずなのに、リリィが言っていた言葉を思い出す。失血死、か。笑えねぇ。片方しか上がらなくなった口角を上げる。

右には横になった自分を必死の形相で見守る成田が目に入った。最後の仕事、彼に今回の真相を伝えなければ。彼自身が、あるいは彼の世代が、同じ過ちを繰り返さないように、そして自分たちが持つ違和感を見逃さないように。

「聞いてくれ、成田。今回の一件、実はな…」

霧島は所々、言葉に詰まりながらも一言一言を大切にしながら伝えた。


成田は青ざめた顔をしながらも、最後まで霧島の話を、今回の事件の真相を聞き切った。そして彼の親友の最後の願いを。

「俺たちがこの事実を知ったとしても、俺にもお前にも、何もすることはできないだろう。だがそれは無関心でいることの免罪符にはなりえないんだ。何もできなかったとしても、一つ一つの物事に対してアンテナを張り続け、考えることが必要なんだ。そうしていれば、たとえ俺たちが理不尽な殺され方をしたとしても、時の権力者に振り回されたとしても、残酷な運命が俺たちを支配することはできないんだ。その積み重ねで俺たちの意思は汚されることなく、消滅させられることもなく、次の世代に伝わっていく。忘れるな、無関心こそが本当の敗北であることを。考え続けることが、人間のみに許された最後の抵抗の手段であることを。」霧島の目にはもう迷いがなかった。自分の最後の言葉は、きっと成田に届いている。きっと彼ならば、自分が無知であることを知る彼ならば、自分たちの意思を無視せずに、歴史を歪めることもなく、次の世代に自分たちの生命を繋いでくれるだろう。

 静かに霧島は目を閉じた。

 成田はそれを最後まで見守った。頬に涙が伝う。自分もこの人のような刑事になれるだろうか。最後まで自分の意思を貫き通し、誰かに自分の意思を繋ぐことができるだろうか。いや、そうしなくてはならないのだろう。霧島さんの意思を、彼の親友と共に灯した火を、決して消すわけにはいかないんだ。

 成田は、霧島から目を逸らすことなく、ただ、ただ彼を見つめていた。

 パトカーのサイレンの音と共に、静かな夜が訪れる。


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