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5.鋏×四+岩

 

 バキバキと音を立てながら、木が倒れていく。

 邪魔な草を手で掻き分けるように、木々を倒しながらそれは現れた。

 それは大蟹よりも、更に二回りほど巨大な蟹だった。

 いや、蟹ではない。

 大蟹よりも多い複数の脚が生えている下半身と、上に反った尻尾がある。

 その上、太く大きな鋏を持った腕が四本生えていた。

 簡単に言うと、鋏を四本持ったザリガニだった。

 巨大ザリガニの進路にいた大蟹が、道を譲るように移動する。

 どうやら、巨大ザリガニと大蟹は同種のようだ。


この巨大ザリガニが、大蟹の母親か父親なんだろうな。


 もはや蟹とは呼べないが、この巨大ザリガニを巨親蟹グランクロウと呼ぶことにする。

 巨親蟹は大蟹とは比べ物にならないほど強い。

 なんとなくそう察した俺は笑うのを止め、走っていた足を止める。

 俺の周囲にいた大蟹達も、雰囲気を察したのか、俺から離れていく。


一騎打ちって訳か……。


 五メートル近い巨親蟹は、俺を目指して加速しながら移動してくる。

 そのまま体当たりでもするつもりなのか、そう思った俺も、当り負けないように巨親蟹に向かって走り出した。

 周囲は戦いによって木々が倒され、障害物のない開けた空間になっている。

 上空から見れば、森に出来た、歪な円形の空白部分が見えただろう。

 その空間を、倒木を跳んで避けながら、ける。

 巨親蟹が立っている木や倒木を粉砕しながら進撃し、目前に迫った。

 地面を走っていては、踏み潰されるだけなので、俺は直前で飛び上がる。

 二つの軌道が交差し、固いものがぶつかる音が響き、すれ違う。


奪えなかった?


 ドレインを発動していたにも関わらず、俺の鎌は奴の甲殻を通過しなかった。

 俺の両手には、金属バットでコンクリートを叩いた時の様な痺れが残った。

 巨親蟹は俺の速さに対応できなかったらしく、無防備だったのに。


くっそ、もう一度だ。


 今度は逆に姿勢を低くして走る。

 胴体に俺の鎌は通用しなかった。


なら、脚は?


 多くの木々が薙ぎ倒されたお陰で、頭上には星と月が見えている。

 星と月の明かりの中を俺は全力で駆けた。

 回り込むように移動しているにもかかわらず、巨親蟹は素早く回転し、俺が正面に来るように合わせて来た。


後ろを取るのは無理か……。


 先程と同じく、正面から巨親蟹に挑む。

 奴は俺の速さに慣れて来たのか、今度は鋏を振り下ろしてきた。

 上半身を前に折り曲げ、背を低くして避ける。

 俺の頭上を、大蟹より大きい鋏が通過していく。

 俺は攻撃をすり抜けることに成功した後に、鎌で並んだ太い脚を薙いだ。


「ギィイイイィッ!」


 脚の甲殻を死神の鎌が通り抜け、俺の中に力が吸収されていく。

 だが、脚に変化は無かった。

 確かに生命力を吸収した。しかし、色の変化や干乾びるような変化も無かった。


 叫び声を上げたことから、巨親蟹にダメージを与えてはいるらしい。

 だが、その身体機能に弊害を及ぼすほどの損傷は与えていない。

 刃によるドレインのダメージは、相手の防御力によって変化するらしい。

 今の俺には脚以外にダメージを与えることは、出来なさそうだ。


 視線を周囲に向ける。

 大蟹達は円を描くように一定の距離をもって整列していた。

 不良漫画なんかでよく見る、人の壁ってヤツだ。

 もっとも、奴等は蟹だから蟹壁だが。

 俺がその円から出ようとすれば、阻止するのだろう。

 俺に逃げる気は全く無いので問題ないが、巨親蟹を倒した後に奴らの相手をしなくてはならなくなりそうではある。


 俺は即席の闘技場コロッセオの中を走る。

 巨親蟹は腕を振り上げ待ち受けていた。

 四つの大きな鋏が連続で俺を襲う。

 腕を使って鋏を押さえて避けたり、鎌を鋏に叩き付けた反動で跳んだりしながら避け、巨親蟹に再度近付き鎌を振るう。


「ギュアァアアァツ!」


 脚の何本かから生命力を奪い、離脱する。

 確実にダメージを与えてはいるが、このままでは埒があかない。

 攻撃を受けて損傷を受けなければ、あの時のように息切れするということは無いだろうが、何が起こるかわからない。

 それに大蟹は炎を吐いてきたのだ。巨親蟹もきっと何かを吐いてくる。

 隠し玉を警戒しつつ戦うというのは、嫌な感じだ。


 再び接近し脚を切りつける。

 心なしか、巨親蟹の動きが鈍くなっているような気がするが……。

 そのまま巨親蟹の横を走り抜け、もう一度奴に向かって行こうとした時だった、奴はエビの様に尾を丸めながら、後ろに大きく跳んだ。

 そして、着地と同時に口を大きく開けると、巨大な焼ける岩を吐き出した。


 燃え盛る岩、……燃炎岩バーンズロックとでも呼べばいいだろうか。

 赤黒く光る燃炎岩が、俺目掛けて飛んでくる。

 人間を丸々押しつぶすぐらいの大きさ。

 岩の表面が焼けて熔け煙が噴き出している。


 吐き出される何かを警戒していた俺は、燃炎岩にすぐさま反応できた。

 巨親蟹に向かっていた足を一度止め、全速力でその場所から逃げる。

 三角跳びの要領で近くの木に登り、枝を掴んだ時に燃炎岩が地面に着弾した。

 大きな音と、焼け焦げた岩の破片が周りに降り注ぐ。


 今度は、俺が掴んでいた木に向けて、燃炎岩が飛んで来る。

 すぐに枝から手を離し着地する。

 燃炎岩は木にぶち当たり、炎を纏った破片を撒き散らした。


 俺の後ろで木に燃え移ったらしく、炎が一層大きくなる。運悪く近くにいた大蟹の何匹かは、燃炎岩の大きな破片に押しつぶされていた。


 すぐに次の燃炎岩が飛んでくる。

 俺は狙いを定めさせないように、ジグザグに前へ走り出した。

 距離が離れていては、俺の攻撃を奴に当てる事が出来ない。

 このまま連続で燃炎岩を撃たれると、大分不利になってしまう。


 燃炎岩をギリギリで避けながら、前へと進む。

 待ってましたとばかりに、巨親蟹が四つの腕を振り上げる。

 連続で鋏が振り下ろされた。


 下右、上左、上右、下左と鋏が俺を順に襲う。

 俺は直前でブレーキをかけ、後方へとジャンプした。

 俺の目の前の地面が抉られ、耕される。


 俺は地面に突き刺さった鋏のひとつに飛び乗り、そのまま腕を駆け上がった。

 俺の狙いに気付いた巨親蟹が叫ぶ。


「ガギャァギィ!」


 俺は剥き出しの歯で鎌を咥え、自由になった両手を使って巨親蟹の頭に登る。

 後頭部に両足を絡ませ、体を固定した俺は両腕で奴の飛び出た目玉を握った。


生命吸収ドレイン! ドレインして、ドレインし、さらにドレイン!


 連続で奴の目玉から生命力を吸い出す。


「ギィギギ、ギギィイッ!」


 聞いた事も無いような、リズミカルな叫び声を上げて、暴れまわる巨親蟹。

 だが、俺の体は両足でしっかり固定され、振り落とされることはない。

 両目がしっかりと枯れ果てたのを確認してから、背中を伝って駆け下りる。

 巨親蟹は視界を無くし、四本の腕を振り回して暴れまわっている。


 これで、燃炎岩が俺を目掛けて、飛んで来る事はあるまい。

 少し距離を置いて立ち止まり、巨親蟹の様子を確認する。

 これがいけなかった。

 突然に後ろから衝撃を受けた。

 俺の体が鋏に挟まれ、上へと振り上げられる。


「ギチギチチ」


 いつの間にか、大蟹が俺の背後に接近していた。それに捕まったのだ。

 そのまま鋏ごと地面に叩きつけられる。

 さらなる衝撃と痛み、そして体内から力が失われる感覚が俺を襲った。

 ニ度三度と地面に叩きつけられる。

 咥えていた鎌が外れ宙を舞う。


 必死に腕を動かし、俺を掴んでいる鋏にドレインを発動しようとする。

 だが、それより早く大きな影が俺を覆った。

 いつの間にか巨親蟹がすぐ側までやって来ていた。


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