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半妖の里  作者: 今田ナナシ
第一章
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八 青川藍と愉快な仲間たち

 「あぁ~ん、そんなこと言わずに~。実はちょっと頼みたい事があるんスよぉ~……」

 背中を向けて帰ろうとすると、揚森八千代に抱き付かれた。


 更に反対の腕も、青川藍に掴まれる。

 「まあ、話しだけでも聞いてってよ。聞くだけだったらタダなんだしさ。それに~……」

 耳に囁かれドキッとする。

 「もしお願いを聞いてくれたらぁ~。すっっごい“い・い・こ・と”してあげちゃう……凛が!」

 「へっ!?」

 スレスレまで迫っていた顔をいきなり引き離し、風原凛に丸投げする。


 「へっ? へっへっ?」

 「そうッスよ~! リンリンの妙技はハンパじゃないッスからね~。もう、あんなことから、こんなことまで、あなたの歪んだフェティッシュの全てを満たしてくれるッス! もう、廃人ヤミツキ間違いなし! 里のみんなのお墨付き――いやお汁付きッスよっ!!」

 最低な洒落に、風原の顔が真っ赤になる。


 「へ? あの……藍様? へ?」

 ついには涙目になりながら、救いを求めるように藍の袖に弱々しく縋った。


 「ああ、大丈夫だって。平気平気。男なんて馬鹿だからさ、こう勘違いさせときゃ喜んでタダ働きするの。後で肩たたきでもして“いいこと”って言っときゃいいから。それ以上求める度胸なんかなさそうだし、泣き寝入りするに決まってるって。あっはっはっ!」

 「帰る」

 両腕の二人を引きずりながら、無理やり一歩を踏み出す。


 「ちょっと待つッス! なんで帰るんスか~!?」

 「当たり前だよ! 逆にどうして居てくれると!? もういいから! 放してっ! お願いだから! 悪かったよ! もうお前らに関わろうとはしないから!!」

 ほとんど泣いていたと思う。


 「そ、そレハちと勿体ナイと思わレルぞ?! なんせ我のみ、みみみ妙技は、天下一品! そのチャンスを逃すなんて一生の損。モッタイナイネー!」

 「君も無理しなくて良いから……」

 あたふた視線を泳がせながら、自棄糞ぎみに話す風原。

 何だか帰る気力も失せてきた。


 「ああもう、わかったよ。とりあえず話し聞くから解放しろ」

 そう言うと、藍は満足そうに手を離したが、八千代は半信半疑な上目遣い。


 「ホントッスか? 本当に聞いてくれるんスね? 放した瞬間走って逃げるとかなしッスよ?」

 「しないよ、そんなこと」

 「絶対ッスね?」

 「うん、絶対」

 その手も有りだなと思いつつ約束するが、放してくれる気配はない。


 「……何故放さない?」

 「なんか落ち着くんス……」

 「は?」

 「ずっとこうしてたい……」

 「!!!!!」


 突然の告白に、頭が真っ白になる


 「なーんつって! ウソッスよ~! ちょっとからかっただけッスぅ~。あんまり無反応だったんで、ちょっとドキッとさせようかなって~。どうスか? ときめいちゃったッスか? 八千代の色気にびんびんッスか……ってああ!」


 走った。

 がむしゃらに走った。

 すべてを振りきり、ただ風になりたかった。


 「背徳は風に消えよ! 喰らえっ、ジ・エンド・オブ・トレイター!!」

 風原の声が背後から聞こえた直後、謎の疾風に足許をすくわれ、思い切り転倒する。


 「ナイス凛! もぉ~う、ビックリしちゃったじゃん。駄目だよ? 約束は守らなきゃ。ねっ?」

 小指を摘ままれ見上げると、もの凄い良い笑顔の藍。

 あ、これ逃げられないヤツだ。


 「さっさと本題に入ろうか?」

 連行されるように戻らされ、有無を言わせぬ口調で切り出された。


 「ここだけの話、あたしら三人は、ある非合法な団体に属しててね……」

 「……ん?」

 開口一番、胡散臭い。


 「それで、敵対組織に、とあるブツを奪われちゃって……」

 「ほう……」

 もう信じられない。


 「その奪われたブツとは?」

 「う~んと……まあ、お面だね」

 「お面?」

 「うん。ただのお面じゃないよ。あたしらの活動にとって欠かせないブツなの」

 「どう必要なの?」

 「うぅ~ん、それはまだ教えられないなぁ~。それを教えるには、あたしらの依頼を数多くこなし、君が信頼に足る人物だと証明してもらわねば」

 「……」


 どうしよう。

 なにかの加入イベントが進行しているぞ。


 「……で? どうして欲しいの?」

 「手伝って欲しいの」

 「何を?」

 「奪い返すのを」

 「ほほう……正体も分らんブツなのに、奪い返すのを手伝えと」

 「うん」


 藍は、構わず話を続ける。


 「今夜、祭りの出店で出されることになってるんだけどね、あたしら結構目ぇ付けられてるからさ。できれば手伝いがひとり欲しいんだ」

 「出店に出品? なに、どういうこと?」

 「う~ん、うまく説明しづらいんだけど、相手の方はそれが大事なものだって気付いてないみたいで、ただの押収物だと思って売ろうとしてるわけ。嫌な奴でさ。生徒から没収したものはどうしようが自由だと思ってんの」

 ふぅ~やれやれ、困ったもんだと肩を竦めながら、両掌を空に向けて藍はため息をつく。


 「……生徒?」

 「そっ! あいつにとって青少年の基本的人権なんてあってないようなものだから。特に自分らに楯突く連中にはね。ほんと、横暴にも程があるっての」

 藍がそう言うと、揚森はうんうんと頷き、風原は「あの愚物が」と吐き捨てた。


 「ここにも学校ってあるんだ」

 「当然」

 「寺子屋じゃなくて?」

 「お、地方差別かな」

 「とうでもない。で、君らの普段の活動内容って何?」

 「う~ん……まあ色々あるけど、基本的には里の日常に活力を与え、みんなの笑顔をクリエイトすること……かな」

 キリッと答える藍。


 「具体的には?」

 「先生方の頭髪の謎を暴いたり、生徒会長のスピーチを代わってあげたりとかかな。強制的に」

 「どっちもただのイタズラじゃねーかっ! 要するにその仮面とやらも、教師に何か咎められて、没収されただけだろ!」

 「教師だけじゃないッス! 生徒会にもッス! そして今回の相手は用務員ッス!」

 「なお悪いわっ!」

最後にそれだけ言い捨てると、今度こそ絶対に帰ると決意し、背を向ける。


 「もう話しは聞くだけ聞いたからな。それじゃ」

 「そんな簡単に帰れるとでも?」

 冷たい声に足を止められる。


 「は?」

 振り向くと、深い虚無を移すような瞳で、藍がじっと見つめている。

 他の二人もそうだ。


 「ななななんだよ? そんなんでびびびビビるとでも?」

 やたら声が震えた。


 「別に脅しではない。ただ、ここまで我らの話を聞いておいて、何もせず無事に帰すと思うか?」

 今度は冷たく風原が言った。


 「な、なにをするつもり……でしょうか?」

 「フッ、別にわれらは何もせん。ただ上履きが神かくしに遭い、トイレでバケツの水が降り注ぎ、天より机と共に『お前の席はなくなった!』という声が降ることを予言しよう」

 やたら陰湿だな。


 「おや? お兄さん。何やら少し目が涙ぐんでいやしないかね?」

 「へ!? いや、これは、昔の事を思い出……あっ」

 「昔の……事」

 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる藍。


 「べ、別になんでも……」

 「は~い、 二人一組になって集合~!」

 「うっ!」

 「ねえ、いつもどうして机で寝てるの? 昼休みはどこ行ってるの?」

 「ぐぅっ!!」

 「あっ、昨日休んでたんだ~。全然気付かなかったぁ~!」

 「ああああぁぁぁ~!!!」

 心の傷に荒塩を塗りたくられ、耳を塞いでうずくまる。


 肩を、ポンと叩いてくる者があった。

 「友だちになろう。条件付きでっ!」

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