六
それからかれこれ一時間ほど。
お面がずらりと並んでいる。
出店だ。
お面の出店だ。
店主は無駄に図体のデカイ親父。
折り畳み椅子の上に座って、鬼のお面で顔を隠している。
よくある赤鬼のお面だ
ヤクザのように筋張った体つきと、子供が付けるような鬼のお面は、よく似合ってるような、滑稽なような。
何の変鉄もないお祭りの景色だったが、通りの向こうから母親に呼ばれた少女は、間の人だかりを無視し、一瞬のうちに相手の胸へ飛び込んだ。
横を通り過ぎながら、くわえた煙草に火を点けた男は、火種らしきものは持っていない。
友達連れの若い女が荷物を落とすと、手だけが伸びて掴み取った。
そうした不思議な光景が、頻繁に目に飛び込んでくる。
「おい、何か用か?」
と、お面やの親父に詰問された。
店の前で、注文するでもなく突っ立ち、時々キョロキョロと辺りを窺うだけの少年がいれば、声くらい掛けて当然だろう。
「おい! 何か用かって聞いたんだよ!」
何も答えられず、カッとなって叫ばれた。
唇が震える。
冷や汗が出る。
ポケットに忍ばせている珠の感触を、再度確かめる。
何故こんなことになったのか。
不条理、理不尽。
そんな単語が浮かんでくる。
あの女の言葉が、脳裏を過った。
━━後悔することになるかと。ランさまに、下手な手をお出しになれば。
その通りだった。