純粋で優しい魔女と、嘘つき少年の話
Twitterの魔女集会で会いましょうで投稿したものをなろうにて投稿させていただきました!
かるーく編集はしたものの感覚で書いたのでおかしなところある可能性ありますが、どうぞ温かい目で見ていただけると嬉しいです!
「なんだなんだ? こんなところに人間だ!」
肌が真っ白で、服や帽子の全てが真っ黒な彼女は、僕に笑ってそう言った。
「……あ、」
殺されるのかななんて思いながら、舌足らずな僕は微かにそんな声をあげる。
「んー? 聞っこえないなー。まぁいっか。とりあえず持って帰って遊び道具にしーようっと!」
そう彼女は無邪気に言って、僕を肩に担ぎ、どんどん山の奥へと進んで行った。
僕は、その時から全てが変わった。
字の書き方、世の中の出来事、料理の作り方、やったことのないことや見たことないことを体験し、全て学んでいった。
分からなければきちんと教え、ダメなことはしっかり叱る。
出会った時は、魔女だから、僕をいたぶり殺すのかと思ったけど、彼女はそんな人じゃなかった。
僕を捨てた人は、魔女はとても怖くて残忍だって言ってたけど、魔女である彼女は、優しくて、思いやりがあって、慈愛溢れる、僕の大切な人になった。
____だけど、みんながみんな、そう思うはずがなかった。
魔女の森と呼ばれたこの森に、人間たちは火を放ち、彼女を殺そうとしたのだ。大人数で家まで来て、次は矢を放とうとしている。
もう僕に出来ることは一つだった。
「ぼう、や……?」
僕の下でそう呆然と呟く彼女に、残り少ない力で精一杯抱きしめる。
「だいじょうぶです……から。いいですか。僕のことは構わず、逃げるん……です。知ってるんですよ、魔法、使えること。自分1人くらい……問題ない、はずです」
背中に刺さる矢の痛みに耐えながら、僕は彼女にそう言う。
知ってた、彼女が僕の前で魔法を使わなかったけど、使えることも。僕と同じ人間のように過ごすために、僕のために、魔法を使わなかったことも。
「さぁ、早く行って……あいつらを足止めするぐらい……の体力なら、まだ、残ってます」
嘘だ。そんなの残ってない。でも、あいつらは僕を魔女の手先と勘違いして、先に僕を始末するはずだ。だから、足止めは出来る。
「いや……ぼうやを見捨てたりなんかしない……。知ってるだろう、そんなこと、しないって」
泣きそうな声でそう言う彼女に、僕はああ、そうだったなぁ、なんて苦笑する。
「でも、思い出してみてください……僕は、人間だから、あいつらは僕のことをきっと生かしてくれる……むしろ、同情のひとつやふたつして……くれる、でしょう。だいじょうぶ、僕、そういうの得意だから……。また会いに行きます。だから、今だけは、逃げて……」
切実にそう言う僕にでも、となおも食い下がる彼女に、繰り返し言う。
「人間だから、だいじょうぶ」
彼女は、優しくて、騙されやすいから、人間は人間に優しいと思っている。そんなわけ、ないけど、そう言えば、彼女は引き下がると僕は知っているから。
「わかった……必ず、来てね。待ってるから。……ううん、絶対会いに行くからね。絶対探し出すから」
もう泣きだすのかと思うほど震える声で言う彼女に、微笑みながら、
「うん」
と返せば、泣きそうに微笑み、コクリと小さく頷く。
僕がゆっくり離れればまた悲しそうな顔をしたけど、自分が逃げなければいけないことは、分かったようだ。
「絶対、来るから」
彼女は一言強い口調でそう言って、空を駆ける。
空を歩く魔法……なのかな。なんて、僕は魔法のことは全く分からないからなんとも言えないや。
後ろの人間どもが、なにやら騒いでる。彼女に矢を放とうとしているようだ。
そんなの、許さない。
近くにあった木の棒を、矢を放とうとしているやつにめがけて投げる。当たったようだ。ざまぁみろ。
「僕は、あの魔女の、弟子だ。お前たちごときが、あの魔女を傷つけることなんか出来ない。ただの人間ごときが」
そう言って、嘲笑すれば、あいつらの気は一気にこちらへ向く。そして、全員が僕に矢を放とうとした。
そう、それでいい。
これで、少しは足止めできたはず。良かった。少しだけ、役に立てた。
僕は彼女を想って、少しだけ微笑む。
そして、すぐに突き刺さる矢の雨に、痛みを感じることなく、息を引き取った。
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「嘘つき」
泣いた声で、男の亡骸の前でそう言う魔女の声は、もう、誰にも届かない。