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04 異世界の辺境で、スローライフを叫ぶ ─イッシキの章─(7)

狙うは鉄鉱石。

アインに、作って欲しいものがあるのだ。



~アイン視点~


訓練場で、いつものごとく土壁を並べる簡単なお仕事をしていると、視界の隅に、横穴から出てくるイッシキがいた。


イッシキが近づいてくるので、声をかけてみる。

「最近、熱心に採掘してますね。捜し物は何でしたか」

「鉄鉱石ですよ」

「見付けにくいものでしたか」

「あの辺りに有ると、知っていましたから」

「捜すのを止める必要はありませんね」


イッシキは、こくりとうなづく。

「アイン、作って欲しいものがあるのです」

珍しい申し出だった。


日々の訓練といっても、せいぜい目先の目標が設定されているくらいで、イッシキもスケジュール通りにプログラムをこなすことを重視するタイプではない。

「それじゃ、今日はいったん拠点に帰りますか」


イッシキは、こくりとうなづく。

なんだか今日は口数が少なめだ。


訓練場を出て拠点に向かいながら、イッシキに聞いてみる。

「何を作るんですか?鉄ですよね」


以前に確認だけしていた鉄鉱石は、それなりの量の鉱脈となっていたらしい。たくさん鉄を使う品か、数を多く作るのか。


ちなみに、先に精錬していた分の鉄で、鉄のツルハシは作ってイッシキに渡してある。

石のツルハシと比べると耐久性がかなり高い。

木材が豊富なら石のツルハシで使い捨てていく方法もあるが、今の状況では鉄より木材の方が貴重なのだ。


全部鉄で作れないものかと試してみたが、いつものように能力で生み出すことはできず、形だけ似せて作ってみても、石の塊を数秒で叩き割るようないつもの効果は生じなかった。


「やはり、木の精霊と鉄の精霊の力が合わさることに意味があるんですよ」


例の謎理論をイッシキは語るのだが、やっぱり俺には意味が分からなかった。

木と鉄の精霊の力が合わさって、石が割れるって。


イッシキ先生は、最近、この世界の謎を全て精霊の力の一言で片づけようとしている気配がある。

しかも、謎理論に対して妙に納得しているというか受け入れているというか。

このままでは精霊教の始祖となってしまうかもしれないが、まあそれもいいか。


そんなわけで、残りわずかだった木材は、鉄の道具を作るのに使いきっている。

木材と言えば、以前植えた苗木は順調に育っており、今では3メートルくらいになっている。


植えて3週間くらいか?恐ろしいスピードだ。

今木材にしても道具数個を作れそうだが、次に作る必要がある道具がはっきりするまで待っておいた方がいいだろう。もっと育ちそうだし。


挿し木のような苗木としては、2、3本くらい採れると期待している。突然の砂塵風さえ対策しておけば、今度は順調に育つに違いない。

そこから苗木が無事に採れれば…


もう少し、もう少しで、いろいろ楽になる。はずだ。

そんな俺のスローライフであった。


イッシキの声で、意識を引き戻される。

「鉄の防具を、作って欲しいのです」


俺はまだ、防具を作ったことがない。

例の閃きによって、皮や鉄で防具を作れることは知っているが、大量の材料が必要だったし、戦闘禁止令も出ていたからだ。


少し黙ったあと、問いかける。

「作ってみるのはいいですけど、それを着て、どこ行くんですか」


「行く先は内緒、というかまだはっきり決まっていません」


「何をしに行くんです」

「この集落の周囲を偵察に行きます」


「なんで、周囲の偵察に防具がいるんですか。


いや、そりゃあった方が安全ですけど。


うーん。


着ていった方がいいですね。

ぜひ作りましょう。

むしろ、ちゃんと着て行ってください」


「じゃあそういうことで」


鉄の防具を作ってみることにした。


かまどに石炭の小精霊を放り込み、辺りがオレンジの灯りに照される。

イッシキが、溜め込んでいた鉄鉱石の小精霊をまとめてくべると、赤熱した小精霊が、少しずつ銀色の輝きを帯びて下に溜まっていく。


鉄の小精霊は、小さなインゴットのような結晶だ。

前世でいうと、アルミで包まれたチョコレートを思い出す。

「何だか、チョコ食べたくなりますね」

「アイン、それは言わない約束でしょ」

イッシキは唇を噛み締めている。


「結構集めましたね」

「なにしろ時間があったもので、積極的にアプローチしてみました。そしたらなんと、脈がありました」

「それは良かったですね」


数十個の鉄の小精霊を回収し、能力を発動する。


「まずは胸鎧です。サイズは…自動的に調整されるみたいですね。精霊のお導きです。細かいことを気にするのはやめましょうか」


イッシキが身に着けてみると、ぴったりとして体の動きを邪魔することもなく、そしてほとんど重さを感じないという。


「え?材料が鉄というだけで、なんというか、魔法の鎧的な感じなんですか。ちょっと脱いでみてください」

脱ぐのも、するっと一瞬である。


俺も着てみることにする。

「着るのも脱ぐのも一瞬、着た瞬間にジャストフィット、ホントに重さを感じませんね。何なんですかこれ」


「では、テストを始めましょうか」

「え?あ、はい」


イッシキはおもむろに石の剣を取り出すと、袈裟懸けに叩きつけてきた!

「なっっ!?」


肩のあたりに石の剣が当たり、ボゴン、と音がしたものの、ちょっと痛いくらいである。

「おお、痛くないですね」

「イッシキさん、それは俺のセリフです」


「ならば、受けてみよ、二の太刀!」

イッシキは、今度は俺の太もものあたりに剣を叩きつけてくる。当然だが、鎧で覆われていない。

「ええぇ!?ナンデ、太ももナンデ!?」


同じようなボグゥ、という音がするが、やはり見た目ほどの痛みはない。


「やはり…」

「知っているのか、イッシキ!?」

「いや、知りませんよ。わたしが知っているのは、知っていることだけですってば」


「知らないのに、なんで太もも殴るんですか!?石の剣ですよ、木刀より凶悪なんですよ」


「つまり、これは胸鎧に見えるけれど、実際には全く違うものということですね。今のアインには、精霊の加護があると言っていいでしょう」

「なんか有難いお話みたいにまとめてますけど、性能以外に色々試されている気がします」


テスト方法はともかく、これはいものだ…

重くもなく、全身が精霊の加護とやらで守られるのだ。


いろいろ試したところ、ヘルメットや下半身鎧、ブーツを重ねて装備していくことによって、さらに防御力が増していたほか、衝撃吸収その他の効果もあるようだった。


というわけで、イッシキの分だけでなく俺の分も全身鉄の防具を揃えることにした。

「凄いですね、この防具。俺用のも作ることにしますよ」


「むしろ、一人で偵察に行かせようとしていたアインに驚きを隠せないわたしです」

「え、あれ?」

「冗談です」


防具一式を身に付け、走り回ってみる。

体が軽い。

これなら、もうゾンビやスケルトンなど何も怖くない。

普通の人間の力では、俺たちを傷つけることさえ難しいだろう。


「アイン、この防具は守備力を大幅に上げてくれます。しかし、それでもう何も怖くないなんて思ってはなりませんよ」

見透かされていた。てへ、終了!


強いて難点を言えば全身銀色で目立ってしまうことだが、一瞬で着ることができるので、普段は精霊化してしまっておき、敵に発見されたりして危険な状況になったら装備するという運用ができそうだ。


「イッシキ、普段は精霊化しておきましょう。装備するときの合図は『ジョウチャク!』とします」

「ジョウチャク…?構いませんけど」


「イッシキさん、そろそろ正直に答えてください。何を偵察しようって言うんです」

「ふ、分かっているくせに。例の盗賊団ですよ」



ようやく、動き出します。

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