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04 異世界の辺境で、スローライフを叫ぶ ─イッシキの章─(3)

前話のカオスをちょっと薄めるために、本日2本目です。

アインの訓練を通じて、精霊術の設定を整理してます。本文使って。

冗長ですみません…


~長老視点~


辺境の朝は早い。

日が昇ってそれほど経っていないが、すでに仕事を始めている者の姿も多い。


枯れ枝のような植物も、石で叩いて繊維を取り出せば、癖は強いものの縫物に用いることができる。

狩ることのできる魔獣は小さいため、毛皮は幾枚も丁寧に繋ぎ縫い合わせて、ようやく一枚の生地となる。

肉には臭みが強いが、二日も陽に晒してから苦塩を揉み込んで水で洗えば、食べられる程度になる。


衣、食、住、いずれも膨大な時間が費やされてようやく成り立つ。

暮らしの全てが、希薄な資源を生かすために捧げられているのだ。


アインとイッシキ。

二人の幼子が、古歌に謳われる精霊の守り人として再臨したという。

しかし、かつての守り人は、無双の剛の者だったという。

残されている口承はあまりにわずかで、幼子を直ちに旅立たせるべきかは分からぬ。


だが、あの二人は、この集落で50年を生きた儂よりも、遥かに遠く博いものを見てきたかのような目をしている。

あるいは、精霊の守り人の魂というのは、遥かに時を超えて移り渡って来るのやもしれぬ。


かつて精霊の守り人がこの地に降り立った時、我が氏族は大いに栄え、守り人は、平原で帝冠を戴する者とも対等に語ったとされている。

だが、いずれ守り人は去り、全ては甍の夢と消えて、見渡す限りの荒れ野が残されたという。

氏族の他の者にも語ったことのない、長の間でのみ語り継がれてきた伝え。


二人は、この氏族にいかなる運命をもたらすのであろうか…




~アイン視点~


「歩くテンポは一定に、両手のタイミングは体で覚えろ、右、左、右、左、この粒は飛ばして次!」

呟きながら、アインは後ろ向きに進んでいく。

その目の前には、高さ2メートルの土壁が順に生まれていく。

土壁の延長は、50メートルほどにもなろうか。


「はい、オーケーです」

イッシキの号令。

「今回は高さが揃いましたね。半端なサイズの小精霊もちゃんと除けられました。

直線をきれいに構成するのは、大規模建築には必須の基礎ですからね。

こういう作業でもたもたしていたら、いつまで経っても完成しません。

大切なのは、リズムですよ」


今やっているのは、100個余の土の小精霊を使って、直線的な土壁を建造する訓練である。

朝から洞窟に入って広めの枝道の奥を採掘しながら拡張し、秘密の訓練場に仕立てている。

この訓練場で、俺は改めて一から精霊術について習い、実技を行っているのだ。


小精霊は、カラフルで小さなサイコロや豆のような見た目をしている。

それほど丈夫ではなく、熱や衝撃や紫外線で壊れてしまうらしい。


素材によって、角ばっていたり丸かったり、硬い感触だったり濡れたような感触があったりする。

イッシキは、手の中に握っている複数種類の小精霊を、数も含めて見なくても把握できるらしい。

使う順番を想定して、手の中で配置を整理出来るレベルを目指すと言われているが、盲牌とかスリカエよりよっぽど簡単とかよく分からないことを言っていた。


小精霊化の解除は、壁や地面に接していないと、反応しない。

対象を見つめて声をかけるとそのタイミングで小精霊化が解除されるのだが、空中にあったり、こちらから見えない位置にあったりしてはいけないのだ。

小精霊がこちらを見て、視線を合わせたり声を聞いているのだろうか。例えば、壁の向こう側に投げて声をかけても反応しない。

声をかける内容は特に何でも良いようで、まったく別のことを喋りながら視線を送るだけでも反応する。


あと、手を放して1秒くらいで反応しなくなってしまうので、あまり遠くに投げたり、タイミングをずらして小精霊化を解除するのは難しい。

イッシキが大量の小精霊をばらまきながら瞬時に視線を送るのを見ていると、廃FPSプレイヤーのエイムを想像してしまう。


なので、歩きながら連続して高さ2段相当の土壁を建造するには、下の段の小精霊化が解除されて土壁になった直後に、上の段の小精霊がそこに着地していることが必要となる。


両手で交互に小精霊をタイミングよく投げること、着地を見計らって小精霊化を解除すること、安定した姿勢で後ろ向きに歩き続けること、袋から小精霊を適宜補充していくことなど、正確な動作を同時に継続して行えなければならないのだ。


しかも、小精霊は群れで置いておけば大体均一のサイズとなるのだが、50体に1、2体は半端なサイズになってしまうものが発生する。

これを同じように投げてしまうと、出来上がった土壁のボリュームが足りず、でこぼこになってしまう。

手元を目で見て確認している暇はないので、掌の感触だけで判別して次を用意しなければならない。

まさに、土木の匠、精霊ジャグラーを作り上げるためだけの訓練であった。


他のメニューとしては、12メートル分を間違えずに何度も建造する、二種類の素材でモザイク状に壁を形成する、といった訓練が予定されている。

当然、イッシキはそれら全てのメニューを走りながらこなすことができ、その速度は現在のアインの3倍を超えるであろう。


ちなみに、最初はもっとサバイバル的な訓練を行っていた。

高所から墜落しかけた時に備えて落下中に壁から突起状の足場を作る、地面から足場を立ち上げて空中に回避する、といった土魔術の王道的なアクション技術である。

アインも嬉々として取り組んだのだが、度重なる負傷に一時間程度で教える側も教わる側も心が折れ、もっと平和的で基礎的な訓練から行うことになったのであった。


「イッシキ先生、この特訓メニューって、ご自分でもやってたんですか?」

「え?試してみて、一回でやれたのは訓練とは言えないですよね。

あと、小精霊化もあんまりたくさんやると疲れちゃいますし、誰にも見られず大きなものを作るのは大変なので、イメージトレーニングの方が多かったですね。

寝ながら夢の中で建築してたり。ああ、その意味では前世でやってたゲームのおかげでしょうね」




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