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03 採用試験の日(4)

当初の想定と展開が変わってきたので、改題してみました。

書きながら設定を整理している回なので、冗長です。

読み飛ばしても問題ありません…


「さて、それでは肝心の、ゴーストのお話に入りましょうか」


ギルさんがディスプレイモニタを水平にし、全員から見やすい角度に立体視を調整する。


「まず、ゴーストを作成する前段階の素材を紹介します。皆さんのお仕事の内容にもなります」


ディスプレイに、サイバーな感じの脳のモデリングが表示される。タイムラプス動画のように、ほんの少しずつ構造が変わったり、色合いが変化している。


「実際のデータはもっとずっと解像度が高いんですが、これは広報用に加工した素材です。

脳神経の構造を撮影したデータは、それ自体というよりは変化や反応の差分を追いかけて解析するそうです。

どういう体験をして、どんな刺激を受けた時にどんな変化が生じるかをデータとして集めて、今度は逆にその変化を起こすような別の刺激や体験を探します」


「同じような変化を起こす別の刺激のうち、扱いやすいものを集めて素材化していきます。

身近な例でいうと、昔から知られている『吊り橋効果』みたいなものがありますね。危険な場所での緊張感が、恋愛感情から来る興奮と混同されて、危険な体験を同時に体験した異性に対して恋愛感情めいたものを抱くというあれです。

視覚やシチュエーションとして二人きりの環境を用意して、また別な刺激として心拍や呼吸数が上昇するような要素を与える、という感じですね」


「錯覚や脳の混乱を利用して疑似的に感情をコントロールするというと、心理操作や向精神薬みたいな作用をイメージされるかもしれませんが、映画を観て手に汗握る、スカッとする、ロマンス感に浸る、なんていう体験の延長と考えていただければどうかと思ってます」


分かるような分からないような話だが、ギルさんもそれ程ここを重視しているわけでもなさそうな口調で、皆も特に質問をするでもなく相槌くらいで進んでいく。


「次に、ゴーストそのもののお話です。

ゴーストは疑似人格の一つと言えますが、プログラムの規模としてはそれほど大きくありません。

というのも、私たちが開発しているのは基本的にエンタメ分野のものですし、現状ではゴーストは将来のプレイヤーの代替テスターとして働いてもらうための存在ですから、人格そのものというよりも、いちゲーマーやキャラクターとしての振る舞いが出来れば十分なのです。

その意味では、ちょっと古い言い方になりますが、『ゲーム脳』さえあればいい、とも言えますね」


「なので、ゲームと無関係な分野の知識や記憶はかなり省略されますし、逆に関連性の高い分野については、一般常識的な知識や記憶を共通のデータベースで代用してしまっています。

例えば、有名どころのアニメ、小説、マンガ、ゲームのコンテンツについては、公式の映像や挿絵のほか、Mikipediaやゲーム攻略などの各種のMiki、niponipo大百科などを提携利用させていただいてます。

皆さんからゴーストを作成する時点では、どの分野のどの作品にどの程度どの種類の反応があるかだけを抽出してまして、記憶そのものは膨大すぎるのでデータ化していないんです。

ゴーストの中の作品の記憶は、実は共有しているんですね。

そのコンテンツの統合データベースを、私は勝手に、アカシックレコードとか名付けてますけど」


タチカワが手を挙げる。

「ちょっといいですか。さっきと似たような質問になっちゃうんですけど」

「今の、作品への反応というデータのお話ですか」

「お察しの通りです」


「では、実際のゴーストと対話していただいた方がよいですね。

ギルガメシュ・ザフォース、通称ギルフォースさんを召喚します。

私の4人目のゴーストです。

音声でもチャットでも会話できるんですが、アバターも適当に設定しますね」


ディスプレイの中に、ギルさんをCG化したような映像が現れ、テレビ会議風のコンソールも表示されている。


「皆さん、こんにちは。私はギルフォースです」

ギルさんをリアルにCG化したような表情で、音声もほぼ肉声に近い。

額に四と漢字で書いてあるところが違和感といえば違和感である。

なぜか、誰もその点について突っ込みがないのも違和感といえば違和感だが。

ハリウッド映画で採用されているようなレベルの高いグラフィックではないが、要点はそこではないのだろう。


「どうぞ、会話してみてください」

ギルさんに言われて、タチカワが口を開く。

「ギルフォースさん、いきなりで不躾ですが、ご趣味のことを伺ってもよいですか」

「あ、はい。その前に、お名前を伺ってもよろしいですか」

「タチカワと言います」

「タチカワさんですか、よろしくお願いします。データ参照します。本日のテスターの応募者ということですね。趣味というと、どういったことでしょう」

「例えば、好きな小説や映画なんて教えてもらえませんか」

「好きな小説や映画ですか。

世間で人気のアレやコレってのも好きですけど、本当に好きな作品について語るのは、もう少しお互いのことを理解してからじゃないと気恥しい気がしませんか」


なんとも微妙な反応だ。


タチカワは、今度はギルさんに質問をする。

「ゴーストは、他の人間の命令を聞くんですか?」


「命令、と言っても色々ありますね。

対話の中での命令という意味なら、人間を相手にしているのと似たような感じです。

本人のリアクションが参考にされているので、本人が拒否するようなことはゴーストも拒否するでしょう。

ゴーストはプログラムなので生活費のために給料を稼ぐ必要はありませんが、存在を維持するためには一定の協力や妥協をしなければならないものだという条件付けは残されています。

なので、仕事だからしょうがない、みたいな言い回しもある程度通じます。

後で説明しますが、なぜ働くかみたいな、哲学的な思索を巡らせるほど高度なプログラムではありません。


ちなみに、ゴーストの中に含まれる記憶データの一部を強制的に抽出できるかというと、それはできません。

ゴーストイメージ自体は割と大規模なAIが作成してまして、どのようなプロセスや構造になっているかはブラックボックスなのです。これはゴーストの話に限らず、AIが作り出すプログラム全般に言えることですけどね。

数段階上位のAIを使えば解析できるかもしれませんが、AIで解析できるようにするためには大量のゴーストイメージに関するデータの集積が必要でしょうし、その時間や費用は馬鹿にならないと思います。

そもそもこの会社は同意しませんし、個人の思想信条にもリンクする情報ですから、警察などでも簡単には令状が出ないでしょう」


なんかギルさん優秀すぎませんか?

村雨も質問してみる。


「ゴーストは、痛みや死の認識があるんですか?」

「もちろん。ゴーストが疑似的な存在であるとしても、丸ごとイメージにしてますから。

ただし、ゴーストを動かすシミュレーターの環境上、そういうパラメーターがない場合もありますけどね。例えば、巨大な水槽で魚を飼おう!といったVRゲームで、プレイヤーが水中から眺めて楽しんでいる最中に窒息死のリスクに配慮しなければいけないとするのはちょっとマニアックすぎますよね。

その環境において考えなくてよい要素は、リソースの無駄なので、ゴーストの演算処理を抑制しちゃいます。杞憂、というやつですね」


タチカワが再度質問する。

「逆らったら消去するぞ、といったメタな脅しをされたら?」

「逆らったら殺すぞ、というのと同じようなレイヤーに落として解釈されますね。

そうそう、この解釈というのは、ゴーストにとって結構重要な意味合いを持ってます」






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