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ロマンヌの癒し日記  作者: ほか
第1話 たやすく光らない姫
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2  妖精イデア

 ――痛い、痛いよ。

 ――助けてくれ。

 ――痛いの。

 え?なに?……なんなの?

 書庫に足を踏み入れた途端、ロマンヌの耳に声が聞こえてきました。男の人の声、女の人の声、大人の声、子どもの声……。幾重にも声は重なっています。あまりの怖さに、ロマンヌは後ずさりました。

 病気のときもそうでした。あるはずのない声がたくさんたくさん、聞こえてくるのでした。

 ――助けて。

 ――助けて。

 ……もしかして。

 ロマンヌは波打つ胸をおさえました。また病気になっちゃったの?わたし……。

 ロマンヌはこめかみを押さえて座り込みました。しばらくそのままにしていると、ふっとあることに気が付きました。声は確かに、この部屋のある一点から聞こえているのです。そう。ちょうど、ロマンヌの真正面にある書庫の一番奥の本棚の、真ん中あたりから……。

 ロマンヌは恐る恐る、声のするほうへと、一歩一歩、歩を進めていきました。

 ――この本からだ。

 ロマンヌは意を決して、声の聞こえてくるえんじ色の本に手を伸ばしました。

 ロマンヌが本の背表紙に手を触れた途端、

 「わぁっ」

 ロマンヌは思わずしりもちをついてしまいました。

 本が一人でに棚から出てきて、中を向いて開いたのです。そしてそこから、なんと、何色もの光がとびだしてきたのです。ロマンヌは眩しくて、目を閉じました。


 目を開いたとき、そこには相変わらず中に浮いた本と、その上に気取って足を組んで座っている小さな ――本当に手のひらサイズしかない、小さな女の子がありました。

 「本当に理想主義なのね、あなた」

 女の子は開口一番、こんなことを口にしました。

 「理想、主義」

 文学少女のロマンヌは、この難しい言葉を知っていました。理想、つまり、目標とするものや望みがとても高い人のことです。

 「どうして、私が理想主義なの?」

 女の子が平然として答えました。

 「あの人があなたの好きな人だってことが一つ」

 ロマンヌはドキリとしました。あの人とは、エルネスト先生のことでしょうか。だとしたら、どうしてそんなこと、この子が知ってるの?

 「あと一つは、あなたがこの本に選ばれたってことよ」

 ロマンヌは目をぱちくりさせました。それを見てとった女の子は得意そうに、

 「なにがなんだか、わけがわからないって顔ね」

 ロマンヌは素直に頷きました。

 「仕方ないわ。説明してあげる」

 そう言いながら、女の子はくるりと宙を一回転したので、ロマンヌはますます目をまんまるくしました。

 「この世の中にはね、あなたも知っての通り、たくさんの悲しみがあるの。それこそ7つの海を合わせたくらいの深い悲しみが。この本を書いた人は、それをたっぷり感じていて、それを少しでも癒やすために、物語を作ったの。でも時代を超えた今、またこの本は悲しんでる。近くに悲しんでる人がたくさんいるもんだから」

 ロマンヌはふと、その本のページがしわくちゃになってしまっているのを見ました。

 「あなたの役目は、これから7つの悲しみを探して、和らげていくこと。そうすればこの本も一章ずつ回復していって、また読めるようになるわ」

 「……でも、わたしにできるかな、そんなこと」

 「大丈夫なんじゃない?」

 女の子は水色の髪をかきあげながら、

 「この本があなたを選んだんだから。いい?理想主義の人ってね、それだけ悲しみと仲のいい人なの。それにとりわけあなたは悲しみに敏感だわ。つまり、悲しみ専門家ってわけ」

 「うーん、あんまり、嬉しくない、かも」

 「あら、最高の褒め言葉なのに」

 まぁいいわ、と女の子は足を屈み直しました。

 「じゃ一応聞くけど。あなた、人の苦しみを失くす気はある?」

 ロマンヌは真剣な顔になりました。

 夢に出て来た、そしてさっき聞いた、あの声たち。

 「うん。ある。わたし、悲しみを失くしたい」

 あのときロマンヌが最後に思ったことは、どうにかしなくちゃ、だったのです。どうしよう、では決してなく。

 「よし。良い返事だわ。あ、そうそう、自己紹介がまだだったわね」

 女の子は誇らしげに、胸に手を当てて言いました。

 「あたしはイデア。この本を守る妖精よ。よろしく」

 「よろしく。イデアさん」

 「イデア、でいいわよ」

 「じゃ、イデア。えっと、わたしは……」

 「あなたの名前はロマンヌ。エコール(小学校)の初等科2年生。シャイで、でも大人びてる性格ね。もちろん理想主義で、親友は妹のレア。好きな人は、エルネスト先生」

 「どうしてそんなこと、全部」

 「あ、あと、ちょっと一点しか見えないタイプでもあるわね。あたしのコレ、気が付かなかった?」

 イデアは楽しげに後ろを向きました。その背中には、水色と黄緑色を合成したような透明な羽が生えていました。

 「そっか。妖精さんだから、魔法が使えるんだね」

 「あ、そうそう。あたしのことは、あんたの親友意外には、見られたらダメよ。その時点で、あなたの任務は終了します」

 「任務……」

 その重い言葉を、ロマンヌはしかと噛み締めたのでした。

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