6 ようこそ王宮へ
暗殺の名人が来たよ。今度はラロシェルの一家を呼び寄せたって話だ。いや、わからないね。次なるターゲットは絶対、夫の妾のディアヌだと思っていたのに。
――そう、その通りよ。
カトリーヌは周囲のざわめきをそのままにして、王宮の回廊を歩いてきました。回廊と、神話の世界が細かく刻まれたその周囲の柱は、ぐるりと四角く吹き抜けの空間を囲っています。その中心には大理石でできた天使の像がありました。傍らに見える柱の一本の上部には赤い錠剤を模したメディチの紋章が控えています。我が一族の生業を象徴するあれはほんとうは毒薬なのではないかと皮肉に思います。
――好きなだけ言うがいい。わたくしは所詮、成り上がりの商売女。それでいい。
王家に嫁いで数年間、信頼できる他人はいませんでした。
――でも、本当はわたくしはディアヌになど興味はない。あんな夫、愛していないもの。
彼女が滅却すべき相手、それが別にありました。
ほら、あの女です。家族に囲まれて楽しげに笑っている、金色の髪の女。
カトリーヌは目を閉じました。
――ごめんなさい。あなたが、邪魔なの。
「初めまして、ヴェルレーヌ様。王宮へようこそ。わたくしが、フランス王妃、カトリーヌですわ」
パパは胸に手を当てて、ママはドレスの裾をつまんで、それぞれお辞儀をしました。気が付くと、レアもそうしています。ロマンヌは慌ててそれに倣いました。
「ご招待にあずかり恐縮です。カトリーヌ王妃。ところで、今回のお呼び出しは、どういったご用件で」
そう言うパパを見て、カトリーヌ王妃は、手にしていた扇子を口元に持って行って笑いました。
「なにもそんなに畏まらなくとも良いのですよ。わたくしは一度、我が息子が見初めたお嬢さんがどんな方か、見てみたかっただけなのですから」
そう言うと、カトリーヌ王妃は、しゃがみこんでロマンヌと視線を合わせました。その拍子にえんじと金のドレスの裾がふくらみます。
「あなたが、ロマンヌね」
「は、はい!……妃殿下」
「まぁ」
カトリーヌ王妃はにっこりと笑いました、麗しい。ロマンヌのなかにはそんな形容詞が浮かんできました。けれどなんでしょう。この、どこかで会ったことがあるような感じと、そして彼女の目に浮かぶ悲し気な色は……。
考えているうちに王妃はさ、どうぞこちらへと、回廊の奥へと進んで行ってしまいました。
「おかしいわね」
「あぁ」
王妃からは大分離れたところを、ロジェとプレヌは歩きながら話していました。
「ロマンヌを見るのが目的なら、どうしてロマンヌとエルキュール君が出会う前に、招待状が家に着いたのか」
「なに。お前いつになく冴えてんじゃん。どうしちゃったの? 熱でもあんじゃねーの」
「もぅっ。ロマンヌが関わってることだもの。当然よ。ロジェってばわたしのこと侮ってるわね。もーぅ、失礼しちゃう」
プレヌが小声でぶつぶつ言うのを片耳で聞きながら、ロジェは先日、”スピルト”のパティシエのひとり、パエリエと交わした会話を思い返していました。




