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小説家になろうをぶっ潰せ!  作者: ゆりたろう
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サークルクラッシュにうってつけの日

私、正條真帆しょうじょうまほ、14歳!

ある日、流れ星を見に行ったら落ちてきた隕石に当たって気を失ったの。

そして隕石に乗ってた宇宙人との約束で魔法少女にされちゃったんだ。

その宇宙人っていうのは―



「だああああああ!」

貝照述かいてるのべるはたった数行を書いたばかりの原稿用紙をぐしゃぐしゃに丸め、ゴミ箱に投げ入れた。

「誰だこんなものを書いたのは!俺だ!」

彼は原稿用紙と同じくらいぐしゃぐしゃになった髪を更にかき回し身を捩り始める。


「会長、どんなもん書いたんですか。見せてくださいよ」

そう言って成増頼太なりますらいたはゴミ箱に向かった。

「ならん!」

貝照はゴミ箱前に立ちふさがり成増を迎え撃つ。ひょろひょろの貝照と並ぶと中肉中背の成増でも骨太の身体に見える。


取っ組み合いを初めた二人を横目に、原稿用紙に向かう女性がいた。

髪を肩まで伸ばし、軽い化粧をしている。

彼女、寺井寿鳥てらいすとりの前に広げられた紙は新品同様で真っ白であった。


貝照と成増が暴れたせいで広いとはいえない部屋の埃が撒き散らされ、寺井は咳き込んだ。

「ちょっと!暴れないでくださいよ!この部屋しばらく掃除してないんだから」

彼女は二人を叱りつけるとまた原稿用紙へ目を落とした。しかしその手が動く様子はない。


彼ら3人は大学サークルである小説文芸研究会の会員である。そして他に会員はいなかった。

なぜ彼らがサークルの部室で原稿用紙を前に唸っているのか。理由を知るには時を遡る必要がある。


時は1日前。講義後に部室へ集まった3人はいつも通り、最近読んだ小説について議論という名の感想を交わしていた。

「旅行ものに現地での恋愛など不要だ!」

「いやそれは主人公達の自由でしょう」

「俺はそんな数日で湧き出すものは愛とは認めんぞ!」

その日の議題は、寺井が最近読んだ旅行記小説についてだった。貝照は小説ばかりで育った人間らしく、真実の愛には一家言持っていた。


「そういえば会長、この前気になってる人とデートに行くって意気込んでたじゃないですか。あれどうなったんです?」

成増が口を挟んだ。最近、成増と寺井は貝照が急接近しつつある女性についてのノロケをよく聞かされていたのである。彼女は服装のセンスがいい。彼女は博識だ。そんなところである。


貝照は神妙な顔をした。

「……一緒に食事に行ったら妙な学習グッズの購入を勧められて逃げてきた。今は着信拒否してる」

それを聞いた成増と寺井は爆笑し、貝照は苦い顔になった。


3人が大騒ぎしていると、部室のドアが2回ノックされた。

彼らはお祭り騒ぎをやめ、成増がドアを開けに行った。

「はい、どちら様?」


ドアを開けると、そこには大学の女性事務員が立っていた。

三十代も中頃に差し掛かっただろう彼女の顔は眉間にシワが出来ていて、あまり良くない話が出てくることは容易に予想できた。


「ここは小説文芸研究会ですよね」

「そうです」貝照が答える。

「事務から来ました。お話があるのですが、会長はどなたですか」

「俺です」

現会長である貝照は今年3年だが、去年も3年であった。必修の試験に寝坊したせいで単位を落としたのである。

残る二人の会員はどちらも2年であるため、貝照しか会長はいないと前会長から任命されたのだった。


「単刀直入に言います。このままですと、来年度のサークル存続は認められません。活動実績が不足しすぎです」

突然の話に面食らった貝照が何も言えずにいると、事務員は続けた。

「来年度までに何か活動実績を提出してください。できなかった場合は非公認になります。その場合、この部室及び備品は全て使用不可です。何か質問はありますか?」

彼らが質問を思いつく間もなく、事務員は、ではと言って一方的に会話を打ち切り帰っていった。


扉が閉じられると、すぐ成増が口を開いた。

「どうします?」

「塩撒いとけ!」

「塩ならどこかにあると思いますよ。去年ここで鍋やりましたよね」寺井は部室にあるものをよく覚えている。


「とにかくすぐ対策を練る。この部室を奪われたら俺は大学で過ごせん」貝照が会長らしく場を仕切った。

貝照は大学に友達がほとんどいないため、いつでも使えて気の合う相手がいる部室が取り上げられるというのは死活問題なのである。

そして悲しいことにそれは残る二人も同様であった。


彼らは部屋の中央にあるテーブルを囲んで座り協議を始めた。

「活動実績か……このサークルでする活動ってなんだ」

「あなた会長でしょ。会長がわからなくてどうすんですか」

「私このサークルが実績になりそうなことしてるの見たことないんですけど」

「やはり小説の研究じゃないですか?」

「我々にそんなたいそれたことが出来るはずないだろう!」

「研究しましたー、だけじゃ実績に認めてくれるか微妙だしね」

寺井が言うと他の二人も天井を見つめてうなり始めた。


「私たちで小説を書くっていうのはどう?」

寺井が提案すると

「それだ!」

と貝照と成増は顔を見合わせて同意した。


「小説をどう実績にするかだけど……」

寺井が議題を進める。

「賞をとるんだよ!」

「何の賞?」

「特に決めていないが、今の時流に乗ったほうが賞を取りやすいんじゃないか。つまりネット小説だ」

「会長、そういうの嫌いなんじゃないですか」

「いやそういうわけでもない。ただ特段好んでないだけ」


貝照が両手を広げ、まるでピアニストのようなポーズで演説を始める。

「我々は研究会を名乗っている。だから研究をやってやれないことはない。だからオンライン小説を研究することで、面白い小説が書けない道理はない!案ずるより生むが易しだ」

その演説は自身を鼓舞するようでもあった。

では明日から執筆開始だ、と取り決めた後、その日は解散となった。


そして現在、彼らは冒頭の通り部室で腐っているのである。

「やはり異世界転生ものがいいんですかね」

成増が口を開く。

「最近は単純にそれだけじゃ駄目っぽいよ。なろうでは異世界人が関わるとそれ専用のランキングに分類されるらしいし」

寺井が窓の外を見ながら言った。

オンラインで小説といえば小説家になろうだ。という貝照の偏見により彼らは小説家になろう用の小説を書いていた。


「なんかウケる要素ないのか?メイン読者層は中学・高校生くらいだろ。この年代の好きなものと言ったら……俺が高校生の時はどうだったっけかなあ」

ゴミ箱から取り出した原稿用紙を鞄に隠した貝照が疲れているのか椅子に深く座ってひとりごちた。

「三人寄れば文殊の知恵なんて大嘘ですね」

そう呟いた成増もすっかり椅子に背を預けて缶コーヒーを飲んでいる。

そして寺井は携帯をいじっていた。


「公式アカウントでアイデア、または新入会員募集って呟いときました」

寺井はこのサークル用に作られたTwitterアカウントを管理している。

それはいつかの酒の席で勢いに任せて作ったアカウントで、たまに会員の気に入った本を紹介するためだけに使われていた。そんな適当なアカウントでも意外と少なくないフォロワーがいるので、3人はどこに人気があるのかよく首をひねっていた。

「来るかね、新人」

「去年は僕達二人だけだったよね。もう5月だし皆どこかのサークルに入ってそうだなあ」

「弱気になるな成増。俺はもう諦めてるが。今年は勧誘してないからな。このサークルは存在を知られてない」

勧誘をしなかったのは、勧誘期間中に3人共季節遅れのインフルエンザに罹り登校できなかったからである。



窓から強い光が射し、夕方になったことを彼らに知らせた。

「今日はこれで解散とする。総員、何かなろうでウケそうなアイデアを考えてくるように」

貝照がそう宣言すると同時に、部屋のドアが小さくノックされた。

「はいどんな御用で?」

事務員を警戒したのか貝照はドアを開けずにそこで問う。


扉の向こうで、女性のか細い声が響いた


「あの~、入会希望なんですけど」

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