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   北の方角にあるシブヤ・コロッセオは、現実世界での代々木競技場に当たる。ローマにある古代遺跡さながらのデザインが施され、コロッセオ内部は街の中でありながら戦闘可能区域となっている。ゲーム時代にはその設定を活かして腕自慢大会なるユーザーイベントが時折行われていた。

   さらに進むと北ゲートがあり、その周辺には大地人達の経営する露店や宿屋が集まっていた。果物などの素材アイテムから、低レベルの初期装備などが揃う場所だったが、一時期の過疎化に伴い、半数は閉店してしまった。人口が増えつつある今でも、閉店した店はそのままになっている。

   ゲートへと伸びるメインストリート沿いにある大きな宿屋「風竜の輪舞曲ロンド亭」は1階が酒場、2階が宿という、ファンタジー世界における典型的な宿屋施設である。

   2階の一番奥のドアの前に、コルトはいた。

   そっとドアを押し開け、中に入る。

   「辛気臭い顔しちゃって」

   小柄な冒険者がおもしろそうに犬の尾を振り回している。部屋にはベッドが3つ並び、そのひとつにはすでに横になった冒険者が眠っているようだった。

   「嬉しそうに言ってくれるなよ、ハービー。こう見えても俺はへこんでるんだぜ?」

   そう答えて、コルトは眉間を右手でマッサージした。

   「なんでへこんでるの?子猫ちゃんがどんな奴を雇ったのか探る、それが今夜の目的だったんだんじゃないの?」

   ハービーが言った事は間違ってはいなかった。

   そういう意味での目標ならば、成功である。本をもったアリッサが猫乃亭とかいうギルドに匿われ、護衛を雇ったようだったので、戦力を推し量る為に尾行を決行した。そして、万が一尾行がばれた場合に備えて、交渉というカードを用意した。一度は見限られたシブヤに住み着くような輩である。それなりの金でもチラつかせれば済むような連中しかいなだろう。だからこそ、カードを用意はしていたが、内容までは深く練ってははいなかった。

   ところが、気付かれない自信のあった尾行は見破られ、コルトはさらにひとつミスを犯した。

   それは交渉に応じた場合の見返りの内容であった。相手側に対し、こちらの狙っている本には思っていた以上に価値がある、と判断する材料を提供してしまったのである。出来ることなら、本に関する情報は何一つとして与えたくなかった。その上で、相手の情報だけを手に入れるつもりだったのである。それが尾行を見破られ、パッと見の印象からは思いつかなかった見返りの要求に用意していた提案ではない内容を提示してしまった。

   コルトの直感が正しければ、あの黒いコート野郎はかなりの腕前だ。この世界とエルダー・テイルの曖昧なルールをおおよそ把握しているだろう。さらに話術の駆け引きも半端ない。

   「見た目の実力以上、かなりしんどい相手だ。それだけの覚悟が必要になるとは、やれやれだ」

   コルトはこれから先の事を考えて、肩をすくめた。

   ハービーが勢い良く伸びをひとつして、すでに横になった仲間を見る。

   「ま、動きがあれば酒天も「戻る」だろうし。それまではこっちも一休みしときましょ」

   大きめのため息をひとつ落とし、コルトはそれを返事とした。

   酒天とは、ベッドで横になっている冒険者の名前であった。

   彼は召喚術師で、今はアリッサのいるギルド会館を幻獣憑依ソウル・ポゼッションで見張っているのだ。アリッサの雇った冒険者の姿形の特徴がわかったのも、酒天の情報である。

   その酒天の従者はというとー。



   シブヤのギルド会館のエントランスにあるカウンターには、人の気配がなかった。もっとも、こんな深夜の時間帯にもなれば当然の事で、カウンターの上には現実世界にもあるような三角の小さな卓上看板に「本日の業務は終了いたしました」と文字が並んでいる。

   その横にちょこん、と猫が眠り込んでいた。

   召喚術師に限らず、エルダー・テイルの女性プレイヤーに人気の高い従者、女王クイーンラヴァーズする子猫キャットである。

   召喚術師がレベル40から受けられるクエストの報酬で、見た目の可愛らしさに加え、以降も複数の連携したクエストを完了させる事で様々な体色や体毛、体型の種類などをカスタマイズできる事が、その人気に拍車をかけている。専用の装備アイテムや期間限定イベント等による限定色などもあり、運営からもプレイヤーからも愛される従者なのである。

   そのすぐ横に突如、カウンターにもたれかかった黒いコート姿の冒険者が現れた。

   ケイは、子猫の方を見ることもなく、エントランスを見回す。

   「見張りも大変だね、ご苦労様」

   ケイの呟きに、子猫の片目だけがうっすらと開く。

   「あと2日は動かないから安心しといて、とコルトさんに伝えてください。それと」

   つまらなそうに、あくびをひとつすると、首を斜めに子猫の方に向ける。

   「アキバやミナミならともかく、従者で張り込むにはシブヤじゃ逆に目立ちます。同じ見張るなら、そこにあるラウンジのソファーにでも寝そべって、他の冒険者に混ざった方がよほど気付かれにくいですよ」

   言い残し、背中で左手を上げて軽く振ると、ケイは会館の奥へと進んでいった。

   小さな声でにゃぁ、という子猫の返事が彼に届いたのかどうかまでは、酒天にはわからなかった。

   

掲載おそくなってすいません。

原作(及びアニメ)の内容が舞台になるシブヤに絡んでいたので、展開を待ち、こちらの内容を再構築しておりました。

あらかたの修正は終わったので、なんとか完結できるように頑張ります><

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