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07

   シブヤの街で装備を整えるならば、誰もがこの高架下にある「鍛冶屋」を候補に挙げる。大災害以降にサブ職業の鍛冶職人のスキル上げに努め、ついにはヤマトサーバーで数少ない刀匠になったリップルエンジェルという冒険者が経営している店だ。大災害以降に刀匠になった為、知名度はそれほど高くはないが、腕前は確かである。

   壁に突き刺さった槍は、今出来上がった品物なのだろう。耐久や攻撃力など、素晴らしいの一言に尽きる仕上がり具合なのだが、彼女には気に入らなかったらしい。床に叩きつけ、跳ね返り、覗き込んだケイをあわや大神殿に送るところだった。

   無言で槍を見つめるケイに気付き、リップルが慌てる。

   「ケイ様!ここここれにはその」

   「ああ、大丈夫。わかってるから」

   バツの悪い笑顔を浮かべるリップルに、ケイは改めて挨拶した。

   どこから出したのか、2本の突剣レイピアを差し出す。

   「調子をみてほしくてね」

   あら、とリップルは驚いた表情になった。

   「この子達が必要、てことは相当な案件ですね」

   2本の突剣を「この子」と言ったリップルはそれを受け取ると、職人の目に変わった。

   1本ずつ、宙に持ち上げ、全角度からじっと観察する間、ケイは壁に刺さった槍を引き抜き、傍らに置いた。

   「ケイ様、この子達にまた「混ぜた」でしょ?性能は上がってますけど、その分耐久がガタ落ちになってますわ。耐久を戻すには一度火を通さないとだけど、触媒は・・・かなり特殊になりますよ?」

   「さすがは刀匠、いい診断だ。で、その触媒とは?」

   「”聖光輝石の粉”」

   「あー、やっぱりそのくらいのレベルの素材が必要になるかぁ」

   刀匠リップルエンジェルが言う「火を通す」とは、一度打ち直すという意味である。勿論、完成品に手を加えるということは、基本的に性能の劣化を招くのが常だ。元来備えた性能や耐久をそのままに摩耗した装備を元通りに復元するには、劣化を防ぐ為の触媒を必要とする。そしてその触媒は、火を通す装備品のレベルや種類によって変化する。幻想級の装備を直すには同じ幻想級か、もしくはそれに近いだけのレベルを持った触媒が必要とされるのだ。

   ”聖光輝石”とは、幻想級の次にレベルの高い秘宝級の素材アイテムである。種類は鉱石に属し、大規模戦闘レイドゾーンである「火蜥蜴の洞窟」などでのみ入手可能なアイテムだ。難易度的にはレベル90の冒険者であれば簡単にクリアできた。ゲーム時代であれば、だが。今の状況では同じようにはいかないのは、大災害以降の冒険者達の共通意識だ。つまり、現在新たに入手しようとすれば、それなりのリスクが発生する。時間も、噂を鵜呑みにするならば記憶のロストもありえるだろう。それがわかっているから、マーケットに販売が出ているとしてもかなりの高額取引になる。こういった装備の維持費用は、想像以上にかさむ。幻想級や秘宝級の装備品は全ての冒険者達の憧れではあるが、入手し使用すれば、維持費用というリスクを負う事にもなるのだ。

   ごそごそとポケットを弄り、ほい、とケイがひとつの鉱石を差し出す。

   「それ・・・”聖光輝石”じゃないですか!というか・・・まさか、魔法のマジックバックとそのコートを「混ぜた」んですか?」

   「うん、出来ちゃった」

   「さすがは「合成師」。ゲーム時代にはネタ的サブ職業でしたのに」

   ケイの戦闘系職業は盗剣士、サブ職業が合成士である。ゲーム時代においての合成士は、それこそ「鼠とぬいぐるみ素材を混ぜてどこかで見たような鼠のぬいぐるみを作る」程度の、ゲームを進行させるのに必要のない、遊びのような職業である。

   変わったのは、大災害以降だ。料理に関しての秘密が発表され、それが料理に限った事ではないと理解した冒険者達によって、発明ラッシュへと繋がった。だが、それは発明に限った事ではなかった。ゲーム時代の仕様が生きている部分もあれば、思い込んでいただけで実は自由範囲が広がっている部分もあったのだ。

   合成士において言えば、正にその「自由範囲が広かった」ことによって全く違う側面を持つようになっていたのである。合成士の特徴はその名が示す通り、あるものとあるものを「合成」することが出来る。ゲーム時代はそれらのアイテムが限定されていたのだが、今の世界においてその縛りがなくなっていたのだ。例えば、普通の剣と火の精霊力の宿った鉱石を合成し、火属性の追加ダメージ効果を持つ普通の剣を作成したり、魔法のマジックバックとお気に入りのトレンチコートを合成し、「外観がトレンチコートの魔法の鞄」を作成することもできたのである。だが、特殊な合成である以上、成功させるにはそれなりの職業レベルと触媒が必要とされるのは、他の職業と同じであった。

   「触媒も揃ってるとなれば、2時間もあれば」

   リップルがそう言って、作業場の奥に設置されたかまどに火を入れた。

   「そんな短時間で?」

   「ケイ様の依頼ですから!」

   嬉しそうに答えたリップルに、ケイはありがとうと礼を言った。

   いつの間にポケットから取り出したのか、紙袋を差し出した。まだチョコチップクッキーが残っていたらしい。さらに飲み物の入った瓶を作業台に置き、続けてティーカップをふたつ取り出した。

   どうやら仕上がるまで待つつもりらしい。

   にっこり顔のリップルの頬が赤いのは竈の火によるものだけではないのを知ってか知らずか、ケイはお茶の準備に勤しんでいた。

ご拝読、感謝です。

シブヤの街においての銀行などの機能に関する本編との矛盾点に関して、「03」改定部分に加筆修正を入れさせていただきました。

本作品中に置きましては、シブヤの街にある機能としては簡易式銀行施設が供贄一族の好意によって設置されていますが、ギルド会館の窓口における機能はギルドの創設・加入・脱退手続きは不可、ゾーンの借り入れのみ可能、としました。


矛盾点・誤字脱字などのご指摘、感謝です^^

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