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05

   タイチとケイの二人が部屋を出てしばらくして戻ってきた時には、両手に大きな紙袋を抱え込んでいた。どうやら中身はテイクアウトのお弁当だったらしい。今夜の夕食はシブヤステーション西口に並ぶ屋台の中から中華を選んだようだ。

   タイチは仲間達に弁当を配って歩き、ケイはギルドマスターの部屋へと直行した。

   もともと訪れた時間が夕食時だったのもあって、とりあえず腹ごしらえを、となったのである。タイチはそのままギルドの仲間達と食べることにした。

   「たまには他の人の料理もいいもんだね」

   マサミが嬉しそうに、両手を合わせる。

   アリッサといえば、どうやら箸を使い慣れてないらしく、悪戦苦闘している様子だ。

   ケイは椅子に座って弁当を広げながら、甘酢のかかった肉団子をきらきらした目で見つめている。

   一見穏やかな夕食の風景だが、置かれている状況は複雑で最悪だ。

   先ほど見せてもらった古い一冊の本に関して。

   書かれている内容は謎で、解明するには存在するかどうかもわからないミラルレイクの賢者を探さなくてはならない。そのための情報を探るべくアキバへと移動する予定だ。同時に、この本を狙っている相手は、ウェストランデにあるミナミを統治する巨大ギルドである。どんな手段で奪いにくるか、など想定しきれるものではない。3日前にアリッサが重傷で逃げられたようだが、多分わざと止めをささなかったであろう事はわかる。大地人が死んでしまった場合、身につけていたものが一緒に消えてしまうからである。狙っている本まで消えてしまっては、元も子もないからだ。

   加えて、目的の為ならば身内の大地人を傷つける事を躊躇ためらわない連中が追手である。しかも冒険者だ。これが大地人に知られてしまえば、共存共栄に向けて歩き出している今の両者の関係を壊しかねない危険性を秘めている。

   さらに最悪なのは、アリッサは神聖皇国ウェストランデに所属する貴族のひとつ、森本家の姫様だという点だ。それが自由都市同盟イースタルの地にあるシブヤという街に、言いようによっては亡命してきたのだ。不穏な噂話の絶えない今、この事実が公になれば、それを元に言いがかりをつけて戦争勃発、も大袈裟ではないのである。

   アリッサを匿う事は可能だろう。軟禁状態に近い形にはなってしまうが、少なくとも命を失うような事にはならないはずだ。

   しかし、それは根本的な解決方法ではない。本を手元に置いている以上、常に狙われる状況は続くのだ。戦争回避には森本家に戻るのが一番だが、そうなればアリッサはたったひとりで本を守る事になる。待ち受ける結果は、わざわざ言葉にするまでもないであろう。相手に本を渡してしまえば済む話かもしれないが、箸の扱いに苦戦する姫様の直感を信じるなら、本を渡す事もまずい結果を招きそうだ。

   秘密裏に本の謎を解き、本に秘められた何かを無効化、またはそれに近い形にすること。

   アリッサの命を守り、ミナミの狙いを妨げ、戦争を回避するには、それしか選べない状況なのだ。

   「なるべく危険は避けたいなぁ」

   ケイが独り言のように言ったのは、購入してきた弁当を空にした時だった。

   何も考えてないような表情をしながらも、頭の中ではいろいろと思考しているようだ。緊張感のきの字も見られないが、彼なりに問題点は理解しているからこその一言であった。

   「アキバへの移動ひとつにしても、相手はモンスターだけじゃない。ステータス画面から名前を読み取れる冒険者だから、囮を使っての誘導作戦も使えない」

   「いくら近いとはいえ私達だけじゃ、アリッサさんを守り切るのは難しいかも」

   「その辺は手を打っておいたけど・・・。あいつ、動くかなぁ」

   山賊気取りのはぐれ冒険者ではなく、ミナミの統治ギルドを相手取っている可能性が高いだけに、増援体制も整っているだろう。それこそ、特撮ヒーロー系の倒しても倒しても減らない雑魚モブのように沸いてくるに違いない。幹部である老エルフが暴走しての単独判断であれば、地の利を考慮に入れたとしても多少の救いはあるかもしれない。

    ギルドの仲間達と弁当を食べたタイチが部屋に戻った時に、マサミが怒り気味に睨みつけた。

   「倍じゃ安くない?5倍はもらわないと、それでも足りないくらいだけど」

   わかってますよ、と困り顔でタイチが答える。

   「必要経費は別途で出しますし、依頼遂行に伴う過程で得られたアイテムやゴールドの所有はお二人に委ねますから」

   それでも不満らしいマサミが、意地悪そうな視線でタイチを睨みつける。

   「タイチさんにも動いてもらわないと、だ。円卓会議に参加してるギルドで猫乃亭ここが連携してるのは第八商店街さんのところだよね?」

    頷くタイチに先ほど彼が食べ損ねていたチョコチップクッキーを差し出す。

   「探してもらいたいんだ。古アルブ族の神聖文字を解読出来る人か、もしくは解読する方法を」

   あえてミラルレイクの賢者と足枷をつけず、目的達成できるであろう部分を幅広くして待ち受ける事で効率的にしたケイの頼み事に、タイチがなるほど、と感心する。

   「まずは、この本に書かれてる内容を確実に突き止める事が最優先だ」

   

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