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ひょんな手掛かり

「本当に申し訳ございませんでした。」

ひとまず土下座は止めてよ、とムウロに言われた少女は立ち上がり、そして再び謝罪の言葉を口にして腰を深く折り曲げた。

「まぁ、もういいから。一応、説明だけしてくれる?」

適当に買った家にそれ程興味が残っていないムウロは怒りもせずに、ただ家が無くなり、印を施したドアだけがひっそりと残っているか、その説明を求めた。

そして、彼女は頭を上げて説明を始めた。


「私の祖父の祖父が、全ての元凶です。」


少女はヒワ・スチュワート。

このクリオの街で代々大工を営んでいる一家の娘で、この家は曽祖父が作ったスチュワート家の家なのだという。

100年前、この街を大きな地震が襲った。後から噂になった話では、それなりに高位の魔族が従えている大量の魔族を使い王国に攻撃を仕掛け、それに対して要請を受けた神聖皇国が聖騎士を派遣して戦わせた。それはクリオの街のすぐ傍で行なわれ、その余波でクリオの街は被害を受けたのだった。

魔族達が退けられ、聖騎士達が神聖皇国に帰還した後、クリオの街にはほとんどの建物がボロボロで倒れかけている、そんな現状が残された。

大工をしていたヒワの祖父の祖父、高祖父は街で空き家に手をつけ、その空き家に家を依頼してきた一家を住まわせて、その間に一家の家を修復すると言うことを考えた。丁度、街には十年近く人の出入りの無い家があった。その家を壊せば、四軒は家が建つ。そう計算した高祖父は、近隣の大工仲間達にも声をかけ、普段以上の早さで家を壊し、四軒の簡単な家を建てた。そして、大工仲間達と協力し、その簡単な仮屋に移動した四軒の壊れかけている家を修復したのだった。

建てるのではなく、修復するだけ。高祖父とその仲間達の尽力もあり、クリオの街の建物は見る見る内に元通りになっていった。

全ての作業が終わった後、高祖父は仮屋として簡単に建てた四軒に手を加え、しっかりとしたものにすると一軒を自宅にして他を売りに出したのだった。


その四軒の家が、ムウロとシエルが姿を現したドアを囲む壁だった。

「おじいちゃんは、あのドア壊さなかったの?」

「どうやろうと、壊れなかったそうです。」


叩いても、切りつけても、燃やしても。

何をやっても傷一つつくことがなかったドア。ドアの板一枚だけ、周囲を完全に壊していっても、その板だけが直立したまま動くこともなかった。


十年、人の出入りが無かったからといって家を勝手に壊してしまうような高祖父だったが、流石に恐ろしく感じたらしく、伝手を頼ってギルドから魔術師を派遣させた。


「結界とか、そんなの?」

壊れなかったというドアに何を仕掛けたのだろう、とシエルが聞いたのだが、当のムウロも首を傾げていた。

「僕の印をつけて置いただけなんだよね。他は何もしてない筈なんだけど…」

ムウロにしても不思議で仕方の無い状態なのだと、困惑を隠せないでいた。


派遣された魔術師はドアを見た瞬間に息を呑んで、後退りしたそうだ。

"これには強力な術が施されている。自分ではどうしようもない。どんな魔術師に頼っても同じことを言うだろう。何時か、何十年、何百年経とうとも関係ない。このドアの前に現れる人物が居たのなら、誠心誠意を見せて謝罪しなければならない。でなければ、この国自体が無くなるやも知れない。"

そう言われても高祖父は半信半疑だった。それでも、あのドアの周囲だけをあのままに残して家を建て、建て直す時には自宅からドアの様子を確認出来るようにと窓を作る。そして、子供、孫にとドアの話を言い聞かせたのだった。


そうして、今日。

「それで、僕達が現れたから土下座までして君が謝ってきたって事か。」

ヒワの説明が終わった。

「はい。話も少し聞いてしまいました。本当に申し訳ありませんでした。」

また、土下座をしようとするヒワを、ムウロとシエルは止めた。シエルにしてみれば、土下座を何度もされては何とも言えない気分に襲われるし、ムウロにしては長い間忘れてさえいた家の事でそこまでされては自分の人格を疑われる気がして仕方が無かった。それがむさ苦しいような男とか気に食わない相手だったら追い打つをかけて遊ぶくらいするだろうが、目の前にいるのはシエルと年の近い若い少女なのだ。

「まぁ、別にどうでもいいんだよね。どうせ、泡銭で買った家だったし。」

そう、どうでもいいのだと肩を竦める動作をつけて少女に伝えた。

それに反応したのは、少女よりもシエルだった。

「ムウさん、それって嫌味なお金持ちな発言だよ。」

えっ、そうかな?シエルに指摘されて本当に驚いたムウロ。ムウロにして見れば、小さな家一軒を買う程度なんて事無いもので、何より当時使った資金は気紛れに参加した賭博で得たものだったのだ。ムウロの懐は一切傷ついていない。

首を捻るムウロを横目に、シエルは人懐っこさを全面に押し出してヒワに向かって「ねぇ、そうだよね。」と声をかけていた。

「え、えぇ。一応、我が家を含めた四軒はこの辺りでは大きな家なんです。それを建てれるだけの敷地を持った家を…泡銭…」

「いや。だって、賭博で稼いだんだから泡銭だよ。あの時は運が良くて賭博で儲けたんだよね。そんなに持っててもしょうがないし、たまたま寄ったこの街で、丁度売りに出ていた家を買っただけ。」

ムウロが小さいと思っていた家は、大きいと表現されるのがあっていたようだった。

「ムウさん、賭け事なんてするんだ。」

爽やかと表現されるムウロには似合わないような気がする。シエルは意外だと素直に口に出していた。

「ドルテ王国の王都は、そういう面で有名だからね、昔も今も。」

公共の賭博場では昼夜を問わず、お金がやり取りされている。

王都の一角に作られた、あらゆる商いが集まる遊覧街では、贅沢品としか呼べない物が平民が一生を送れる額でやり取りされている。

それらで得られる享楽を味わおうと、ドルテ王国へは近隣諸国の王侯貴族や懐の温かい人種が集まってくる。

ドルテ王国は、よく言えば観光都市、悪く言えば人を喰らう地獄の入り口。表から裏まで、様々な人種が集まり、金が集まる。小国ながら、近隣諸国に与えるその影響力は大きいものだった。


そこまでシエルに説明して、ムウロはあれっと冷や汗を流した。

そして、思う。

絶対にシエルから目を放さないで置こうと。



「そういえば。」

心の中で、「何も起こりませんように。」と自分でも意味が無いと分かっている祈りを捧げていたムウロの前で、ヒワが小さく呟いていた。

「どうしたんですか?」

それに気づいたシエルがヒワに聞いた。ヒワの目がムウロに向いている事から、何かムウロに関わることだろうと思ったからだ。


「いえ、高祖父の話では、最期に家から出て行くのを見たのは女の人だったと言っていたのを思い出しました。でも、出てきたのは男の人で。いえ、高祖父の勘違い、伝え間違いでしょう。すみません、変な事を言って。」


「…それって…」

どんな人だったのかな?何故か、それが気になって仕方が無くなったシエルは、頭を小さく下げて謝りだしたヒワに尋ねた。

もしかして、と思いが何処かで過ぎったのかも知れない。


「えっと。ちょっと、待って下さいね。」

ヒワは、自分を見上げてくるシエルの真剣な面持ちに、頭の奥深くから言い伝えられている話の中から尋ねられたことを探し出そうと目を閉じ、ウンウンと唸る。

「あっ、はい。えっと、15・6歳くらいの、肌が真っ白な貴族のお嬢さんみたいな人だったそうです。ショールを被っていたけど、多分髪は白かったっとも聞いてます。コソコソとしている感じだったから、お金持ちの公には出来ない家なんだろうって、勝手に壊すことにしたって聞いています。」

ヒワは言い終わると、また謝罪の言葉を口にしていた。

ここまで来ると、謝罪の言葉が口癖なのかもとシエルは思った。


「姉さんだ。」

祈りを捧げながらも、ヒワとシエルの話に耳を傾けていたムウロは呆然としていた。

「あっ、やっぱり。」

何となく、そうじゃないかと勘を働かせていたシエルは正解だったと喜びを露にした。

「良かったね。ディアナちゃんの手掛かりだよ。」

「…う、うん。良かった…いや、兄上には絶対に怒られるな…」

ムウロの家から出てきたというのなら、100年前という時期を考えてもディアナが家出をした時の事だろう。ムウロが施した印を使われたというのなら、ディアナが姿を消して半狂乱になっていた兄が知ったのなら何をされるか。


ムウロの頭を悩ませる事が二つに増えた。


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