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ウルルとマリア

「はぁい、ここがマリアの家よぉ。」

シエルを連れ、翼を羽ばたかせて空に舞い上がったウルルは一軒の家の前へとシエルを降ろし、掴んでいた腕も放した。


「あっ、ありがとうございます。」


体をフラフラさせながら、シエルはウルルに礼を言う。

木と葉っぱで作られた家の前に設置されている木の枝の上の広めの足場へと降ろされシエル。地に足がついた感じがまったくしない。頭のフワフワとしていた。

ウルルから見ても、危なっかしく見えたのだろう。

ウルルは慌ててシエルの、今度は腕ではなく手を握り締め、足を滑らしても大丈夫なように備えた。


「待ってねぇ、今マリアを呼んでぇあげるぅ」


家にある玄関に近づき、ドンドンと壊れそうな程強く叩くウルル。

「ちょっとぉ、マリアぁ!!大公の魔女ちゃんが来たわよぉ?何、頼んだか知らないけどぉ、早く出てらっしゃぁい!!」

十回程、扉を殴りつけたウルルが手を止めるが、家の中から反応は返ってこない。

「お留守ですか?」

ようやく頭がはっきりとしたシエルも耳を澄ませてみるが、人が動いている気配は感じられなかった。手を繋ぎ横に立つウルルを見上げ、留守ではないかと聞いてみた。

「そんなことぉ無いはずよぉ。だってぇ、出不精で滅多に外に出たりしないものぉ。」

前に外に出たのは半年前だとウルルは鼻で笑って言った。

「それって、ご飯とかはどうするんですか?」

「外に出た時にぃ、日持ちするものとかを溜め込むのよぉ。あとはぁ、誰かしらがぁ差し入れてるのよぉ。」

シエルの疑問に答えた後、ウルルはまた拳を作り扉に向かい叩きつける。

先ほどよりも強く叩き込まれた拳は、扉だけではなく壁や窓までもガタガタと揺らした。

「まぁりあぁ!」

シエルの耳を痛めつける程の声で、家の中にいると決め付けている家主の名前を呼ぶ。

ドン ドン

「これでも駄目ぇ?」

扉を叩く手を止めて、首を傾げるウルル。


「あれ、あの…」


「じゃあ、これでどぉおだ!」


シエルから手を放し、ウルルは体を一回転させると扉に持ち上げた足を叩き込んだ。

「もぉ!五月蝿い!!」


ドォン!


ウルルの足が扉を破壊しようとした時、標的にされていた扉が内側へと引かれてしまった。

出てきた女性のお腹へと吸い込まれていたウルルの足。


シエルは思わず目を瞑ってしまった。


「あらぁ、マリアぁ。危ないじゃない?」

のんびりとしたウルルの声が聞こえ、あっ大丈夫だったんだ、とシエルが目を開ける。

安心して目を開けたシエルが見たものは、内側に開かれた扉の向こう側で倒れこんでいる天人族の女性と、その脇にしゃがみこみ、頬に手を当てて困り顔をしているウルルの姿だった。

「あ、危ないのはアンタ…」

辛うじて聞こえる小さな声が女性から放たれ、僅かにだが小刻みに動いている体が見え、シエルはホッと息を吐いた。

威力がありそうな足技に見えただけに、もしかして死んでしまったのではと驚き、怯えていたのだ。だが、動いて言葉を発しているのなら、どうにか大丈夫だろうと安心することが出来た。

「出てこないマリアが悪いのよぉ。」

痛み止め持ってきてあげる。

そう言って、勝手知ったるとウルルは倒れたままでいる女性をそのままに、家の奥へと入っていった。


「だ、大丈夫ですか?」


「お邪魔します。」と言いながら家に入ったシエルは、倒れている女性を覗き込んだ。

お腹を押さえ、顔を引き攣らせて横たわったまま動こうとしない女性は、ウルルの言葉からすれば依頼主であるマリアなのだろう。

「誰?」

「始めまして、お届け物係のシエルです。ラブポイズンを持ってきました。」

笑顔で名を名乗り、籠の中から収穫してきたキノコ・ラブポイズンを取り出そうとするシエル。だが、それは突然起き上がったマリアによって押さえつけられ、シエルの手が持つラプポイズンが籠の中から姿を見せることは無かった。

「?」


シー


どういうこと?と首を傾げたシエルにだけ見えるよう、マリアは口の前に人差し指を立てて小さな声を出した。

それは、「静かに」という意味だと誰でも知っている動きだった。


「ウルルには秘密なのよ。バレたら殺される!!」


お願いだからと必死な表情で頼み込んでくるマリアの様子に、シエルはコクコクと声を出さずに首だけを縦に動かして同意した。

先ほどのウルルの動きを見ていても、あまり逆らってはいけない人だとシエルも感じていたからこそ、絶対に言わないでおこうとシエルは誓った。


「待ってて。ウルルを帰したら、ね!」

「はい。」


先ほどまで倒れて動こうとしなかったとは思えない機敏な動きで立ち上がり、マリアも家の奥へと入っていった。

寝転んだ時って翼は痛くないのかな、とどうでもいいことを考えながら、シエルはマリアの背中を見送った。

ラブポイズンから手を放し籠から手を抜いたシエルは、動いていいかも分からず、その場所で床に座り込み家の中を見回しながらマリアやウルルが戻ってくるのを大人しく待っていた。



「もう大丈夫だから!帰ってよ!!」

「えぇ、でもぉ、魔女ちゃんを連れて来たのは私なのよぉ?」

「はいはい、ありがとう!!じゃあ、さようなら!!」

「なぁにぃ?私に見られたら駄目なものをぉ頼んだのぉ?いやぁん。」

「変な勘違いしないで!クネクネするな!!」

「でも、あんな小さな魔女ちゃんにそういうものを頼むのはぁどうかと思うのぉ。」

「だから、違うって言ってるでしょ!!」

「本?それとも、道具ぅ?」

「あぁぁぁ!!!」




家の奥から段々と近づいてくるウルルとマリアの声。

その内容をあまり理解することが出来なかったシエルだったが、マリアがイラついている事だけは判った。

「なんか、前にフォルス兄が叔母さんと喧嘩してた時みたいだな。」

なんとなく、そんな気がしたシエル。村に戻ったら聞いてみようと考えていた。




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