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不安

他にも弄られてるかも知れない…

グレルは不安に襲われた。

幼い頃の、ほんの僅かな交流だけしかないが、それでもケイブが手を抜かない性格だと知っているグレルは、それぞれの階層に施した転移の術を使う為の印にも何かをされたのではないかと考えた。

今回は、すぐに帰ってくることが出来たが、次はそうはいかないかも知れない。

「シエル、ごめんね。」

グレルはシエルに同行することを止め、設置しておいた印を確認しにいくことにした。

他の誰が巻き込まれて如何にかなってしまっても気にも止めないだろうが、ロゼやシエルがと考えれば憂いはすぐにでも排除しなくてはいけない。

何より、グレルのプライドがそのままにして置くことを許せない。

その途中でケイブに遭遇することがあれば、絶対に痛めつけてやると決意したグレルはシエルに謝り、まずは手近にある印を残した地点に向かう。


「ううん。お仕事の方が大切だもん。」

真剣な顔つきになったグレルの様子に、気にしないでと首を振ったシエル。

笑顔で手を振り、「行って来ます」と去っていくグレルを見送った。


「じゃあ、俺がシエルに着いていくか。」

「えっ?」

グレルがいなくなり、一人で頑張ろうといきこんだシエルの肩にアルスが飛び乗った。

器用にもシエルの肩にバランス良く乗ったその体は、飛び乗った衝撃だけで後は何の感覚も刺激しない、生きている生き物だとも感じられないものだった。

「お前一人を行動させるってのもな。」

「そうね。そうしてもらえば?」

アルスにヘクスは賛同した。シエルを一人で行かせる事には少なからず不安がある。それは、表情からそうとは読み取れないヘクスも同じだった。

「でも…」

「なんだよ、その顔。俺じゃ不満か!!?」

肩にぶら下がるアルスに向けられたシエルの顔は、何とも言えないと顰められている。

肩をポンポンッと叩き、アルスは抗議を露にした。

「だって、叔父さんなんか来たら皆が怖がるんじゃないの?」

迷宮の主で、大公位にあるアルスが突然現れれば驚き混乱させてしまう。シエルはそう考え、アルスの同行に首を傾げたのだ。

「こんな愛くるしい俺に向かって何を言う。」

胸を張ってみせるアルス。確かに可愛らしい姿ではある。シエルは別にアルスだろうと構わずに抱き上げ、その毛並みを堪能したが、この仔犬のような存在がアルスだと知っていて撫でくり回すことが出来る魔族がどれだけいるのか。シエルだって、そんな事を出来る存在がそうはいないというくらい分かる。

「その姿の時は正体がばれないものなの?」

姿が変わるだけではなく、気配が違うものになるのなら魔族も気づく事は無いかもしれない。そう思いシエルは聞くが、アルスは胸を張ったまま「俺がそんな細かい事が出来ると思うか?」と威張ることでも無いことを言った。


それって、どうなの?


シエルは口には出さず、呆れた目だけでアルスに訴えた。

「じゃあ、目的の場所の近くまで送ってくだけにしておいてやるよ。それならいいだろ?」

居た堪れないシエルの目を受け、アルスは譲歩した意見を言う。シエルを一人でいかせるという事だけは避けたいと思うからこそだった。

アルスにとって、シエルは可愛がっている子供で、自分の保護下に置く魔女だ。そして、手掛かりになると確信している大切な存在なのだから。





「兄上。あんた何したんですか?」

ムウロは珍しく『銀砕大公』の城へと帰ってきたケイブを見つけ、笑顔で詰め寄っていた。

鬱陶しい義姉・義兄達をアルスに処罰させようと思い連れ帰ったのはいいが、肝心のアルスが地上へと意識を送り出し、その体はピクリッとも動かない眠りの状態だった。

仕方が無いので、ムウロ自身が力を振るい、しばらくの間動く事も出来なくなる程度の傷を負ってもらうことで、ムウロは自身の燻る怒りを納めることにした。

ケイブに会ったのは、ムウロにとっては適度に痛めつけ、シエルの下へ帰ろうとしているところだった。その直前には、地上にいるアルスからシエルに起こった出来事について聞かされ、早く帰るようにと連絡まで受け取っていたこともあり、ムウロは怒りを笑顔に込めてケイブに詰め寄ることになったのだ。

「は?何って、何よ。」

ケイブにしてみれば、久しぶりに気が向いたから立ち寄っただけ城で、つい最近会ったばかりの弟に詰め寄られただけでも訳の分からない状態になっていた。

「シエルの兄の魔術に介入して、カフカの迷宮に飛ばしたって、父上に聞いたんですが?」

「あぁ!!グレルの事か。お?あれってシエルも巻き込まれたのか。」

「見事に巻き込まれましたよ。転移の術に介入するって何を考えてるんだか。」

ムウロはケイブの胸元にぶら下がり光る小さな石を睨みつける。

それが、ケイブの持つ転移など空間を操る魔道具だった。強力な魔女によってケイブに贈られたその魔道具は、ケイブによる被害を拡大させる一因となっているといっても過言ではなかった。

「別に出口を塞いだ訳でもないから、いいじゃねぇか。ちゃんと、外には出れたんだろ?」

「出た場所が問題だと思うけど?」

「そうか?あいつなら大丈夫だと思ってやったんだけどな?」


「そっちじゃなくて、カフカが関わると兄上に繋がるってこと。あちらと確執でも生まれたらって考えなかったの?」

ケイブが考えている心配は、転移で送られる予定だったグレルの事。

ムウロが考えている心配は、転移で送られた者が騒ぎを起こし、その責任や原因を探り当てられた時に起こる二種族の諍いだった。


「あぁ、それもあったな。まぁ、そん時はそん時だろ。なるようになれって事だ。」

「それのせいで、何回も死に掛けた事があるっていうのに。いい加減、学習しなよ?兄上。」


能天気過ぎる兄の答えに、ムウロは深く息を吐いた。

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