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気づいたのは・・・

グレルが心配して通り、グレルの転移の術に気づいた者がいた。


「『氷棘』の奥に出入りした者がいるな。珍しい。」

執務室で書類を片付けていたゴーステッグ神聖皇国の皇王が、その忙しなく動いていた手を休め呟いた言葉は、傍に控えていた秘書官や文官達の動きを止めさせる事に成功していた。

「陛下。それは本当ですか?」

秘書官が驚きの声を出し、皇王が言うことなのだから間違いを無いだろうと思いながらも、一応はと恐る恐る尋ねた。


「あぁ。気配は二つ。これは覚えがある気配だな。」


珍しい事もあるものだ。

皇王は顔に出す事は無いが、驚いていた。


皇王は、普通とは異なる血を継いでいる。

その為、通常とは異なる時間をその身に刻んでいた。今はまだ、人として通用する年齢に留まっているが、このまま行けば人の寿命を遥かに越えて、皇王の玉座に君臨し続けることだろう。

そんな皇王は、彼に仕える秘書官や文官達が生まれるよりも前の記憶をはっきりと覚えている。そんな彼の記憶を持ってしても、『氷棘の迷宮』へ誰かが潜り込んだというものは数少ない。それが、第二階層以下であるなら、片手に足る程だろう。


名のある冒険者が人に友好的な魔族の協力を得て『氷棘』に挑戦した記録によれば、かの迷宮は第8階層まであり、その全ての階層が白以外の色の無い雪原が広がっているという。得られるものも少なく、何時しか挑戦するものの少ない迷宮となり、数少ない奇特な挑戦者達もほぼ全滅していった。その為か、難攻不落な迷宮の一つに並べられるようになっていた。


「帝国の天つ才だ。連れは、何時も一緒に行動しているという"破壊の妖精"ではないかな?」

皇王は、以前他国に外遊した際に偶然見ることとなった、帝国の有名な三兄弟の一人、補助系を得意とする魔術師グレル・アルゲートの姿と、彼が操った魔術の気配を思い出す。

確かに、皇王が国に張り巡らせている知覚の網に感じた気配とそれは同一だった。

そして、2つの内の1つには覚えは無かったが、彼の双子の妹だという攻撃魔術を得意とする"破壊の妖精"てはないかと予想を立てた。

「だとすれば、帝国が『氷棘』に何の用だと言うのでしょうか。」

帝国の軍人である彼等が、他国の領土の中にある迷宮に通達も無く入るなど、余程の理由が無ければ有り得ない事だと文官達は眉をしかめて、頭を悩ませている。


個人的行動の、失敗。

そんな事を考えつく訳も無かった。


「『氷棘』の主は、吸血鬼の女王の第4子、名はカフカ。まさか、『銀砕大公』の迷宮を抱える帝国が吸血鬼族と手を組む事は考え辛いが…。あぁ、そういえば…」


「何か?」


何かに気づいた様子の皇王の言葉を、文官達は待った。


「いや。吸血鬼の王族と魔狼の王族。その繋がりになる存在を思い出しただけだ。」

皇王の言葉に、文官達は文献にも何度か名前を覗かせる存在を思い出すことが出来た。

「『灰牙伯』の事でしょうか。」

「そうだ。」

吸血鬼族の女王『夜麗大公』を母に、魔狼族の王『銀砕大公』を父とする魔族、『灰牙伯』ムウロ。『銀砕大公』の使いとして幾つかの文献に姿を見せる彼は、人の世でも名を知られている魔族の一人だった。

「最近、『銀砕の迷宮』が変性し、それに大公の魔女が関わっていると聞いた。大公は、魔女を『灰牙伯』に守らせているとも聞いたな。それが、関わっているやも知れん。」


他言は無用。

そう言われ、皇王から聞かされた話は、確かに他言には出来ぬものだった。一度外に漏れれば、大きな騒ぎとなるだろう。

文官達は息を飲んだ。


「詳しくを、聞いてみる必要があるな。」


皇王は、執務室の窓から臨める高い塔に目を向けた。

そして、静かな動きで席を立つ。


誰もそれを止めるものは居らず、皇王の背中を見守った。




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