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扉を抜けるとそこは・・・

グレルとシエルが扉を潜り、赤い光に包まれ降り立ったのは、一面真っ白な雪原の世界だった。


「寒い」

「寒いね」


二人の口からは、白く染まった息が吐き出される。

ついさっき、雪原に足をつけたばかりだというのに、二人の指先は凍え痛み始めてさえいた。

シエルが育ったミール村にも雪は降る。毎年、村は真っ白に染まり、多い時にはシエルの膝丈まで雪が降り積もる。

本当に寒さの厳しい冬には、扉が雪で遮られ、家の中に溜めておいた水でさえ凍りつくこともあった。

けれどシエルの知る、そんな冬の光景が生易しく感じられる寒さと光景が、今シエルの目の前に広がり、シエルに襲い掛かっていた。


ここは一体、何処なのか。

寒さに震えながら、二人は同じことを考えていた。

グレルは、幼い頃に何度も挑んだことのある村の周囲にあった迷宮『銀砕の迷宮』や『紅月の迷宮』などのどの階層とも違う光景に、まさか別の迷宮へと飛ばされたのでは無いだろうかという考えを過らせた。グレルがまだ赴いたことの無い階層、変性によって新しく作り替えられた階層、そんな可能性もある。だが、空間から僅かに感じ取れる気配が、村の周囲一帯の迷宮を取り込んだ『銀砕の迷宮』で感じたものとは違う気がしていた。

もしも、本当に『銀砕の迷宮』以外に来てしまったというのなら、まずはここが何処なのかを把握しなくてはいけない。

場所を把握しない事には、転移の術を使うことが出来ない。

何より、『銀砕大公』の魔女であるシエルの存在が危ういものだった。

銀砕の配下ではない者の迷宮だとしたら、それが敵対する大公の配下であったなら、シエルに危害を加えられる可能性が高かった。

グレルは手を擦り合わせて寒さを凌ごうとしているシエルに目を向けた。


「あぁ、そうだ。」


グレルは指をシエルに向け、くるりと回した。

すると、シエルは温かい空気が自分の周りを包み込んだ事を感じた。

「どう。もう寒くない?」

そう言うグレルも、もう吐き出す息を白色にしていなかった。

「前に冬の山に任務で行った時に作った術なんだ。」

グレルを見れば、その体の回りを薄紅色の膜が覆っている様子がシエルにも見て取れた。

自分の手をよく見れば、グレルと同じように膜に覆われている。


「ありがとう。凄いね。」


「どういたしまして。」


だんだんと感覚が戻って行く手足に目を輝かせて、シエルは笑顔を浮かべた。

その笑顔をグレルに向け、お礼を言う。

グレルは胸の奥底から温かなものが浮かび上がるのを感じ、シエルに笑顔を返した。

シエルのように、素直な感情を向けてくる相手など長らく会うこともなかった。まして、グレルにとって簡単過ぎる術に対して凄いなんて純粋な気持ちで褒められるなんて、それが嬉しいことなんて久しく経験することはなかった。


「何処なのかな、此処。」


グレルを見上げ、問い掛けてくるシエル。

グレルは、この可愛い妹を何があったも守ろう、と決意を新たにした。


「多分、違う迷宮だよ。だから、魔女って事は秘密にしておこう。」

シエルの問いに、グレルが今感じていることだけを伝え、そしてシエルに忠告を言い渡した。此処が誰の迷宮だと分かるまでは、極力隠しておいた方がいいだろうと説明を交えながら言えば、シエルは分かったと頷いた。

シエルは、こんな状況となってはグレルに『遠話』のことを話してもいいんじゃないかと思って頭を悩ましている中に伝えられたグレルの忠告。実を言うと、話半分できちんと理解する前に反射的に頷いていただけだった。


「さぁ、どうしようね。」


グレルが見回し、シエルもそれに釣られて見回した周囲一帯は雪原が果てしなく広がっている。此処が何処なのか尋ねようにも人の影どころか魔族の影形もない。

目印になるようなものさえ無い。

何とかして下にしろ上にしろ階層を移動することしか方法は無いだろうとグレルは考えた。


行こうか。

シエルの手を繋ぎ、グレルは安心させるように笑顔を浮かべ、移動を始めようとした。


「うん。…?」

繋がれた手を握り返し、グレルの後ろに着いて行こうとしたシエルだったが、何かが頭に引っかかり視線をさ迷わせていた。

なんだっけ。えぇっと。

そうして浮かんできたものに、シエルは大きな声を上げた。

「あっ!!」

突然のシエルの大きな声に驚いたグレルは振り向いた。

シエルは、そんなグレルに申し訳なさそうに眉間を八の字に下げて、小さく「ゴメンなさい」と呟いた。


「どうしたの?」

「地図!アルス叔父さんに地図を貰ってるよ。」


シエルが思い出したのは、アルスから貰った地図の存在だった。

ムウロをして、過保護だの甘やかしてる、などと言われたシエルの地図は使用者が思い浮かべただけで現在位置から目的の場所までを写し出す。

それを使えば、今シエルとグレルが居る場所が何処なのか程度、すぐに分かることだった。


シエルは、何のことだと首を傾げているグレルの目を受けながら、自分の籠から一枚の地図を取り出した。そして、それをグレルにも見えるように大きく広げ、ここは何処なのかと念じた。


『氷棘の迷宮』第3階層


地図に浮かんだのは、そんな文字だった。

それを見て、グレルが息を飲んだ音がシエルの頭上から聞こえてきた。


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