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また・・・

「ムウさん。ここにも一杯生えてるよ?」

「あぁ、本当だね。」

グチュグチュと音を立てて森の中を進んでいくと、あっちにも、こっちにも、たくさんのキノコが生えているのをシエルは見つけた。

黒に赤紫の斑点のあるラブポイズンだけではない。色とりどり、形も様々なキノコが所狭しと群生していた。

ラブポイズンだけを手に採っていくシエル。十本も採らない内に腕の中をキノコで溢れさせたシエルを見かねてムウロが何処からともなく大きな布を取り出し、その中にラブポイズンを集めるようにした。

その布も、20本を越えた頃には一杯一杯になっていった。

「ねぇ、ムウさん。何本って書いてないけど、これくらいでいいのかな?」

「まぁ、足りないってことはないだろうね。」

惚れ薬に興味を持ったことの無かったムウロは、材料としてラブポイズンがどれだけ必要か知らなかった。だから、シエルが機嫌よくラブポイズンを採取していく様子を止め時が分からなかったのだが、さすがにこれ以上の量が必要ということはないだろうと思い、それをシエルに伝えた。

「あっ、でも最期にあれを採って終わりにするね」

シエルが指差したのは、少し奥に一本だけ生えていた一際大きく育ったラブポイズンだった。充分な量を採取しているのだが、採取してきたものよりも大きなものを見つけたら採らなければと思ってしまうのは何でだろう。シエルは自分でも分かっているのだが、それでも採りたいという考えは抑えられなかった。


それは、シエルの腰程の高さの段差を上がった場所に一本だけ生えていた。


シエルはよじ登るように段差を上がり、巨大なラブポイズンを採ろうと近づいていった。


「シエル。それには触らないで!!」

シエルがラブポイズンに近づいていく様子を何か覚える違和感を感じながらジッと見ていたムウロ。シエルがもう少しでラブポイズンに近づこうという時、ムウロが声を上げた。けれど、それはもう遅く、シエルの手は巨大なラブポイズンに触れていた。


しっかりとシエルの手に捕らわれたラブポイズンがその瞬間に消え、驚くシエルの足元も消えていた。遠目から見れば一瞬で姿を消したと思えたのだろう。


「シエル!!?」


シエルの姿は穴の中には無かった。

それもその筈だろう。

ムウロの目には、穴の底に転移術が発動した跡が見えていた。

そして、その術からは良く知った気配を感じ取っていた。


「何のつもりですか?父上のお叱りを受ける、覚悟はあるんでしょうね」

ムウロがそう声をかけると、周囲で大きく空気が動いた。





「ここは?」

シエルは瞬きをして、周囲に首を振って辺りを見回してみた。パッと見は、あまり周囲の様子はさっきまで居た場所と変わりないように思える。ジメジメした空気に、液体が染み出る地面、薄暗い森。唯一違うといえば、ムウロが居ないくらいだった。

「ムウさんが居ないってことは何処かに移動しちゃったって事だよね?」

足元に突然穴が開き落ちた。

そして気がついたら、ここにいた。

シエルには覚えがあった。これはケイブの落とし穴と同じように移動する術が穴の中にあったんだと考えついていた。

「どうしよう…」

前も、左右も、そして後ろもただ薄暗い森が広がっている。

ここが何処なのか、第9階層のままなのか、それさえも分かっていないのに帰り道など分かるわけもない。ムウロも居ないとあってはシエルは途端に不安に襲われた。


「誰?」

「えっ?」


それはシエルの言葉でもあった。

先ほどまで誰も居ないと思っていた目の前の木々の間に、一人の青年がいた。

何の荷物も無く、身一つでそこに立っているその姿は、町の中でブラブラと時間を持て余している人のようだとシエルは思った。そんな姿の青年の出現に、ここが迷宮の中であるとは思えず、もしかして迷宮の外に出てしまったのだろうかとシエルは驚き、涙を目に滲ませた。


ど、どうしよう。

こういう時はアルス叔父さんを呼んでもいいのかな?


シエルは考えていた。出来るだけ、迷宮の主であるアルスには頼らないでおこうと思っていた。けれど、何処だか分からない場所で、ムウロとも離れ離れ。こうなってしまった理由も分からないとあって、シエルは少しだけ慌てていたのだ。


「もしかして、シエル?」


突然、見も知らない青年に呼ばれた自分の名前。

頭の中でグルグルと目を回していたシエルも、驚くと同時に冷静さを少しだけ取り戻し、青年へと意識を集中させることを思い出した。


「誰?私のこと、知っているの?」

シエルは青年を改めて良く見た。

黒い髪に青の目。そして、その顔。

何処かで見たことがあるかも、と頭の何処かに引っかかるものを感じたシエルは、それを素直に問いかけることにした。相手もシエルの名前を知っていたのだ。何処かで出会って話をしていたのかも知れない。

「僕はグレルって言うんだ。皆が言っていて通りだ。母さんに似ている。」


グレル?

シエルは首を傾げた。

知らない。そんな風に答えようとした寸前で、シエルは思い出した。余計なことを言わなくて良かった、ホッと息をついていた。

「…お兄ちゃん?」

グレル、それはまだ会ったことのない下の兄の名前だった。

そう思えばグレルの顔に、ヘクスが隠し持ち、シエルが秘かに見たヘクスと三人の幼い子も小さな絵姿に書かれていた男の子の面影があった。




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