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焼き菓子

「これ、お届け物の焼き菓子です。」

箱に入った幾つかの種類の焼き菓子を見て、ユーリスはニコニコと喜んだ。

「わぁ、ありがとう。地上のお菓子って中々手に入らないから助かったよ。」

シエルに言われるとおりに依頼書にサインをして、ユーリスはさっそく箱の中のクッキーに手をつけた。一口齧り、美味しいと喜んでいる。


「そんなに甘いものが好きなんですか?」


地上のお菓子を手に入れてたい。そう思うくらいだから、甘いものが好きなんだろう。

そう思い聞いてみたシエルだったが、返ってきたユーリスの返事は変わったものだった。


「好きなことは好きだけど。これは仕事用なんだ。」

「仕事用?」

そう言いながらも、箱を開けているし、食べている。

何の仕事なんだろうとシエルは好奇心を刺激された。

ムウロはというと、シエルの後ろで「もしかして」と予想をついていた。


「レイ様にね、うちの食材を使ってお菓子を作れって言われてて。本当に、何を考えてるか分からないんだけど。命令には逆らえないし。」

何か知ってる?とユーリスがムウロを見たが、ムウロは知らないと首を振る。予想としては思い当たるものがあるが、兄が何を考えているのか知らないのは本当だ。

「でも、ユーリスさんのだったら美味しそうなのが出来そう。」

試食させてもらったものの中には、ヨーグルトやアイスもあった。

それらもシエルが食べたことが無いくらいに美味しいものだった。これからユーリスによって作られるお菓子は想像するだけで美味しそうだなぁとシエルは楽しみだった。

「ありがとう。」

「出来たら、買いにきてもいい?」

「うぅん…どうかなぁ。レイ様がどうするつもりかによるんだよね。大丈夫だったら、知らせを出すよ。ムウロ様に知らせればいいよね。」

「うん。」

シエルの申し出に肩を竦めたユーリスだったが、出来たらという約束をシエルと交わした。そして、その知らせをムウロに出すということも、ムウロに確認する事なく二人で決めていった。

ムウロはというと、すっかりとシエルが信頼してくれている様子になんだかむず痒さを感じていた。


「前にもねぇ、熱を出したディアナ様の為にアイスを作れって言われて、上手くいったから売り出そうとしたら"それは姉上のアイスだ!"とか言っちゃってさ。ディアナ様が諌めてくれなかったら、本当にアイスは売り出せなかったところなんだよね。」

「あぁ、あったね。そんなこと。」


「…一体、どんな人なの?」


色々と話を聞いたが、ディアナちゃんが大好きな弟というイメージしかシエルの頭には浮かんでこなかった。実質、吸血鬼を率いている。公爵位。怖い人。

そんな風な話も聞いているが、シエルの頭ではそんな部分は押し潰されて掻き消えていた。


「シエルは、会った瞬間に父上を呼んだ方がいいかな?」

「そうだね。ムウロ様じゃ役に立たないから」

「酷い。でも、本当にそうだね。」

ユーリスの物言いに胸を押さえたムウロだったが、兄相手では自分が役には立たないと自覚している為、すぐに肯定して、「僕じゃ無くて父上を呼ぶんだよ」とシエルに言い聞かせた。

「ディアナちゃんのお願いするのは?」

「火に油、かな?」

「分かった。」

『遠話』で姉であるディアナに説得してもらう。そんな考えはどうだろうと聞いてみたのだが、件の人物をよく知る二人は真顔で制止してきた。その顔に、シエルは言うことを聞いておくことにした。



「今、試しに作ったものが幾つかあるから、良かったら持っていってよ。」

そう言って、ユーリスは5つの小さな袋をシエルに手渡した。

3種類のクッキーにマドレーヌ、ビスケット。

ありがとう、とシエルは礼を言いながら目を輝かせている。

それも命令の内だったんだ、と覗き込んだシエルとムウロの視線に気づいて教えてくれたのは、一枚一枚に可愛らしく飾り付けられたデコレーション。

色とりどりのそれらは、砂糖で出来ているんだとユーリスは説明してくれた。


「あっ、分かった!!恋人が出来たんだよ!!」


シエルが可愛らしい飾りつけを見ていて、顔を上げてムウロとユーリスに思いついた考えをどうだろうと聞いてみたのだが、今まで以上に首を横に振って青褪めるという姿に、不正解なんだなと少しだけ口を尖らせた。


「知らないって恐ろしい…」

「あの方に恋人…無い、ナイナイ。」


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