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無自覚な疑問

どうして?


えっ?


真剣な面持ちのアルスの頼みに、シエルが返したのは、キョトンとした表情と疑問の声だった、了承か拒否、返ってくる返事はそのどちらかだと思っていたアルス、そしてムウロは目をこぼれ落としそうな程に開いて驚いた。

ヘクスは、「そうね。どうしてかしら。」とシエルの疑問に同調して首を傾げている。

「どうして?って、何が?」

凍りついているアルスに変わり、ムウロがシエルに尋ねた。


「自分でしないのって事だよ。」

「そうね。」


シエルとヘクスの目が、アルスに集まる。


「だって、アルス叔父さんは大公なんだよ?すっごい人なんだよね。」

その言葉は、ムウロの目を見上げて言われた。

「う、うん。そうだね。」

ムウロは頷く。

その目は、シエルを見ると同時に、その膝の上にいるアルスを映していた。

「魔界で一番強くて」

「一番って言っちゃたら、他の方たちとかと戦争になりそうだけど、6人しかいない大公の一人ではあるね。」

大公たちは、自分の力と、魔王によって授けられた大公の地位に高い誇りを持っている。一番などと勝手に名乗れば、『銀砕大公』の領土は他5人の大公たちの総攻撃を受けることになるだろう。

そうなれば、ムウロはどちらにつくのだろうか。

それは、ムウロは自分でも、まだ分からない。

「長生きで」

「魔王陛下が誕生するより前からいるらしいね。」

大公たちは、魔王が魔女から誕生する前から、その力で多くの魔族を支配していた。そして、魔王の誕生を感じると、その下に馳せ参じ忠誠を誓ったと言われている。

「部下が一杯いるんだよね?」

「まぁ、確かに配下はいるよ。血の繋がる一族も、ね。」

爵位を持っている配下も多くいる。配下である彼らはアルスの命令一つで喜んで動くだろう。数十人いるだろう子供は、アルス曰く反抗期だそうだから、どうかは分からないが。


ムウロの視線の中に映るアルスが段々と、その犬のような体を小さくしていく。


「なら、アルス叔父さんが自分で探した方が、私に任せるより確実で早いでしよ?」


段々と小さくなり、何処と無く影が薄くなっているように見えるアルスに、ムウロの視線は釘付けになった。そして、その原因にも気づいていた。

「だって、私ただの人間だよ?アルス叔父さんは、伝説でも大活躍してる『銀砕大公』なんだから。人を探すくらい簡単でしょ?」


「シエル、シエル、父上が大変。」

これ以上ないっていう程に影が薄くなり、小さくなったアルスを指差して困ったように笑うムウロ。その指先に釣られてシエルが自分の膝を見下ろすと、そこにはプルプルと震える小型犬になったアルスの姿があった。

可愛い。思わず、感じてしまった。シエルはそれを口に出しそうになったが、何となく見上げたムウロが首を振ってシエルを止めた。何となく、シエルの表情の動きを見ていたムウロはシエルが何を考えているのか思い至ったのだ。

「もう、勘弁してあげて?」

ムウロの頼みに、シエルは頷いた。何が悪かったのか分かってはいないが、ムウロの表情にアルスの様子、シエルは空気を読んだ。

「これって、あれだよね。本とかである、真っ白になるっていう事だよね。」

それでも、アルスの様子が物語に見るような状態だと思いつくと、声を出してムウロに確かめることを止める事が出来なかった。

「うん。そうだね。その言葉がピッタリな状態だね。」

あんまりなアルスの姿に、居た堪れなくなったムウロが目をゆっくりと背ける。そんな中、シエルは動かないアルスの頭を手で突いていた。


アルスから目を離したムウロは、シエルの手に乗っている箱に視線を向けた。

その箱は一目見ただけで、ムウロにはアルスが箱に対して何を思ったのかすぐに理解した。

そして、ムウロは沸き起こる好奇心に負け、シエルの手の上の箱に手を伸ばす。

ヘクスが言うには刺激が走る。

アルスが体験したというのは、手を焼く黒い稲光。

触れば何かが起こる。

それを分かっているから、ムウロは警戒して身構え、箱に触ろうとする事が出来る。


ムウロが箱に触る。アルスを突いていたシエルはゴクリと息を飲み、ヘクスは石に座り直して鍋に残ったスープを焦げないようにかき回し、ムウロの様子を見ていた。

落ち込んでいる最中のアルスも空気が変わった事に気がつき、顔を上げた。


ピリッ

「あれ?」

緊張して箱に触れ、すぐに手を離したムウロだったが、首を捻った。

そして、もう一度、箱に手を伸ばすと、そのまま箱をシエルから持ち上げた。

「ちょっと、ピリピリするくらいかなぁ?」

その言葉の通りにピリピリと手の平が痺れる感覚に眉を寄せたまま、箱を触り、クルクルとその様子を見て回した。

「本当に、黒い稲光が出たの?」

アルスの手を焼くような危険なものが出たなんて想像もつかない。

その光景を見ていないシエルも不思議に思いヘクスに顔を向けるが、ヘクスも「あら、不思議なものね」と驚いていた。


なんでだよ!!


アルスが復活した。

そして、第一声でムウロに怒鳴りつけた。


「ほら、この手。なんで、お前ならいいんだよ!!?」

シエルの膝の上から飛び降り、一瞬にして普段の人の姿に変化したアルス。

赤黒く焼け爛れた痕を残す手をムウロの目の前に見せつけた。


「これは凄いね。大公の再生能力を跳ね除けて、こんな傷痕が残ってるなんて…」


アルスの怒鳴り声はムウロの耳を突き刺す。

けれど、耳の痛みも気にならないくらいに。ムウロはアルスの手の平をマジマジと見ていた。

大公の持っている再生能力は、腕を引き千切られても数日かければ元通りになる程だ。手の平を焼く程度で、赤黒く引き攣っている、焼け爛れた痕を残す筈が無い。

それが残っているということは、アルスが持っている再生能力を阻害する程の、アルス以上の力で攻撃されたということだ。


やっぱり、このちからって…

近くにいるアルスにだけ聞こえる、小さく呟いたムウロ。

「何だ、気づいたのか?」


「当たり前でしょ?僕のことを馬鹿にしてるの?」

懐かしい力に気配、ムウロはしっかりと箱から感じ取っている。


「ムウさん、箱が大丈夫なら鍵は?」

シエルが手を伸ばし、ムウロが持ったままになっている箱の蓋を開け、アルスに中の鍵を見せる。そして、期待の目をムウロに向けてきた。

期待の眼差しを受け、ムウロはまた箱に手を伸ばした。


箱の中の鍵に手を伸ばしたが、その指は鍵を擦り抜けてしまった。


「こっちは駄目みたいだね。」

ムウロは、シエルに箱を返した。

シエルが伸ばした指は、箱の中から鍵を持ち上げる事が出来た。


「不思議だね。」

「うん。不思議だね。」


箱を挟んで首を傾げあう二人を見て、アルスが頬を膨らませていた。

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