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ディアナ

「まずは、どうやって調べようかしら」


つい先程まで、心地よい窓から差し込む日の温もりを浴びて、うとうとしていた事がまるで無かったかのように、ディアナは笑顔を浮かべて頭を捻っていた。


ディアナの大切な友人であるシエルとは、予想もしていないような始まりから、頻繁にお互いの事を話し合うようになった。


困るほどに心配性の弟に黙って、地上に抜け出たのは100年程昔の事。

初めて一人で訪れた地上では、世間知らずなディアナは様々な苦難に遭遇した。不安がありながらも、それでも一人で大丈夫だと思い地上に来たのはいいが、そこでディアナは自分がどれだけ母や弟に護られ、大切にされてきたのか理解した。そもそもは、ディアナが暇を持て余さないようにと贈られた、遠方を自由に映し出す鏡を眺め、地上に興味を持っていた。ただ、それだけの理由だった。

あまり丈夫ではない自分の体では少し無茶をしてしまうがしょうがない、とディアナは自分を捕らえた人買い達をどうにかしようと行動に移した。

ダンピールであるディアナだったが、『夜麗大公』を母に持つ身。そして、幼い頃から母や、母の友人達である大公たち、姉と慕う『魔女大公』に、時には魔王の血をおやつ代わりに得ていた。そんな実力者たちの血を目を開ける前から摂取していたせいなのか、ディアナの体に宿る魔力は巨大で濃厚だった。そのせいで、半分人間のディアナには操ることが出来ないのだが。

場数を踏んだ人買い達であっても、遅れを取ることは無い。

そう思い、ディアナが動こうとした時に、後の夫となった男と出会ったのだった。

男と結ばれ、子を産み、二人に護られながら人の国の中で生きてきたのだが、夫も息子も、大きな国で高い地位に上り詰めた。その為にディアナには気安く話が出来る友達のような相手は少ない。シエルのように気兼ねなく話せる友達が出来て、ディアナは本当に喜んだのだ。

そんなシエルに頼みごとをされ、ディアナはやる気に満ちている。


ディアナも、『魔女大公』のことは気にはなっていた。

けれど、彼女の事はあまり心配はしていない。

どんな窮地に陥ろうと、最終的には自分の良い方向へと引き釣りこんでしまう。そんな人だった。周りがどれだけ慌て乱れようと無駄に終わってしまうのだ。


それに、見つからない方がいいと思う気持ちもあった。

何故なら、彼女が見つかってしまうという事は、大戦の再来となってしまう可能性があるからだ。『魔女大公』は魔界にとって重要なものを持って姿を消した。それが彼女以外に渡れば、新しい魔王が生まれ、そして衝動のままに世界を破壊するだろう。

そんな事になれば、ディアナの愛する息子は確実に死ぬことになる。夫の愛した国が消えることになる。だから、ディアナは『魔女大公』が見つからない方がいいと願うのだ。

優しかった姫姉様、『魔女大公』がそんな事を望まない事も分かっている。

けれど、多くの魔族は彼女の思いなど無いものとして動くだろう。

そうなれば、どうしようもない。

大戦の際に彼女に最後まで付き従った『魔女の従者』は人だった。ならば、どんな手段を用いたとしても、すでに亡くなっている筈だ。

彼女を護るものは居ない。


友人の願いを叶えてあげたい。姉のように慕った人に再び会いたい。そんな思いから動こうとしているディアナだったが、その片隅には見つからないで欲しいと願う思いがあった。


コンコンッ

「母上。」

窓の外に広がる青空に見上げ、どれだけ時間が過ぎたのか。

顰め面をした息子が、開いた扉を叩き、自分が来たというのに振り向きもしない母親の気を引き寄せた。その音で、息子の目論見通り振り返ったディアナは空を見上げていた思案顔から、笑顔へと変化した。

「カルロ!今日は早いのね。」

息子であるカルロの仕事が終わるまで、まだ時間があったと思っていたディアナは驚いた。けれど、シエルの話はカルロにも伝えておこうと思っていたので、喜んだ。

「何時もと同じ時間です。」

「あら、そう?」

思いのほか、考え込んでしまったようだった。

「そうです。何を考え込んでいたんですか?まさか、また変な事を考えていたというのなら…」

「変な事なんて考えてないわ。お友達のシエルちゃんに大切な頼まれ事をしたのよ。その事を考えていたの。」

「へぇ、何をですか?」

ディアナはシエルの事をカルロに説明していた。

その説明から、シエルが『勇者の祝福』を持っていることに気づいていたが、暇を持て余し、忙しさにかまけて相手をしてやれないカルロの代わりにディアナの心を慰めてくれるのならばと何も言わないでいた。

「『魔女大公』の行方」

「はっ!!?駄目ですよ、絶対に。探す必要ありませんからね!」

どうせ女性特有のくだらない内容だろうと思っていたカルロだったが、ディアナの簡潔とした言葉に、形相を変え唾を飛ばしながら母に詰め寄った。

「貴方はそう思うの?」

首を傾げるディアナ。

「当たり前でしょう。これでも、大戦の真実を知る立場にあるのです。」

カルロは父の後を継ぎ重責ある地位を担っている。その地位を引き継ぐものとして、彼は大戦の顛末を一般に知られているものより詳細に知っていた。もちろん、幼い時分に母から読み聞かされていた話もしっかりと覚えていた。

「シエルという少女が『銀砕大公』に騙されているという可能性もありますね。」

『銀砕大公』の魔女になったという少女。

冒険がしたいというだけの平凡そうな少女が突然、普通では知られていない『魔女大公』について持ち出すのはおかしいとカルロは思った。

「あら、叔父様はそんな酷い方じゃないわ。」

ディアナとしては、幼い頃よく遊んでくれた母の友人。悪く言われるのは心外だった。

「なら、何故『魔女大公』を探す必要があるのですか。」

けれど、『銀砕大公』を直接知るわけではないカルロは聞く耳を持たない。

「シエルさんに会う必要がありますね。」

「あら。珍しいこともあるものね、女性嫌いの貴方がシエルちゃんとはいえ女性に会おうだなんて。」

まだ孫を抱けていないディアナは、その顔をキラキラと輝かせた。

シエルを嫁に、とまではいかないまでも、素直で純粋そうなシエルと会わせればカルロの女性嫌いも解消されて近い内に孫を腕に抱けるかも知れないと、期待したのだ。


「母上。声が漏れてます。変な妄想を膨らませないで下さい。いまさら、孫は無理ですからね。」

「まぁ、どうしてそんな事を言うの?私はただ、あの人に似た孫や曾孫が生まれたらいいなと思っているだけなのに。」

私、意地悪な姑にならないわ。お嫁さんとも仲良く出来るし、孫の教育について意地悪な口出しなんてしないもの。

ディアナの考えは、すでに嫁や孫に向かっていた。

カルロが結婚することなど、最早ディアナの中では訪れる未来になっているようだった。

「待ってください、母上。」

「そうね。貴方はレイに会わせたら大変だけど、嫁や孫ならレイだって何にも言わないわ。お母様に会いに行くのもいいわね。」


「いい加減、妄想は止めろよ!嫁なんて来ない。俺、89歳!」


人外の血の恩恵か、知らぬものが見れば40代前半に見える壮年の男。

実年齢89歳のカルロは、白髪が混じり始めた金の髪を逆立たせ、どんどんと勝手な未来予想図を繰り広げていく母親に怒鳴り声を上げた。

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