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依頼 彼女を探せ

「でも君なら、見つけることも出来るかも知れないね。」


思考から戻ってきたアイオロスがシエルとムウロに目を向けていた。

「依頼としよう。姫の、『魔女大公』の手掛かりを私の所に届けて欲しい。どんな手掛かりでもいいんだ。どんな些細な事でも。」

いい事を考えたと、アイオロスはニコニコと笑っている。

「長い間ずっと魔族達が探しても手掛かり一つ見つける事が出来なかった。けれど、人である君になら見つける事が出来るかも知れない。」

アイオロスはそう言うが、シエルは列記とした人だが、銀砕大公の魔力を纏う魔女だ。

「私、魔女だよ?」

「うん。でも、契約相手は父上だから。だから、大丈夫かも知れない。父上は姫の側仕えしていたこともある。姫とは親しくしていたから。そこまで警戒されないかも。」

シエルはアイオロスに向けて言ったつもりだった。

けれど、それに返ってきた声はムウロのものだった。シエルがアイオロスに向けていた目をムウロに向けると、その目はキラキラと輝いていた。

それを見て、ムウロもその人の事が好きだっただなぁとシエルは気がついた。


「シエルなら大丈夫な気になるよ。なんたって、姉さんを見つけてくれたんだから。」


「おや、それは凄い。吸血鬼族が見つける事が出来なかったディアナ様を見つける事が出来たのなら、姫の件も期待出来ますね。」


「期待されても…」


ムウロの姉だと最近知ったディアナとの出会い、といっても声だけの付き合いなので出会いと言っていいのかシエルには分からないが、その出会いはまったくの偶然だった。

そんな偶然を例に出して期待を寄せられても、シエルはただ困るしかない。


「困る~」

「すみません。重く考えずに、軽くでいいですからね。届けてに行く片手間に何か見聞きした事があったら知らせてくれればいいですから。」

頬を膨らませて、期待を寄せるアイオロスとムウロを睨みつけたシエル。そんなシエルにアイオロスは頭を掻いて眉を八の字にして頭を下げた。

「もちろん、姫を探し出して愚かな事に巻き込もうと思っているわけではありません。ただ、あれからどうしているのか心配で一目お会いしたいと思っているだけです。」

そう言ったアイオロスの目は嘘をついているようには見えなかった。

だから、シエルは頷き、その依頼を受けることにした。

「ありがとうございます。」


「今回の依頼のお礼もしなくてはいけませんね。」


ちょっと失礼します。

二人を置いて、アイオロスは村の中に駆けていった。


「なんだか、本当にシエルなら出来そうだよね。」

「意味が分からない!」

クスクス笑うムウロを再び睨みつける。

けれど、ムウロには何の効果もなく、笑い続けている。

「…ディアナちゃんに言いつけてやる。」

シエルは少しだけ、右耳に力を集めるように集中してみた。

日の有る内に話をした事は無いが、それでもディアナにすぐにでも連絡してやるという意思をムウロに伝えた。しかし、ムウロはより一層笑みを深めてしまった。

「姉さんも喜ぶよ。姉さんは姫と仲良しだったから。」


「なんか、普通の人みたいだね。」

「普通の人だったよ。落とし穴に嵌まったり、うっかり一人で外に出て魅了された魔族に誘拐されたり、周囲の人間は色々と退屈とは程遠かったよ。」

魔王の守りのある城から、従者を連れずに抜け出すことが何度もあった。体が弱い癖にそういう無茶なことをする、お転婆という言葉が似合う人だったと、ムウロは思い出す。

まだ本当に生まれたばかりで、子犬のような姿でよろよろ歩くのが精一杯だったムウロを抱きかかえ、ダンピールとして生まれたことで自由に行動することが出来なかったディアナを連れ出して、よく外に遊びに出かけたものだ。

そんな時に、ケイブの掘った落とし穴に落ちたりした。魅了され近づく機会を窺っていた魔族に連れ去られたこともあった。

人間とも友達になっていた。

そんな彼女だから、魔王の破壊から人間を守りたいと願い、人間側についても誰も驚かなかった。勇者と結婚したと知った時は流石に絶句したが。


「手掛かりがあったら、この耳で探す事も出来るよ?」


シエルの『遠話の右耳』は、相手のことを思い浮かべれば浮かべる程繋がりやすくなる。

少しの手掛かりでも、上手くいけば『魔女大公』と繋がれるかも知れない。


その考えを、シエルはムウロに伝えた。

こうやって無事に、長年憧れて、そして諦めていた冒険が出来ているのは、アルスやムウロのおかげだ。だから、少しでも役に立てて、喜んで貰えるのなら協力したいとシエルは決意している。

「ありがとう。」

ムウロが喜んで笑ってくれて、シエルも嬉しかった。

「ディアナちゃんにも聞いてみたら、何か分かるかも知れないよ?ディアナちゃんは前から地上にいるんでしょ?」

「そうだね。100年、何処にいるかは分からないけど、何か知ってるかも。」

魔女大公に比べれば100年なんて短い時間だ。けれど、その間魔女大公と同じように探す者たちに見つかることなく隠れ続けているディアナ。何か知っている事があるかもしれない。そうでなくとも、彼女の手掛かりも欲しい。

「今、起きてるかな?」

「そこまで日の光に弱くは無かった筈だから、大丈夫じゃないかな?」

吸血鬼は夜に行動し、日の光に当たることは出来ないと言われている。それも正しい情報だ。けれど、吸血鬼の上位にあたる者たちには当てはまらない。彼らは日の光の下でも少し弱るくらいで行動出来ている。

最上位の吸血鬼たちの王の子であり、半分は人間であるディアナは、日の光を浴びても大丈夫だった。同じように半分は魔狼であるムウロも平気だった。二人でよく、家族達が眠っている間に、時には魔女大公も交えて外に遊びに行っていた事もある。


《ディアナちゃん》


シエルが試しに、と呼びかけてみる。

その糸をムウロにも繋ぎ、ディアナとの会話に参加出来るようにした。


その反応はすぐに返って来た。

《ふぁぁっ…こんな時間にどうしたの、シエルちゃん?》

どうやら寝ていたらしいディアナは、欠伸交じりの、何処かホワホワとしている声だった。

《ゴメンね。やっぱり寝てた?》

《いいえ。大丈夫よ?退屈で、うたた寝していただけだから。》

《退屈なら、僕や兄上に会ってよ。》

《あら、ムウロ。それは駄目よ。だって、レイに会ったら連れ戻されてしまうわ》

ムウロの声が聞こえた事にディアナは驚いたようだ。けれど、この前の会話の際にシエルと一緒にいる行動していることを聞いていたので、その驚きもすぐに治まった。

《それよりも、珍しい時間ね、シエルちゃん。》

《あっ、あのね。『魔女大公』について何か知らないかなって思って。》

《まぁ、姫姉様の事?懐かしいわ。でも、どうしてシエルちゃんが?》

《アイオロスさんに頼まれたの。手掛かりがあったら届けてくれって。》

《アイオロス先生に?懐かしいわ。お元気?》

《元気だよ。相変わらずの暮らしぶり。》

《ふふふふ。レイや貴方には会えないけど、アイオロス先生には久しぶりに会いたいわ。》

どうしようかしら。ディアナがはしゃいでいる様子が声だけでも分かった。

その様子に、幼い頃に世話になったとはいえ他人であるアイオロスには会えると言われた弟は激しく落ち込んだ。そして、そんな言葉を兄に知られれば、ケンタウルスの一族の命が危ういと背筋を震わせていた。

《…申し訳ないけれど、本当に姫姉様の事は知らないの。でも、そうね。私も色々と調べてみるわね。退屈も紛れるだろうし。》

《ありがとう、ディアナちゃん。》

《いいえ。それじゃあ、シエルちゃん。お仕事頑張ってね。》

欠伸もなくなり、しっかりした声のディアナはそういうとシエルとの糸を切った。

あの様子では、すぐに調べ始めるんじゃないかなとシエルは思った。

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