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悪気はない。

ムウロは、24歳が相手ではロリコンとは言わないんじゃないかな、と首を傾げた。

「その花嫁さんって、どんな人?」

普段だったら別に気にも留めないだろう。けれど、この時のムウロはロリコンと揶揄された夫婦が気になって仕方がなかった。


「名前は、メアリさん。」

ムウロに聞かれて、素直に答えていくシエル。

その目はムウロに向き、視界の中から外れたケンタウロス達の中で、ボロボロで地面に座り込んだままになったいるラシドの肩がピクッと動いたことなどシエルには見えていなかった。


「背は、私より少し高くって」

同年代の子の中では、背が低く小柄なシエル。

そんなシエルよりも少しだけ背が高いだけということは、身長は子供並ということだ。

そういう大人も稀にだが、いることにはいる。


「冒険者の人たちにいっつも声を掛けられてるくらいに可愛いの。」

綺麗とか美人ではなく可愛いという表現。

女がする女の評価は信用出来ないとムウロは思っているが、シエルはそういう所は無いだろうなと素直にその評価を参考にすることが出来る。


「料理が上手で、よくお菓子をくれるの。」

この子、本当にお菓子をくれる人について行きそうだなとムウロは心配になった。


「猫の獣人さんで、茶色の猫の耳と尻尾が出てるんだよ。」

ムウロが、シエルの説明に反応して肩を揺らしているラシドの様子に気がついた。

「迷宮に住んでいたんだけど、変な人達に絡まれていた時にオグニおじさんが通りがかって、オグニおじさんが変な人たちをボッコボコのギッタギタにしてくれたんだって。その後に、お説教されたりして、メアリさんがオグニおじさんを好きになって、村まで追いかけてきたの。オグニおじさんに何度も帰れって言われても諦めないで、一年掛けてオグニおじさんを口説き落としたんだよ。」


「なっ!なっ!」

ラシドがいきなり大声を出した。シエルはその声に驚き、説明を止めてムウロにしがみ付いた。ラシドの仲間たちも突然の大声に驚き、耳を手で押さえていたが、ラシドのその反応と思い返してみたシエルの説明に、数人があっと声を上げた。

「め、メアリ…いや、違う。あぁ違うさ。あいつはすぐに力に訴える奴は嫌いって言ってたし、私のやる事に口出しするなって怒ってた。飽き性で大抵の事は長くても一ヶ月もしたら放り出してた。だから、メアリって名前だけで別人だ。」

ブツブツと自分に言い聞かせているラシド。

ラシドの言うメアリという女性に心当たりがあるのか、ケンタウロス達もうんうんと頷いていた。

その様子を不思議そうに見ているシエル。


「何?知り合いなの?」


シエルが興味を示しながらも聞けずにいた質問をムウロがした。

「いや。多分、別人です。確かに、こいつがこっ酷く振られた幼馴染みたいな茶色の猫族もメアリって名前でしたが、そちらのお嬢さんが言うような女じゃなかったですし。」

一番最初にラシドを庇った男がムウロの質問に答えた。

どうやら、元々余計な事まで口が滑りやすい男のようで、ペラペラと事情を説明しだした。

「俺達の村の近くに住んでいた猫族の一家の娘で、こいつの初恋の相手なんですよ。なのに、こいつときたら顔を合わせれば口喧嘩をしたり、子供っぽい悪戯を仕向けたり、他の子よりも成長が遅いメアリに当てつけるみたいに大人の女性と付き合ってみたり。おかげでメアリには酷く嫌われてしまって。一家が引越してからは音信不通になったのですが、大人になってから再会してから、こいつは何度も求婚をしました。それを何度も何度も断られて、最後はこいつの事を全否定して姿を見せなくなったのです。」

余計な事を説明する声は、もちろんラシドにも聞こえている。

その当時のことを思い出しているのだろう。ラシドはどんどんと打ちひしがれていく。

「力強く戦って見せれば、力だけで解決しようなんて人は嫌いだ。

困っている所に現れて助言をすれば、貴方の考え方を押し付けないで。

十分な装備を見につけていない事を注意すれば、鬱陶しい。

贈り物をすれば、数日前には好きだと言っていた物をもう嫌いだと言う。

最後には、求婚するのにこの程度の物しか用意できない奴なんて願い下げよ。って用意した宝石を鼻で笑われたのです。」

もうすでに、ラシドは泣き顔になっている。

「欲深い女はもうコリゴリだ。大ッ嫌いだぁ!!純真無垢な年の子なら、そんな事言わないだろ。俺がそんな欲深な女にならないように守ってやることも出来るんだぁ!!!」

フルフルと我慢していたラシドだったが、号泣して叫びだした。

大分、メアリに言われた言葉に傷ついたのだろう。

だからといって、その考え方もどうかと思う。ムウロは呆れかえっていた。


「凄い人もいるんだね。リアラさんがよく読んでる女性向けっていう本に出てくるライバルの女の人みたいだでも、それじゃあオグニおじさんのお嫁さんのメアリさんと関係ないよ。メアリさん、そんな酷い人じゃないもん。だけど、凄いね。名前も年齢も同じ別の人がこんな傍にいるんだね。」


叫び喚いていたラシドの動きが止まった。

違う人間だと否定しているラシドだったが、シエルの言う通り、こんな近くでそんな偶然があるものだろうかと考える頭も僅かとはいえ残っていた。


「メアリさんは欲深じゃないよ。だって、オグニさんはお金に無頓着な人で趣味に没頭してお金に困ってる人だけど、メアリさん自分が持ってた『星の涙』っていう宝石を売ったり、冒険者の仕事したりで、オグニおじさんを助けてあげてるもん。」


「うそだぁーーーーーーーーー」


突然、立ち上がって走っていくラシド。

数人の仲間たちがそれを慌てて追いかけ、余計な事をいう男を始めとする数人は口を大きく開けて呆然とシエルを見ていた。

あっこれは。とムウロは思った。

『星の涙』という宝石は、反射する角度によって虹色に輝く雫型の宝石の事で、そうそうに手に入るものではない。迷宮の奥深くにあり、腕に覚えのある冒険者しか挑戦しないような場所で採取には危険を伴う。もちろん、買おうとすれば普通では手の出ない値段となる。

シエルから『星の涙』の名前を聞いた瞬間にラシドが浮かべた絶望の色と、事情を知っている仲間達が漏らした「嘘だろ」という言葉に、ムウロは自分の予想が間違っていないと確信してしまった。


「彼がプレゼントして鼻で笑われたのが、それなんだ。」


一応聞いてみれば、彼等は頷いた。

「えっと…私、悪い事言っちゃった?」

「いや。大丈夫だよ。シエルが気にすることは何もない。」

そう、シエルは何もしていない。

シエルに、オグニのお嫁さんになったメアリの事を聞いたのはムウロだ。ペラペラと昔の事を話したのは、ケンタウロスの一人。シエルはただ、ムウロの質問に答えただけだし、思ったことを言っただけなのだから。そこに相手が知りたくなかった話が含まれていたからといって、シエルはそんな事を知らないのだからしょうがない。

それに、幼い頃だったとはいえ好きな異性に対して馬鹿な事ばかりを繰り返したラシドが悪い。そもそも、そういった容姿の相手に求婚をしていたのだから、ロリコンだと言われても仕方ないものを元々持っていたのだろう。

シエルはただ、自分が知っている知識を素直に口にしていただけ。真実を口にしただけだ。


「さて、変な事で時間を食ってしまったね。シエル、そろそろ行こうか。」

「えっと…いいの?」

ケンタウロス達と、ラシドが走り去っていった方向を指差すシエル。

「ああいう心の傷はね、時間が薬なんだ。放っておいた方がいいんだよ。」

すでに飽きていたムウロはシエルの手を握ると、未だに呆然としているケンタウロス達を置き去りにして、目的の村に向かって歩きを再開した。


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