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愛の告白

ガサガサ バキッ ガサッ


本の内容だけで迷宮を知っていたシエルは、絵や文字ではない実物を目の辺りにして興奮を露にしていた。エルフの村に行く時には落とし穴を落ちるだけで、まともに周囲を見る時間が無かった。今回の冒険らしい行程にシエルの顔は自然と綻んでいた。

そして、本には載っていなかった生き物や、文だけで姿を見てもそれだと分からなかった植物など、シエルはムウロに色々なことを質問しながら足を進めていた。

そんな中、ムウロの説明と周囲に夢中になっていたシエルも気づく程に大きく森中に響いているのでは、という背後から段々と近づいてくる音があった。


気づいたからといって、その音の余りの激しさに、シエルは振り返ることはせず、隣にいるムウロへと体を近づけた。ムウロの側にいれば、絶対に大丈夫だという思いがシエルの心に犇めいていた。


め…よ…


森を破壊するような音以外に、男の声が聞こえる。

「ム、ムウさん…」

「うん。いい加減鬱陶しいから大人しくして貰うよ。」

ちょっと目を瞑っててね。

ムウロの優しい声に誘導され、シエルは目を瞑り、その上から手で押さえる事で完全に見えないようにした。


ドンッ

バギッ


ぶつかる音

木が折れる音

その二つの音が聞こえた後に、掠れるような呻き声が聞こえた。


「ラシド‼」

「ま、まさか!?」


耳に入ってくる様々な音に、元々人よりも大きいだろと言われる好奇心を持つシエルは、我慢が出来なくなっていった。

もう、いい?

シエルが小さく確認した。

「うん、いいよ。」

ムウロからの返事を聞き終わる前にシエルは目を開け、背後を振り返った。

隣に立ち、目を閉じる前はシエルと同じ方向を向いていたムウロも、いつの間にか振り替えっていた。


振り返ったシエルの目に映った光景。

十人程の、上半身が人間で下半身が馬という青年達がいた。彼等は幹がポキリと折れている太い木の下に倒れた一人の仲間の側に集まり、数人は倒れたまま呻き声を上けるだけの仲間を介抱し、残りの数人はムウロとシエルに向かい、頭を深々と下げて謝罪を繰り返している。

「む、ムウさん。この人達って…」

半人半馬。背中に背負っている弓矢。

そして、この階層に住んでいる。

どう考えても、この人達は…

「ケンタウルスさん、だよね。」

「そうだね。ちなみに、この階層に僕達が来た時からずっと後ろにいたんだよ。」

ムウロは当然、ケンタウルスの若者達が後をつけてきている事に気づいていた。見た目としては、ムウロの方が若く見えるだろう。しかし、長くて150年程を生きるケンタウルス族などムウロにとっては全員、若造がと一蹴出来てしまう。現在、各地に住むケンタウルス族全て集めても、ムウロと同じだけの時間を経ている個体は一体しかいない。

ムウロにとって、赤子としか思えないようなケンタウルス族の若者達の、拙い姿消しや追跡術など鼻を引くつかせるだけで暴けてしまう。

何時もなら、鬱陶しく感じた時点で肉片一つ残さず消してしまうだろう。だというのに、ムウロが彼等がここまで後をつけてきている事を許したのは、彼等の警戒や言葉が余りにも的外れでおかしかったからだった。


「え~本当…?」


強者なのでは、とケンタウルス族の若者達に警戒されていた当の本人は、彼等の存在に一切気づいてはいなかった。

その為、ムウロに言われても首を傾げて頭を悩ませ、ケンタウルス族の若者達に顔を向けて、敵か味方かも分からない彼等に聞いてしまう始末だ。

仲間たちの制止の声も聞かず駆けて行き、容赦なく放たれたムウロの攻撃によって、彼等はムウロの正体に気がついてしまった。だからこそ、彼等はムウロとシエルの様子を大人しく見守っていた。


きょとん


そんな音が聞こえてきそうなシエルの様子に、謝罪をしながらも警戒を解いていなかったケンタウルス族の若者達も、思わずコクコクと頷いてしまった。

「い、…いい。」

そんな弱々しい声が、介抱されているケンタウルスの、ラシドと呼ばれた男から聞こえてきた。

額から流れる血とは違う赤色に頬は染まり、その視線はシエルへと向けられている。

「ひっ」

血走った目に晒され、シエルは小さな悲鳴を上げ、ムウロの背後にその身を隠す。しばらくして、ムウロの背中に手を置き顔だけを覗かせたシエルだったが、ラシドの視線が変わらずに向けられていることに気づき、ムウロの背中にしがみついた。



「な、何なんですか!?」


「もろ、好みだ。」

ラシドは、仲間たちが止める声も聞かず起き上がると、所々から血を流す体を引き摺りシエルに近づいていく。

「おっ俺の嫁に…」

シエルが背中にしがみついたいるムウロが、当然進行方向にも、視線の先にもいるのだが、ラシドの目には一切入っていなかった。


ラシドの背後にいる、顔を青ざめた仲間たちが絶望に言葉を失っていることにも気づかない。


「えっえぇ?」


「一応、言っておくけど、シエルは13才なんだよ?」


驚くシエル。

冷めた目をラシドに注ぐムウロは、先ほどとは違いシエルの目もある為一応常識的な言葉でラシドに言い聞かせるかと考えた。

そのムウロの言葉は、ラシドよりも仲間たちを正気に戻した。

「ら、ラシド。13才って子供じゃないか!!」

「そうだぞ。しかも、あの子は人間だ。」

ラシドの体を抑え込み、説得をする。ムウロの怒りを買えば、自分達だけでなくケンタウルス族という種族全て食い殺されてしまうかも知れない。


「…じゃないか。」

「えっ?」

「無垢で汚れを知らないっていう事じゃないか。そんな所も好みなんだ。」


「あっ、そんな言葉、本で見たことある。ロリコンって言う人だったよ。」


自分が当事者であることも忘れ、シエルがポロリと溢した言葉は、周囲に重たい空気を落とした。

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