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親父会?

魔界の中心であり、何者にも決して侵されることのない、魔王城。

其処に今、四つの力強さをありありと放つ存在が集っていた。


「んだよ?いっつもだったら、あいつが一番乗りだろ?珍しいな」


きりっと身支度を整えた、黙ってさえいれば『大公』という風格さえも感じられるのに、と残念な気持ちを周囲に味わわせ、『銀砕大公』アルスはきょろきょろと見回している。


「本当だね?君がそんな格好をしている事と同じくらい意外だよ」


コロコロと喉を鳴らしながら、頭の上には黄色の三角の耳、臀部から大きく膨らんだ黄色の尻尾を生やした、人に当て嵌めれば二十歳ほどの女が口元を微妙に歪ませながら、アルスの言葉に同意を示した。

つい最近まで、幼さを残した少年の形を用いていた『死人大公』フレイのその代わりように、他の誰も驚いた様子は見せず、いつもの事、よくある事と気にも留めてはいない。


「おもしれぇもんでも見つけたんじゃねぇのか?あぁ面倒くせぇ。一人いないってんなら、俺もいなくてもいいよな?帰ってい?」


「ロキ。彼女であったのならば何か理由がと思うがのぉ。お前ではサボっているとしか思われんよ?」


「ヒデェなぁ」

ケラケラと咳き込みながらも爆笑しているのは、他の皆が足を置いている床に直接、身体をだらだらと気だるげに横たえているのは、『暴護大公』ロキ。

その近くで椅子に腰掛け、やれやらと溜息をついてロキを嗜めるのは『毒喰大公』ガルスト。


魔王亡き現在、魔界の最高位に座している『大公』達の内二人、本来の顔ぶれからするならば三人とも言えるのだが、彼女達を除いた四人の『大公』達が魔王城の一室にて顔を突き合わせていた。


「それにしても。こういう時には大抵、ネージュの代わりにレイが顔を出してた筈なんだがのぅ…」

「ディアナのことしか頭にねぇだろ、あいつ」

「落ち着いたら、祝賀パーティーだとかなんとかやりそうだよね」

「ただ飯とただ酒が飲めるんなら何だっていいけどな」


この場に来ていない同胞は二人。

『夜麗大公』ネージュに『桜竜大公』ユーリア。


永く眠りについているネージュに関しては、来ないこと、というよりも集まれぬことは分かりきったこと。今までにも『大公』同士で集まる場などは、ネージュに変わって彼女の代わりを勤めあがることの出来る息子レイが顔を出していた。だが、今日はそのレイの姿もない。

ガルストのその指摘に、他の三人は何を当たり前なという表情で「仕方ない」と口にした。

彼が何よりも尊び、愛してやまない姉ディアナが百年に及ぶ家出を止め、魔界に、ネージュの居城へと帰還するのだから、レイが姿を見せず、律儀な彼が手紙の一つも寄越さない理由には十分過ぎるのだ。

ディアナの帰還を、彼らは全員知っている。

いや、魔界に住まう殆どの者がすでに知っていることだった。

何故帰る気になったのか、家出して何処で何をしていたのか、それらに関する情報は漏れ出た様子はない。ただ、吸血鬼族の至宝、ネージュとレイの最愛の姫君が帰還したということだけ。その情報だけが魔界中にペガサスが駆けるよりも早く伝わっていた。

それもこれも、嬉しさのあまりに奇怪な喜びようを隠す素振りもなく露にしたレイや、それにつられるようにして忙しなく動く吸血鬼達という光景から、彼等の意図するところとは関係なく伝わったのだ。


「で、僕達を呼び出した本人はまだなわけ?」


僕はそんなに暇じゃないんだけど?

頬を膨れさせるという子供のような行いをワザとらしく見せたフレイが、不満を口にした。表情もその声もそれ程といった程度に思えるものだったが、膨らみのある胸の前で組まれた腕の先の指は、小さく指先に存在する腕を小刻みに叩いている。表情には出さずとも、イライラとしている事をその指先から生まれる小さな音が表していた。


「そうじゃな。少し待ったかの?」

「少しどころじゃねぇって。これだから爺は」

「じゃから、お前も爺じゃろうて」


「俺達全員、爺だろ。孫や曾孫まで居るんだぜ?」


アルスにネージュ、ロキ、おフレイにまで。

ガルストの所やユーリアの所もそう時間がかかる訳でもなさそうだしな。


アルスの発言は、しみじみとした空気を生み出し、全員の口を閉ざすことに成功した。

「…まぁ確かに。昔を思えば考えられない今ではあるね」

「だらけきったもんだよなぁ、俺達」

自分の変わり様も驚いているよ、とフレイが肩を竦める。

床に転がった姿のままのロキからの言葉には、お前と一緒にするなというアルス達の舌打ちが送り返された。



「ならば騒ぎを一つ、プレゼントしてさしあげますわ」


音も無く部屋に現れたのは、真っ赤なベールを頭の頂から覆い被り、足の先まで全身を赤色の布に隠した人。辛うじて布の形から人間のような形の存在であることは知ることが出来る。

その言葉は女性のもののようで、けれど声は高くもなく低すぎることもない為、女性か男性なのかを判断するには不安が残る。女性にしては高い身長だということが、アルスと並んだところでその差が僅かしかない為に見てとれる。

「遅ぇよ、カサンドラ!俺達を待たせるとか、お前も偉くなったもんだな!?」

「それに関しては御詫び申し上げますわ。けれど、これに関しては私の力を超えた事態があった為。仕方が無い遅れでした」

「はぁ?」

シエルには決して見せることなどないガラの悪さを見せつけたアルスにも、カサンドラは淡々と返す。その表情はベールに隠れた判断することは出来ないが、その声音からすると表情も別段変化を見せていないと思われた。


カツン

高く硬い足音が全員の耳を打った。

普段ならば、あまり気にもしない、小さく僅かな音だった。だが、この時はそれを聞き逃す事もなく、全員がその音の源へと目を辿らせたのだった。


「お前!?」

「…起きたの?」

「おやおや、まぁ」

「マジでかぁ…」


「これは私の予知になかった事。驚きのあまりに思考が停止し、遅れてしまったのです」

分かりますでしょう?というカサンドラ。

四人は四人とも、呆気をとられてカサンドラの言葉に頷くのだった。



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