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大公の子等

『大公』位を冠する名は七つある。


『魔王』の妹にして、『王蜜の魔女』たる『魔女大公』アリア。

彼女の事はすでに、魔界に置いても伝説に位置づけられている。大戦から、魔王と勇者が存在していた時代からそれだけの長い時間が経ち、その時代を直に知る者が減ったということを、その事実がその時代を知る者達に突きつける。


現在、魔界を治めているのは六人の、『魔女大公』を除いた『大公』位を持つ偉大なる闇の化身達だ。

魔狼族の長たる『銀砕大公』アルシード。吸血鬼族の女王たる『夜麗大公』ネージュ。竜族の王たる『桜竜大公』ユーリア。猛毒の化身たる『毒喰大公』ガルスト。変幻自在に体を作り変える継ぎ接ぎの『死人大公』フレイ。最弱に位置づけられるスライムでありながら魔界随一の防御と横暴さを持つ『暴護大公』ロキ。

不干渉地帯と定められた魔王城などを除いた魔界の領土を六分割し、配下とした爵位持ち達に管理させて支配し、干渉と不干渉、謀略と戦争を長く繰り返しながら、今がある。


『大公』達には爵位持ちを降した配下だけでなく、信頼する血肉を分けた子というものが長い年月の間に生まれ、彼らの威光を知らしめるように名を轟かす活躍を残していた。

『大公』の子だといっても、彼らのように不死に近い訳ではなく。中には爵位を得ることも出来ずにすでに亡き子等もいるが、多くは親より受け継いだ力を高め、爵位を奪い長きに渡って親たる『大公』を助ける存在となっている。


『大公』に留まらず、多くの魔族の中にあっても多情でその名を知らす『銀砕大公』。

親たる本人アルシードでさえも数え切れない、覚えてもいない程の子があった。彼がその頭に留めているのは、目を留め置く程の力を持った子、力を持たずとも何らかの才覚を持って彼にそれを知らしめた子、特に思い入れのある母から生まれた子など。数多の子らの数を思えば、それは両手で数えるほどに過ぎなかった。だが、確かにアルシードが目にかけ、覚え留めた子らはその才覚をもって『銀砕大公』の領土、民を治める大きな助けをもたらした。


『夜麗大公』ネージュ。生み育んだ子等が全員、自身の才覚と活躍によって魔界中にその名を轟かせている。

本来ならば顧みられることのないダンピールでありながら、その身に取り込んだ力などを考えれば高位爵位持ちでさえ頭の上がらぬ長女ディアナを始めとし、『麗猛公爵』レイ、そして続いて『侯爵』位を得たルージュ、『伯爵』位を得た二人の『大公』を親とするムウロ、『子爵』たるカフカ、爵位を持たないものの実力とはた迷惑さで知られるマリオット、と知らぬ者は魔界には居ないであろう六人姉弟達。

ネージュが不在であっても、『夜麗大公』の統治下に細波も起こらぬのは彼ら姉弟達の力あってのことだった。


この二人の子等のように名を大きく知らしめずとも、『大公』の子とあらば魔界中に存在を知られ、その動向には注意深い目が向けられている。

『桜竜大公』ユーリアには一人息子が。

『毒喰大公』ガルストには、少し一般とは違うが"親と子"と呼べる存在がアルシードに次ぐ人数存在した。

『暴護大公』ロキには、実力という意味ではなく、その周囲を大いに巻き込んだ夫婦喧嘩・親子喧嘩などで、その存在とついでに名を知らせた息子が一人。


『死人大公』フレイは大公達の中で唯一、子を得てはいないと知られている。

それは彼の姿形、幼い少年のそれと無邪気な子供のような言動を見て、多種多様の文化、常識のある数多の魔族達の大半をも納得するものだった。

何より、死体を切り刻み自身の体の部品としてしまう、というその性質が彼に子供が居るなどという事を信じさせない。

だから、その話を信じるものは多い。

それが紛い事であると気づくもの、知る者は同格であり旧知の仲である大公達などを除けば、本当に僅かしかいない。


『死人大公』には一人、子がある。

これは大公達の子等の多くが一度は言われることではあるが、あの『死人大公おや』の子とは思えない、そんな印象を存在を知る人々に言わせる子供だ。

今では子供も親となり、『死人大公』を祖父と呼ぶ孫まで数人居るのだ。


「おじいちゃまぁ」

「うん?どぉしたの?」


過去のトラウマがあるからとはいえムウロが怯えた、死体を組み合わせて作り上げられた人形がまるで生きているかのように使用人として働き、いたる所にフレイが集めた死体や一部分が飾られている、不気味で薄暗い『死人大公』の居城。

そんな場所で、まるで兄妹、兄弟のようにしか見えない姿形の祖父と孫達が、きゃっきゃうふふと和やかな交流をもっているなど、誰が考えようか。


「はい、お手紙」

「わぁありがとう。お前は本当に良い子だね。そういう所は母親に似たのかな?」

先程、鳥が運んできたのだという手紙を孫から手渡され、相貌を崩す『死人大公』の姿など誰が想像しようか。

「おや。ふぅん」

「おじいちゃま?」

手紙を一瞥して怪しく微笑んだ少年姿の祖父を、怯えることなく、怪しむことなく、純粋な好意を持って見上げる孫の一人という子供の存在を知る者は少ない。

「少し用事が出来たよ。出掛けてくるから、パパの所に帰りなさい」

「?はぁ~い。おじいちゃま、気をつけていってらっしゃい」

少年姿の自分とそう変わらない身長の孫の頭を優しく撫でる『死人大公』の姿を実際、目にしたことのある者は本当に少ない。

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