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シエル→?

其処は森だった。

木々の生い茂る、綺麗な緑色に包まれた森の中に、シエルは立っていた。


ムウロと別れ、何処かの、シエルと縁深いという人の夢へと送られた。

それは頭で理解しているのだが、これが誰の夢の中なのか、ただの森が広がっている光景にシエルは首を傾げる。


縁深き。

その言葉でシエルの頭に即座に浮かぶのは、家族に村人達、そしてアルスにムウロ。

ムウロは違うことは分かる。

では誰だろうか。

シエルは考えてみるが、この森から感じるものに、その誰もが当て嵌まらないような気がした。

確証などは何も無い。

ただ、そう思うだけなのだ。

違う、と思うのだ。

だから、では誰の、と問われてもシエルには答えることが出来ない。


此処が何処かも分からない。

そんな危うい状況だというのに、シエルは少しも怖いとも思うことも無かったし、不安も浮かんでこなかった。安心出来る空気がこの森には漂っているように感じられた。ずっと此処に居てもいいかも、なんて思わせる何かがある。


そうこうしている内に、夢魔によって夢に送られた時のように、目の前がぐにゃりと歪んだ。

夢が覚める。

頭の中で誰かがそう言った。

シエルは何だか、それが名残惜しくて仕方が無い。

もっと此処に居たかった。

そう思うのに、美しい森の光景は無惨にも歪み、シエルの目の前から消えていく。

シエルの目から、シエルも知らない内に、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちていた。





「おやおや。珍しいお客さんだ」

ポロポロと泣くシエルの頭に、大きな大人の手が乗せられた。その手は父の手を思い出す大きさと、そして優しさが溢れていて、一瞬「お父さんの夢だったの?」とシエルは口に仕掛けたが、聞こえてきた声に父ではないと気づかされた。

森の中に立っていた筈のシエルは何時の間にか、シエルも気づかぬ内に体勢を変えて膝を地面に着き、柔らかいような硬いようなものの上に腰を下ろしていた。

両膝に感じるのは土と草の感触。ただ、腰は何か土でも草でもない物を跨いで下ろされている。手も同じ物の上に置かれていて、肌触りの良い布のような感触をシエルは手に感じた。何だろう。突然の体勢と訳知らぬ涙に呆然としながらも、シエルはそれを乗せた手を擦って探ろうとした。

スリスリスリ

「こら。くすぐったいだろう」

シエルのその手は、頭に乗せられていた手が移動することで掴まれ、擦る動きを完全に止められてしまった。

大きな手でがっしりとシエルの手首を掴み止めたその声は、怒っているようなそれではなく、とても穏やかで聞いているだけで落ち着く気がするものだった。


まだ少しボウッとしている状態で、シエルは視線を動かしていく。

自分の手を掴んでいるのは誰なんだろう、と。

これで普通の状態なら、いやシエル以外の人間ならば警戒を露にして、すぐに飛び下がるような事態なのだが、シエルはそれに腰を下ろしたまま、ゆっくりと状況を把握しようとした。

そして、ゆっくり、じっくり、周囲の光景を全て目に収めた後になって漸く、シエルは事の次第を理解した。それによって、ボウッとしたままだった頭もはっきりと、目が覚めた、という言葉がぴったりと当て嵌まった。


「ご、ごめんなさい!」


頭が覚醒し、そして状況をきちんと把握したシエルは驚き、慌てて立ち上がろうとした。

シエルが跨いで、腰を下ろしていたもの。

それは人の体だったのだ。

年の頃でいえば、ムウロ程だろうか。シエルが知っている人達の中で比べるとしたならレイが最適だろう、それくらいに整った顔立ちをした青年が草原の中に寝転んでいる、そのお腹の上にシエルは跨り、乗っていたのだ。

シエルは顔を真っ赤に染め上げ、青年の体から急いで離れようと。

だが、先程までボウッとしていた頭のように、シエルの体も咄嗟の動きに上手く動いてはくれなかった。立ち上がろうとした足は力が上手く入らずガクンと折れ、再び青年のお腹に腰を降ろしてしまうことになった。

フフフフッ

シエルの、思わぬ重さが腹へと落ちてきたというのに、青年は苦しむ様子も見せることなく、むしろ可笑しそうに笑ったのだ。


「大丈夫。ゆっくり体を動かせばいい」


慌てるな、と笑いながら青年は言った。

落ち着くまでこのままでも大丈夫だから、と言うその声は本当に優しいもので、バクバクと慌てるシエルの心臓も自然と落ち着きを取り戻していった。



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