表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
306/364

魅了の怖さ

聞こえなかった、とアエーシュマは聞いてくるが、ムウロは顔を顰めて首を傾げるしか出来なかった。


「ムウさん?」

首を傾げ、口元に手を当て、目を強く閉ざして考え込んだムウロを、シエルは見上げ、そして待った。

ムウロがアエーシュマの問いに、どう返すのか。


「うん。少なくとも僕は、聞いた覚えはないね」


カッと目を開いたムウロははっきりと、アエーシュマの問い掛けをあっさりと否定した。いや、否定ではないのだろうが、これ以上考えても無駄だと切り捨てたのだ。

「でも、確かに聞いた。だから、力を満たしておこうと思ったんだ」

なのに。

違っただなんて。

しゅんと落ち込むアエーシュマを、再び淫魔達が全力で慰め始める。

「アエーシュマ。大丈夫よ?私達が、例え公爵様が相手でも、大公様方に殺されたって、貴方をのことを護るから」

「魔王様の前にだって、立ち塞がって貴方を逃がしてあげる」

だから元気を出して、と彼女達は笑顔で言う。

その、ただ一直線な姿にシエルは本当に怖いと感じた。

彼女達なら本当に、言っていることをやり遂げるだろうと思わせる覚悟が、その声には溢れていた。これがアエーシュマの魅了の力によるものなら、シエルは初めて魅了の力が怖いと思った。


シエルの周りや今まで出会った中には、それを持つ者が多い。

多いが、怖いなどと思ったことは無い。

彼等がシエルにそれを使うことは無かったし、シエルの前でそれの恐ろしい一面など見せることが無かったからだ。

ディアナが魅了によるものではと悩みにしていた、レイの姉に対する態度などの様子。これについては怖いと思う以上に可笑しいとか驚きの方が強く、何よりレイ自身がディアナに対して否定を入れる瞬間を見ていることで、魅了の力への恐怖にはなりえなかった。

だが、アエーシュマと淫魔達の光景は、とてもとても怖いものだった。


「まぁ、概ねこんなものだよ。魅了された人って」


シエルの考えをその顔色などから読み取ったムウロ。

「そうなの?」

「うん。ここまであからさまなのは、彼の気質によるものだとは思うけど。母上に兄上達の傍に居る者達を見ていると、外面を保ってはいるけど中身はこんな感じだって分かる時がある」

ちなみに、とムウロは笑った。

「姉さんにも居るんだよ、こういう人達」

むしろ、母よりも兄よりも姉よりも、ディアナの魅了を受けてしまった者達の方が、アエーシュマのそれに近いと、その在りし日の光景を思い出してムウロは苦笑する。


娘を溺愛するネージュと、姉を愛してやまないレイ、そして共に暮らしていた『魔女大公』。母と弟による鉄壁の護りと、アリアを護らんとする魔王の護りの中で暮らしていたディアナとまみえることがまず難しいものだった。大戦の後は魔王の護り、母の護りは薄まりはしたが、その分、レイの目がディアナを護る為に爛々と光っていた。

それらを乗り越えるだけの根性、偶然に出会えることなどありえなかった状況を思えば彼等は皆、ディアナを目当てにしていたとして思えない。それを思うと、それは根性というよりも執念に近いものがあっただろう。そしてレイの目を掻い潜れた運の良さ。

そうまでして、その理由が何であったかなど何の意味もなく、ディアナと見えた者達は皆逃れることも許されずに魅了を受けた。それは、潜入へと注いでいた執念などがそのまま、ディアナへの愛に変化することだった。

その存在を許せぬレイによって、何度殺されかけようとディアナへの愛を隠そうとなせず、レイと張り合うようにディアナの世話を焼きたがる。

その姿はムウロも強烈に覚えている。

時に兄から命じられ、彼等を殺そうとしたこともあったのだから、それはもう強烈な思い出だ。


「…よく…ディアナちゃん、家出が出来たね…」


凄かったよ~。

流石に、ムウロはそれらを事細かにシエルへ話すことは出来なかった。簡単に、レイと同じくらいにディアナを溺愛していた侍従や侍女達が居た、と言っただけ。

だが、その言葉だけでシエルの頭には、そんな感想が浮かんできたのだ。

シエルが見た限りでも、レイのディアナに対する愛は凄まじかった。それと似た人達が複数居たというのなら、よく100年前に地上へ出てくることが出来たな、と。

「あぁ、それは、さ。ほら、前に姉さんと兄上が和解…うん和解した時に言ってたじゃない。姉さんの魅了の性質によるものが大きいんだよ」

ディアナの魅了の力は魔女大公の血を飲んだ事で得たもの。その魔女大公の魅了の力は、相手に強く"嫌われたくない"と思わせるものだった。

それはシエルも、ちゃんと覚えている。

レイが自分の力の影響でああなのではないのか、というディアナの長年の悩みをレイ自身が晴らしたその説明は、レイの行動に巻き込まれていた弟達を絶望へと追いやっていた。

あれはちょっとやそっとでは拭えない、印象の深さだった。

「…あっ!じゃあ、その人達はディアナちゃんに協力してくれたんだね!」

分かった、とシエルは自分の推理をムウロに伝えてみた。

「そう。といっても、協力した訳じゃないよ?姉さんの動きを見てみぬフリをしたんだよ。だから、姉さんが何処に行ったかを、後から兄上に聞かれても答えようが無かった」

それもシエルに伝えるつもりは無いが、レイは彼等に酷い拷問を行った。それでも彼等は何も答えなかったのは、知らぬからこそ。知らないものは答えようがない。多分、彼等はそれを見越して、協力するのではなく見逃すという方法を取ったのだろう。


「今頃、どうやって兄上の目を盗んで、神聖皇国の中を駆け抜けて、姉さんの所へ会いに行こうか企んでいる所だろうね」


未だ、彼等に掛かった魅了は解けてはいない。

近い内に神聖皇国で何らかの、騒ぎ、事件が起こる気が、ムウロはしてしょうがない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ