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《・・・って事になってて、フォルス兄がアルスおじさんが来たら見せしめになるって》


人攫いにあった事とフォルスからの指示を掻い摘んで説明したシエル。

魔界の城に帰っているというアルスは、それを大爆笑で聞いていた。

《いやぁ。仕入れに行くだけで、やらかしてくれるとは。予想通り!

にしても、体に結界を張るだけじゃ不足だったか。シエルを中心に展開するようにするか、逆に攻撃しちまうか・・・・・あぁ面倒くさいから、そこは自分でどうにかしろよ。》

《投げた!お母さんに言いつけてやる!》

《守るって約束はしたけどな?そこまでやると、お前の為にならん!動かないと鈍るんだぞ?ってことでヘクスだって納得してくれるさ》

結界が張られ怪我は免れたものの、地面に倒れた衝撃で気絶してしまったという事態の改善を要求したシエル。しかし、アルスには改善する気は全く無さそうだ。


《で。見せしめな。分かった、分かった。》


《あんまり暴れたら駄目だよ?》

見せしめという表現に、大暴れする姿しか想像出来なかったシエルは、気軽に了承したアルスに苦言を呈した。まだ案内してもらっていない店があるし、エミルの住んでいる町だし。そんな理由での苦言だった。

《暴れねぇって。こういう時は、チラチラ姿見せるだけの方が怖いんだよ。俺が来るかもって恐れおののいてる時に銀色の狼が視界の隅にチラチラしてみ。こっえぇぞ?》

《そういうもんかな?》

《今、丁度ムウロがそっちに出てるからそれを向かわせるわ》

《そういえば、なんで魔界から出てこれるの?》

《ん?あぁ、村で誰にも聞かれなかったから知ってるのかと思ってたわ。この封印も結構雑でな。伯爵位以上の力があると完全に引っかかるが、それ以下の力を持たせた人型とか使えば地上に出れるんだよ。結構、地上をうろついてると仲間に会うから皆やってる手だな。ムウロの奴は、そういう小細工得意だから、小せぇ頃からちょくちょく地上で遊んでるな》

《へぇ~。じゃあ、そのムウロさんが来ることをフォルス兄に伝えておくね。》

《そうしてくれ。多分見りゃ分かるだろうが喧嘩されちゃあ、たまったもんじゃねぇ》


大人しくしておけよ。

そう笑うアルスの言葉で、シエルは回線を切った。

誰も彼もが同じことを言う。少しふて腐れたが、今のこの状況に陥った過失の自覚がある為、シエルは黙っておくことにした。


《フォルス兄~。アルスおじさんが、ムウロさんが狼の格好でチラ見せするってさ。》


《・・・・・つまり、『灰牙伯』が街の中に姿を見せるってことだな。分かった。俺達はもう少しでそちらに着く。大人しく待ってろ。》

また言った。また勝手に切った。


心の中でフォルスに文句を言っていると、エルフの少女と目があった。

「あっ、もうすぐで助けが来るみたい」

その事を心配しているのかと思ったシエルは、部屋の外には漏れないよう、声を抑えて教えてあげた。誘拐犯がどういう奴か、どれだけの人数がいるのかも何も知らないまでも、フォルスの強さは知っているし、エミルも遠い記憶ではあるが色々と助けてもらったので知っている。シエルは、二人が負けることなど想像出来ないと安心していた。

「そうですか。それは良かった。」

ホッと息を吐くエルフの少女。

その目は、シエルが気づく気づかないを別にして、シエルから逸らされることは無かった。




「旦那様!街の屋根の上に、銀の狼を見たという報告が!」

「何!!?」



「まったく、父上も簡単に言ってくれる。」

ラインハルトの下に、顔を引き攣らせた兵が報告に上がる少し前のこと。


薄暗く、人影が一切無い路地裏から、力むことなく跳躍して二階建ての屋根の上に登った若い男が溜息をついた。

その手には、銀色に輝く小さな水晶玉が握られている。


長い灰銀の髪を背中で縛り、鮮やかな真紅の瞳で町並みを見下ろしていた。


青年の名は、ムウロ。

幼い頃からの趣味である地上散策を行っていた所、魔界にある一族の居城で迷宮変性の後始末に終われている筈の父親から連絡を受けた。そのくだらない命令を果たす為に、この街に駆けつけてきた。

まったく、近くにいたからいいものを。そう悪態をつきながらも、父親からの命令を無視しないあたりが、彼が真面目だと揶揄されるところだろう。


着いたか?

「えぇ、着きました。狼の姿で動きまくればいいんですよね。」

そうそう。頼むな。

「分かってます。」

それとな~


水晶玉から聞こえてくる、アルスの雑談に付き合いながら、ムウロは狼の姿に変じた。普通の狼よりも二倍程の大きさになり、屋根から屋根、人の目がある程度ある場所で地上に降りたり、ムウロは街の中を動きまわった。





「おい。さっきから銀の狼が街のあちこちに現れるらしいぞ。」

「銀の狼って、『銀砕大公』の関係か」


フレッドが声をかけた街の住人たちからの情報で、誘拐犯たちが拠点にしている場所はすぐに割れた。最近現れ始めた怪しい奴等。誘拐してきて隠しておくのに丁度いい場所。長年この街に住んでいる者たちは、スラスラと情報が出してくる。

大まかな場所を調べるだけではなく、数人の腕に覚えのある者たちが様子を見に行ってくれたことで、余計な情報に振り回されることなく、フォルスとエミルは真っ直ぐに誘拐犯たちの下に向かうことが出来ている。

慌てたラインハルトが差し向けてきた兵士たちが情報を聞いていたフォルスたちに合流し、彼等を引き連れ発見した拠点の建物へ向かう。

足早に、しかし騒ぎが大きくならないように、幾つかに分かれて。

その途中、すれ違う住人たちなどが、銀の狼の話をしている。

『灰牙伯』がアルスの指示通りに動いているのだろう。フォルスとエミルは、背後に着いてくる兵たちに感づかれないよう、口元だけに小さく笑みを浮かべた。

その兵士たちは、ラインハルトから大まかな事情を内密のこととしながらも伝えられていた事で、その住人たちの噂話に青褪め、汗をダラダラと流していた。


「ここだよ」

案内をしてくれた、フォルスたちに知らせる前に偵察に来ていた男が、目の前に現れた薄汚れた二階建ての家を指差した。

家が見渡せる位置にある壁の影に隠れ、その様子を探った。


「数年前から空き家なんだが最近、金払いのいい荒っぽい野郎共が出入りしてたんだよ。子供くらいなら詰め込める袋抱えて入ってる姿を見た人間も数人いたから、確かだ。」

「内装とか分かる?」

旦那の知り合いという事もあって顔見知り程度の付き合いがあるエミルが尋ねた。

その手には、愛用の赤い鞭がすでに握られている。

「子供を入れておけそうなのは二階部分くらいだな。地下は無い。」

「そう。」

「俺が行く。」

男の言葉に、エミルがフォルスと目を合わせ、笑う。

フォルスは、隠れていた壁から素早く走り出すと、目的の家の隣に位置する家の壁の、僅かな突起を足場にスルスルと屋根に登って行った。

軽業師のような体の重さを感じさせない素早い動きに、案内の男も兵士たちも唖然と眺めていた。


屋根を登って目的の家の上に移ると、二階部分にある窓を確認する。

幾つかある窓の内、一つだけ中が覗けないようになっているものがあった。


《シエル!》


意識して名前を呼んでくれれば、気づけるよ?そう言っていたことを思い出し、頭の中でシエルに呼びかける。




《シエル!》

《わ!びっくりした。フォルス兄からなんて初めてだね。どうしたの?》

《お前がいる部屋、窓はあるか?》

《あるよ。薄そうな板が張ってある。》

固まっている少女たちの上に板が張ってある場所がある。光が透けて見えるから、窓だとシエルは判断した。

《そうか。今、そこから入る。何がある?》

《女の子たちが、その下にいるよ。》

《窓の下の壁に、全員で一列になって貼り付け。》

《分かった。》


「あのね、今から助けが入るんだけど、あの壁に張り付いていろだって。」

まずは近くにいたエルフの少女。

縛られているのは腕だけなので、移動はすぐに出来る。

二人で、固まった少女たちに近づき、助けが来ること、壁に並んで張り付くことを伝えた。すすり泣いていた少女たちだったが、助けの言葉に顔を上げ、コクコクと頷くとシエルの指示に従った。


《移動したよ》

《分かった。》



シエルの返事を聞き、屋根の括りつけた縄を確認した。

縄を伝って窓まで降りていき、勢いをつけて蹴り破る。

シエルの言うような、光を透けさせる薄い木の板なら簡単に壊すことが出来るだろう。


「手伝ってあげようか?」


銀色に輝く狼がいた。

ただ、その目は鮮やかな真紅で、銀の毛並みも灰色がかっている。

ならば・・・・


「『灰牙伯』か?」


「そうだよ。手伝ってあげるよ。僕は空を飛べるから、そんなもの必要ないよ?」

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