表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/364

『遠話の右耳』

前話の最後の流れが分かりにくいものでしたので、訂正しました。

話としては変わりありません。

知らない人には?

  着いていかない。

お菓子をくれても?

  着いていかない。

危ない場所には?

  行かない。近づかない。触らない!



脳内で、怒っているフォルスと「良い子のお約束」を再確認させられているシエル。


彼女は今、薄暗い倉庫のような部屋の中に、数人の少女たちと後ろ手を縛られて押し込められていました。






背中で腕を縛られている状態のまま、汚れた壁にもたれかかり、シエルは空中をボーッと見つめている。

実際は、ボーッとしているのではなく、赤頭巾に隠された右耳に意識を集中させているのだが、傍目から見たら誘拐された事に呆然としているか、頭の足りない子と見られている。その事を当の本人は気がついていないが。

他に部屋に入れられている見目麗しい少女たちは一箇所に固まり合い、大きな音を立てると外にいある見張りに怒鳴られる為、静かにすすり泣いている。

その固まりに入っていないのは、シエルと、この中で一番美しい少女。

少女の髪から飛び出た耳は長く、彼女がエルフである証拠だった。


エルフは、元は魔界に属している種だったが、人魔大戦の際に『聖女』の取り成しによって『勇者』に味方した魔族の一種として地上で暮らしている。もちろん、魔界にも残ったエルフがいる為、迷宮に潜る冒険者の中にはエルフと戦うことになる者もいる。

地上に住むエルフたちは人と協定を結び、人との共存を果たしながら、森の中に居を構えて暮らし続けている。しかし、近年は森を開拓しようとする人との争いが増え、人とは相容れないと完全に敵対を宣言している集落もある。


誘拐されてきたエルフの少女が、友好的な集落の娘か、敵対する集落の娘か。最悪なのは迷宮の中に集落を築いている魔界のエルフだった場合だろう。そうなれば、集落内、種族内で繋がりが強いエルフたちは、地上に出て狂う危険を恐れることなく、この少女を取り戻しにやってくる。エルフが魔族の中でも上位にあたる種族の為、少し迷宮から離れただけでは狂わない。もしも、ミール村の近くの迷宮から連れて来られてのなら、エルフたちは本当に迷うことなくやってくるだろう。

なおかつ、あの一帯の迷宮は『銀砕大公』のものとなった。

迷宮の中のものは『銀砕大公』のもの。

賢き者ともいわれるエルフなら、その事実をもって『銀砕大公』を頼る可能性もある。


シエルが至った考えは、外にいる誘拐犯たちの頭も思い至ったようで、シエルが右耳を使って盗み聞きした様子では、部下たちを叱責し、怒り狂っている。

「なんでエルフなんか。」「一人でウロウロしてたんで。」「今の内に逃げちまうか。気づかれない内に売り払った方が」

そんな誘拐犯たちの声を、シエルは暢気に聞いていた。

そして、その情報をフォルスへと伝えた。


《売られるみたい。エルフの綺麗な子もいるよ》

《誘拐したら売るに決まってるだろ。エルフか・・・何処で浚ってきやがった・・・面倒な》


大人しくしていろ。何か変化があれば、また言え。

そう厳し目に言い置いたフォルスは、プツリと回線を切ってしまった。

普通は、シエルからでないと切れないものなのだが、慣れなのか、または別の何かなのか、フォルスは勝手に切ってしまう。


シエルの右耳の後ろ側には小さな『勇者の祝福』がある。

話によると、生まれた時からある人と途中で現れる人がいるらしいが、シエルの場合は分かっていない。何故なら、誰も耳の後ろなんて気にすることは無いからだ。

いるかも知れないが、シエルの両親も幼い頃から何かと世話を焼いている村人たちも気にしない人たちだった。

それに気がついたのは、6才の時。突然、母ヘクスに髪を上げられ、耳がよく見える状態にされ発見された。その当時、何でと聞いたシエルに返ってきたのは「懐かしい匂いがするって」という謎の言葉だったが、今思うと『勇者』と戦った『銀際大公』が嗅ぎ取ったのだろう。じゃないと、村に出入りしている誰が勇者の匂いを知っているというのか。

両親とアルス、村長などの一部の村人たちだけに知らされたそれは内密の事にされたが、フォルスなどのシエルが関わる面倒事に巻き込まれることが多かった、共に育った子供らにも後に知られることになった。迷子になったら動かないで右耳を使えば俺ら楽だな。知った時には少しだけ驚いていた彼らも、そんな考えを思いついた途端に満面の笑顔を浮かべていた。大げさな者など、地面に跪き天に祈りを捧げていた。

まぁ確かに、それを行っていた友人はヘクスとシエルが山菜を取りに行くのに付き合い、そして迷子に巻き込まれた上、吸血鬼の集団に囲まれるという凶事に見舞われたのだ。そのような反応をする事は仕方がないことだとはシエルも今なら思える。


すでに現在生きている左耳が『予言の左耳』という力らしいので、『右耳』の存在を知った帝都がそういった力を期待しているらしいが、シエルの右耳が持っている力は『遠話』。遠くの音や声が拾えたり、会話が出来たりする程度の力だ。まぁ、迷宮内だろうと相手を頭に思い浮かべれば繋がるのは便利だとはシエルも思っているが。


近くの迷宮から火竜が飛び出てきたと村に報告が入り、その火竜を怒らせ迷宮から出させた冒険者が村に逃げ込んできたある日。村にいた冒険者たちが苦戦しながら火竜を倒したものの、その吐いた息のせいで村のある一帯が異常な暑さに襲われた。

ここまでなら村も見えるから一人で行ってもいいぞと言われた範囲の森の中で、果物や薬草を採っていたシエルもあまりの暑さに汗を滝のように出していた。そして、一応誰も居ないことを確認して、いつも右耳を隠すように右肩で纏めている髪を解いて、ポニーテールへと縛りなおした。

その瞬間を誰かに見られたのだろう。

ガサッと音がして振り向いた時には誰も居なかったので小さな動物でもいたのかとシエルは考えた。家に帰ると、一人の客が慌てて部屋に入っていった後出てこないというヘクスの言葉を聞いたが、今思えばその客がシエルの右耳の後ろを見たのだろう。

数日後、村長が宿にやってきて見せた手紙に、確認と迎えを寄越すという言葉に、シエル達は家族揃って絶句したものだ。しかも、変な気を起こしたら村に厳罰を下すという文まで付け加えられていた。

気鬱な状態でその日を迎えたシエルだったが、今ではすっかり、それらの事を忘れていた。母の言う通り、迎えが来れないのならどうしようもない。『銀砕大公』と敵対してまで、ただの盗み聞きの力は要らないだろう。そんな風にシエルは考えている。多分、そんなシエルの考えを知ることがあれば、良識ある幾人の村人は頭を抱えて溜息をつくだろうが。


傍目から見てボーッとしている事から、固まる少女たちに仲間に入れてもらえないシエルに、種族の違いから遠目に見られているエルフの少女が声をかけてきた。

「何をしている?」

「えっ?何が?」

『遠話』をする際に声に出してたのかな。うわぁ恥ずかしい。そう思いながらも、顔には出さないようにしながら、シエルが問い返した。

「貴女の周りで何かが動いた気配を感じた。魔力ではない。何をしていたのかと気になって。」


『勇者』は魔力を扱うことも出来たが、本質は違う力を使っていたと言われている。

光の神が残した力だろうと言われ、浄化の力もその一つなのだと。

その力を使える者は『勇者の祝福』を持つ者だけで、神殿にいる『浄化の心臓』が作る聖水などの幾つかのアイテムを使うことでしか、一般の人々は光の神の力の恩恵には預かれない。

『勇者の祝福』による力は、魔力を封じる結界や封印には反応しない。それを遮れるのは同じ『勇者の祝福』の力で張った結界だけである。

そう、教科書に書いてあったことを思い出したシエルは、魔術の民といわれるエルフの前で使うのは止めた方が良かったかなと思った。でも、助けを呼ばないといけないんだし、とすぐに開き直った。


「ちょっと特殊な魔道具があって、それで外に助けを呼んでいたんだ。」

外に聞かれないように、少しだけエルフの少女に擦り寄ったシエルが小さな声で教えてあげた。少女は驚いた顔を浮かべる。

「ここは魔力を遮断する結界が張っていて魔術などは一切使用できないと、私が連れて来られた時に言われたのですが?」

「うっ」


そうだよね。そうじゃないとエルフなら逃げちゃうよね。


「あっ、し、親戚のおじさんが迷宮の奥で見つけた珍しい魔道具だってくれたものなんだ。だから仕組みとか分からないけど、何でだか繋がったよ?」

アルスはシエルが生まれる前から頻繁にやってきて可愛がってくれていたので、親戚扱いで間違いではない。


「そうですか。では、もうすぐ助けが来るのですね。」

「うん。」

シエルの言い分を信じてくれたらしく、少女が微笑んだ。

キラキラと輝く金の髪に真っ白い肌、青空よりも蒼い目。種族を通して美しいと言われているエルフの微笑みを間近で見て、シエルは頬を赤く染めた。



《フォルス兄。フォルス兄。大変!》


《ッ!なんだ!!?》


《エルフさんって、すっごい綺麗。早く助けないと変態とかに大人気だよ?めくるめく世界だよ!》

《アホか、テメェは!!変化があれば連絡しろって言っただろ。無駄に心配するだろうが!それに、そんな言葉何処で覚えた。》

《えっ?アギスおじいちゃんとか、ホグスおじいちゃんとか、皆が食堂で話してたのを聞いて?》

《村に帰ったら報告してやる。もう、変なことで連絡してくるなよ?俺は器用じゃないんだ。今、そっちに向かってる。大人しくしておけ。

あっそうだ。アルスさんに連絡しておけ。いい、見せしめになる。》


低く唸るような声を最後に、フォルスは回線を切ってしまった。

シエルは指示された通りに、頭の中にアルスを思い浮かべ右耳に意識を集中させる。


あれ?そういえば、迷宮なら繋がるのは確認してるけど、魔界だったらどうなんだろう?


《アルスおじさ~ん。応答願います!》

繋がるかドキドキしながら、頭の中で叫ぶ。

《はい、はい?また、何かしたのか?》


軽い声が返ってきた。

繋がったことにホッとしながら、何かあったと決め付けているアルスの苦笑しながらの言葉に、シエルはちょっとだけムッとした。


シエルの友人たちは、シエル(時々+ヘクス)の巻き起こす騒動で鍛えられ、皆期待の新人として村を出ています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ