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とある女冒険者

皆、何処に…


アメリアが立っていたのは、砂漠の中の小さなオアシスだった。数本の木々が生え、足下にも草が生える。水が湧き出している小さな泉が目の前に広がり、小さな鳥や動物の姿、そしてアメリアと同じ冒険者達の姿があった。けれど、その中にアメリアと共に迷宮に入った仲間達の姿は無かった。

アメリアは後方支援を得意とする魔術師だ。まだ16歳と若いものの、魔術においてはそれなりの才能と実力があると、アメリアに魔術を教え込んだ師からもお墨付きを貰っている。今までも、仲間達と共に各地の迷宮に挑戦し、経験を積んできた。今回、変性を終えた『銀砕の迷宮』に挑戦すると言っても、ギルドから静止の声が無かったことが、その自己評価が過信ではないことを証明している。

現に、石壁が永遠に続いて迷路のようになっている第一階層では、群れを成して襲ってくる魔物や、張り巡らされた罠を掻い潜って、辿り着いて見つけた"道"を潜った。

真っ直ぐ歩いていれば何の問題も無い第二階層を越え、第三階層へと降りる。アメリア達の迷宮の探索は順調だった。

そんな油断がいけなかったのか。

気がつけば今、アメリアは第三階層で一人きりになっていた。


それは、オアシスに居た冒険者達も同じだった。

それぞれが戸惑ったようにしていた事から自然と集まっていき、全員が仲間と逸れてしまったのだと話し合った。そして、その中の一人がオアシスの端で見つけた石碑の言葉が、それがこの階層の仕掛けだと気づかせた。


"私に絆を見せてくれ。"


伝説の大戦の時代に使われていたと言われる、魔術によく多様される古語で書かれた石碑の言葉は、アメリアが解読した。

何度か『銀砕の迷宮』にも挑んだことのある冒険者が、変性前にも同じ試練が設けられた階層があったことを口にして、オアシスに居た冒険者達で臨時のパーティーを作り、砂漠の何処かに落とされているだろう、それぞれの仲間を探すことになった。


徒党を組んでオアシスを出てすぐ、アメリア達は砂の中から現れたカエルの襲撃にあい、その舌での攻撃を受けたアメリアは、カエルの大きな口の中に放り投げられた。

それが、第三階層の砂漠での最後の記憶。


次にアメリアが目を覚ますと、目の前には仲間達でも、臨時に手を組んだ冒険者達でもない、見知らぬ男の人の顔。

横抱きにされて、移動しているのは、自分の体勢と揺れながら動いている様子で気がついた。

動いている周囲の光景は木々が生い茂る森。

此処は何処?

第三階層でも心細く思ったことが、再び思い浮かんでくる。

男に横抱きにされたまま、顔を動かして周囲の様子を眺める。進行方向とは逆方向、男の背後へと顔を向けた時、アメリアの視界に馬の背中が映った。

馬に乗って移動しているのか。

そう思ったものの、そうでは無いのだと頭が警鐘を鳴らす。

「なんだ、起きたのか?」

キョロキョロと顔を動かしていたのだ。男もアメリアが目を覚ましたことに気がつき、声をかけてきた。

「う、あ…」

まるで怒っているような声音。冒険者のガタイのいい男などからも、そんな態度を取られることは多々あること。アメリアも慣れていた筈だった。

けれど、信頼する仲間達と離され移動に移動を重ねてしまったアメリアの心は疲弊し、普段ならば些細な事と気にせずに居られるようなものにも敏感に反応してしまった。

チッ

返事を返さず、怯えた顔になったアメリアに苛立った男が舌打ちしたことも、不安で一杯となったアメリアの心に追い討ちをする。

「だから人間なんて助るのは嫌だったんだ。」

自分は人間ではないと言っている男の言葉。

アメリアはもう一度、男の背後の、すぐ間近に見える馬の背中を見た。


「け、ケンタウルス族…」


「あぁ、そうだが?」


迷宮の、変性前で言えば第六階層に集落を作っているという、戦うことを得意とする種族のことは、事前の準備の内として調べてあった。


理知的で、人間とも友好的な関係にある種族。

ただし、若いケンタウルス族は酒癖が悪く、そして女好き。時には、多種族の女性を連れ去って無理矢理囲い込んでしまうこともある。


さぁと血の気が引いていく音をアメリアは聞いた。

アメリアを抱いて移動しているケンタウルス族は、その顔を見る限りは若いといわれる部類にあると分かる。


不安と混乱で、冷静な判断が出来なくなっているアメリアが次にした行為。

「ッ!きゃぁああああ!!!誰かぁ!」

叫び、助けを呼ぶことだった。








「俺は悪くないよな!!?」

ケンタウルス族の村で、ラシドは吠えた。


シエルの言葉で「違う」と繰り返し訴えるラシドに、まずは涙を流して助けを求め続けるアメリアという女冒険者を地面へと降ろさせた。

柔らかな笑みを浮かべたムウロに宥められて落ち着きを取り戻し、大人しくなったアメリアに事情を聞きながらシエルとムウロ、アメリアとラシドは、シエル達の目的だったケンタウルスの村へ進んだ。村に着くと、そこにはシエルがラシドに出会った時に一緒にいたラシドの友人達も丁度村に帰ってきたという様相で待ち構えていた。

「む、ムウロ様。ラシド、お前今度は何したんだ!」

友人達にも疑われ、騒ぎを聞きつけた村の年長者達の視線にも晒されたラシドは必死になって、アメリアを抱き上げて移動していた経緯を説明した。


友人達と狩りをしていた時に、森の中に倒れていた人間の女を見つけたこと。

迷宮の中に冒険者とはいえ女一人で居る訳が無いと思い、近くに居るであろう女の仲間を友人達が探しにいったこと。

気を失っている女を村で保護する為に移動させる役目をラシドが任されたこと。

これには、狩りをする装いをしているラシドの友人達が頷いて、肯定していた。そんな友人達がムウロ達の姿にラシドを糾弾したのは、以前のようにシエルに向かっていったのではないかと疑った為だと、真剣な目でラシドとシエルを交互に見る。シエルが、今度はされなかったよ、と言うと、全員が安心したように肩を撫で下ろしていた。


「つまり、君の勘違いだね。」


「ご、ごめんなさい。」


ムウロが結論付ければ、アメリアは顔を真っ赤にさせて頭を下げた。

「迷宮で一人になってしまえば、恐慌状態に陥っても仕方が無いでしょう。」

まったくだ、と怒りを振りまいているラシドを止め、アイオロスが進み出てきた。

「こんな、うら若きお嬢さんなら尚の事。それにしても、何かしらの変化はあったとは思っていましたが、上の階層は随分と変化したようですね。」

ふむふむ、と顎を撫で呟くアイオロス。

「お前達、一つ頼まれてくれませんか?」

そう言って、頼みごとという名の命令を下されたのはラシド達。

ブチブチと文句を言っていたラシドと、そんなラシドを宥めていた友人達。アイオロスに指名されるやいなや、真剣な面持ちとなって直立不動の態勢となり、アイオロスに全集中を向けていた。

「少し、上の階層の様子見をお願いします。」

了解しました!!

ラシドを始めとする若者達は、村の中を駆け回って準備を始めた。

「そして、お嬢さん。」

アイオロスは前足を屈めて、アメリアと少しでも視線を近づける。

「貴女さえ良ければ、あの者達と一緒に第三階層へ戻ってはどうかな?貴女の仲間が見つかるまで協力させよう。」

「えっ、えぇ!?」

随分と好意的な提案に、アメリアは驚くばかりだった。どうしようかと考え込んだアメリアは、アイオロスの顔をもう一度見た。

アイオロスが浮かべる優しそうな笑顔に覚悟を決めて、アメリアはアイオロスの提案に乗ることにした。


「ありがとう。」

準備を整えたラシド達と共に、シエルとムウロ、アイオロスに礼を言ったアメリアは手を振りながら村を後にしていった。


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