11 現実
「う・・・ん」
「千夏ちゃん!」
「離々亜ちゃんの、お母さん・・・」
そうだ。
私は、帰ってきたんだ・・・。現実へ。
「・・・私、離々亜ちゃんを助けられました。
「もうすぐ、離々亜ちゃんは、目を覚ますと思います」
「ほ・・・本当に?」
「・・・はい」
離々亜ちゃんのお母さんは、ホッと胸をなでおろした。
「あの後、女の人から、事情を聞いたわ。
あなたは、一生眠り続けることになるかもしれない・・・。
それでも、願いを叶えようとしたって」
「・・・」
「ありがとう・・・。あなたは、離々亜と私の、希望よ」
離々亜ちゃんのお母さんは、涙を流す。
「・・・離々亜ちゃんが目覚める前に、聞いておきたいことがあるんです」
「・・・何かしら?」
「離々亜ちゃんは・・・どうして、『離』という文字を使っているんですか?」
ずっと、ずっと気になっていたこと。
でも、本人には、どうしても聞けなかった。
「ああ・・・そのことね」
離々亜ちゃんのお母さんは、ノートを取り出して、大きく『りりあ』と書いた。
「本当はね、ひらがなだったの。
でも、小学校に入学して・・・五年生ぐらいだったかしら。
急に『あたし、ひらがなじゃ、イヤ』って言われて・・・。
『じゃあ、何がいいの?』と聞いたら、ノートに大きく、『離々亜』って書いた」
「え・・・?」
「そして、言うの。『あたしは、友達なんていらない。人なんて信じない。
そうやって、みんなに分かるようにするのよ』って・・・」
そんな、壮絶な過去があったなんて・・・。
相当つらいことがないと、名前の漢字を変えるなんて、絶対しない。
「仕方なく、名簿も全部、漢字表記にしてもらったわ。
・・・今思えば、どうしてこんなことしちゃったんだろうって、後悔してるの」
離々亜ちゃんのお母さんは、目を伏せる。
「そんなこと思ったって、昔なんかに戻れるはず、ないのにね」
「いいえ。そんなことありません」
「・・・え?」
「離々亜ちゃんは、もう一人じゃありません。
だからきっと、昔の『りりあ』ちゃんに戻れます」
「千夏ちゃん・・・」
「だって、私、もう『りりあ』ちゃんと、友達ですから」
私は笑顔で言う。
やっと・・・笑えた。
心の底からの、本当の笑顔。
と、その時。
「う・・・。こ・・・ここは?」
「りりあちゃん!」
「りりあ!」
「フフ・・・。そっか。ここは、現実だっけ・・・」
離々亜ちゃんが、微笑む。
「うん・・・うん、そうだよ!」
「千夏・・・お母さん・・・。ただいま」
「おかえり、りりあ・・・!」
「おかえりなさい!」
りりあちゃんのお母さんの手から、ノートが滑り落ちる。
「あ・・・れ・・・?お母さん、どうしてノートに『りりあ』って・・・?
あたしは、漢字で、『離々亜』でしょ?どうして・・・」
「あなたはもう、1人じゃないのよ。
千夏ちゃんっていう、大切なお友達がいるじゃない」
「・・・うん」
「だから、もう、『離々亜』じゃない。あなたは、ひらがなの、『りりあ』で、いいのよ。
私が名づけた、大切な名前・・・」
「お母さん・・・」
「りりあ・・・。大好きよ。戻ってきてくれて、ありがとう!」
「あたしも・・・。あたしも、大好きだよ・・・!」
二人が涙を流しながら、抱き合う。
しばらくすると、りりあちゃんは、私の方を向いた。
「千夏も、ありがとう」
「私は、何もしてないよ。りりあちゃんが、戻るって、言ったから、戻ってこれたんだよ。
感謝するのは、私の方だよ」
「ううん。千夏が、あの願いを叶えられたからだよ。
・・・これから、がんばろうね!」
「うん!がんばろう!」
私の願いは、かなえられた。
今は、本当に幸せ。
これからも、りりあちゃんと一緒にいられるから。
私は、夜明けの空を見た。
フリー・ワールド。
それは、絶望に陥った人たちが来れる、夢の中の自由な世界。
その人たちも、いつかは願いを叶えて、来られなくなってしまうけれど、もう大丈夫。
だって、願いを叶えるときには、希望に満ち溢れているから。
私は、新たな一歩を踏み出せた。
フリー・ワールドのおかげで。
もう一度、フリー・ワールドに行くことができるのならば、言いたいことがある。
「本当に、ありがとう」と・・・。
『どういたしまして・・・』
あの女の人の声が、空から聞こえた気がした。
お…終わりました!
一応完結です!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!!




